冒険者
それにしてもあの2人は何者なのだろう?一瞬でぼくたち全員に【気術】を教えて去っていった。スキルを教えるのに慣れているようにさえも見えた。
多分あの2人は【気術】ランク2なのだが、どうも僕はそれだけではないような気がしてならなかった。
なんというか、見た目以上に物凄く強く思えるのだ。それこそ、僕のお父さんやお母さんたちが本気で戦っても全く敵わないような、、、。いやさすがにそれは無い、ありえない、、よね?
いずれにせよ、ぼくたちにスキルを教えてくれたのは本当にありがたかった。特に彼女たちの安全度は桁違いに高まったはずだ。彼女たちも、これでもっと一緒に戦えると喜んでいる。
僕たちはその日、すぐに冒険者登録を行った。
本来、冒険者になるためには、さまざまな試験を受ける必要がある。しかしスキル保持者であれば無条件でその場で冒険者になることが出来るのだ。
手数料だけ支払い、無事僕たちはGランク冒険者になった。
「おいおいおい、学生さんかい?そんなにたーくさんの可愛い女の子を侍らせちゃって、きみ、生意気だねぇ。まだ登録したばっかりなんだよね?よし、きめた、お兄さんがいろいろ教えてあげるよ。」
教えてくれるというのはありがたい気もするけど、彼女たちはとても嫌がっているように感じた。
「あの、大丈夫です。ぼくたち、わからないことも含めて楽しみながら学んでいきます。だから大丈夫です。ありがとうございます。」
「ああ?なんだってえ?なんかさらに生意気なこと言われちゃった気がするなぁ。俺のランクわかってる?Dランク冒険者なんだわ。先輩に対する敬意が足りないよね、うん、礼儀ってやつをまずは教えてあげないといけないよねぇ、最初は女の子たちから、じっくり丁寧に教えてあげるよ。」
そう言いながらその男は、彼女たちに手を伸ばそうとした。
その瞬間、ぼくは反射的に動いていた。
ぼくはその男の腕をがっしりと掴んだ。
「彼女たちに触るな。」
僕は、自分でも聞いたことのないほど低い声を出していた。変な目で彼女たちを見た挙句、無理矢理な言いがかりで彼女たちに触れようとしたことが許せなかった。
「なんだとてめ、え、ぐ、ぐあああ、す、すまん悪かった離してくれ、俺が悪かったからあああ、ぐ、ぐああ痛え、痛えよおおお。」
ん?
あ、ちょっと強く腕を握りすぎたかもしれない。
まあ、自業自得というやつだろう。僕の大切な仲間に嫌な思いをさせる方が悪いのだ。
「もう彼女たちに手を出さないと誓ってください。」
「誓う、誓うよ、うう、いてえ、いてえ、、」
嘆き続ける男に、マリアがそっと近づいた。
「あー、これは複雑骨折どころではないですね。バラバラに砕けています。」
マリアはそう言いながら、回復薬を使った。
僕たちのパーティでいちばんのしっかり者で、【守巫女】スキルを習得している名家のひとり娘であるマリア。みんなマリアのことを尊敬しているし、よく頼っている。もはや甘えているといっても過言では無い。
そんなマリアが回復薬を使用すると、【守巫女】の効果により、通常の何十倍もの効果を発揮する。
腫れ上がった男の腕がみるみる治っていく。
「、、、。ありがとよ、、。俺は言いがかりをつけて酷いことをしようとしたのに、、。なあ、なんで治してくれたんだ?」
「勘違いしないでください。ピヨン君が必要以上に恨まれないようにするためです。それに、例え誰であろうと目の前の怪我人を放置しては【守巫女】の名折れですから。」
「そうか、、はは。そうかよ。俺はとんでもないパーティに手を出そうとしちまってたんだな。
悪かった。お詫びと言っては何だがこれを受け取ってくれ。このすぐ近くにあるダンジョンの地図だ。これでも俺は地図職人でな。」
そういって、その男は去って行った。
その背中は寂しそうにも見えたが、新たな一歩を踏み出そうと前に向かう背中にも見えた。
それにしてもマリアは優しい。ぼくはマリアのように優しくなれなかった。仲間を守ることに必死で、その先のことや、相手のことまで考えられなかった。きっとこの先もそれは変えられないような気がする。
でも、マリアがいてくれれば大丈夫だと思えた。僕が道を踏み外しそうになったとしても、きっとマリアが、そしてみんなが僕を連れ戻してくれる。そんな気がした。




