成長
僕が転生してから最初に行った訓練といえば、【気術】スキルを発現させるためのものだった。
これは手探りでやっていくしかない。ゲームと違ってここは現実だ。実際の自分の体の変化に目を凝らし、感覚を研ぎ澄まし、全神経を集中させる必要があった。
本当に少しずつだが、これが【気】というものだろう、という感覚を掴みつつあった。毎日毎時間毎分、意識のある限り訓練した。
そして1歳になるころには、少しずつ【気】を練ったりコントロールすることができるようになってきた。
とはいえ、集中力がちょっと抜けるだけで、空気のように簡単に体から散ってしまう。
それでも僕がめげることは無かった。自分の目指す目標に向かうため、というのもあるが、シンプルに楽しかったから。ゲーム越しではなく、実際に自分の生きている現実の世界として毎日成長していけることが。
そしてついにその時がきた。
別に何の表示も出ないし、頭にメッセージが流れるわけでもなければ、効果音が流れるわけでもない。
しかしながら身体中を駆け巡るこれ以上ない“実感”により確信する。
【気術】ランク1を習得できたということが。
このスキルこそ、僕がこの世界で極めようとしているものだ。
スキルにはランク1から、最大ランク5まである。
スキルの種類によっては最大がランク3までだったり、ランク4までだったりする。
運営公式が発表した、リアル・ダイブ・ワールドにおけるスキルランクの認識は以下の通りだ。
ランク1:優れた者が弛まぬ努力の末に得る。
ランク2:天才が死ぬほど研鑽した先にある。
ランク3:逸脱者。伝説の存在。
ランク4:狂気の沙汰。神として崇められる。
ランク5:???表現不可。
そう、確かにスキルを習得するのは困難極まり無いし、そこからランクを上げるとなると、常軌を逸した何かが必要となる。
しかしそれを、少しだけ効率的に行う方法がある。
それは、“器が育つ前に”膨大な訓練を積むことだ。
まさに今の状況である。僕は0歳から訓練を開始した。【奴隷の腕輪】の効果で、仮に経験値を稼いでもレベルが上がることも無い。誤って他のスキルを習得してしまうこともない。年齢も低いほどいい。
1つのスキルだけを極め、そのランクを上げることだけを考えた時、0歳かつ契約奴隷であるこの状況こそ、唯一無二の最高の機会である。
【気術】を獲得したことで、身体能力が大幅に上がった。今なら何でもできそうだ。そう思ってしまうくらいには全能感で溢れていた。
だがこれは、最初の一歩に過ぎない。
道のりはまだまだ長い。
僕は3歳になった。
今では何時間でも、それこそ寝ている時でも、体に【気】を纏い続けることが出来るようになった。
ある時は、星の形を作ってみたり、ある時は、1箇所の密度を濃くしてそれを一気に発散させて爆発させてみたり。
文字通り24時間【気】と触れ合い続けた。
ゲームではわからなかったようなことまで、実際の体で体感して理解を深めることが出来た。
ゲームの時以上に、僕はこの世界にハマり込んでいる。
24時間【気】を纏わせ続けているのには理由がある。単純に楽しくて仕方ないというのもあるが、それよりもスキルのシステムによるところが大きい。
ランクを上げるための数値、ランクポイントとでも言おうか。それが、時間経過と共にどんどん減少していってしまうのである。
このシステムについては、プレイヤーから運営への批判が特に多かった部分だ。
とはいえ、一度スキルを習得、あるいはランクが上がった、という状態になれば、そこからどれだけ訓練をサボったとしても、ランクポイントがマイナスになったり、スキル没収、あるいはランクがダウンしてしまう、ということは無い。
あくまでランクポイントが減るのは、スキル習得に至るまでの過程と、次のランクに至るまでの過程だけである。
例えば、あと1ヶ月間死ぬ気で努力を続ければランク3に至れる、という段階まで来ていたとしよう。しかしそこから1週間も何もせずに休んでいれば、たちまちのうちに、ランク2に上がった直後の状態に逆戻りという訳だ。
うん、確かに鬼畜仕様である。ランクが上がるほど、時間あたりのランクポイントの下がり方が顕著になるのでなおさら意地が悪い。
