ソノモノノプロローグ
「ソノモノユウシャモノガタリ」シリーズ、作品投稿スタートします!
こんだけ作品がありふれたサイトなので、読んでもらえない可能性は高いですが……
読者さんが一人でもいる限り、投稿は続けていくつもりなので、是非よろしくお願いします。
よーし。頑張るぞー!!
【力を授かりし者が深淵よりやってきた。その者闇の軍勢にて、全ての死と灰をこの世にもたらしめる。天は闇が支配し、野の草木は枯れ果て、全ての地と水に残る獣は滅ぼされる運命にあった】
【しかし神は人々をお見捨てにならなかった。天は深い闇が支配していたが、そこに一筋の裂け目をおつくりになった。するとどうだ、神の光は一つの丘の緑を蘇らせたではないか】
【人々はこれを見、また感じた。あの光にこそ我々の勝利はあると。残された九つの部族は皆、時同じくしてその丘に寄り集まった】
【その者らは恐れなかった。地を埋め尽くす闇の軍勢を、十日十一夜、光より退け続けたのであった】
【光の丘での争いの後、闇の軍勢は、まざまざと衰退してゆくのであった。その身は崩れ、地には灰が溢れていた。その者らは、灰から作られたからである】
【遂に、九つの部族の戦士達、その者共の中でもとりわけ屈強な戦士が、炎の川まで全ての闇の王。その邪悪の根源を追い詰めたのだった】
【「人よ、見るがよい。我の血肉を。全ての邪悪の根源たる我にも、この血肉だけは欺くことはできんのだ」】
【闇の力を携えた者は、滅ぼされた。その身は炎の川に焼かれ、永劫の封印をその者に与えた。幾分かして、邪悪の根源は細かな欠片となり、地に降り注いだ。こうして産まれた新たな人類は、九つの部族を救うため立ち上がるのであった」】
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「………おしまいっと」
「ねえ! ねえ! おとうさん! このあとどうなったの? おしえて!」
「新たな人類は、魔族と呼ばれた。闇から産まれたからね。それで、人々を助けて回ったのさ。邪悪の根源ほどではないけれど、魔族は皆特別な力があったから、街づくりや食糧危機もみるみると回復していったらしいね」
「しょく、りょー? きき?」
「美味しいものが、食べられないってことさ。ママのクッキーが食べられなかったら、ルミナスは嫌だろう?」
「クッキー……たべちゃ、だめなの?」
「ああっ! 泣かないで! 大丈夫。ルミナスはママのクッキー食べられるよ! ハハ、困ったなあ……ルドルフは、理解できたかな?」
父であるディエゴは困惑顔でこちらを向く。
長い馬車の道のりだ。
何とか子供の気を紛らわそうと頑張った結果、逆効果だったので焦っているのだ。
妹のルミナスが泣きじゃくる。まだ四歳だ。
この勇者物語も小難しく書いてあるし、無理もないだろう。
なにより父さんは生真面目というか……子供に分かりやすく説明したりするのが、どうやら苦手らしい。余計にルミナスを混乱させてしまっている。
「僕は大丈夫だよ、父さん。もう八歳だよ。その本だって何回も見てるしね」
「おお、そうか、そうか。本当にルドルフは賢いな」
「ちょっと! パパ⁉ またルミナスを泣かしているの⁉」
馬車を覆うローブの隙間から、女性が顔を覗かせる。母であるナリオだ。
今は馬車の手綱を引いていたはずだが………逃げ回る雄羊を素手で捕まえてくる人だ。その身のこなしは、伊達じゃない。
「ち、ちがうんだよ、ママ。ちょっと本を読み聞かせてて、ちょっとだけ悲しいお話があっただけだもんねー? ルミナス?」
当の我が妹は、父さんを視界から一瞬で外し、もはや話など聞いていない。
「ママ! ママのクッキー、たべられないの、や!」
「クッキー? 大丈夫よ、新しい家に着いたらすぐ焼いてあげるわ」
「ほんと⁉ やった!」
「ほら、分かったら、良い子だから、ルドルフお兄ちゃんみたいにお座りしていなさい」
「わかった!」
すとん。と、母の言う事にはすぐ実行。
本を読み聞かせるまでの間、父さんは朝からずっと、ルミナスに落ち着いて座ってもらおうと、頑張っていたのに……。
