プロローグ
【入学案内】
この度はお誕生日おめでとうごさいます。
あなたは規定の年齢に達しましたので来年度の入学を認めます。
つきましては、同封されている書類に記入をして本校までお送りください。
王立フィラウティア学園
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東の最奥___ノドの森
「オルフェ、これはなに?」
分厚い茶色の紙を振りながら少年は彼に尋ねる。
「お前ももうそんな歳か」
駆け寄ってきた少年の頭を乱雑に撫でながら、オルフェと呼ばれた彼は独りごちる。この小さな子供にとって頼れるのは彼しかいなかった。
そもそも此処は王国の中でも東の外れで住んでる人間は殆どいないようなド田舎だ。
銀色の絹のような髪と長い睫毛に縁取られた深紅の宝石。切れ長の瞳孔は爬虫類を連想させ、口元には被虐的な笑みが浮かんでいる。その手には先程少年から受け取った羊皮紙の手紙が握られていた。
「喜べ小僧!来年からお前も学園に通えるぞ」
耽美な容姿と似つかわしくない仕草で豪快に話すオルフェに少年は首を傾げる。
「がくえん、ってなに?」
「お前と同じ年のクソガキ共が集まって魔法の勉強をするとこだ」
「ぼくとおなじこども?」
「そうだ。・・・にしてもお前はいつまで経っても言葉が拙ねえなぁ」
「・・・オルフェ、いたい」
再び乱暴な手つきで頭を掻き回されて少年は音を上げた。
彼の気が済んでようやく解放された少年は所々飛び跳ねた髪を手でさっと直す。撫でるだけで元に戻る髪質は子供特有のさらさらとしたものだ。
「小僧、お前はアカデメイアかリュケイオンを目指せ」
「あか、めいあ?りゅけ・・・?」
「学園のその先だ。王国から距離がある、世界的に見ても有名な学校だ。まあ、学園で良い成績を取らなきゃ受験資格すらないようだがな」
「よくわからないけど、オルフェがいうならそうする」
「ま、取り敢えずは1年である程度の読み書きを覚えなきゃいけねえな」
「うーん、がんばる?」
両手を握りこんでいまいち覇気に欠けることを述べた少年の額を彼は小突いた。
「いたい」
おでこを抑えて間抜けな顔をする少年の身なりは森に住んでいるとは思えないほど小綺麗である。
手入れの行き届いた艶やかな髪の毛に星屑を閉じ込めたかのようにきらきらと輝く瞳。サイズのあった質の良い洋服にも革靴にも土や泥は付着していない。見た目だけなら育ちの良さすら感じられる。
しかし、そんな少年はしばらく座学が行われると聞いて渋い顔をしていた。
これはこの少年フウロが、どのような過程を得て大人へと成長していくのかを記した物語である。