だからこそ、ほとんどの攻略サイトには、ランクをなんとか頑張って2まで上げ、あとは普通にキャラクターレベルを99にして、強い装備を揃えましょう。
と書いてある。
まあ、それが1番、苦痛なくゲームを楽しみながら、強くなれる最適解なのだろう。
だが僕は妥協しない。
転生したこの体で、この人生で。
【気術】レベル5を成し遂げる。
というよりそれはもはや、自分の中で確定事項となっていた。問題は仲間作りだ。
才能もそうだが、それよりも精神が大切だ。自分と同じ視点で、同じくらいの熱量で、あり得ないほどの苦痛を伴う訓練についてこれて、決してめげない、信頼できる仲間。。。
わかっている。そんな人いるわけがないよね。
だから勘違いのはずだ。
あの子ならもしかしたら、と思ってしまっているなんて。
僕と同じ契約奴隷。年齢も一緒。英才教育を受ける時の班も一緒。
彼女は、異質だった。
あり得ない、わかっている。だって相手は3歳だ。3歳児になにを期待しているのか。しかし彼女に目を惹かれて止まない。
種族的な特性のせいもあるのだろうか、彼女の種族は【ダークエルフ】だ。
普通の【エルフ】であれば、神がかった美貌と抜群のスタイルが約束されているのだが、【ダークエルフ】の場合はそうでは無い。
むしろ少し特徴的な顔立ちをしていることも多い。ブスでは無いが、特別別嬪というわけでもない。
とにかく彼女から目を離せない。目、鼻、口、手、足、腰。何か特徴的で目を引くのだがうまく説明ができない。いや、もしかすると物理的な見た目ではなく、彼女の雰囲気が魅力的なのだろうか。
どこか暗い影があって、人生を諦めているようで、それでも生きている、色で例えるなら透明だ。ふとした瞬間に消えそうなのに、圧倒的な存在感を放っている矛盾。
僕は隙さえあれば彼女の近くにいるようにした。そしてこっそり、【気】を纏わせるのだ。自分勝手なことだとは思うが、彼女を仲間にするのだとしたら、少しずつでも【気】に触れさせておきたかったのだ。
4歳になってしまえば、いよいよ専門的な訓練が始まる。つまりは、他のスキルを獲得してしまうかもしれないということ。
そう、彼女を仲間にして、一緒に最強を目指すのであれば今しかないのだ。
あとは話しかけるきっかけさえあればいい。つまりは勇気を出すだけでいいのだが、何となくその決心をする要因が欲しかった。
そして、幸いなことにそれはあった。スキル習得を実際に体感したからこそわかる。
【気術】ランク2となる瞬間が迫っていることが。
今夜は、寝ないことにしよう。
ぼくは一晩中、【気】を張り巡らせ、縦横無尽に操り、動かし、練り上げ続けた。
朝を迎えた。
鳥が囀り、カーテンの隙間から光が差し込み始める。そしてその時は訪れた。
スキル習得の時とは比較にならないほどの、莫大なエネルギーが体を駆け巡る。自分にしか見えない、眩い白い光に包まれる。
1分ほどその状態が続き、やっと収まったとき、全身から汗をかいていたことに気がついた。
一睡もしていないことなど気にもならないほどの大きな達成感がそこにはあった。
今なら、今であれば、僕は彼女に話しかけられる。もはや何でも言える気分だ。
「あのさ、ぼくの仲間になってくれないかな。あ、勘違いしないでね、普通にちょっと仲良くしてとかの軽い意味じゃないよ。それこそ永久に、人生丸ごと捧げてよってぐらいの、かなり重い意味で言ってる。」
はい終わった〜。
え、何言ってるんだろうぼく。
恋愛初心者?女の子と遊んだこと無い人かな?
いや初心者でも言わないわこんなこと。
これはひかれたわ、さすがに。ていうかこの子と会話するのこれが初めてだし。深夜テンションとか溢れ出るドーパミンとか達成感とか色々言い訳はあるけど、それにしても最初の会話がこれっていうのは無いわ。
あーあ。
数秒の沈黙のあと、彼女は口を開いた。
「わかった。私はあなたの仲間になる。永遠に裏切ることない、絶対的な存在になるよ。」
ん?
ん???
おう、いえい。
何が起きたのか分からないけど、彼女が言うことなら間違いない。その約束は守られる。そんな気がする。
人にも物にも執着したことがない自分にとって、この感情は初めてだった。だからいろいろと暴走してしまっているだけだ、きっとそうだろう。
じゃあ僕も、何が起きても離してやらない。一緒に最強になろうね、逃さないよ?