案内
シャルルと化け物が戦う一部始終をしっかりと映像として保存しておいた事で、これを元にさらなるシャルルブームが訪れ、シャルルを崇拝する団体が出来上がった。
そして救世主シャルルの銅像を作ってほしいと多くの人からお願いされ、無駄に精巧で巨大なシャルル像を作り上げた。
今回の戦いでシャルルが敗れていた場合を考えるとゾッとする。あれほどの化け物であれば、時間はかかるだろうがいつか無理矢理階層の床を破壊して、最深部まで到達した可能性が高い。そうなれば本当に地下帝国は終わっていたのだ。
そう考えるとシャルルを救世主として崇め奉る団体が出来上がっても至極当然とも思えた。
僕たちは今回の反省点をもとに、第1層や第2層はより手厚く強化を施した。
その他の階層も順調に発展させていった。
そんな忙しくも楽しい日々が続き。
「本当にすまなかったみんな。迷惑をかけたね。僕とルシーがいない間、地下帝国を守り通してくれて本当にありがとう。」
化け物とシャルルが戦っている時、一切通信が繋がらなかった2人が戻ってきた。
2人は力を使い果たし、今は【気】を練ることさえも難しい状態となっていた。
彼らもまた、強大な敵と戦っていたのだろう。きっとそれは、地下帝国の仲間のための戦いだ。何となく今回の化け物の騒動と深く関係があるような気がしたが、それはまた今度聞くとしよう。
今はそれよりも、喜びを分かち合いたかったから。なぜならついに、地下帝国が完成したからだ。
みんな大喜びしてくれた。
そして早速、通信機で、ここにはいない仲間たちにも連絡をしてくれた。
「えーっと、聞こえるかな。クリートやサイエンを筆頭に、協力してくれたみんなのおかげでついに地下帝国が完成したよ。暇になったらいつでもきてね〜」
こんな時でも仲間たちに強制はしないところに、ぶれない芯を感じた。
しかしながら一瞬にして全員が集結することとなった。
アイドルとして活動していたエンジュ、学園都市で活動していたピヨン、魔境でさらなる修行に明け暮れていたバートル。
もともと地下帝国にいた僕とクリート、イブ、そして休息をとっていたシャルル。
今ここに“始まりのメンバー”全員が揃っていた。
「改めてみんな、仲間になってくれてありがとう。ついに地下帝国が完成したらしい。今からサイエンとクリートに全部の層を案内してもらおう。そのあとはイブのご馳走が待ってるよ。」
「ガッハッハッハ!それは楽しみである!地下帝国もご馳走も両方だ!」
「バートルはん、病み上がりの女の子の前で叫ばんといてや〜。ま、うちもワクワクしとるけどな。」
「ついに完成したんですね、地下帝国。本当にすごいです。ぼく、仲間に誘ってもらえて本当によかったです。」
「私もその、改めてしっかり見させてもらうのは楽しみです。あ、でもご馳走はそこまで期待はしないでくださいね、うまくできたか不安なので」
「お姉ちゃん、自信持ちなよ、お姉ちゃんの料理は世界一なんだから。それにしてもサイエンさん、クリートさん、地下帝国を本当に作り上げてしまうなんてすごすぎます!」
僕とクリートは顔を見合わせて頷いた。
今からみんなの度肝を抜いてやろう。
「知っている人もいるだろうが、このエレベーターは今いるここのメンバーしか使用できない仕組みになっている。こうして手をかざせば、このようにエレベーターに乗ることができる」
「もしかして、とは思ってたけど、、。この仕組みは、あの【天界エレベーター】と同じなのかな?」
僕は頷く。
「その通り。そこの技術を盗ませてもらったよ。ピヨンにも手伝ってもらってね。何故だかはわからないが、そのエレベーターの技術だけが、周りと比べて特出して進歩していたんだ。まあ、僕とクリートの手にかかればこんな風に再現してしまうことも出来るのさ。」
ぼくは自慢げに言ってやった。
とはいえ少し悔しい思いもあった。出来ることなら自分たちで思いつきたかったものだ。
「さあ、まずは第1層と第2層。ここは地下帝国の防衛のための階層さ。みんなもご存知の通りここで救世主シャルルが爆誕したわけだが、、」
「もーやめてやサイエンはん。ただでさえうちの銅像を見かけるたび恥ずかしくてたまらんくなるんやから。」
