プリンに転生
初投稿です。
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どうかお手柔らかにご笑覧ください。
あーん。
大きな洞窟のようにほの暗くひろがる闇
。
遊園地のアトラクションのようにあれよあれよと運ばれ、包み込むように飲み込まれた。
口の中へ。
舌と口蓋が柔らかくそれをはさみ、潰していく。
むにゅむにゅ。
すぐに液状に溶けていき、わたしは口の隅々までひろがり、なくなっていった。
「宇宙の端を知りたい......?」
「はい!」
強くわたしはうなずいた。
「片っ端から、知らないことがあるのは耐えられません。どうか教えてください」
すると、少女はにやりと笑った。
「耐えられない、か。あなたのような人が。なるほどね」
少女は紅茶を注ぐと、カップを渡した。
「飲みなさい、よければ」
「いりません」
「この味は知ってたの。じゃあいらないわね」
少女は自分の紅茶を口に運んだ。
酸っぱくて少し果実のような、しかしおよそ紅茶とはつかない香りに私は顔をしかめた。
「これは?」
「梅干しマヨネーズ味」
「紅茶ではないのですか?」
「あなたにはまだ知らないことがたくさんある。宇宙の端のことなんて、まだいいんじゃないの?」
「だめです」
私は頑張った。
昔から、私は夢見がちで、かなり浅はかだった。今でもだと言われるが......。
サンタクロースを高校生まで信じていたし、いまだにいない意味がわからない。
フィンランドにいるとかいないとか、そういう話ではなく、フィクションというものは、なぜ
現実ではないのか、ということだ。
誰もが言うに、宇宙は広いらしい。
ならばどこかには、あってもおかしくはない。
いくらスケールを広げても広げても、宇宙は終わらない。
そこでふと気づいたのだ。
宇宙の終わり......というか端っこがないと、どこまで調べていいかわからない。
「だから、教えてください。広さの見当をつけたら、調べに行きますから」
「いつまでかかるかわからないのに、がんばるのね......面白いわ」
少女は梅干しマヨネーズ味の何かを一気に飲み干すと、立ち上がった。
「実は私は女神さまなの。転生しにきた魂なら、ここにたどり着けたのも納得だわ。だからその頑張りに免じて、導きましょう」
「やった!」
苦節20年、そこそこの人生だった。
女神さまに会う方法を編み出した知人を死ぬギリギリまで追い詰め問い詰め、ついにその方法を試して数回目。ようやくの成功は上々に実りそうだ。
思わずニヤつきながら立ち上がると、ふいに寒気を覚えた。
「?」
「こっちよ」
女神さまはリモコンのスイッチを入れた。
大きな古びた液晶モニターがゆっくり降りてくる。
いくつかの自然や文明、見たこともないような景色がいくつも映し出され、わたしはその1つに目を留めた。
「あ、いまの素敵。あれがいいです」
それは美しい幻想的な惑星の風景だった。淡い紫の陽光、碧い水平線......
一瞬とは思えないほど私の意識に焼き付いたそれは、しかしすでに切り替わっていた。
「あれはだめです」
「ええー?」
次の瞬間、映し出されていたのはプリンだった。
「は?」
「ただであなたに都合よい世界に転生できるなど甘い甘い。あなたには試練を与えます。これにくじけなければ、次には考えます」
「つ、つぎ?」
「はい。」
わたしは一瞬絶望したが、みるみる満面の笑みになってうなずいた。
「が、がんばります!」
「プリン......おもに鶏卵を用いた食品。転生というより実質憑依です。痛みも苦しみも、それを刺激として受け取り感じて生み出す神経や脳なくして、あり得ない。気にせず行きなさい。では、よく見て」
私は画面に映し出されたプリンに注視した。
その瞬間、画面の向こうに吸い込まれていった。
「いただきまーす!」
何も見えない。感じない。いや、わたしを食べようとする意識がこちらを向いている。どうなってるの?
おそらく食べられたであろうあとも、意識は暗闇のままだった。あれ、これもしかして詐欺?
そういえば、さっき一瞬、女神さまってあんなんかなあ、とチラッと疑問に思った気がするが、べつにそうでもなかった気もする。うん、まあ勘違いか。
「おいしー!」
むにゅむにゅ......
液状化した私は人体にゆるやかに染み渡り、その血肉となった。そして脳に筋肉に届くと、たちまち消費されて消えた。
「サギだー!」
「あらあら」
気がつくと、あの少女......女神さま?がまた目の前にいた。
「また戻って来ちゃったの?」
「え、戻って来たらダメみたいな......約束と違う......やっぱりサギだったんですね。どうして?」
「......あなたは、まともに転生させたくありません」
女神さまは私を軽くにらんだ。
いやいや、それはないでしょ。いやいや、だって、ほら......お約束でしょ?
「ちょっと、早く、約束ですよ?私もお姫様とか最強とかやらせてください」
「夢を見るにも限度があります。たまには贅沢しないで働きましょう。ほら、河辺のほとりのヤブ蚊とか、寿命短めのノラネコとかありますけど」
「やだ!」
私は女神さまの小部屋を飛び出した。
幸い、魂だけなら宇宙のどこでも行けるらしい。あれ、これって転生くらいはどうとでもなるんじゃない?
「まって、色々折り合いが......!」
女神さまは引き止める。きっと女神さまが目をつけた魂は、簡単には許されないし逃げられないかも。
しかし私は止まらない。
女神さまはため息をついた。
気がつくと、ベルトコンベアの上だった。
「ここどこ?なに?」
あたり一面うるさくピヨピヨ、ピヨピヨ。
「うるさーい!」
ごうんごうん、と何かがずっと低くうなるように鳴っていた。
意識があるあいだずっと。
初投稿でした。
じつはどうしても作品設定が自作既存作品になってしまう病です。
わからないようにしてますが...多分