第17話 剣技で勝負したい
これは西暦9980年のはるか未来のお話。
この時代に召喚されたマイは、星間レースに参戦する事になった。
三機一体の陣形、トライフォースの陣形を完璧なものにするため、マイ達三人の特訓は続く。
星間レース開始まで、あと98時間。
マイ達は飛行訓練をひと休みし、ラウンジでくつろいでいた。
「大分サマになってきたよね、私達。」
「うん。」
ケイの言葉に、マイもユアもうなづく。
マイは、チームのみんなと仲良くなりたかった。
ここに居るふたり。そしてマイン。
この三人とは、仲良くなれた。
後はひとり。リムのみ。
「あいつとは、私も決着つけなくちゃな。」
先のいざこざが解決していない、ユアはそう言う。
「あの子頑固だからね。今度のレースで優勝でもしない限り、難しいよ?」
ケイもそう続ける。
その難しいのはレースの優勝なのか、リムと仲良くなのか、どっちなのかと、マイは思った。
出来れば、レース前に仲良くなりたい。
チームメイト全員が認めないと、って言った手前、マインもおおやけには仲良く出来ない。
みんなに応援された形で、レースにのぞみたい。
仲良くなるには、やっぱこれかな?
と、マイは左脚に装着されたクダを取る。
ソウルブレイドによる決闘。これで認めさせるのが一番な気がする。
それなら私が先だと、ユアが言う。
それだと、リムはふたりと闘う事になる。二回も敗北を味あわせるのは、かわいそうとなる。
だったらマイちゃんが闘うべきと、ケイは提案する。
マイちゃんに負ければ、負けた者同士って事で、ユアの件も丸く収まると。
これはこれで、ユアが納得しかねるが。
ぐいーん。
扉が開いて、リムが入ってくる。
「あ」
その場の四人が同時に声を出す。
「ちょっとナコ、知ってたんでしょ、先に言いなさいよ。」
リムは小声で自分のサポートAIのナコに小言を言う。
「さあ、分かりませんでした。」
「嘘おっしゃい。」
そう言ってリムは、その場を後にする。
「待って、リム。」
マイは、リムを呼び止める。
「何で、私の名前知ってんの?私、教えてない。」
リムは青ざめた表情でふりかえる。
「えと、最初に会った時に、アイがインストールしてくれたから。
サポートAIは、ナコでしょ?」
ナコと呼ばれたサポートAIは、にっこりほほえみながら、こちらに手をふって応える。
「なによ、その後付け設定!」
そう言うとリムはソウルブレイドのクダを手に取る。
「叩き斬ってやるわ、覚悟なさい!」
「あ」
どう勝負をきりだそうかと思ってたら、向こうから言ってきた。
マイ達三人は、どちらかと言えば、拍子抜けだ。
勝負を仕向けるために、色々考えてたからだ。
それだけで三千文字は使うくらいに。
したら収拾がつかなくなるほどに。
あの苦労はなんだったのか。
でも、なにはともあれ、勝負が出来る!
「僕が勝ったら、僕の事認めてくれるんだよね?」
マイは二本のクダを持って、リムに聞いてみる。
「はあ?」
だがリムの答えは、マイにとって意外なものだった。
「私が負けた時の事言ってるの?そんなの、ただむかつくだけじゃん。」
ですよねぇ。とマイは思ったが、口にはしなかった。
でもマイのその表情で、リムは察する。
そして少し冷静になると、ソウルブレイドのクダを収める。
「じゃ、行くわよ。」
リムはラウンジを出て、どこかへ行こうとする。
「あの、どちらへ行くのでしょう?」
「剣技用の訓練施設でしょ。あんた、ここでやる気なの?もしかしなくても、バカなの?」
さも当然と、リムは答える。そんな事も知らないマイをバカにしながら。
つか、先に斬りかかったのは、リムじゃないの?
