第18話 エキシビションマッチ
これは西暦9980年のはるか未来のお話。
この時代に召喚されたマイは、恒星系の開発権を賭けた星間レースに出る事になった。
そのレースの前に、なぜかマイに反目するリムと、分かりあいたかった。
そのための勝負が今、始まる。
剣技用の訓練施設についた、マイ達一行。
そのメンバーは、マイ、リム、マイン、ユア、ケイ。
そして彼女らのサポートAIである、アイ、ナコ、ミサ、ユウ、ミイ達である。
前回のマインを中心にした会話劇。それを受けて人間達の後からついてくるサポートAI達も、会話劇を繰り広げていた。
場面がややこしくなるので、その会話劇は割愛されてしまう。
これがアニメ化した時、副音声でその会話劇を聞く事が出来るだろう。
「それじゃ、とっとと始めるわよ。」ブン…
リムは、二本のソウルブレイドを展開する。
サイという武器に似た、三叉の剣。
中心の剣の半分の長さの剣が、左右に分岐している。
その剣を二本、左右の手で一本づつ握ってる。
「ええ、始めましょう。」ブン…
マイの展開するソウルブレイドは、刀と鞘。
刀を鞘に収め、居合抜きの構えをとる。
リムは、その場で軽くジャンプを繰り返す。
「その剣、一度見てるから恐くないわ。初見だったら危なかったけれど。」
そう、マイは一度、居合抜きを披露している。
「あんたの間合いに入ったら即、斬られるんでしょうけれど、間合いに入らなかったら、何も出来ないんでしょ?」
リムの言葉に、マイはあせるが、気取られては駄目だ。
「間合いに入らなかったら、何も出来ないのは、そっちも一緒じゃない?」
マイはジリジリと間合いをつめる。
「どうかしらね?」
リムの剣は、三叉の中央の刀身の長さをわずかに伸ばす。
「だったら、間合いの外から攻撃するか、あんたが反応する前に突っ込めばいい!」
軽くジャンプを繰り返してたリムは、着地とともに、マイへと猛突進!
その行動は、マイも読んでいる。リムがジャンプを繰り返してた時から。
リムはマイの間合いのわずかに外の位置までくると、右手の剣を突き出す!
マイは反射的に居合抜きをかます!
キイン。
二本の剣がぶつかり、乾いた金属音が響く。
リムの突きは、マイの身体を狙ったというより、マイの剣を受け止めるために放たれた突きだった。
リムは剣がぶつかった瞬間、手首をひねる。
三叉の中央の剣と右側の剣とで、マイの剣をからめる。
そのままリムが大きく剣を振り上げると、マイの剣はマイの手を離れ、かすめ取られる!
「もらったぁ!」
リムは左半身を前に出し、その勢いで左手の剣を突き出す!
マイは鞘でその剣を受ける。
そして派手に吹っ飛ばされる。
鞘で受ける時、身体を後方へ動かしながら受けたのだが、その動きをリムの突きが超加速させたのだ。
「ふーん、飛んで逃げるとは、やるわね。」
リムは右手の剣に絡め取られたままのマイの剣を、振り落とす。
「たまたまよ。」
マイはそう言いながら、鞘を刀に形状変化させる。
「まずは一本!もう一本ももらうわ!」
リムは再び突進。右手の剣で多段突きをかます。
マイはそれを全てかわす。
剣を交えようとはしない。
それは、また掠め取られるかもしれないと、思うからだ。
そんなマイの思いは、リムにはお見通しだ。
リムは左右の剣で多段突きを交互に繰り出す。
「どうしたの?怖いの?それで私に挑もうなんて、身の程知らずもいいとこよ!」
「あっちゃあ、経験の無さがモロに出てるわね。」
ふたりの試合を観戦しているケイが、マイの不利な状況を懸念する。
「でも、マイならきっとやってくれるわ。」
マイと戦った事のあるユアは、マイの勝利を信じてる。
「こっからどう勝つのよ。」
「それは、」
ケイの言葉に、ユアも結論を言い淀む。
「なんかやってくれそうなのは、確かね。ほら。」
マインはそう言って、床に転がるマイのソウルブレイドを指差す。
マイのソウルブレイドは刀の形状を維持している。元のクダには戻っていない。
この事が、この勝負に活きるはず。
「それに、ほら。」
マインはサポートAIのアイに目を向ける。
この試合の観戦は、マイン達人間と、アイ達サポートAIは、少し離れた所に固まって観戦していた。
サポートAI達も雑談しながら観戦してる中、アイだけは黙って目を閉じて、両手を胸の前で重ねている。
これはきっと、マイにソウルブレイド戦の情報をダウンロードしてるのだろう。
そこにマイン達は、マイの勝機を見出す。
でも実際のところは…
「この人達、どうも苦手ですぅ。」
