3章 53話 インゴッドドラゴン・ルミエールとの死闘
「うぁーーーーーーー……僕なんか僕なんか……
生きている価値もない人間なんだぁーーー」
「ほら、泣かないで玲音。聞こえないの、早く逃げなさい」
「……ナーニャ」
インゴッドドラゴンの咆哮は痛みの叫びだったのだろうか?
穴を覗くとインゴッドドラゴンの首に槍のようなものを突き刺した
血だらけのナーニャが見える。
「もう時間を稼がなくてもいいから。
僕と一緒にこの場から逃げるよう、ナーニャ」
きっと独りだけで逃げる罪悪感で僕はおかしくなったんだ。
ナーニャを巻き込んでしまえば前のまたバカみたいな僕に戻れる気がする。
他人に構わず、見て見ぬ振りをするのが合理的でもっとも賢い判断。
自分の命を優先するのが生存本能であり、正しい生き物である証拠。
「このあたしが逃げるわけないでしょ。
あたしはお姉ちゃん達の敵を討つためにこの日を何年も
待ち続けていたんだからっ」
もしかしてナーニャは僕が絶対に勝てないって思っている
インゴッドドラゴンを自らの力だけで倒そうとしているじゃないのか?
完全に頭に血が昇っていて、ちっとも気付かなかった。
穴を囲むように周りには手作りのつたない投石台が配備されている。
きっとナーニャの鍛え抜かれた筋肉も全てがこの日のためなんだ。
このまま逃げて助けを呼ぶのが正解? いやダメだ。
あのナーニャの傷なら応援を持ち堪える前に死ぬかもしれない。
それにノバラのヒトは娘を差し出して戦おうとはしなかった連中だぞ。
ナーニャを生け贄として見殺しにするかもしれない。
ドーーーーンッ!
「なんだ?? この凄い音は?」
僕たちが苦労して登って来た崖に大きな石の衝撃で崩れている。
「いーーーだ。ちょっと危ないじゃない。
なに、外しているのよ」
僕は戦闘に参加していたのか?
手には汗だくで小さなナイフを握っている。
どうやら僕は無意識に投石台の発射装置のロープを切っていたみたい。
「危ない、ナーニャっ。避けろっ」
「えぇ?」
「グオオャーァァァーーー!」
僕の力を驚異だと感じたのだろうか?
インゴッドドラゴンのターゲットが変わる。
このまま無謀にインゴッドドラゴンと戦っても2人は自滅する。
「僕が、僕が今度はおとりになって時間を稼ぐから
ナーニャは槍を放して直ぐに逃げるんだ」
きっと僕が死んでもあの面倒見の良いきっとナーニャなら
スフレを助けてくれる。僕よりも確実に。なら選択肢はこれしかない。
この逃げるの選択は今までの選択の逃げるとは違う。
ナーニャが生き延びて、スフレを助けてくれるための
正しい戦略的撤退っていう時間稼ぎの計略なんだ。
「おーーい。間抜けのドラゴン。ここまでおいで」
宙に浮上して突進してくるインゴッドドラゴン。
逃げないと、今すぐに逃げないとって。
なんで、ナーニャはインゴッドドラゴンの
首に刺さった槍を放さないんだ?
「聞こえていないのか? ナーニャっーーー。
今すぐ掴んでいる槍を放して一時撤退して体勢を立て直すんだぁーーー」
「誰が撤退するもんかぁーーー。これはこいつとあたしの因縁の勝負。
無関係のあんたは首をつっこむな」
「……ナーニャ」
ナーニャが死ぬ気で戦う気満々なら、もう僕は一歩たりとも逃げない。
インゴッドドラゴンに一矢報いるまで何度でも戦う。
兵士の数も策略もない。天才軍師諸葛亮孔明ならどう考える?
「グォーーー」
「おい、そこのバカでかいドラゴンっ
このあたしを無視するなぁーーーー!」
インゴッドドラゴンのおまけのように付いて飛行していたナーニャが
当然豪快に半回転して、
「嘘でしょ? あの固い鱗に包まれている
インゴッドドラゴンの首が飛んだ」
首と胴の分裂。インゴッドドラゴンの長い首が空を舞う。
一方ナーニャは空中に放り出され、そのまま地面に激突する。
「死なないでくれーーーナ、ナーニャっーーー」
だが倒れているナーニャはけろっとした顔をして、
「いやーー、危なかった。危なかった。
ありがとうって言いたいところだけどあんたが逃げないから
あたしは全力で戦えないのよ。あんたの立場って理解している?」
ナーニャの諦めない拳を前するファイティングポーズ。
「なら、僕がナーニャの勇士をこの目で見届けるセコンドになってやる。
万が一負けそうになったらタオルを投げるから、
安心して思う存分に戦ってくれ、ナーニャ」
「男なら、変わりに戦ってくれるとか優しい言葉は
思い浮かばなったの?」
なぜか? この状況で笑うナーニャに、
「安心してくれ、僕は弱いことを自覚している。
弱者は足でまといになるから一緒には戦わない。
草場の陰から応援している」
もしかしてアイシアが予言して僕の戦い方を教えてくれたんだろうか?
前線に出て争うだけが戦いじゃない。
後衛でサポートして応援するして勝利に導くのも
立派な勇者の役目なんだ。
「まだ玲音は生きているでしょ……でもありがとう」
もし僕が強くってチートスキル持ちのいきりだったら、
インゴッドドラゴンを無双して倒している。
誰もが死なずに喜ぶハッピーエンドの展開。
だがナーニャの怨念はどうする?
