飛躍
農業が止まらない。
料理が止まらない。
スキルとは、ランク3とはこれほどのものなのかと私は驚いた。
体があまりに軽い。どんな重いものでも軽々持てるし、自分の認識が追いつかないほど速く動くことができる。農作業の効率がどう考えても100倍は違うだろう。
さらには料理だ。
手先が器用に素早く動き、どんな食材の扱いも自由自在。細かい作業も、複雑な工程も、寸分の狂いもなく行うことができた。
それどころか新しい料理のアイディアが浮かんで止まらない。
楽しい、楽しすぎる。
私は、サイエンさんに頼んで、料理の研究を一緒にしてもらった。
まずは化学的な視点から見た時の、料理の理論について詳しく教えてもらった。
勉強など苦手だったはずの私だが、料理のことになれば話は別だ。何時間でも集中して取り組めた。それだけではない。【気】を頭に纏わせることで、頭の回転さえも早くなった気がする。そして疲れが全然来ない。
料理の理論を勉強し、その後で一緒にサイエンさんと料理について語り合う時間は本当に楽しかった。
サイエンさんの迷惑になっていないかなと一瞬思ったが、サイエンさん自身も料理には興味があったらしく、ノリノリで取り組んでくれたのだった。
早速いくつか料理を作ってみて、クリートさんやサイエンさんに試食してもらった。
どれも大好評だった。
生まれた時から何も出来ず、攻撃スキルのひとつも使えず、馬鹿にされ続けた愚図な私。
しかし今では、優しい仲間たちのおかげで幸せな生活を送ることが出来ている。
私はここにきて、飛躍の時を迎えたのだ。
そしてそれはまだまだ止まらないようだった。
久しぶりにエンジュちゃんが帰ってきた。再会の喜びを語り合うまもなく、エンジュちゃんは私に料理を作って欲しいといった。
全く、エンジュちゃんは欲しがりさんなんだから。そして私は、進化した料理を存分に味わってもらった。
「お姉ちゃん、、、。なにこれ美味しすぎるよ!どうなってるの!?いや昔から美味しかったけどさ!」
「わあい!エンジュちゃんに褒められたー!あのね、まずホワイトコカトリスの黄金肉を」
「あーストップお姉ちゃん!それは後で聞くよ。それより一緒に食べようよ。さ、2人で笑顔でね!」
「え、うん、じゃあそうする!エンジュちゃんとご飯食べるの久しぶりかも!いただきまーす!」
そんな私たちのひとときが、サイエンさんの黒い機械で映像として保存されているとは思ってもいなかった。
そしてそれはエンジュちゃんとシャルルさんの計画によるものだったのだ。
「もーエンジュちゃん!先言っておいてよー。」
「だってお姉ちゃん、そんなこと知ったら緊張でうまく喋れなくなるじゃん。あ、この映像は全世界に流れる予定だからよろしくね!わたしそろそろ行かなきゃ。ありがとうお姉ちゃん!」
「え、ちょ、な、なんにもよろしくじゃないよー。エンジュちゃーん!」
こうして私の知らないうちに物語は次のページへと進んでいく。そのページをめくった張本人であるエンジュちゃんは、るんるんとした様子で再び地上へと繰り出していった。
今日も私の妹は、とてもかわいい。