とマイは思ったが、言わなかった。
リムを先頭に、少し離れてマイ達三人が続く。
訓練施設へ向かう廊下の途中で、マインとばったり出くわした。「あら、、みんなでどこ行くの?」
最初はマイに話しかけそうになったが、リムに話しかけた。
以前、リムが認めないなら自分も認めないって意味の事を言ってしまったから、みんなの前ではマイに話しかけづらいのだ。
「勝負するのよ。あの生意気なマイとね。」
「まあ。」
リムの言葉を聞いて、マインの顔色がパッと明るくなる。
「やっと認める気になったのね。」
「はあ?そんな訳ないでしょ。」
リムは即座に否定するのだが、マインも聞く耳持たないタイプだった。
「リムも素直じゃないからね。何かきっかけがほしかったのね。
きっと勝負が終わった後には、硬い友情が芽生えるのよ。
『なかなかやるじゃないか、マイ。今まで冷たくしてごめんよ』
『いいえ、僕が生意気すぎたわ、ごめんなさい』
そしてふたりは、あつい抱擁をかわすのよ。きゃー。」
「ちょっと、なんでそうなるのよ。」
ひとり盛り上がるマインを、リムは否定する。
「え?じゃあ、なんで勝負なんてするの?」
マインも真顔に戻ってリムに尋ねる。
「なんで、って、」
リムは少し考えこむ。しかし、間をおかずに答えが出た。
「生意気なマイをボコるのに、理由がいるかしら?」
「いるでしょ。」
リムの決め顔でのその答えも、マインが納得のいく答えではなかった。
「だって今はレース前の大事な時期よ。なんでこんな時期に勝負するのよ。」
「だって、マイが生意気だから、」
「答えになってない。」
リムは会心の答えだと思ってたから、他の答えは持ち合わせていなかった。
当然、マインも納得しない。
「今勝負するって事は、レース前にわだかまりを捨てて、チームがひとつにまとまるって事でしょ。
そうじゃないと、やる意味ないわよ。」
マインの言葉に、リムは黙りこむ。
「そうでしょ、違う?マイ。」
マインは突然、マイに話しをふる。
「えと、僕はそのつもりなんだけどね。
なんかリムに名前を教えてもらう前にリムって呼びかけたのが、気にさわったみたいで。」
「うそ、リムってそんなに肝っ玉小さくないわよ?」
マインとマイの会話を聞いて、リムは目を閉じてプルプル震える。
「そうかなぁ?僕がまだ、リムの事をよく知らないだけなのかなぁ?」
「リムはね、ああ見えても心の優しい子なのよ。ただ素直になれないだけで。」
「ええ?本当に心の優しい子なの?名前言っただけで斬りかかってきたよ?」
「うーん、リムはそんな子じゃないんだけど。
マイ、何かやっちゃったんじゃない?心当たりないの?」
「えー、あるわけないじゃん。この前初めて会ったんだよ。」
「そうよね。マイに落ち度はないわけだし。
え?じゃあ、リムってそんな子だったの?」
「うわー、ヤバい奴ってヤツ?」
「でも信じられないわ。今までそんなそぶりなかったから。」
「もしかして、僕がただ嫌われてるだけ?」
「なんでマイの事嫌うのよ?マイはこんなにいい子なのに。」
「いい子だなんて、照れるよ。」
「だって本当の事よ?マイが嫌われる理由なんて、どこにも無いのよ?
やっぱり肝っ玉が小さかったって事かしら。
今までそれに気づけなかった自分にも、腹立つわー。」
「ああもう!」
マインとマイの会話に、リムも根負け。
「分かったわよ!マイが私といい勝負が出来たら、認めてあげるわよ!」
「まあ、勝っても負けても認めてくれるなんて、やっぱりリムは優しい子ね。」
「優しい言うな!」
リムは照れ隠しに顔を背ける。
「良かったね、マイ。
ふたりとも、がんばってね。」
そうこうするうちに、いや、とっくの昔に、訓練施設には着いていた。
そして、マイ以外の三人は思った。
マインって、こんなキャラだったっけ?