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ごちそう

私は前々から計画していたことがあった。それは、地下帝国が完成して仲間たちが集合したその日に、みんなに料理を振る舞うことだ。


私が前向きに生きようと思えたことも、エンジュちゃんの笑顔を取り戻してくれたことも、私に居場所をくれたのも、仲間のおかげだった。


だからこそ、今の私にできる最高の料理をご馳走したい。そう思った。


私はまず、メニューを考えた。時にはシャルルさんに他の大陸に連れて行ってもらい、ご馳走と呼べる品々を見て回った。


それらを自分なりに改良し、ついにレシピが完成した。


そこから本番の日に必要となる具材を逆算する。


その日に使用する具材は、1からこだわり抜くことに決めた。


種を蒔く時に、種に【気】を込め、付近の土にも【気】を練り込んだ。第5層の機能を用いて雨を降らせる時も、その一帯だけは、自分の手で水を与えるようにした。その水にも【気】をなじませた。


【気術】ランク3になったからこそ出来る芸当だった。みんなのように【気】を活かして戦うといったことは私には出来そうにないが、農業や料理に活かすという点に関しては誰にも負けるつもりは無かった。



そうして育て上げた農作物は、成長速度も他より圧倒的に早く、そして実った作物は何故か金色に光っていた。


「え、なんか光ってるんですけど、、?」


思わず独り言を言ってしまったほどだ。


運悪くというべきか、ちょうどそのタイミングで第5層にやってきたサイエンに、私の独り言を聞かれてしまった。



「な、これは?光り輝く農作物!?これはなんだいイブ!いったいどういうことさ。」


「さ、サイエンさん、えっとこれはですね、、。」


そしてサイエンに、みんなにご馳走を作りたいことを話した。


「それは素晴らしい。それにしても光る農作物か、また研究テーマがひとつ増えたよ。作物も料理も奥が深いね。では地下帝国が完成する少し前にはイブに伝えるようにしよう!」


「あ、ありがとうございます!」



私は着々と準備を進めた。


日々はあっという間に過ぎ去り、いよいよサイエンから、そろそろ完成しそうだという連絡が入った。


私は気合を入れる。


よし、ご馳走作りの開始だ。



私は光る作物を必要な分持ってきた。

そして丁寧に切り分けていく。私は集中して手先に【気】を纏った。それだけではなかった、集中しすぎてその時は気づかなかったが、後で考えてみると調理器具にまで【気】を纏わせることが出来ていた。


【気】とは生命にしか宿らない、、はずなのだが。


全神経を注いで作った料理は、輝いていた。文字通り物理的な意味で。


料理までもが、光を発してしまったのだ。これ、食べても大丈夫なのかな。そう思い、ひと口だけ味見をする。


うん、我ながら美味しい。というか今までと比べても群を抜いて美味しいかも知れない。料理の腕や作物の新しい育て方など、自分の成長を実感することができた。


 それに、これからも改善の余地がありそうに思える。料理を極める道のりはまだまだ長そうだが、それが私にとっては嬉しかった。



私に居場所と、幸せを与えてくれた地下帝国が、ついに今日、完成した。“始まりのメンバー”全員が集まって、地下帝国を見て回った。

そして最後に、住民たちの前で宣言が成される。


皇帝様、皇女様。そして、地下帝国フリーリング。


私は感動的すぎて、思わずひっそりと涙を流した。しかしエンジュちゃんにだけはその涙を見られてしまった。また揶揄われるのかと思ったが、エンジュちゃんはそっと手を私の背中に当て、優しくさすってくれたのだった。



そしていよいよそのご馳走を振る舞う時がやってきた。


喜んでくれるかな、本当に美味しいかな?味見はしたが、いざ本番となると少し緊張してきた。


しかしみんなの表情をみて安心した。ひとくち食べただけで目を見開き、その後すごい勢いで私の料理を一心不乱に食べてくれた。や、やっぱり私、すごく美味しいもの作っちゃったかも。わあい!


「イブはん、とんでもないもの作ったなぁ。美味しすぎて手が止まらんわ。ありがとうな。せやけど、今日のご馳走を世に出したらあかんよ。世界中で戦争が勃発するで。」


私の料理で戦争!?やめてやめて、何でそんな、どういうこと?


「え、え、そうなのですか!わかりました、今日のはみなさん専用のメニューにします!」


私は高らかに宣言する。そもそも今日のは特別なご馳走だ。地下帝国フリーリングの誕生を祝う料理なのだ。私は他の人のために今日のご馳走を作る気はさらさら無かった。


「お姉ちゃんってほんと天才。さすがはお姉ちゃん。でも自分のすごさは全然わかっていないですよーっていうその感じ。あざといなぁ。狙ってるよね?」


エンジュちゃんの指摘に、初めて私はギクっとした。確かに私は、今日自分でも誇れるほどのご馳走を用意できたと思ってしまっていた。


「ち、ちがうよエンジュちゃん!揶揄わないでよ〜。」


いつもの調子で答えてはみるものの、本当にそのエンジュちゃんの指摘は違っていたのか怪しかった。あとで考えてみて、その結果によってはエンジュちゃんに謝ろう。



私を狭い【天界】の世界から救い出してくれた2人、、、皇帝様と皇女様も、我を忘れるほどにご馳走に夢中になってくれたようだった。


本当に作った甲斐があった。


私はこれからも成長し続けていく。決して歩みを止めずに。一切手を抜かないし妥協も許さない。


私は、地下帝国フリーリングの料理人だから。


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