回想
僕の名前はサイエン。
【ゴブリン】だが、少し周りと違っていた。獲物を狩ったり強さを競ったり、そういうことにあまり興味が湧かなかった。
興味を持ったのは、科学、技術、生命、とにかく世の中の物質の仕組みであったり、そういうのを研究し、頭を使って考えるのが好きだった。
しかし【ゴブリン】の集落においてそれは異質であり、みんなには奇妙に映ったのだろう。
たちまち僕はのけものにされた。
【ゴブリン】は親を知らない。
子供が生まれたら適当に1箇所に集め、世話係がまとめて管理するからである。
親も親で自分の子には興味が無かった。何も考えずに騒ぐ祭りか、大きな獲物を狩ってその肉を食べる時か、仲間内で強さを競って争う時か、【ゴブリン】たちが楽しむのはそんな時ばかりだ。
まったくもって、、、くだらない。
世の中はもっと、不思議で面白いことに溢れているというのに。
狩りのノルマも最低限しかこなさず、祭りもほとんど参加せず、仲間に入ろうともしない僕が、集落を追い出される日は意外と早く訪れた。
僕のことを見るたびに悪口をいい、攻撃を加えてきた奴の数は数えきれない。きっと暇なのだろう。
そういう暇な奴らが、僕を追い出すように動いたのだと思われる。だがそんなことはどうでも良かった。
そもそも外の世界で生きていくことだけを考えて色々と準備をしてきたのだから。
この集落に、【ゴブリン】に未来などない。最初は訴えかけたりもした。このまま何の成長も変化もないままでいたら、いつか時代についていけなくなって、淘汰される日が来ると。
しかし全く相手にされず、笑い飛ばされて終わりだった。
僕は早々に、【ゴブリン】たちを見限ることに決めたのだった。
追放された僕がやってきたのは、化学先進連合国ミラーズだ。ここに来るまで船を乗り継ぐ必要があったが、お金には全く困らなかった。
外の世界に出ても大丈夫なように、価値のある道具や、希少な鉱石を集め続けてきたから。
結果的に、化学先進連合国ミラーズにやってきたのはそれなりに正解だったといえた。
未知の技術が溢れていたし、研究者もたくさんいて、日々研鑽を積んでいるように見えた。
しかし数年もすれば事情も変わってきた。
既存の技術はもう理解し尽くし、新たな発明をするようになってからは。
面倒な手続きの数々、研究者たちからの嫉妬、嫌がらせ。
【ゴブリン】の集落より少しマシなだけで、本質は何ら変わらない。
だが、ここでしか学べないことも多くあったのは事実だし、短期間で成長できたことも、最低限の研究の施設が揃っていたおかげとも言えた。
そういう意味ではここにきたのは正解と言えたのだ。
だが最近ぼくは停滞している。
周りからの妨害を抜きにしても、そもそも自分自身が伸び悩んでいることを感じていた。




