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卒業の日

シャルルさんはたった1人で、魔物と戦っていた。その姿をみて、すべての地下帝国の住民たちが歓声を上げる。


あまりの華麗さに。あまりの強さに。あまりの勇気に。


シャルルさんは人を惹きつけ、そして安心感と活力を与える。


それでも今だけは、心配の方が勝っていた。


見ていられなかった。シャルルさんがいつ怪我をするか、攻撃を受けて倒れてしまわないか、ハラハラが止まらない。



でも私にはあの魔物に立ち向かう勇気も実力もない、なぜなら私は【悪魔】なのに攻撃スキルのひとつも覚えられない愚図、、、。


いや、本当にそうかな。


今の私には大切な仲間がいる。


こんな私でも【気術】ランク3になることが出来た。


アイドルとして羽ばたくエンジュちゃんに勇気をもらった。


大陸を越えて、私のお料理が世界中で認められた。


小さな女の子の人生を救った。



本当に私は、愚図なのかな。いや違う、そういう話じゃないんだ。愚図な私を、今この瞬間に、卒業するんだ。


なぜなら私は地下帝国の“始まりのメンバー”の1人なのだから。



ちょうどその時、第2層の映像に、クリートさんが映った。


私は驚いた。クリートさんも戦闘は得意な方ではないはず、、。あ、そうか、あの機械を修理しに行ったんだ、、。


クリートさんは仲間のために命懸けで動いている。


私はそれを見て、未だかつてないほどの熱い感情が芽生えた。


やってやる。私だってやれる!


私は急いでピリーヌを集めてきた。それは黄色い果実だ。少量であればピリッとした料理のスパイスになるが、大量に摂取すると途端に毒へと代わり、体を強く痺れさせてしまう。


私はそれを、調理器具で粉々に砕いて粉末状にした。


私はエレベーターで、第2層へと向かった。


不思議だ。


今はもう、何も怖く無かった。

死と隣り合わせの最も危険な場所へ向かうというのに。


私は第2層へ降り立った。


私が最優先ですべきことは、あの大きな黒い魔物の観察だ。


【悪魔】には相手の強さを見抜く力が備わっている。

でもそれだけではない。しっかりと見つめれば、どこに弱点があるのかが見えるようになるのだ。


そしてそれは私にしか出来ないことだ。


みんなの運命を背負って戦うシャルルさんのために。

命を張って機械を修理しに向かったクリートさんのために。

そのクリートさんが無事に帰ることを心から祈り、不安に震えているだろうサイエンさんのために。


私がやるしかないんだ。



シャルルさんが魔物を引き付け、クリートさんがその間に大きな槍の機械を修理する。


そしてクリートさんが無事修理を終えたところまではよかった。


しかしその後、魔物は突然方向を変え、クリートさんの方に向かって全力で突進してきた。


その魔物の姿を近くで実際に観察して、よく分かった。


想像を絶する怪物だ。この怪物一体だけで、世界が滅んでもおかしくない。


それでも私は立ち向かった。


用意した粉末を、ここぞというタイミングであたりに振りまいた。


私はそれを吸い込まないように【気】で自分自身を覆いつつ、クリートさんに向かって叫ぶ。


「今です!逃げましょう!」



しっかりとあの粉末は効果を発揮して、魔物を一時的に痺れさせることができた。そして私とクリートさんは無事、第2層から脱出した。


そのまますぐに第9層に向かう。私にはいち早くやらなければならないことがある。


第9層についてすぐ、わたしは機械に向かって大きな声で言った。これに向かって喋ればシャルルさんに声が届くはずだ。



「シャルルさん、私が直接見てきてわかりました!その魔物の弱点は、翼の付け根と、背中の中心にあります!」



私はやり遂げた。直接戦うことは出来なくても、やれることがある。


震えて縮こまっていることしか出来ない愚図な私は、もう卒業だ。

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