「そうかな、立派に作れたと思うんだけどな。」
「いやそういう意味ちゃうねん、立派すぎて恥ずかしいんや!」
どうも僕とクリートが全力で作り上げたシャルルの銅像はとても立派らしい。よかったよかった。
「僕とクリートはあの戦いの反省点を踏まえてさらに防衛機能を強化した。これからも強化し続けていくが、一旦は完成だ。」
みんなが口々にすごいと褒めてくれた。特にバートルは、素人には決して分からないであろう細かい工夫まで見つけて感心していた。バートル、やはり話のわかるやつだ。あとで小1時間ほど語り合うとしよう。
「続いて第3層と第4層。ここは居住区となっている。だけどここは、ちょっと大騒ぎになりそうだから後回しにするとして、第5層へいこう。」
僕たちはエレベーターで第5層にやってきた。ここも少し前とは比べ物にならないほど進化した。あたり一面に立派な畑と果樹園が並んでいる。紛れもなくイブの成果だ。
「ここは農業と料理の階層だ。ご覧の通り、イブの弛まぬ努力によって素晴らしい階層になっている。住人たちにとって、イブの農作物や料理はまさに生命線であり、人生の大きな楽しみ、喜びのひとつになっている。」
「え、あの、サイエンさん、、そんなに言われると照れましゅ」
「お姉ちゃんほんとにあざといね、“照れましゅ”ってなに?可愛いと思ってやってるよね?」
「ち、ちがうよエンジュちゃんー!噛んじゃったの〜。」
僕はその姉妹のやりとりをみて懐かしい気持ちになった。久しぶりに見れてよかった。
「続いて第6層は、研究のための階層だ。研究のための施設や道具が数えきれないくらいあるのさ。ここで地下帝国のほとんどの機能が生み出されたと言える。さながらここは僕とクリートの愛の巣、そして生み出された発明品たちは僕たちの子といっても過言ではな」
「ちょっとサイエンー!それ以上はダメ、今すぐ押し倒したくなっちゃうから〜」
「ああ、クリート、君は今日も綺麗だね。僕はいつでもウェルカムだよ。」
「もー、サイエンったら、、。可愛いんだから、、。」
ごほんっ!
みんなの咳払いにより我に帰る。
「というわけで次に行こう。次は第7階層。ここは資材を保管するための階層さ。イブが作ってくれている農作物や、シャルルの持ってきてくれる様々なアイテム、それに魔境でとれる素材、鉱石類、魔物の魔石なんかもあるね。この階層はクリートが1番詳しいんだ。」
そしてクリートが説明を始める。ちょっと誇らしげな顔で解説するクリートも素敵だ。
そしてみんなはクリートの工夫の数々や、施設の完成度の高さにとても驚いていた。
「続いて第8階層は、学びの階層だ。地下帝国の中の学園都市と言ってもいい。ここも後回しにしよう。」
後回しにしたのには理由があった。
第8階層には、第3層や第4層に直通する大きなエレベーターを取り付けてあるのだ。第3層や第4層の居住区の人たちが、スムーズに学園都市を行き来することが出来るように。
せっかくならそのエレベーターを使って上に戻ろうと思っている。
「さて、第9層だ。ここでは地下帝国のすべてを管理出来る。実質この地下帝国の核と言ってもいい。
第1層、第2層の防衛機能はもちろんここで操作することになる。さらにここからすべての階層のどんな場所も見ることが出来る。ついでに自由に階層同士を繋げて声を届くようにしたりすることも可能だ。
ちなみに第9層、第10層にはこのエレベーターを使ってしか入ることができない。つまり、ここにいる僕たちしか入ることが出来ないんだ。当然といえば当然だけどね。」
シャルルやイブはもう体験したから知っているが、その他のみんなからは感嘆の声が上がった。
ここもクリートがメインで作成を担当したのでクリートに説明を行ってもらった。それにしても本当に苦労したなあ、この階層を作り上げるのには。しかし仲間たちがこれほど驚いてくれるのであればやった甲斐があったというものだろう。
「最後、第10層は、僕たちのためだけの階層だ。みんなの家を建ててあるよ。あとでゆっくり自分の家を見てきてほしい。それでこの、1番大きな建物は、、。」
「もうサイエン、何を言い淀んでいるの。可愛いんだから。私からいうね。この建物は、この地下帝国の皇帝と皇女が住む家なの。」
