【短編】100万回死んだ悪役令嬢。~ついにモブ令嬢に転生したので、お友達と一緒に平凡に暮らしたいと思います~
とりあえず、出してみました。
_(:3 」∠)_
追記:やっぱ連載します。19時頃に、ちょちょいと小分けにして投げます。明日からは追加ストーリーにしますので、よろしくです。連載版投下後、この小説の下記にリンク貼ります。
「あぁ、アタシはまた死んだのね……」
アタシは悪役令嬢として、何度も死んできた。
その前世の記憶は魂に色濃く刻まれている。ある時は追放され、またある時は婚約破棄をされて。幾度となく、抗うことのできない運命に翻弄されてきた。
そんなアタシはいつしか、夢見るようになる。
次こそは、平凡な貴族に生まれて平凡に暮らしたい! ――と。
また、暗闇の中に光が見えた。
はてさて、次はどんな悪役令嬢に転生するのか。
そう思いながら、アタシは新たな自分の中に飛び込んでいくのだった。
◆
「あら、どうしたのかしら。ナタリーさん?」
「え? あ、はい? アタシのこと、ですか?」
「貴方に決まっているでしょう? 先日頼んだこと、まさかお忘れになっていたわけではありませんよね?」
「………………」
アタシは転生直後の記憶の混濁から、必死に抜け出すべく考える。
まず、こういう時は冷静になるんだ。
アタシはどこの家の娘で、いま話している相手が誰なのか。
ナタリー・シルビアナ――それが、いまのアタシの名前。
シルビアナ伯爵家の令嬢として生まれ、現在十六歳の魔法学園一年生。この学園に通うことになるまで、日々をとにかく平凡無難に過ごしてきた。
容姿にもこれといった特徴はない。
だが一点を除いて、左右の瞳の色が違うのは目立っていた。
「ナタリーさん? なにを考え込んでいますの?」
「あー、待って。もうちょっとで出てきそうだから」
「出てきそう……?」
それで、いまアタシと対話しているのがガレリア・アークライト公爵家令嬢。
悪人面で唯我独尊。自分の気に入らないことには、とにかく文句を口にする。そしてイジメの常習犯で、アタシのことを小間使いにしている女性だった。
顔立ちは整っているのに、性格が破綻しているために人気がない人物。
金髪縦ロールに蒼の瞳。今日も豪華な衣装を身にまとって、ご満悦だった。
「ん、ちょっと待って?」
そこまで考えて、アタシはふと思う。
今世におけるアタシの生い立ち。
家系と、周囲とのの人間関係。それらを複合的に考えた結果――。
「……やった!」
一つの結論に辿り着く。
そう。現在のアタシは悪役令嬢の取り巻きである以外は、平々凡々。
つまるところ、今まで望んでも手に入らなかった環境を手に入れたのだった。これまでは、すでにイジメをしている人物に転生していたけれど、今回は違う。
まだそういったイベントは発生していない。
だとすれば――。
「ガレリア様、一つよろしいでしょうか」
「……なんですの? 手短に――」
「アタシ、貴方の取り巻きを辞めさせていただきます!」
「は……!?」
「それでは、ごきげんよう~っ!」
「ま、待ちなさい! ナタリー!!」
ここはもう、逃げるが勝ち!!
アタシはそそくさと、ガレリアを放置して駆け出すのだった。
後方から怒り狂った彼女が叫ぶ声が聞こえたけれど、そんなこと知ったことではない。アタシはついに平凡なモブ令嬢に生まれたのだから!
