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竜人と番ではない恋人の末路 Ⅰ


 酒場の看板娘のリーゼと、警邏隊に勤める竜人のスオウは恋人同士であった。


 二人は仲睦まじく街中の人が二人を見守っていた。

 竜人には番と呼ばれる唯一無二の相手がいる。

 まさにスオウにとってのリーゼはそういう存在なんだろうと思われていた。


 だが、リーゼとスオウは番ではなかった。

 人族であるリーゼには分からないがスオウには分かっていた。

 それでもスオウはリーゼを愛したし、リーゼもその愛に応えた。

 スオウに自宅はあったが、リーゼの家に入り浸り愛を交わし合っていた。

 竜人の番は中々見つからないとされている。

 このまま見つからなくて良いと、スオウは思っていた。


 愛情深い竜人が番以外を愛する。

 そんな二人を周りは温かく見守っていたのだ。


 ────あの日までは。


 

「あっ、スオウ、待って。ちょっと買い忘れたのあったから行ってくるわ」

「心配だから一緒に行くよ」

「大丈夫よ、すぐに戻るわ」


 優しく微笑む恋人に、心底心配だとしゅんとなるスオウを見て、リーゼは「しょうがないなぁ」とくすくす笑った。


「じゃあ一緒に行きましょう」


 そう言ってスオウの手を握る。


 が


 瞬間スオウはリーゼの手を本能的に払った。


「えっ」


 びっくりしたリーゼはスオウを見た。

 愛しい恋人から手を払われたのは初めてだった。

 しかもスオウは固まったまま動かない。


「スオウ……?どうしたの?」


 様子がおかしい恋人に寄り添おうとすると、スオウは欲望を目に宿し


「見つけた……。俺の番だ!!」


 そう言って走り出した。


 リーゼは心臓を鷲掴みにされたような感覚になった。

 竜人の番の話は有名だ。幼い頃に語られる童話で馴染みもある。

 その内容は、番と出逢った竜人と番が幸せになる話だった。


 竜人は番が中々見つからないとされている。だからこそ夢物語として語られるのだ。


 スオウと付き合い出していつ番が現れるか不安だったリーゼだが、あまりにもスオウが優しく愛してくれるから忘れていた。


 それでも自分を置き去りにして番を求めて行ったスオウを追い掛ける。


 夢であって欲しいと願いながら。



 だがリーゼが目にしたのは、番であろう女性に跪き愛を乞う恋人の姿だった。

 竜人の番である事に歓喜した女性は快く承諾した。その瞬間スオウは番に口付け、横抱きにしたかと思うとその場を去ってしまった。


 一部始終全て見ていたリーゼは呆然と立ち尽くしたまま動けなかった。

 目からは涙が溢れていたがそれを止める術が分からない。


『番とは呪いのようなものだな』


 そう言ったのは誰だったか。

 リーゼとスオウの仲睦まじい様を日頃から見ていた街の人も、リーゼに何と話し掛けていいか分からなかった。


 番と出逢った竜人と、竜人に見捨てられた女の話は、瞬く間に街中に広まった。



「1ヶ月か……蜜月とは長いな」

「竜人だからな。ま、そのうち飽きれば出て来るだろう」


 あれから1ヶ月。

 スオウは仕事も放り出して番と蜜月期間を過ごしていた。

 蜜月期間とは食事も忘れて番と睦み合う期間を差す。

 誰にも邪魔されないように"安心できる巣"に番を連れて行き、朝昼晩構わず蜜月を過ごす。

 疲れれば流石に寝るが、起きている時は片時も離れない。

 生気をやり取りすれば食事もいらない。

 そうして蜜月期間は気が済むまで続けられる。


 スオウは1ヶ月仕事に来ていないからまだ続いているのだろうと、周りの仲間は理解していた。


 だが、仲間達は竜人に見捨てられた女性を思っていた。


「……スオウは知らないままなんだよな」


 ぽつりと誰かが漏らす。

 スオウに置いて行かれたリーゼがどうなったのか。

 番と巣に篭もりきりのスオウは勿論知らない。


「わざわざ教えなくていんじゃねぇか?番以外目に入らないだろうし」


 番を手にした竜人は愛情深い。

 だがそれは番に対してだけである。

 邪魔をしようものなら殺される事もあるらしい。


 番を見つけたスオウがリーゼをどう思うのか。

 あれだけ仲睦まじく愛し合っていたのに、番というだけでアッサリ見向きもしなくなる竜人が怖かった。


 リーゼとスオウの話になるとやるせない気持ちがいっぱいになる。

 それは二人を知る誰もが持っていた。


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