ドラールトーナメント
充実した夏休みも終わり、学園生活が戻ってきた。
決意した通り、文武両道でいろんなことを行なってきた。
そんなある日、担任の先生から声をかけられた。
大きな大会に出てみる気は無いか、と。
結論から言えば参加することになった。
もともと、今の自分の力がどこまで通用するのか試してみたかったのだ。これはいい機会だと思った。
大会の名は【ドラールトーナメント】。僕でも知っている世界屈指の武術大会だ。
僕たちは大陸を隔てて龍帝国ドラールにやってきた。
パーティメンバーのみんなも応援についてきてくれたのだ。
しかし【ドラールトーナメント】開催前に、屋台で串焼きを食べたり買い物をしたりと、ちゃっかり楽しんでいるのだからさすがである。もしやそれが目的だったのでは、、?
と思ったが1回戦が始まる時にはちゃんと見にきてくれた。開始前に声援を送ってくれたので、嬉しくなって手を振り返した。
1回戦目の相手はそんな僕をみてぶつぶつと何かを呟いていた。付近に【気】を張って耳を澄ませてみると、聞き取ることができた。にくい、うらやましい、にくい、と交互に繰り返し言っているようだ。
ええ、、、。ぼくなにもしてないよ?まだ戦ってさえもいないのになんか嫌われてるっぽい、、。
まあ、気にしても仕方ない。学園代表として出場者のひと枠をもらったからには惨めな敗北は許されないだろう。
試合開始の合図がなってすぐ、僕はまず【勇者】ランク2を発動させた。体がぼんやりと光る。そしてさらに【気術】も発動し、少しずつ【気】を練り上げて行った。
絶対負けないぞ、まずは下準備が大切だ。そんな風に思いながら、相手が攻撃して来るかどうかを注意深く見守り、【気】を練っていった。
すると相手はみるみるうちに青ざめていき、降参して帰って行った。ええ、どうして?まだお互いに一度も攻撃していないというのに。
勝ちは勝ちだ。
そうなのだが少し釈然としなかった。
しかし客席は僕の予想に反して大盛り上がりだ。その大盛り上がりの中でも特にキャアキャアと聞こえる方に目をやると、学園の生徒たちがたくさん見にきていることに気がついた。
100人くらいいるんじゃないだろうか。
よくそれだけ席を確保できたものである。
とにかく、来てくれたことはとても嬉しいので、僕は笑顔で手を振っておいた。そしたらまた一段と盛り上がっていた。うん、楽しそうでなによりだ。
2日目、3日目と進んでいき、大会はさらに盛り上がりを見せて行った。しかしそれとは裏腹に、僕の気持ちは沈んでいきつつあった。
いろんな種族の猛者と戦ったり、様々な戦闘技術を実際に体感して学ぶことが出来る。そう思って楽しみにしていたのだが、相変わらず僕が下準備をする途中で勝手に相手が降参して去っていくのである。
いつのまにか僕には、不戦無双の兎人という異名がついていた。
僕だって本当は不戦などではなくちゃんと戦いたいのに。僕の対戦相手だけ偶然みんな腹痛にでもなるのだろうか?
しかし準々決勝あたりからは様子が違ってきた。
僕が下準備をしようとする前に速攻で仕掛けてきたり、やっと戦いらしいことをすることが出来たのだ。
僕は気合を入れて試合に臨んだ。
しかしなぜだろう。あまり手応えを感じない。僕が弱そうだから手を抜いてくれている、、?
手加減なんてする必要はないんだよ、そういう思いを込めてもう少し本気で攻撃しようと思ったその矢先、審判の笛が鳴り、僕の判定勝ちとなった。
ええ、、。まだあんまり戦ってないのに。こんなんじゃ相手も可哀想だ、そう思って顔色を伺ってみるが、悔しそうというよりはホッとした表情をしている。僕の気のせいだろうか?
そんな調子で僕は特に苦労もなく勝ち上がってしまい、ついに決勝戦の時がやってきたのだった。
何日もかけて行われる予定だったこの大会だが、僕以外の試合もかなり異例の速度で終わることが多かったらしく、大幅に日程を縮めることになったのだ。
その短い間ではあるが、パーティメンバーの彼女たちも龍帝国ドラールを満喫していたようなので良かった。
決勝戦の相手を見る。
え?あれ?なんで?
