ランク祭り
素晴らしい暮らしをしていた。
愛しの妹と一緒に畑を耕し、種を蒔き、時折雨を降らせる。
クリートさんたちが運んできてくれる食材で、私がお料理を作る。
それを、クリートさんとサイエンさんを含む4人で食べる。
あんなに警戒しながらここにやってきたというのに、私ときたらすっかりここが気に入って、幸せな生活を送っていた。
クリートさんとサイエンさんは、私の作ったご飯を本当に喜んでくれた。その小さな体のどこにそんなに入るのだろうと思うほど、たくさんおかわりをしてくれた。
それがとても嬉しかった。
好きなだけ料理をし、農業をし、そんな充実した生活をしていたある日のことだった。
「今から地上にいくよ。そろそろみんなが到着する気がするから。」
クリートさんがそう言った。少し緊張感のある言い方だった。
「今日は大変な日になるだろうね。あの数の魔物たち、いったいどうする気だというんだ。まあ想像はついてしまっているのだけど、だからこそ恐ろしいと言うものさ。それはそうとあの魔物たちを完全に抑えこむ拘束具を作り上げるのにはさすがの僕も骨が折れたね。まあクリートとの共同作業という意味では素晴らしい経験だったといえるが。やはり僕とクリートの手にかか」
「はいサイエンそこまで〜。よしよし。好きだよ。」
「僕もだよ、クリート。」
何度見てもサイエンさんとクリートさんはお似合いで、その2人の熱々なやりとりを見ているとこっちまで胸が熱くなる。わたしには刺激が強かった。キュンキュンした。
そして久しぶりに地上に出てみると、何やら物凄く強い人たちが勢揃いしていた。
私たちの人生を救ってくれた2人もいた。やはりこの2人は群を抜いて別格だ。
それにしてもいったいどこからこれほどのメンバーを集めてきたのだろうか。
私は驚きながらそのメンバーを眺めていると、その中でも特に目を引かれた【猫人】族の女の子が口を開いた。
「魔境に住んでることだけでも驚きやのに、こんなん見せられたら頭パンクするやんけ。錚々たるメンバーすぎて突っ込みも追いつかんわ。ま、改まって自己紹介タイムする必要もないやろ。まずは目的のランク上げや、そやろ？兄さん」
この子はすごい。ただ強いだけじゃない。エンジュちゃんとは違った意味で、人を惹きつける。
それにしてもランク上げとは一体なんのことだろう。まさかスキルの話？いやそれはあり得ない。
スキルとは限られた天才が幼い頃から努力を積んで発現させ、ゆっくりと時間をかけて鍛えていくものだと聞いている。
何が始まるのだろうと疑問に思いながらみんなで移動してやってきたのは本当に恐ろしい場所だった。
魔境というだけでも怖いのに、こんなものを見せられたら震えてしまう。
「ガッハッハッハッハ！！おいおいこれはどう言うことだ！見たこともない、勝てる気が微塵もしない魔物達が瀕死の状態でわんさか転がっているぞ！！」
あのガタイのいい【龍人】のバートルさんがそう断言した。
たしかにその通りだった。この魔物たちの強さは尋常ではない。
それからの時間は私には耐え難いものだった。何度か死にかけたと思う。たくさん弱音も吐いてしまった。
でもいつもの調子と変わらないように見えるエンジュちゃんを見ていたら、なんだかまだ頑張れる気がした。
やり方を教わった通り、たくさんの【気】を取り込み続けて半日ほどが経過した。本当に辛かったが、実は私は途中から嬉しくなっていた。
なんと、こんな私でもスキルを習得できたのだ。それは【気術】という。しかもランク2にまで上がっていた。
ランク上げ、と言った意味がやっと分かったのだった。
その後も地獄のようだった。しかし私は自分がスキルを習得できた喜びで、最後まで頑張り通すことができ、姉妹揃って【気術】ランク3になった。
疲れ果ててぐったりと座り込んでいたのだが、喜びのあまり自然と体が動き出した。私は気がつくと立ち上がっていた。
「【気術】ランク3、、。すごい。私でも、できたよ、、。」
何だか、今なら何でもできそうな気がする。
「エンジュちゃん、わたしいくね！今ならすごいことができそうなの！お姉ちゃん、頑張るから！」
新しく得た力を、はやく農業やお料理に使ってみたくてたまらなかった。
「お姉ちゃん、よかったね。私はいつも応援してるからね。」
「エンジュちゃん！！」
隙さえあれば揶揄ってくるエンジュちゃんだが、今回は結構真面目な声色で思いを伝えてくれた。
それで私は理解した。そうか、エンジュちゃんは今から羽ばたいていくんだ。
しばらく会えなくなるかもしれない。
でも私は絶対に邪魔をしない。エンジュちゃんは大きな世界でどこまでも進んでいく力がある。
だけど無理だけはしないでね。
私は心の中でそう願った。
