お気に入り
今日も変わらず修行に打ち込んでいると、また強大な気配を感じた。
一瞬身構えるが、すぐに杞憂だったと知る。それは俺がよく知る気配だった。
早速向かうとしよう。本物の仲間が会いにきてくれたのだから。
修行の成果により、さらに莫大な【気】をより繊細に操ることができるようになった俺は、筋力アップに適した【気】を多く足に纏わせて、地面を蹴って飛び立った。
今回は船で来たか。とても豪華な船だ。それに、知らない気配がもうひとつ、、。
とりあえずこのまま船に着地すると船がバラバラになると思った俺は、すぐそばの海面に盛大に飛び込んだ。その勢いで海の魔物ジャイアントシャークを偶然倒したので遠慮なく【気】を取り込んでおく。
そして海中から再び盛大に飛び上がり、今度は船のうえに着地する。
船の上には仲間の2人と、見知らぬ【猫人】族の女が1人。きっと彼女も仲間の1人だろう。
「ガッハッハ!なんと立派な船よ!共に海の上を走って渡るつもりでおったが、豪華な船で各地を回るのもまた一興である!」
次に会う時には、新たな仲間たちも含むみんなが集うことになるだろうと俺は思っていた。明らかにこの2人は、仲間探しを目的として龍帝国ドラールにやってきていたからだ。
つまり、他の大陸でも仲間を募っていたであろうことは想像に容易い。
船で仲間たちを乗せて回るというのは確かに効率がいいだろう。
そんなことを思っていると、【猫人】族の女が口を開いた。
「ええ男やないの!厳つくて立派やわあ。【龍人】族やね。うちは【猫人】族のシャルルや。よろしゅうな。」
一目見た瞬間から分かってはいた。只者ではないということが。だからこそ試さずにはいられない。戦ってみたくて仕方ない。
「ガッハッハ!俺はバートルだ!わかる、俺にはわかるぞー、シャルルもかなりの使い手であろう!ぜひとも、手合わせ願いたいものだ!」
俺は凄まじい量の【気】を一気に纏わせた。
常人であれば震え上がってそれだけで失神してもおかしく無いほどの威圧も込めた。
そのはずだった。
「か弱いおなごに向かって何ゆうとるん、いややわあ。せっかくの旅行や、優雅に楽しまんとダメやろ?」
一瞬たりとも身構えるそぶりすら見せず、優雅に喋るシャルルの姿がそこにはあった。
俺は纏わせてた【気】をそっと解く。
「ガッハッハッハッハ!!気に入った!気に入ったぞシャルルよ!俺の臨戦体勢を見てなお反応さえしない、それどころかその余裕である!なんという胆力、稀代の傑物である。」
「ありがとうなあ。うちも、兄さんらの仲間の1人として恥じない存在でありたいんよ。」
「ガッハッハ!うむ、俺もこれまで以上に鍛錬に勤しむとしよう!」
戦うこと、強くなること、そして新たにできた本物の仲間のこと。それ以外興味もないと思っていたのだが、早速1人、お気に入りができてしまった。
どうやらとんでもないことが始まろうとしている。俺はそんな予感がして、気付けば笑っていた。
素晴らしい船旅になりそうだ。