「なるほどなあ。つまり兄さんとルシーはんの家ってことやな。」
そのあと小さくシャルルがつぶやいたのを僕は聞いていた。「うちはあの時兄さんのベッドで世話になってしまったんやな、、。」
そんな呟きは驚きの声で遮られて、当の本人には聞こえていないようだった。
「え?ぼく?僕とルシーがこの地下帝国の皇帝と皇女?無理だよそういうのよくわからないし。」
しかしそこからクリートの熱弁が始まり、シャルルのサポートもあっていつの間にか皇帝と皇女の話が固まっていた。
さすがである。
そう、僕はずっと心の中で、皇帝と皇女、そういうふうに思っていた。
僕に幸せな生活を与えてくれた、生きる意味を与えてくれた2人だ。それは僕以外の仲間も同じだろう。
地下帝国の構想も設計も、元は皇帝が描いたものだ。ぼくたち、“はじまりのメンバー”も皇帝が集めたものだ。そしておそらくだが、皇女ルシーをここまで強者へと導いたのも、皇帝だろう。
地下帝国が完成した今、ついに心の中の皇帝が、真の意味での皇帝となったのだ。
そして僕たちは第8層の学園都市にやってきた。
クリートがいう。
「あ、わかってると思うけど学園長はピヨンね。」
「え、ぼ、ぼく?ちょっとまってぼくはそんな大役、つとまらないよー」
最初は騒いでいたピヨンだが、先ほどと同様にクリートによって説得され、ピヨンが無事学園長を務めることになった。
僕のお嫁さんは今日も逞しく、聡明だ。
学園都市は施設こそ出来上がっているが、人員が全く揃っていない。ここから先はピヨンの腕前にかかっている。頼んだよ、主席卒業生ピヨン。
そして僕たちは大きなエレベーターで居住区へやってきた。今では大きな街と言っても過言ではないほど発展した居住区を僕とクリートが案内する。
しかし、やはり予想通りというべきか、途中から僕たちは案内どころでは無くなってしまった。
「サイエンおにいちゃんこんにちは!あのね、けんきゅうしてたの!それで質問があるの!サイエンおにいちゃんがこのまえいってたこの機械のしくみって、、。」
「まあ!クリートさんがきてくださったわ。クリートさん、ご飯でも食べていきませんこと?あれから夫の腰痛がすっかり良くなったんですの。クリートさんが夫のために家のあちこちを作り替えて下さったおかげですわ。」
「シャルル様だあああシャルル様がいらしたぞ!本物だ!なんて迫力だ、、、間近で見ると放つ雰囲気が只者じゃない。なのにどこか安心するような、そして可愛らしくもあるだと、、、」
「シャルル様ー!!こっちみてー!きゃーーーーきゃーーー!シャルル様よ!本物よ!なんて美しいの。」
「シャルル様が第3階層にいらしたぞー!この目で直接おがめるとは今日はなんていい日なんだ!よし、あとでもう1度あの伝説の戦いを家族で見るとしよう。」
「アニキいいいいい!お久しぶりっす!修行は順調っすか!俺もアニキに教わった通りの訓練を続けてるっす!最近は1人でもこの付近の魔物に勝てるようになってきたっすよ!アニキのおかげっす!」
「あなた様はもしや、、イブ様では!?おお、イブ様、心よりの感謝を申し上げます。直接お礼をお伝えするのをどれほど待ち侘びたことでしょう。重度の鬱病だった娘が、あなたの料理を毎日食べつづけたら、今ではすっかり元気になったのです。娘は毎日あなたに会いたがってましてね、、、。」
「おいおいおい嘘だろ、俺今日死んでもいい!エンジュ様だ!エンジュ様がいらしたぞ!見間違うはずもない、本物のエンジュ様だ!なんて美しいんだ。心が洗われていく、、、。」
あっという間に地下帝国の住民たちが集まってきた。
そしてそれをチャンスだとばかりにクリートが発表する。
地下帝国が完成したこと、皇帝・皇女が決まったこと。
さらに地下帝国の名前もすでに確定していた。
シャルルが名付け親らしいが詳しいことはよくわかっていない。
クリートも気に入っているようだし、それなら僕も何もいうことはない。
地下帝国の住民の全員から大きな拍手が巻き起こった。みんなの表情は明るく、幸せと希望に満ちていた。
今日ここに、地下帝国フリーリングが誕生した。




