思ってたのと違う
それから、意外とすぐに目を覚ましたピヨンは、少し悔しそうな表情をしつつも、いい試合ができてよかったとお礼を言ってきた。
意外と負けず嫌いなところもピヨンの美点である。
その後はピヨンの取り巻きのメンバーも含めてみんなでご飯に行った。
いろいろと質問してみたのだが、あまり明確な答えは分からなかった。
ピヨンに聞くと、
「いや僕はなにも特別なことはしていないというか、えっとその、うーん?なんていえばいいんだろう。」
という感じでいまいちピンとこない。
逆に取り巻きの子たちに、ピヨンのどういうところが好きなのかを聞いてみると、
「そ、それは、好きって、それはうん、わたしも好きだけどそんな直接伝えるのはちょっと、勇気が」
「わ、わたしはそうだな、ピヨン君の、ぜ、ぜん、ぜんぶ、や、やっぱ恥ずかしい。」
そんな調子で赤くなってモジモジとしてしまい、あまり参考にはならなかった。
ふむ。
ピヨンのように取り巻きがたくさんいたら面白いかと思ったのだが。ゆくゆくはその中から妻を選ぶのもいいかもしれないしな!
まあいい、そのうち自分で考えてみよう。
様々な雑談と、楽しかった戦いのお礼を述べ、俺たちは解散した。
さて、また修行の日々でも送ろうか。そんなことを思っていると、何やら俺のところに走ってやって来る人たちが見えた。
「あ、あのバートルさんっすよね!アニキと、呼んでもいいっすか!」
「俺たちは大ファンなんです!アニキの!」
「わしも年甲斐もなく興奮してしまったわい。あの戦いが目に焼き付いて離れんよ。わしもアニキとよばせてもらおうかの。」
男たちだった。
どうやらかなり気に入られている様子。
決勝戦の様子を見てファンになってくれたということのようだ。
それは嬉しいが、取り巻きといってもちょっと思ってたのとは違った。主に性別が。
しかし細かいことは気にしない!男なのであれば、鍛えてやるのがアニキの役目というものだ!
「ガッハッハ!好きに呼ぶがいい!よしお前たち、早速今から修行の始まりだ!俺について来い!ガッハッハッハ!」
その後、数日かけて、ひとしきりの訓練法や、【気術】について詳しく教えながら、たくさんの訓練を実行した。
3人とも悲鳴をあげたり弱音をはいたりしていたが、なんだかんだ誰も修行をやめることはなかった。
うむ、いい弟子を持った。
そして一度弟子たち3人を連れて魔境に帰った。海上ダッシュもとてもいい訓練になった。
そして魔境での安全な魔物の狩りの仕方を3人に教えた。
俺はその後、再び龍帝国ドラールに戻ってきた。どうしても話がしたいと、帝国直属の第一部隊隊長から手紙を授かっていたからだ。
その会談の日まで、再び修行を行なった。魔物を狩るのではなく、【気】をしっかりと制御して体に馴染ませる修行を優先した。
そして、手紙に書いてあった指定の場所に、指定の日時に向かった。
するとその1番隊隊長はすでに座って待っていた。
「来てくれて感謝する、バートル殿。敬語などは不要だ。」
「お、おう。」
「頼みがある。我らの部隊に加わってほしい。【ドラールトーナメント】での君の戦い、しかと見させてもらった。素晴らしかった。ぜひ君を第一部隊に欲しいのだ。」
「ガッハッハ。すまんな、俺にはすでに所属しているチームがあるんだ。仲間がいてな。」
「な、それは、我が国最強の第一部隊への誘いを断るほどのことなのか!」
急に態度が変わったことに少し違和感を感じたが、細かいことはどうでも良かった。
「すまないが、他のところに所属したりするつもりは無いのでな。他を当たってくれ。」
「今、世界では何か大きなことが起ころうとしている!具体的には分からないし話せないが、我が国としても戦力の拡大が急がれるのだ!」
そう言われてもねえ。
なんと言って断ろうかと考えていると、サイエンからもらっていた通信機が鳴った。
「アニキ!大変っす!急いで戻ってきて欲しいっす!地下帝国が大変なことになるかもっす!」
それを聞いた俺はすぐに魔境に向かうことにした。
「すまないが俺は何を言われても入る気はない、では!」
「な、なんだと!わが国が!世界がどうなってもいいというのか!その用事は世界よりも大事なことなのか!」
なるほど、面白い質問だ。
俺は思い返す。
1人で修行し、なんとなく物足りず、もやもやした日々を送っていた。
あの時は自分に言い聞かせながらなんとかやってきたが、その果てに一体どういう希望が待っていたのかと考えてみても、今となっては全く思い浮かばなかった。
そんな俺に変わるきっかけをくれ、最後はランク4にまで育て上げてくれた仲間がいる。
シャルルというお気に入りもできたし、ピヨンとも再戦の約束をした良き友だ。他の仲間もみんな、それぞれに素晴らしい持ち味を持っていて、短い間だが一緒にいられて楽しかった。
最近では弟子も出来て、自分だけでなく人を育てることもいいものだと思うようになっていた。
そんな弟子からの緊急の連絡。
地下帝国が危ないらしい。
俺は迷うまでもなく、最初から出ていた答えを告げた。
「ガッハッハ!そうだ!世界よりも大切だ!では失礼する!」