なんと決勝の相手はバートルさんだったのだ!
「ガッハッハッハ!ピヨンではないか!決勝で会うとは、なんたる偶然!ピヨン、感謝する!俺はうれしいぞ!ガッハッハ!」
バートルさんは何やら僕と戦えることを喜んでくれているようだ。
相対しているだけでわかる。やはりバートルさんはとても強い。
それより、大会とはいえ仲間同士で戦うなんて、、そう思って最初はあたふたしてしまった。しかしすぐにそれは収まることになる。バートルさんの目をみて。
そうだ、バートルさんは望んでいるんだ。良き戦いを。いや、本心を言えば僕だってそうだ。僕の今の力を、どれだけ強くなれたのかを、確かめるためにここに来たのだから。
「バートルさん、、。ええ、そうですね!いい勝負にしましょう!負けませんよ!」
ぼくは今までに無いほど神経を張り詰めた。
楽しみで待ちきれない。バートルさん、最高の試合にしましょう。
「「「「「ピヨンくん!がんばってーー!!」」」」」
うっすらと彼女たちの声援が聞こえる。
心の中で、彼女たちにお礼を言った。
そして試合開始の合図がなる。
僕はバートルさんに向かって、1直線に攻撃を仕掛けた。バートルさんもそれは同じだった。示し合わせたわけでも無いのに、最初の一手はお互いにシンプルだった。
お互いに威力を相殺し、再び距離を取った。バートルさんは素早い動きで僕の死角に入り込み、攻撃を仕掛けようとしてくるが、僕はギリギリでそれを察知し、【兎人】の脚力を生かして反撃に転じた。
やりすぎなくらい気合を込めた蹴りだったはずなのに、バートルさんは両手でそれを防いだ。
バートルさんを一時的に吹き飛ばすことができたものの、全く大きなダメージには繋がっていない。
バートルさんは豪快に笑った。
「ガッハッハッハ!ちゃんと痛かったぜ!そうかなるほど!複合技か!素晴らしいぞピヨン!」
僕は先ほど、【勇者】と【気術】を混ぜ合わせた複合技を繰り出していた。バートルさんはあの一瞬でそれを理解していた。
バートルさんの強さは力だけではなく、相手への観察力と分析力まで備えているようだった。
会場もざわつき、実況者も何やら言っているが僕にはほとんど聞こえなかった。
それほど集中していたし、何よりこの戦いは始まったばかりだ。もっと、もっとバートルさんと戦いたい!この戦いで僕はとても強くなれる、そう思ったのだ。
そうして何分が経過しただろうか。互角の戦いは続いた。いや、断面だけ見ればそう思えるだけだ。実際には僕はどんどん消耗していた。
ぼくは気付けば肩で息をしていた。ここまでか、、?何か、何か掴めそうなのに、僕はもっと戦える、そのはずだ。でももう、力が、、、。
そんな時、どんな時もぼくを支え続けてくれた彼女たちの声が聞こえた。
「「「「「ピヨン君、、、。」」」」」
その時だった。朦朧とした意識の中、僕は不思議な感覚に陥っていた。呼吸をするように自然に、その力の扱い方がわかった。
体が燃えるように熱くなる。それでも止まらなかった。彼女たちの声援がある限り。
「ガッハッハッハ!ピヨンよ、来るがいい!俺は逃げも隠れもせん!さあ、その一撃を撃ってみろ!遠慮いらんぞ!」
バートルさん、行きますよ!
しかしその時、審判の笛がなる。
「勝者、バートル!判定勝ち!」
え、あれ、、おわり、、?そっか、ぼくは負けたのか、、。さすが、本当に強いよ、バートルさん、、。でもこの時、僕の心を1番支配していたのは尊敬ではなく、悔しさだった。
僕はこんなにも負けず嫌いだったのか、、。
そして僕の意識は闇の中へと落ちて行った。