それが今のアイの心情。目を閉じていても、マイの動きが分かるのは事実だが、他のサポートAI達にとけこめないので、思わせぶりに目を閉じているだけだった。
ユウは、勝気な性格。なんか自分に対抗意識があるようで、少し苦手。
ミイは、軽くふざけた口調ながら、痛い所をずかずか突いてくるので、少し苦手。
ミサは、何を考えてるのか分からない所があり、少し苦手。
ナコは、パートナーのリムがツンデレの気があるせいか、何かと世話好きのお節介で、少し苦手。
もっとも、アイはパートナーの問題で、チームメンバーと一緒にいた期間は短い。その時間の少なさが、苦手意識に拍車をかけてるだけなのであるが。
さてマイとリムの勝負であるが、リムの攻勢は続く。
マイはリムの多段突きのパターンが読めてきた。
反撃の糸口を探すのだが、気取られないよう、注意する。
たまに、多段突きを剣で受けて反撃のタイミングをはかる。
リムもマイの変化に勘付きはじめる。
何か狙ってる。
リムは何かを感じとる。
リムは多段突き一遍等から、薙ぎ払いや斬り下ろし等を織り混ぜる。
しかし、そのパターンもマイは分かってきた。
リムが右手の剣で多段突きを始める刹那、マイは自分の剣をリムの剣と同じ形状に変える。それは、三叉の剣だ。
多段突きの始点に、マイは三叉の剣を合わせる。
二本の三叉の剣は絡み合い、動きが一瞬止まる。
マイは身体を前に出し、左手で手刀を、リムの剣を握る右手に叩きつける。
リムは剣を離してしまい、剣は床に落ちる。
マイはその剣を蹴り飛ばす。リムの身体の外側に。
つまり、リムから見て右側後方。
マイは間髪おかず、剣を持つ右手を身体の内側にひねると即、身体の外側へと剣を薙ぎ払う!
リムは右手を身体の外側へ水平に振るい、その勢いでマイの薙ぎ払いをかわす!
勢いあまって、マイに背を向けて逃げだす形になる。
マイは剣を振りかぶり、リムを背中から斬りつけようとする。
それに呼応し、リムは上体をのけぞらす。
それまでリムの身体があった場所から、蹴り飛ばされたリムの剣が飛び出してきて、マイを襲う!
リムの剣は、マイの剣に絡みつく。
どちらも三叉の剣のため、その根本でがっちりとからみあってしまったのだ。
リムは身体を反転。マイに背を向けていたのを、正面に向きなおる。
そして、剣がからんだままのマイに、トドメの剣を振り落とす!
マイは、からんだ剣を手放すと、リムの剣を白刃取り!
そのまま両手を左前方に伸ばすと、間髪おかず右後方へと引っ張る。
バランスを崩したリムに蹴りを入れると、リムは剣を手放し、床に尻もちをつく。
そんなリムの首元に、マイはリムから奪った剣を突き付ける。
「おお、すごい。マイちゃん勝っちゃったよ。」
まずはケイが、驚きの声をあげる。しかし、
「これって、私の負けかしら。」
リムは、たまたま目のあったユアに聞いてみる。
「真剣勝負ならそうだけど、あなたのやりたい試合は違ったようね。」
ユアの言い回しは、マイにはよく分からない。
「え、僕の勝ちじゃないの?」
剣を引っこめたマイは、なんか納得いかない。
「あんた、なんにも知らないのね。」
リムはあきれたように吐き捨て、その理由をマインが説明する。
「ソウルブレイド戦は、主にエキシビジョンの戦い。
殺し合いではなくて、相手の剣を全て、床に落とした方の勝ちになる。」
「え?なんで?」
「負けた方が脱出用ポッドに転送されていなくなったら、盛り上がりにかけるでしょ。
勝負ついたら、ひとりだけぽつんとしてるのよ。」
マイの疑問に、リムが答える。
「じゃあ、僕の負けなの?」
マイは少し気落ちする。
「引き分けでいいわよ。」
そんなマイに、リムは優しい口調で応える。
それはマイには初めて聞く口調だったが、他の三人には普段から聞いてる口調だった。
リムは右手を伸ばし、マイはその手を握り、リムの身体を引き起こす。
「それにしても、なんであの剣使わなかったの?」
リムは床に転がる、最初に飛ばしたユアの剣を指差しながら尋ねる。
「使うって?」
マイには、リムの意図が分からない。
「あの状態なら、自分の意思で操れるのよ、知らなかったの?」
「うん。」
リムの言葉に、ただうなずくマイ。
「はあ?こっちはずっと警戒してたのよ?いつ死角から襲ってくるのかって。」
「アイ…」
マイはアイの方に視線を向けるが、アイはやっちまった感のある表情で顔を背ける。
そんなアイの肩を、ナコが叩く。やっちまったなっと、にっこりした笑顔で。
「あんたもまだ知らない事だらけらしいから、私が教えてあげるわ。感謝なさい。」
「はい、感謝します。」
リムの申し出を受けるマイ。
こうして、ふたりのソウルブレイド戦は幕を閉じた。