回想
私の名前はエンジュ。
お父さんは【悪魔】族で、お母さんは【天使】族。
私は【天使】として生まれた。私のお姉ちゃんは【悪魔】だけど。
でも昔から思っていた。
私は【天使】に生まれてくるべきではなかったと。
お姉ちゃんみたいに純粋でも無ければ心が綺麗なわけでも無い。
ものごころ着く頃には、わたしはそう、あざとかった。どうすれば褒められる、どうすれば好かれる、どうすれば注目される、その全てが手に取るように分かった。
常に、自分自身を四方八方から観察する、そんな感覚を持つこと。執拗なくらいに、常に自分を客観視すること、それが私のやってきた生き方だった。
私は何か特定のことができるようになったり、何かを頑張って達成するということ出来なかった。
唯一興味を持って取り組んだことといえば音楽や歌、ダンスだろうか。だがそれさえも私は、ツールとして使用した。より相手を自分に惹きつけるため、あるいはそのきっかけとするために。
私はひたすらに見た目を磨き、自らの魅せ方を磨き、歌やダンスの実力を磨いた。
そして私はやりすぎた。
気づいたら引き返せないところまで来ていた。
そこらの男はもちろん、大金持ちに大政治家、そんな人たちまで私に夢中になった。
だというのに私はそんなに嬉しいわけでもなかった、満たされなかった。
もっとみんなに見て貰えば満たされるかも、そんなことを思って、さらに人脈を広げた。
その結果、目をつけられた。
経済、政治まで多大な影響を及ぼすようになってしまった私は、家から追放された。
それだけでは無い。実質的に、【天界】からも追放された。
特に存在する意味も薄い、最も不名誉な仕事、案内人として飛ばされた。
来客など1週間に一度あったら多い方だ。それまでの間ずっと待つだけ。
無意味な日々。来客があっても、よっぽど問題がない限り、【天界】の門を開けて来客者を通して終わり。
でも私には救いがあった。
お姉ちゃんだ。私はお姉ちゃんのことだけは好きだった。
私と時を同じくして家を追放されたお姉ちゃんは、2人揃って案内人となった。
純粋で気弱だが、いざという時は頼りになる、揶揄い甲斐のあるお姉ちゃん。
2人でいられることだけが唯一の救いだったのだ。
でも、悲しそうにしているお姉ちゃんを見ているのは辛かった。お姉ちゃんは、農業や料理に興味を持っている。というか、その道のプロと言っていい。
一部の料理家、美食家にはお姉ちゃんのファンがいるくらいである。
だというのに、くだらない理由で家を追い出されてしまった。【悪魔】のくせにスキルの一つも使えない。
そんなくだらない理由で。
それが許せなかった。
私はお姉ちゃんに、自由に農業をして、好きなだけ料理の研究をして、ご飯をみんなに振る舞えるような、そんな環境を用意したかった。
そんな場所、【天界】にはなかった。
私はふと、地上を見下ろしてみる。
下にある六つの大陸。
そのどこかに行けば、そんな理想の生活ができるのだろうか。
わたしには分からなかった。