修行
結論から言うと、【気術】スキルを習得できたのはあれからすぐのことだった。
ぼんやりとしか感じ取れなかった“なにか”が、今では【気】だと理解できるし、それなりに自由に操ることもできるようになってきた。
楽しくて仕方がない。
ゆっくりと【気】を操作しながら魔物と戦い、そして魔物を倒した後に残る【気】を取り込んだ。
【気術】を習得してから、【気】がうっすらと見えるようになった。だからこそ、魔物を倒した直後にはそこに【気】が蔓延することが分かったのだ。
俺は夢中になった。
しかもこの【気術】のすごいところは、体の細部に至るまで【気】を送ることで、食事や睡眠の頻度を大きく減らせるという点だ。
できれば四六時中でも修行をしていたい戦闘狂の俺としては嬉しい限りだった。
魔物の【気】を取り込むときには毎回痛みも苦しみも味わったが、強くなれると思ったらいくらでも我慢できた。
そうして毎日修行に明け暮れていると、【気術】ランク2になった。
これはすごい、まだまだあの2人には及ぶべくもないが、ランク1の時とは別格だった。操ることの出来る【気】の量も増え、【気】の種類についても理解できるようになった。【気】にもいろんな種類があり、性質が異なるのだ。
俺はそれらの研究や実験も含め、さらに修行にのめり込んでいった。
より強い魔物と戦えるようになった俺は、次々と山脈を移動し、片っ端から魔物を倒し、【気】を吸収していった。
だからだろうか、自分でも驚くようなスピードで、【気術】ランク3に上がっていた。
そもそもスキルとは、習得できただけで人生が安泰と言われるほどの、限られた人にしか習得できない神聖なものとされている。
そしてランク2ともなると世界に数えるほどしかいなくなり、ランク3は伝説の存在となる。
あくまで一般的な世界の認識の話ではあるが、そんな伝説のランク3になれたことは感慨深くもあった。
なんとなくだが、この【奴隷の腕輪】のおかげもあるのではないかと思う。
そういう意味ではかつての仲間たちにも感謝した方がいいのかもしれない。
だが今は俺には本物の仲間がいる。もう彼らに会うこと無いだろう。
そんなことを思っていると、想像を絶する強大な力を検知した。
ランク3になってから、より広範囲にわたって索敵を行うことが出来るようになっていた。
これは逃げるべきか?一瞬そう思ったほどだ。
しかしこれを逃すのは惜しい。俺はひとめだけでも見てみることにした。
そして【気】を最大まで全身に纏わせ、大きく山を蹴って飛び跳ねた。1直線でその強大な力の源へと向かう。
そして途中で気付いた。
強大な気配はあの2人組のものだったのだ。
勢いよく2人の目の前に着地して俺は笑った。
一瞬だが見逃さなかった。あまりにも強い【気】の気配が2人に漂ったことを。
まだまだ壁は高いらしい。ランク3に至ってもなお、その壁の高ささえも測りきれない、そのことを嬉しく思った。
その一方、2人も、この短期間で俺がランク3になっていたことは心底驚いたようで、目を丸くして褒め言葉を送ってくれた。
「がっはっは!ルシーちゃんにまで褒められたらこりゃあもっと頑張るしかないわな!よっしゃ、もうひと踏ん張りいってくるぜ!またな!」
まだまだ強くなれる。
この2人のおかげで俺はそう思えた。
修行の日々はまだまだ続く。




