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運命

研究をしたり、【気術】の訓練をしたり、冒険をしたり、忙しない日々を過ごしていると、仲間となったあの2人との再会の時は意外に早くやってきた。


「僕は本当にやばい発明をしてしまったかもしれない。みてくれよこれを。いやね、あのときの議論のおかげでひらめいてしまったんだ。もしもこれが作れれば、たとえ離れたところにいても、声を届けることができるようになる。何日もかけて移動して伝言を伝えたり、急用の際に速達手紙を出す必要もなくなるんだ。」


話したいことがたくさん溜まっていた僕は、挨拶も忘れていきなり早口で捲し立ててしまった。僕の悪い癖だ。

 とある研究をしている途中で、思いついた発明だった。この発想に至れたのはこの前の会話があったからこそだった。だからいち早く教えたかったのだ。


 それと、2人は僕の【気術】のランクが上昇していることに気がついているらしい。目を見開いて驚いていた。


「あーこれかい、いやね、【気術】ってのは素晴らしい。ぼくの脳みそが冴えて冴えて仕方なくなるのさ、あの全能感を味わったらやめられないよ。もっともっとランクを上げていろんなことを試したくなるのが研究者のサガなのさ。」



それから、冒険者チームに参加したこと、魔物の内包する【気】についてなど、ひとしきり話し終わると。



何やら徐に資料を手渡された。広げてみるとそこには、超巨大な設計図と、細かい説明が記されていた。


それは、地下に作る国の設計図だった。これを現実で作るのは、場所や費用、人手、それに何より技術力の問題で難しいだろうが、設計図としての出来は素晴らしいの一言だった。

それだけでは無い。


各所に配置される施設、機械、仕組み。それらの発想がずば抜けていた。


いったいどうやったらそんなことを思いつけるのだろうか。研究者として、発明者として、これを見て興奮しない人はいないだろう。


僕は無我夢中になって資料を読み進めた。


気がつくと何日か経過していた気がする。


いや、本当に素晴らしかった。こんな地下帝国があるなら是非とも住みたいし、何としてでもその作成に携わりたい。


それに、集中しすぎて気が付かなかったが、僕はこの数日で【気術】ランク3に至ったようだった。もうここまでくると、SSランク冒険者として一生暮らしに困らない生活が保障される段階だ。


でも僕はそんなことはどうでも良かった。


「これはまた桁違いにすごい!見えるぞ、今ならどんな発明でもできてしまいそうだ!便利な発明も危ない兵器もなんでも何でもだ。これが【気術】ランク3か!ありがとう、君たちのおかげだよ。ぼくは幸福者だ。あとはぼくの発明を理解して、完璧に形にしてくれる、ものづくりのプロがいればなあ。」



僕はこれで、さらに飛躍した。全能感で溢れている。しかしどんな素晴らしい発明も、それをしっかり形にできなければ意味がない。それなりに手先は器用なので、自分でも作れるものなら作りたいが、ちょっと全ては難しいだろう。何より僕は妥協が嫌いなのだ。


せっかくの発明なら、完璧な状態で形にしたいのだ。



そうした僕の願いを聞いてか聞かずか、2人はいきなり僕を担ぎ上げて走り出した。


2人の故郷に連れて行ってくれるらしい。



しかしまさか海の上まで走り出すとは思わず、あまりの展開に僕はいろいろとはしゃいでしまった。面白くもないシャレまで口走った気がする。



そして案内されたのは魔境だった。恐ろしい場所で、誰も近寄らないとされるあの魔境だ。


だが同時に納得もした。この2人の力が常軌を逸しているのは、僕が【気術】ランク3に至っているからこそ理解できる。


魔境が生まれ故郷というのも、そう考えると結構しっくり来たのだ。


しかし驚きはそれでは終わらなかった。

むしろそこからが始まりだった。


地下への入り口を見せられた時から。


一目で理解した。見たこともない精巧な造り。こういったものづくりは武装国家グレインの【ドワーフ】の技術が世界で最も進んでいるのだが、それでもこれに比べたら霞んでしまうだろう。



そして地下への階段を降りて扉を開けると、巨大な空間が広がっていた。



口をあんぐりと開けて固まる。


あの設計図の通りだった。いやそれより大きいような。


本当に作り始めていたのだ。巨大な地下帝国を。



驚いて固まっていると、1人の女の子が現れた。僕はその子に、一瞬で目を奪われた。思わず見つめてしまった。


「おかえりー、ねーすっごい楽しいの!見てよこれ。【気術】ランク3になってから自分の体が嘘みたいに軽くてどんな作業も楽々できちゃうの。おかげで張り切っちゃった!そうそう、入り口見てくれた〜?結構考えたんだよ。それでね、ん、、?」


その女の子が、なにやら僕の方をみて固まった。どうしよう、堂々と見つめすぎただろうか。嫌だったかな。



「か、、、かわいい、、。」



僕に向かってそう言い放った彼女は、気付けば僕の目の前に立っていた。


「あなた、名前は?」


すぐ近くにやってきた彼女の目を遠慮なく見つめる。


「僕の名前はサイエン。研究者だよ。そんなことより僕と結婚しよう。」


「はい、喜んで。私はクリートっていいます。とりあえず抱きしめてもいいですか?」


「もちろんさ。」


とても緊張する。体がほかほかして止まない。しかし抱きしめるのもやめられない。彼女の温もりを感じる。


「ああ、君はなんて素晴らしいんだ。たくましい筋肉に、聡明さの滲み出る鋭い瞳、それだけじゃない、僕には分かるよ。君は、頂点を目指している。いや、君なら間違いなくそこに至る。僕と同じさ。化学、技術、生命の可能性、その全てを見たい、そして知りたい。そのために毎日毎日頭を捻らせ、新しい発明をして、一歩ずつ未来を見にいくんだ。」



「なんでもお見通しなのね。そう、私はね、限界を超えたその先、究極の鍛治をするの。未来永劫、私にしかできない、最高の作品を作るの。あなたの、未来を切り開く発明、なんて素敵なの。わたし分かったわ。私にはあなたが必要。私とあなたがいなければ本当の唯一無二は作れない。私たちで作りましょう。この地下帝国を。」


「ああ。」



それ以上の言葉は不要だった。ぼくは今日、運命の人に出会った。

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