ダンジョン
次の日、早速僕たちは、ダンジョンにやってきていた。
例の男からもらった地図を開きながら進む。
その地図は驚くほど正確だった。
初心者には難しいとされているダンジョンだが、この地図のおかげもあり、とてもスムーズに進むことができた。
彼女たちと連携をとりながらダンジョン攻略を進めていく。
だんだんとお互いの得意不得意、向いているポジション、立ち回りなどがわかってきて、連携力が上がっていくのを感じる。
全員が【気術】を使えるというのも非常に大きかった。みんなの位置を、互いの【気】の気配で感じ取ったりすることもできるし、【気】があるだけで防御力が段違いだ。多少の攻撃を受けても傷一つ負わない。
僕たちの初となるダンジョン攻略は、順調に進むことができていると思う。
何より、彼女たちとの冒険は本当に楽しい。
彼女たちもそれは同じようだった。みんな生き生きとした表情で臨んでいる。
これからの生活がとても楽しみだ。
それからも僕たちの冒険が失速する事は一度も無く、すでにダンジョンをいくつも踏破した。
ヒヤヒヤするような場面もあったが、僕たちは協力しあって乗り越えた。
その甲斐あって、僕たちのパーティはBランクまで上がっていた。
これでいよいよとあるダンジョンに挑むことができる。
【天からの挑戦状】というダンジョンだ。難易度が高いことで有名だった。
僕たちは、あの仲間の2人にお願いされたのだ。ぜひ【天からの挑戦状】を攻略してほしいと。
仲間からのお願いは、何としても叶えてあげたかったのだ。
噂通り、ダンジョンに出現する敵は軒並み強かった。しかしこれはいい訓練にもなりそうだ。
新しい目標も決まり、僕たちの冒険はまだまだ止まらない。
「ねえ聞いた??あのSクラスの勇者君たち、もうダンジョンをいくつも攻略しているそうよ。」
「ええ、それにあのダンジョン攻略の許可が出たのも異例の速度らしいわ。」
「いいなあ、わたしも勇者君と一緒に冒険して、あわよくばあーんなこととかしたい。」
「あなたは黙っていなさい。それにしてもすごいわね、勇者君だけでなく、彼女たちまで全員がスキル持ちみたいよ。」
「それだけじゃねぇ。ダブルが何人かいるぞあれは。【勇者】スキルと、もう一個は何だろうな。あの子も【守巫女】と、もう一つスキルを持っているはずだ。」
「せーんぱい、なんでそんなにくわしいのかな?まさか、つけまわして調べたりしてないわよね?」
「し、してねーよ!調査班としての節度はちゃんと守ってるっつーの!」
「ふーん、怪しいもんだわ」
「あのなぁ!」
なにやら僕たちは噂になっているようだ。まあ、細かいことを気にする必要はないだろう。どんどん彼女たちと攻略を進めるぞ〜。
そして月日は流れ、毎日のようにダンジョン攻略と、【気術】の訓練を続けていくうちに、僕たちは全員、【気術】ランク2に上がっていた。ダンジョンの魔物を倒すたびにしっかりと【気】を取り込むようにしていたのも大きい。
最初のうちは、少しの【気】を取り込むだけでもみんなで散々苦しんだものだった。今では慣れてきたが、そんな大変な日々を乗り越えられたのも、この素晴らしいパーティだからこそだ。
本当はかっこよくて強そうなパーティ名にしたかったのに、気付いた時には“ウサ耳イチバン”になっていたのは驚いた。
「ねえマリア、なんとか変えられないかな〜、っていうかいつのまに登録されたんだろう。」
「ピヨン君以外、全会一致で決まったのよ、そして私が登録しちゃった。えへ。」
いたずらっ子のようなマリアの表情を見た僕は、一瞬自分の鼓動が早くなった気がした。何でだろう?