姉達の敵を討つために孤独で頑張ってきた時間を否定して
認めないでこの先どう笑顔になっていくんだろう?
僕に力がなくて良かったと今だけは思う。
弱者の心は絶対に強者では理解できないって知っているから。
「グギャーァァァーーー!」
「くぅ」
ナーニャがまだ武器(槍)を取っていない。
「またきたぞ、ナーニャって……まさか手が」
ナーニャの手から槍もどきが離している。
あんな綺麗だった手が血豆だらけで。
きっと僕を背負って上がってきた時から負傷していたんだ。
またこの僕が足を引っ張って。なんて無力で弱い存在なんだ。くそくそ。
ダメだ。また頭がどうにかしそうだ。誰か? 助けてくれよ姉さん。
「おい、セコンド。あんたが先に暗くなってどうするのよ?
明るく足を上げて応援するのがセコンドの仕事じゃないの?」
「……それは多分チアガールの仕事だと思うよ」
「そう、その文句がきっとあんたの潜在能力の強さよ。
だから勇気を持って前を向けっーー」
間違った知識を披露してナーニャは照れながらも僕を褒めてくれる。
きっとこれが仲間いや僕が求めていた友達の形かもしれないんだ。
「飛ばされた槍は僕が拾いにいく。
ナーニャはドラゴンの攻撃を防御に専念して
なにがなんでも回避して生き延びてくれってっ」
そう言って僕は傷ついたナーニャを放置して槍に目がけて走る。
でも仮に槍を渡しても今のナーニャじゃ完璧に使えない。
あの自称美少女僧侶カティアがこの場に居てくれれば
どんだけ心強いんだろう?
ダメだな僕は? つい友達になったんだと思って誰かを頼ってしまう。
「グオオャーァァァーーー」
聞こえてくるのはインゴッドドラゴンの咆吼のみ。
ナーニャは大丈夫だろうか? だが信頼するのも友達の役目なんだと思う。
友達がいない僕が言っても説得力はないけど。
「なんだ? この槍は……」
鉄の棒みたいな物の両端にナイフが固定して縛られている
手作り感かたまりの槍。
こんな貧相な槍でよくドラゴンの首を落としたよな?
しかし持ち手が赤く染まっていて痛々しくて見るに堪えない。
「……これしかないか?」
僕は服を脱いで棒に巻き付けていく。
そうだ? 僕が無意識に使った投石台だ。
この大岩に槍を付けて砲撃すればインゴッドドラゴンに
かなりのダメージを与えれるんじゃなにのか?
それにナーニャに槍を届ける一石二鳥の考え。
でも肝心の槍を固定するロープがどこにも見当たらない。
そもそもあんな大石に槍を装着できるのか?
「きゃーーーー」
ナーニャがインゴッドドラゴンの重い一撃を食らったんじゃ?
このままだとナーニャ、ナーニャが殺されてしまう。もう時間がない。
投石台の狙いを定めている余裕すらない。
また大きな音で僕に攻撃が集まればそれだけでいい。
「いけーーーー」
ナイフでロープを切ると大きな岩が放物線を描いて飛んでいく。
「グオオャーーーーー」
崖ぐずれの大きい音に驚いたのか?
また僕にインゴッドドラゴンが向かってくる。
「やったぞ、誘導作戦成功だ」
ナーニャの逃げる時間を作らないと本当にみんな殺されてしまう。
にげる、また遠くににげるないと……。
あれ? あれれ?
予想以上にインゴッドドラゴンの動きが機敏でもう目の前にいて、
「ぎゃあーー」
足、足が潰される。こんな重い攻撃をナーニャは回避し続けたのか?
ナーニャは本当にバケモノの戦士だよ。
もしかしたら本当はナーニャがこの世界を救う
勇者様一行の仲間だったんじゃないのか?
だったら、ごめん。ナーニャ。
僕にはこの世界を救うことはできなかったんだ。
「諦めるのは勝手に死んでからにしなさいよね」
「……ナーニャ」
「今度は玲音の敵っーーーー」
またインゴッドドラゴンの首が吹き飛ぶ。
もうナーニャの言っていることが滅茶苦茶だよ。でも、
「後1首で勝てるぞぉーーーーそのままいけーーーーナーニャ」
「みんなの敵はあたしが討つ。うおおおっーーーーーーー」
「グオオォーァァァーーー!」
最後の首が飛び、インゴッドドラゴンの巨体が止まっていく。
「……やったのか?
いやナーニャだけの力じゃない。ノバラの援軍なのか?」
インゴッドドラゴンの体に見知らぬ剣が突き刺さっている。
「誰もが諦めていたインゴッドドラゴン・ルミエールの
討伐に俺様が成功したぞーーーーーー」
その声はまさか、尾桐直也。
僕が篠染優介くん同様いやそれ以上に嫌いなヤツが
なぜこの場にいるんだ?
お読み頂きありがとうございます。感謝感激雨あられです。
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この本主人公である篠染玲音のようにみんなに無視されるのが1番怖くて、
読者様の反応があるだけでどれだけ心が救われるでしょうか?
少しでも読者様の貴重なお時間を楽しい時間に変えられたら嬉しい限りです。




