冒険
いくつか分かったことがある。
単にこの【気】を全身に纏わせるだけでなく、脳の部分に【気】を集中させ、頭をフル回転しで何かを考えると【気術】の熟練度が効率よく上がる感覚がすること。
すべての生命には量の違いこそあれど、少なからず【気】を内包していること。
強力な魔物などは、内包する【気】の量が多くなること。
そうなったらやることはひとつだ。
前に一度仲良くなった冒険者がいた。
会えるかどうかはわからないが、冒険者ギルドに行ってみるとしよう。
この世界には6つの大陸がある。
そのうちのひとつ、魔境を除く5つの大陸には、それぞれ冒険者ギルドがある。
やってきた化学先進連合国ミラーズの冒険者ギルドは、昼間だというのにお酒を手に盛り上がる人がたくさんいた。
そんな中、ぐったりと机に突っ伏した奴が1人。
「お、サイエンじゃないか??久しぶり!」
「サイエンさんじゃない、元気してた〜?」
話しかけてきたのは知り合いの冒険者のパーティのメンバーだった。
「見ての通りリーダーは真っ昼間からお酒を飲んで潰れてしまってね。ダンジョン攻略に行き詰まって現実逃避をした結果がこれだよ。」
「本当に困ったものよね、、。ちょっと行き詰まったくらいで焦ることないのに。」
なるほど、状況は理解した。
ならこれはチャンスかもしれない。
「僕もそのダンジョン、一緒に連れてってもらえないか?きっと役に立てると思う。」
「え、いいのかい?人手が欲しかったところなんだ。気心が知れた中の方がありがたい。」
「サイエンは頭もキレるし観察力がすごいからね。是非ともお願いしたいわね!」
「ひっく。うえーーい、サイエンじゃーん。いこー、いっしょに、だんじょん、いこー!」
「あ、リーダー起きた。もーごめんねサイエン、ダル絡みで。こうなったら無理矢理回復薬使って酔いを醒させるわ。そして今からダンジョンに突入よ!」
半ば強制的に回復薬を一気飲みさせられたリーダーは、酔いが醒めてシャキッとした。
「久しいな、サイエン。元気だったか?私はこの通り元気さ。さて、ここに来たということは私のお婿さんになりに来た、そういうことでいいのだな?」
「いや違います。一緒にダンジョンに行きたくてですね。」
困っていたところに知恵を貸し、助けたことがあった。それからというものこの女リーダーに気に入られてしまったようなのだ。
悪い気はしないし、嫌いでは無いが、何となくそこから関係性が発展させることはしなかった。
「ほう、つまり2人きりでダンジョンという閉ざされた空間に」
「ちょっとリーダー!!全くいい加減にしてよねー。」
「困ったものだね、、。すまないサイエン、嫌な思いはしてないかい?」
相変わらず面白いパーティだ。なんだかんだこれでもリーダーはとても慕われているし信頼されている。ポジションの面や関係性を見ても、バランスの取れた良いパーティだと思う。
早速4人でダンジョンにやってきた。
ダンジョンの中ではリーダーはまるで別人だった。
「一度下がって、回復するよ。右から攻撃くるよ、盾で防ぎつつ反撃しよう。前方に罠。右の敵捌いたらそのまま押し通るよ。」
的確な指示と確かな剣の実力。まさにリーダーとしての資質、条件が揃っていた。
そして問題の敵がやってくる。
この優秀なパーティをして、攻略が停滞する原因となっている魔物だ。
その名はウォーターエレメント。
水系のスキルを大量に使用してくる。さらに物理攻撃がほとんどカットされ、水の結界を大量に張ってくるなど、厄介極まりない。
このパーティにとって相性も悪かった。
しかし僕は、どうもこの魔物が弱く見えた。なぜだか1人でも勝てる気がする。
そして気付けば前に出ていた。
「サイエン!?」
驚きの声が上がる。
僕は【気】を練り上げ、全身に纏った。そして水の結界をあっさり突破する。
「え!?!?」
「これはもしや、スキルなのか?」
「え、なになに?てことはサイエンも、リーダーと同じ、“スキル持ち”ってこと?」
「ああ、あの動き、間違いない。これはもう何としてでもサイエンをわたしの婿として」
「ちょっとリーダー!そんなこと言ってないで早くサイエンのサポートでしょ!」
【気術】とはこれほどまでに凄まじい物なのかと、僕は驚いていた。
防御にも攻撃にも活用でき、多少の傷もすぐに回復できる。
この世界で生きていく上で、これほど応用が効いて安全性も高いスキルは他にないのでは無いかと思えた。
パーティメンバーのサポートもあり、10分ほどの戦闘の末、ウォーターエレメントを倒すことができた。
その瞬間、【気】があたりに充満した。これだ!僕は一気にそれらを取り込んだ。
「ぐ、、あ、、、。」
体がくるしい、なんだこれは、中で何かが暴れている。
「サイエン!?どうしたの!」
ウォーターエレメントを討伐して大喜びしていたパーティメンバーが、血相を変えてこちらに駆け寄ってきた。
しばらくすると【気】が体に馴染み、落ち着きを取り戻すことが出来た。
「ああ、すまない。もう大丈夫さ。それよりも見たかいさっきの戦い方を。ちょっと新しい戦闘スタイルというやつを僕は編み出してしまったかも知れないね。ふむ、こういうのも研究したら面白そうだ、そう思わないかい?」
「あ!でたサイエンの早口。でもこれなら問題無さそうね。」
「心配したよサイエン。無理はしないでくれ。」
「サイエン、それで結婚式はいつにする?」
「リーダーは黙ってて。」
それからは、スムーズにダンジョンの攻略を進めていくことができた。
魔物を倒すたびに【気】を吸収し、同時に脳に【気】を送って意識を研ぎ澄まし、頭をフル回転させ、相手の魔物の動きの先読みをして戦うようにした。
そんなことを続けていると、ついにその時がやってきた。
猛烈に【気】が集まり、体をぐるぐると駆け巡る。そして自分の体が光に包まれた。
【気術】ランク2へと至った。
これが、ランク2。
いざこうして力を手にしてみると、戦うのも結構面白いかも知れないと思えてきた。
体が軽い。今なら何でもできそうだと思った。それに頭がさらに冴え渡り、同時にいろんなことを考えたり、より深く集中して研究に打ち込むことも出来そうだ。
ダンジョンから引き返し、パーティメンバーたちとレストランにやってきた。
「いや本当にすごかったよサイエン、一体どんな訓練を積めばそのようになれるのさ。」
「とっても助かっちゃった!いつもの3倍は魔物を倒せたよね。素材もたっぷり取れたし、ダンジョン攻略も進んだ!サイエンのおかげだよー!」
「リーダーとして、お礼を言わせてほしい。それに、出来ればこうしてまた、一緒に冒険をして欲しい。そして私とけっこ」
「はいはいストーップ!」
賑やかなのもたまには悪く無い、ぼくはそう思った。それに、訓練のためにも、定期的にダンジョン攻略に参加するのもいいだろう。戦う、というテーマの研究も中々面白そうに思えた。それに自分の【気術】の力を試してみたい。それに、みんなと一緒に戦うことがシンプルに楽しいとも思えたのだ。
「わかった、また行こう。僕も楽しかったよ。」