「よかったな! ルミナス! ハハ、ハハハ………」
父さん、かわいそうに。
息子である僕が会話ぐらい、してあげないとな。
「父さん、それで、三百年前の【人龍戦争】について聞きたいことがあったんだけど」
「な、なに⁉ 【人龍戦争】⁉ そんなことまで知っているのか⁉ 本当に八歳か⁉」
「父さんの時代と違って、今は大量生産ができる時代だから、本も高くないんだよ。だから、色んな人に貸してもらったり、見してもらったりできるんだ」
「はあー。時代の流れってのは早いもんだなあ」
「九つの部族と魔族が、協力して悪い龍を倒したっていうのは知っているんだけどね、詳しく調べてないんだ」
「概ね、その通りだ。邪龍は滅ぼされた。魔族の被害が大きかったが……おっと、おしゃべりはお終いみたいだぞ」
と、そこで父さんが窓から外を見る。
僕と妹もその動きにつられて外を見やる。
急に視界が明るくなったからか目が眩む。いや、そうじゃない。
「あんた達、街が見えてきたわよ! あれが私達の新しい居場所。ボルドーよ!」
ボルドー。
僕等家族が今まで住んでいたカステル共和国のしがない田舎から、ひと月と五日かけてやってきた、エーテルメニア王国の首都。
国境からも随分と時間がかかったから、大分内陸の方にあるのかと思ったが………。
見たこともないほど高くそびえ立つ街を囲む壁。
本で読んだ限りだと、ああいう作りの街は城郭都市、というらしい。そこまでは知っている。
だが、あの壁の向こうに広がる青い景色は、もしかして………。
「おとーさん! あのあおいの、なに⁉」
「お父さんの可愛いルミナス。あれはね、海っていうんだ」
「うみ⁉ なにそれ!」
「びっくりするなよ~。海ってのはね、とてつもなく大きい水たまりのことなんだよ! あれは全て水なんだよ! すごいだろう?」
「みず! すごい!」
「はっはっは! そうだろう?」
「おとーさん! あそこ、いきたい!」
「ええっ⁉ えーっと、街について、落ち着いたら、な?」
父さんはまたルミナスの扱いに困っているようだ。僕がもっと小さいとき、どうしてたんだろう。あまり記憶はないけれど。
まだ遠目にではあるが、都市内部はとても広いのがここからでも分かる。
信じられないほど大きな建物、方々で立ち上る、巨大な煙突から立ち上る煙、街の中央ではどの建造物よりも大きな城が鎮座している。
これが都会。これこそが文明だと言わんばかりの、見たこともない景色。その目に見える全ては、間違いなく一家全員を感動という温かさで包み込んでいた。
「やっぱ、地元とは、全然違うね……」
そんな僕の、ふとした言葉だったが、母は聞こえていたようだ。目が合う。
「ルドルフみたいな賢い子にとっては、ボルドーに引っ越してきて、正解だったわね。叔父さんからこの話をもらった時は、どうしようかと思ったけど……貴方のそんな顔を見たら、お母さん正しいことをしたって思えるわ」
どこまでも優し気なその母の笑顔に、息子は気恥ずかしくなり、そっぽを向く。
そんな息子の反応すら愛おしい母は満足げに高笑いした。
「よっしゃあー! この国も我が家も産業革命よ! バリバリ働くわ! ね、お父さん!」
馬車はスピードを上げ、いつからか綺麗な平に整備された道を闊歩してゆく。
この魔族の一家、フォンセ一家は。
いや、この息子ルドルフは、ここから数奇な出会いと、別れの運命に巡り合うことになるのだが。
今はまだ知る由もない話であった。
「プロローグ」読んでいただき、ありがとうございます!
この話では、主人公である【ルドルフ君】全然喋らなかったですけど、ご安心下さい。
これから少しずつ、この少年がどういった心境で、何を考えているか分かっていきますので、まだ彼のことを品定めするのは控えて頂きますようお願いします。
フォンセ一家。お引越しをしているみたいですね。ボルドーという街みたいです。どこかで聞いたことありますね。この一家もどうなるか、見ものです。
ではでは、次回作もまた見てくださいね。
長い文章で失礼しました。