3章 49話 約束
「では、ごほん。今からあたしが訪れた理由を教えるから
耳の穴かっぽじって良く聞きなさいよ、分かったわね? 変態野郎さん」
イスカンさんが再度訪れて帰って行った朝。
「誰が変態野郎さんだよ? 僕には歴とした篠染玲音って名があってだな……」
し、しまった。ついナーニャの罵倒に我を忘れて、
偽名であるレオンハルトをすっかり名乗るのを忘れていたって……。
「ふーん。篠染玲音って余り聞かない名前ね。
もしかしたらあんたって異国の出身なの?」
「いや今のは間違えで……。そう? レオンハルトが本名。
篠染玲音がコードネームみたいな感じで2つの名を使い分けているんだ」
この展開なら本名であるレオンハルトをナーニャが呼ぶのが
物語のセオリーなはずだ。美少女ゲームで経験した豊富な知識が叫んでいる。
「ふーーん、分かったわ、これからあんたのことは玲音って呼ぶから。
篠染玲音って長くて呼びにくいのよね」
「な、なんでそうなるんだよ?
僕の真名はレオンハルト、レ・オ・ン・ハ・ル・トだよ」
一緒にナーニャとお布団で寝たイベントの加算点も含まれている。
だから絶対に僕のことを本名であるレオンハルトって呼んでくれるって
思っていたのに……なぜなんだ? 僕は落とし神じゃなかったのか?
「あたし達って生死が掛かった仕事上のだけの関係だからね。
これからよろしくね、玲音」
「いったい生死が掛かったお仕事ってなんだよ。
このノバラでのおもてなしとどう繋がった因果関係があるんだよ?」
ナーニャは僕のことを玲音って呼ぶし、もう分けが分からない。
「これから玲音が食べる朝食のサラダの中には眠り草が混じっているの。
途中目覚めるとみんなの予定が狂うから精神力で残さずに全てを食べてね。
そうしないと全ての計画が狂っちゃうだから」
あの優しかったイスカンさん達がどうして僕にそんな遠回しの罠を
仕掛けているんだ? 追いはぎ? お金を持っていないから違うか?
なら、もしかしてノバラはヒトを捕らえて食べる恐ろしい民族集団なのか?
そもそもナーニャが僕を助けたいと真剣に思っているなら、
普通ならサラダだけは食べるなって教えるよね?
もしくはノバラから一刻も早く離れてって僕に伝えるよな?
しかしナーニャの眠り草が入ったサラダを食べろって
ネタバレした意味も分からない。
「随分と困った顔をしているわね? でもあたしの言葉を信じて。
命に代えても玲音だけはあたしが助けて見せるって約束するから」
ナーニャの顔が真剣そのものでもしこれが全て嘘の演技だったとしたら、
もう誰も信じられないぐらいに目力を感じて、
「だからお願い。ノバラから決して逃げないで長老様達と一緒に
美味しい朝食を楽しんでくれると凄く嬉しい」
「分かったよ。その眠り草が入ったサラダを残さずに
食べればいいことだけだろ」
「うん、でもこれ以上のことは今は語れない。
全てが終わったら真実を全て伝えるから。
玲音は自分の身に任してだけ普通に振る舞っていたらいいだけだからね」
僕はヒトを疑おうとしてこなかったから。
ヒトを信じ続けた結果、僕はダメ人間のクズになってしまったから。
君を試す真似をしてごめん、ナーニャ。もう2度と過ちを犯したくないんだ。
「……もし僕を裏切ったらどうする?」
声のトーン落とし、野蛮で卑劣な質問をナーニャにぶつける。
「それはあたしの死で全てを償ってでも支払うから……」
「それだと僕に何のメリットがない」
「なによ、あたしの死だけじゃ不足なの?
あんた、あたしのおかげで亡くなる予定だった命が助かるのよ。
それだけでも十分にメリットがあるじゃない。
いったいどこに不満や不服があるのよ。
さあ反論があるならその口で言ってみなさいよ」
「……それはナーニャが全てを償って死ぬところかな?」
ここまで僕と関わったんだ。他人の死ならいや知らず。
ナーニャの死ぬところなんか見たくも想像したくもない。
「いーーーだ。ならいったい何が望みなのよ? この変態っ。
まさかあたしの体を狙っているんじゃないでしょうねっ」
「……服従でみだらな行為をしても決して友情はみのらないと思うから。
またいつか必ず生きて会おう。約束するならそれだけでいい」
ナーニャにお友達になって下さいとは口が裂けても言えない。
それはカティアやスフレも同じこと。
それに命令で真の友達になる機会を失うきっかけに繋がるから怖いんだ。
「なんだかあたし、玲音に振られた可哀想な女の子みたいね。
でも、またいつか必ず生きて会おうか? いい言葉だよね?」
「それって……」
「絶対にあたしも死にたくないから約束する。それでいい? 玲音」
「……うん」
「それじゃあ、あたしは準備があるから先に帰るね。
そろそろ玲音も長老様の元に行かないと不自然だよね」
「じゃあ、ここで一時的にさよならだね。
絶対にピンチになったら助けに来てくれよ。ナーニャ。
僕はこう見えて蚤の心臓で気がとても弱いんだ」
「どの口が言っているだか? うん、全てあたしに任せて。
それと何があっても長老様達は恨まないでくれると嬉しい。
あんたも分かっていると思うけど根はみんないいヒトなんだ」
「ああ、分かった約束する」
信じていたヒトに裏切られるのことはとてもショックなことだ。
でも今回はいつもとは確実に違う。
それは一方的に僕が信頼していたのではない。
相手から信じてって僕に頼んできたんだ。
もちろん胡散臭い宗教のように怪しいヒトもいるのは事実である。
だけどこのナーニャなら信じられる気がする。
結局のところ僕はお人好し、いやただ単に女の子に弱いだけかもしれないけど。
それでもまた他人を信じてみよう。
お読み頂きありがとうございます。感謝感激雨あられです。
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この本主人公である篠染玲音のようにみんなに無視されるのが1番怖くて、
読者様の反応があるだけでどれだけ心が救われるでしょうか?
少しでも読者様の貴重なお時間を楽しい時間に変えられたら嬉しい限りです。