それにあのマリアが率先して登録したというのだから、もう僕には強く言う事はできなかった。
「うう、というかこのパーティ名ってどういう意味なの〜?」
「そ、それは秘密です。決してピヨン君のウサ耳が素晴らしくて可愛くて愛おしいという意味ではないからね!」
「それはもちろん分かってるよ。僕のウサ耳なんて別にいいもんでもないしさ、あはは。」
「「「「「、、、、、。」」」」」
そんなわけで僕たち“ウサ耳イチバン”は今日もダンジョンを突き進んでいく。
【気術】ランク2になってからの攻略はあっという間だった。僕たちはついに【天からの挑戦状】の29層の終わりまでやってきた。
「この扉を開けたら、第30層。いよいよボス戦よね?」
「一旦引き返して改めて準備をした方がいいのでは無いかしら?」
「そうね、ここまでたどり着いた人がほとんどいないから情報は確かでは無いけど、ボスがかなり強いと聞いたわ」
彼女たちの言う通りだ。慎重に進めて悪い事は無いだろう。
「よし、じゃあ一旦戻ろう。そしてお昼ご飯にしよっか!」
「「「「「賛成〜〜!!」」」」」
そして僕たちはダンジョンから出た。
このダンジョンのいいところは、ワープ型であるところだ。仕組みは全然わからないけど、次に来た時も続きの階層からいきなり始めることが出来るのである。
つまり僕たちは、いつでも29層の入り口のところから攻略を再開できるのだ。
だからこうして気軽に戻ってくることも可能だった。
僕たちがダンジョンの【帰還門】から出ると、その瞬間あたりが騒がしくなった。一体どうしてだろうか?
そして笑顔で手を振ってくる人がたくさんいたので、よくわからないが僕も笑顔で手を振りかえしてみた。すると何やら楽しそうに盛り上がっていた。
うんうん、今日も平和で何よりだ。
しばらく周りに人がたくさんいたが、しばらく進むと次第に人はいなくなった。
そんな時、僕たちに声がかかった。
「ピヨン君、久しぶり。」
そこには仲間になった2人がいた。なんだか久しぶりのような気がする。会えてとても嬉しい。
「わあ!会いたかったです。来てくれたんですね!」
「「「「「お久しぶりです!!」」」」」
早速、前に一緒に行った学食を再び訪れた。
「えっと、そういうわけでランク2になれたんです!色々と教えてくれてありがとうございました!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
まずはお礼だ。
僕たち“ウサ耳イチバン”は、自分たちでも誇れるほど頑張ってきたが、その最初の大きな一歩を導いてくれたのは紛れもなくこの2人だった。
ぼくは、せっかくなら一緒に冒険をしたいと思った。今僕たちが攻略しているのは、お願いされていた【天からの挑戦状】だ。
もしかしたら誘いに乗ってくれるかもしれない。
「僕たち、お昼を食べたわったらダンジョン【天からの挑戦状】の30階層に挑むつもりなんです。あの、よかったら一緒にきてくれませんか、多分ボス戦だと思うんですが。」
「もちろん。【天からの挑戦状】の攻略を進めて欲しいっていうのは僕からお願いしてたことだし。まさかここまで早いとは思ってなかったよ。ありがとう。」
あっさり承諾されるどころか、お礼まで言われてしまった。本当にいい人たちだ。
いろんなお話をしながら楽しくお昼ご飯を食べた僕たちは、早速【天からの挑戦状】の【挑戦門】にやってきた。
体が浮くような感覚がして、気がつくと僕たちは第29層にいた。
仲間の2人は、冒険者でも学生でもないため、すんなりとはダンジョンに入る許可が降りなかった。Bランク冒険者パーティである僕たちの庇護下として、一時的に仮のパーティメンバーとするという条件で許可が降りた。
実際には庇護などせずとも、あの2人は僕たちより強い。彼らと同じ【気術】ランク2に上がったというのに、なぜか勝てる気が微塵もしないのだから。
2人をパーティに加えた僕たちは、危なげなくダンジョンの29層を進み、30階層への巨大な扉の前までやってきた。
やはりこの2人、安定感が並外れている。僕たちに合わせながら器用に動き回るその姿は、まるで全ての未来が見えているようだった。




