講演会
目を覚ました僕は、早速バートルさんとの再戦を約束した。
その日までに僕は絶対にもっと強くなって見せる。そう心に誓ったのだった。
僕たちが学園に帰ると、何やら学園都市全体がお祭り状態になっていた。あれ、こんな時期にこんな大きなお祭りあったっけ?
「か、帰ってきたぞーーー!!みんな!祭りの始まりだー!」
「うおおおおーー!勇者が帰ってきたあああ!!」
「きゃーーーきゃーーきゃーー!勇者くんよー!」
「ウサ耳かわいい!!かっこいい!勇者くーん!」
「お帰りなさい勇者様。勇者様を見ることができ恐悦至極にございます。」
「ピヨンくーん!こっちみてえええー!ピヨンくーーーーん!!」
そしてなんかみんなが盛り上がっている。それに多くの人から呼ばれている。
聞けば、なんとこのお祭りは僕がドラールトーナメントで準優勝したから開かれたものらしい。学園始まって以来の快挙なのだそうだ。
なんか、とても言い出しづらい。そのほとんどの戦いが、実は不戦勝に近いだなんて。肝心の、1番しっかりと戦えたドラールさんとの決勝戦は負けちゃったし、、。
なんだか申し訳ない気持ちになってきた。
しかし僕の試合を全部見ていたはずのパーティメンバーの彼女たちは何やら嬉しそうだし、誇らしそうな表情をしている。
僕がほとんどちゃんと試合をできていないことを彼女たちはわかっているはずなのだが、、?
まあでも、彼女達が喜んでいるなら何の問題もない。せっかくだしお祭りを楽しむとしよう。
そんなわけで、みんなで屋台を巡ったり出し物を見たりとお祭りを満喫していると、マリアが言った。
「これから少し用事があるの。講演会を開催することになってて、私が講演者なの。ちょっと行ってくるね。」
え、マリアすごい。講演会?講演者?いつのまにそんな話が進んでいたのだろうか。
これは是非とも聞きに行くしかないだろう。マリアの講演会とかすごく気になる。
そう思って意気揚々とマリアの講演会に参加した僕なのだが、始まって数分も経たないうちに恥ずかしくなってオドオドしてしまっていた。
「そしてピヨン君は静かに構えました。これからいよいよ戦いが始まる、そんな時でした。対戦相手は震え上がり、そのまま降参して去っていきました。ピヨン君のあまりの気迫、そして放たれる強者としての風格に、相手は戦う前から敗北を悟ってしまったのです!」
観客がおおーー、と沸く。
いやいや何を言ってるのマリア!?ちょっと、いやちょっとどころではなく話を盛りすぎてないかな?僕はそんな大層なことやってないからね!?
そんな僕の思いとは裏腹にマリアの講演会は進んでいく。
「準々決勝ともなると、相手は国家レベルの騎士団長だったりします。どれだけ惨めな敗北をすることになろうとも、全く剣を交えずに降参するなど、彼らには許されません。
いよいよピヨン君が本当に戦う時が来たのです。」
観客は息を呑んでマリアの話に聞き入っている。
いやいや、みんなー、おーい、その話、ほどほどにね、ちょっとかっこよく脚色されているといいますか、いやマリアが僕のためにかっこよく話してくれてるのは嬉しいけど、なんだか騙しているみたいで申し訳ないというか、うん、どうしよう。
「しかして決着は一瞬でした。相手は初動から、半ば不意打ちのような形でピヨン君に攻撃を仕掛けます。もはやフライングと言ってもよかったでしょう。しかしピヨン君は、それを意にも介さず、受け止めました。そして軽く反撃しただけで対戦相手はいとも簡単に吹き飛ばされていきました。なんとか対戦相手は立ち上がりましたが、あっさりと審判は判定勝ちを下しました。それを見たピヨン君は、いつもの愛くるしいキュルりとした瞳をしながら、不思議そうに首を傾げるのでした。」
観客はすごい盛り上がりだ。きゃあきゃあと叫ぶ黄色い声でちょっと耳が痛い。
というかよく見たらこの講演会の参加者、女の子ばっかり、、。
「そしてついに伝説の決勝戦が始まりました。実をいうと対戦相手は、私も知っている人であり、ピヨン君の、そうですね、かけがえのない仲間の1人です。最初こそ、ピヨン君はきっとこう思いました。仲間と戦うなんて、、いいのかな、、と。しかしすぐにピヨン君は思いました。対戦相手が最高の試合を望んでいる、だったら僕もやるしかないでしょう!と。」
え、、当たりすぎてて怖いんですけど、、。マリアって、【超能力者】も習得してたりする、、?
「それからは本当に圧巻でした。私たちも目で追うのがやっとでした。最高峰の戦いとはこれほどのものなのかと、心から感動しました。私たちは、いえ、世界中が戦いというものの認識を改めることになったのです!攻撃がぶつかっただけで会場が揺れました。激しい攻防を繰り広げた末に、2人は笑っていました。そう、2人とも本気で戦いを楽しんでいたのです!普段の優しさとは全く違う、男としての格を感じさせる立ち姿でした。」
観客はもう訳がわからないくらい盛り上がり、飛び跳ねたり叫んだりしてすごいことになっている。というかよくみたら担任の先生まで一緒になって盛り上がってるけど。。
マリア、、あの、、大丈夫かな、、やりすぎじゃないかな、、おーい、マリア〜、ほどほどに、、。いやもう手遅れか、、。
「最後は惜しくも判定によってピヨン君は負けることになりました。しかしあくまでそれは審判による判定でしかありません。最後の、あの光り輝く神の一発が決まっていれば、勝負は分からなかったでしょう。いや、ピヨン君なら勝っていました。なぜならピヨン君だからです!」
本当にめちゃくちゃな理由だ。それなのに講演会の参加者の女の子たちは目をキラキラさせながら全力で拍手していた。中には涙を流すものまでいた。
いても立ってもいられなくなった僕は思わず席から立ち上がって大きな声で言った。「マリア、さすがにこれはまずかっ」
「きゃあああああああああ」
「本人いたああああ!ピヨンくーーん!ピヨン君よーーー!!!」
「きゃーーー!きゃーー!きゃーー!」
あ、しまった、、。そう思った時には遅かった。あっという間に僕達は取り囲まれてしまった。
その後はなんとかマリアたちに守ってもらって会場を抜け出したのだった。
講演会ってこういうものだったっけ、、、?




