ブライトの孤独の日々
朝7時。この時間にブライトはベッドの上で目を覚ます。
「ほあぁ〜、おはよう……」
カーテンの隙間から入る日差しによって目が開けていられない。
ブライトは目を瞑りながらカーテンを触り閉める。
しかしカーテンの隙間は閉じることはなく、仕方なくブライトは日差しから逃げるように立ち上がり窓とは反対方向に顔を向ける。
擦りながら目を開き、憎たらしそうにカーテンを見る。
「あれももう変えなきゃダメだなあ」
朝から不快感を味わい不機嫌になってしまった。
グゥ~……。
腹はそれでも空腹を教えてくる。
「はあ……」
己の腹の我儘にため息を吐き、ブライトはリビングへと向かった。
「今日は何にしようかなー」
と言いつつも選択肢は2つしかない。
米を炊くか、パンを焼くか。
食材を買うのをサボったために、今家にはそれしかない。
しかし、朝が苦手なブライトは朝からきちんとした料理をするなんてことはできない。
なので、どちらの選択肢を取ろうと空腹さえ収まれば本人は満足なのだ。
「よし。今日はお米にしよーっと」
鍋に米を入れて研いだあと火を点ける。
30分ほど経ったあと、炊いた米を茶碗に入れてそのまま口に運んだ。
「うーん、お米サイコー」
何もなくても米を食べられるのが自分の長所だとでも言うように胸を張って米2合をたいらげた。
「さてと。掃除、洗濯、買い物、一通り終わらせなきゃ」
腕まくりをしてスイッチを入れる。
窓を開けて、上から下へはたきで埃を落としたあと、雑巾で床を磨き掃除を終わらせる。
次に洗ってない服を外へ出してタライに水を入れて洗濯板と石鹸を使って汚れを取る。
「ううー、冷たい」
季節はもうすぐ冬。水を素手で触るのはそろそろ厳しくなる頃。辛いのは当然である。
手を休ませるため少しの間だけ休憩する。
その間、ブライトはふと近くにある盛り上がった土とその上にある四角い石を見て、感情のない笑みを浮かべた。
「よし。洗濯再開っと!」
洗濯が終わったあと、ブライトは買い物しに出かける準備をした。
家を出たあと、さっきの石の前で手を合わせてこう言う。
「ナイト、行ってくるよ」
そのあと、ブライトは無人の町へ向かった。
誰もいない町。いや、町と言うにはあまりにも必要なものしかないものだった。
建物はたった4つだけ。デパート、本屋、肉屋、鍛冶屋。それしかこの世界には存在しない。
ブライトはまず本屋へ向かった。
中に入ると、大きな本棚に大量の本が並べてある。
しかし、会計の場所には誰もいなかった。
「あ。新しい本が出てる」
『優しく教える妊娠についての本』というタイトルの本を手にとって会計へ向かった。
「この本、お借りしますね」
メモを取り出し、本のタイトルをそこに書いて画鋲で壁に貼り付ける。
壁には、何百枚とメモが貼ってあった。
「今日は何を買おうかなー」
デパートに入ったブライトは、食品コーナーで頭を悩ませていた。
「お肉にしようか魚にしようか……」
2つを手にとって交互に見る。
「うん。やっぱりこっちにしよう」
選ばれたのはステーキ用の牛肉だった。
サラダ用の野菜とあるものを選んだあと、また同じようにメモを壁に貼り付けてデパートを出る。そしてそのままブライトは家に帰った。
「ただいまー」
石に向かってそう言って玄関ドアを開ける。
買った食材を冷蔵庫に入れて、バッグの1番下にあった本を取り出すと、ブライトは家のすぐ横にある森の入口で座り読みを始めた。
木に背中を預けてゆっくりと読む。
「子育てか……」
そう言ってまた石の方に視線を向けた。
「ナイト……元気にしてるのかなあ……」
そしてまた本の続きを読む。
日が暮れ、お腹が鳴ったのを聞いたブライトは本を閉じて家の中へ。
持ってきた食材で料理を始める。
まずはステーキ用の牛肉に下味をつけてからフライパンへ。焼けるまでの間にレタス、人参、パプリカ、きゅうりを切ってサラダにする。
両方の盛り付けが終わったあと、パンも用意して夕食が完成する。
「いただきます」
大好きなステーキを頬張ると、ブライトは笑みを浮かべた。
「うーんおいしいー! でもやっぱりナイトの味じゃないなあ……」
20歳の時からもう5年以上も作り続けているのに、いまだにブライトは欲する味を再現できていない。
「何が足りないのかなあ……」
そのあとも、結局答えはわからないまま夕食を食べ終わってしまった。
風呂に入り、完全な夜になったあと、本を読むブライトの瞼は少しずつ重くなる。
「ダメだ、続きは明日にして今日はもう寝よう……」
そう言ったあと、あるものを手にとってブライトは外へ出た。
そして石の前で立ち止まり、あるものを地面に置く。
「これ、デパートに行った時にあったから持ってきたの。月桂樹って言う花なんだって。それじゃあおやすみ」
そう言って石から離れようとするが、ブライトはもう1度月桂樹を持ち、葉の部分だけちぎった。
「これ、結構良い匂いがするから少しだけ貰うね」
今度こそ石から離れたブライトは、家に入り、夢の世界へと逃げるように走った。