第16話 三人で訓練した
これは西暦9980年のはるか未来のお話。
この時代に召喚されたマイは、同じく召喚さてたマインから、星間レースについて聞かされる。
誰もマイ達の勝利は望んでいなかったのだ。
しかし、そこで勝ってしまったらどうなるのだろう?
ふたりの召喚者のわくわくは止められない。
あと120時間後に開催される星間レースに向けて、マイとユアとケイの三人は、三人の連携の確認をしていた。
前回マイとの模擬戦で破壊されたユアの機体も、既に修復されていた。
この機体は、いわゆる形状記憶合金で出来ていた。
原子レベルでその形状を記憶していて、復元マシーンに破壊された破片やらをぶち込めば、18時間で復元される。
爆発などで原子が別の分子に置き換わってたとしても、対応可能。
そんな原子達は帰巣本能を持ち、復元マシーンへと帰ってくる。
だけど、失われてしまった原子も存在するだろう。
それは予備の原子炉で精製され、この復元マシーンにぶち込まれる。
星間レースのため、マイ達の機体には高速ブースターが取り付けられる。
これで光速の89%までの速度を出す事が出来る。
それに慣れるための特訓。
ちなみに普段は光速の33%である。
そして、三人でのトライフォースの訓練だ。
質量を持った機体のフォログラフを投影する。
そのためには、トライフォースでの三角形のイメージ力を高める必要がある。
自分ひとりの場合は、伴機二機との三機編成のため、三角形のイメージは簡単だ。
しかし、これが他人と三人で、となると、格段に難易度があがる。
しかし実際の戦場では、伴機を伴っての参戦は、非現実的だ。
戦場までの移動に、トライフォースのイメージ維持は困難だからだ。
そこで通常は、チームの三機でトライフォースを始め、それぞれ二機ずつフォログラフ投影する事になる。
今回の星間レースの場合、スタート位置は決まっているので、その位置に自機と伴機二機をワープアウトさせる事も出来る。
しかし、代表として登録出来る機体は、三機まで。
伴機も一機と数えられるのだ。
つまり、自機と伴機二機の実質ひとりより、自機三機の三人体制からのフォログラフ投影の方が、その後の展開が有利と言える。
マイ達三人の戦闘機が宇宙を翔ける。
トライフォースの陣形を維持して。
「前方十万宇宙マイリ、小惑星帯、回避!」
三人のサポートAIは、同時にレーダーのとらえた反応を告げる。
三機は同時に回避行動をとる。そして小惑星帯を抜けて合流。
トライフォースの陣形は、崩れてしまった。
「ちょっとマイちゃん、何逆に回避してんのよ!」
陣形を整えながら、ケイはマイにぶちぎれる。
「いや、あそこはみんなで30度右旋回が正解でしょ。」
「マイが正解ですね。」
マイのサポートAIのアイが、マイの正当性をフォローする。
「いいえ。」
しかし他のふたりのサポートAIは違った。
「その判断は、一機の場合のみに、正解です。」
「今回の場合は、最初の取り決め通り動く事が正解です。つまり、左に25度旋回です。」
「ほらあ、二体一よ、マイちゃん!」
ケイは、鬼の首を取ったように、マイを責める。
「でもさあ、マイも左旋回してたら、私達全滅してなかった?」
「え?」
ユアの言葉に、みんなが驚く。マイ自身も。
そこで、飛行訓練は一時中止。
再現シミュレートしてみる事になった。
三機全員が左25度旋回した場合。
その結果は壮絶だった。
マイがある小惑星のすぐ側を抜ける事により、その小惑星が急激に回転。互いの引力圏に乱れが生じて小惑星がランダムに動き出す。
まずケイの機体の近くで小惑星のひとつが爆発。当然、ケイの機体は爆発に巻き込まれる。
その衝撃波とマイの高速ブースターの衝撃波が干渉しあい、マイの機体も誘爆。
その衝撃で飛び散った小惑星の欠けらが、ユアの進路をふさぐ。
右30度旋回の場合。
ケイとマイの機体が、それぞれ小惑星の近くをかすめる。
先にかすめられた、マイの近くの小惑星が、移動速度を急加速。
その衝撃波で、ケイの近くの小惑星は、動きを止められ、即、ケイが近くを通過。その小惑星は砕け散り、小惑星全体が、その砕けた方向へ動きを変える。
この結果から、ひとつの答えを、導き出さなければならなかった。
高速ブースターを使用中のトライフォースは、やめよう。
普段の速度で、何も無い空間で、トライフォースする事になった。
これは簡単だった。
しかし高難易度をあきらめた事は、戦士にとっては屈辱だった。
訓練を終えて、帰宅の途に着く。
この時マイは、他のふたりの召喚者に聞いてみた。
「ふたりって、元の時代にいた時と、今のアバターって同じなの?」
「え?同じだよ?」
まずはユアの答え。
「私は、腰まであった髪が、ばっさりかな?」
ケイは、髪の長さが違うらしい。
「何でそんな事聞くの?」
逆に、ユアから問い返される。
「んと、動かなくなった左脚が動けるようになったから、みんなはどうなのかなって。」
マイはそう答える。この流れで、中身がおっさんなのとは、流石に言えなかった。
何故か、マイだけが違う。
これには、何か理由があるのだろうか?
まだ聞いていないリムも、同じ答えだろう。
マイは、とりあえず気にしない事にした。
自分もこの体の方が、動かしやすかったから。
そして、大分先にこの謎が解けようとは、この時のマイは想像していなかった。