今度こそ、平凡な暮らしをしてみせる。
そう、アタシは心に誓うのだった。
◆
はてさて、ガレリアを撒いて教室までやってきた。
足を踏み入れるとすぐに気づいたのは、周囲からの視線がどこかおかしいこと。とりわけ女子たちはみんな怯えているようだった。
その理由は明白。
アタシは先ほどまでガレリアの取り巻きだったのだ。
「みんな、アタシを通してガレリアを見ているのね」
アタシの目の前で彼女の悪口を言えば、完全に筒抜け。
だから、緊張しているんだ。
「うーん、どうするかな。少し窮屈」
そう悩むが、アタシはすぐに気持ちを切り替える。
せっかく平凡なモブ令嬢に転生したのだから、頑張って普通の生活を送ってやろう、と。そう考えているうちに授業の時間になった。
席は自由なので、とりあえず他の人に迷惑をかけない位置に腰掛ける。
というか、どこに座ってもみんなアタシを避けるだろうと思った。
そして、座ったタイミングで先生が入ってきてこう告げる。
「それでは、授業を始める。だが、今日はその前に――」
初老の男性教員は、出入り口の方を見てこう言った。
「急遽、入学となった生徒を紹介する。入ってきなさい」――と。
何事かと周囲は色めき立つ。
アタシも首を傾げつつ、入ってきた女の子を見た。
そして、こう思う。
「すごく、可愛い……」
思わず口に出た。
だって、それほどまでに可憐だったのだから。
栗色の髪を肩ほどまでで揃えており、金色の円らな瞳をしていた。顔立ちは綺麗系というよりも、可愛い系。愛らしい容姿をした彼女は、少し緊張した面持ちで頭を下げた。そして、鈴の音のような声でこう言うのだ。
「あ、あの! ミリア・フレイアです! よろしくお願いします!!」
少女――ミリアがそう名乗ると、先生がこう引き継ぐ。
「彼女は突然変異的に魔力に目覚めてな。特例での入学が認められた。まだまだ分からないことも多いだろうから、みんな仲良くしてやってほしい」
そして、どこか空いている席に座るよう促した。
一連の流れを見ていて、アタシは思う。
あの子、どこか特別な運命を秘めているように感じる、と。
アタシはこれまで何度も悪役令嬢に転生してきたのだが、その際には決まって、物語の主人公と思えるような特別な存在が対極にいた。転生したころにはすでに、アタシはそういった存在に喧嘩を吹っ掛けていて、後戻りできない状況。
「でも、今回は違うのよね……」
少なくとも、アタシはそういったことに加担していない。
なので、ここから上手く運べば――。
「あの、すみません。お隣いいですか?」
「え……?」
そう考え込んでいると、すぐ隣にミリアがいた。
彼女は困ったように首を傾げている。
「ア、アタシの隣……?」
「はい。どうも、他の席は埋まっているようなので……」
「あ、あー……」
そりゃそうだ。
みんな、アタシのことを避けているのだから。
「よろしいですか?」
「あ、うん。……ぜひ!」
アタシが首を縦に振ると、ミリアはにっこり会釈して席に腰掛けた。
そして、続けてこうお願いしてくる。
「教科書見せてもらってもいいですか?」
「あぁ、そうね。入学したばかりだから、持ってないんだ。良いわよ」
「ありがとうございますっ!」
というわけで、アタシたちは肩をくっつけて勉強することになった。
時々に言葉の意味を教えてあげたり、この学園についての質問に答えたり。そうやって授業が終わる頃には、アタシたちはすっかり打ち解けていた。
「ありがとうございました、ナタリーさんっ!」
「いいのよ、ミリア。また困ったことがあったら、アタシに聞いて?」
「はいっ!」
にっこりと笑う彼女に、こちらも笑顔で応える。
その時になると、アタシはこう考えるようになっていた。
ミリアと、もっと仲良くなりたい……!
今まで手に入れられなかった、平凡な日常。
その中には決して欠けてはいけない、一つのピースがある。
それは――お友達!
「それでは。私は一度、教員室に行ってきますね?」
「えぇ、行ってらっしゃい」
何度もこちらを振り返って手を振るミリアを見送って。
アタシは、蕩けるような笑みをこぼすのだった。
楽しい学園生活には友達必須。
そんなわけで、アタシは一つのミッションを立ち上げた。
「ミリアと一緒に、お昼ご飯を食べる……!」
まずは、基本的なところから。
アタシは静かに拳を握りしめて、燃え上がるのだった。
◆
「ミリア、お昼ご一緒してもいいかしら?」
「ナタリーさん! ぜひ!」
さて、午前の授業が終了して。
アタシはそそくさと、ミリアのもとへ移動して声をかけた。すると彼女は、その愛らしい顔に花のような笑みを浮かべる。
そして二つ返事で了承してくれた。
第一関門、クリア!
アタシは心のうちで、大きくガッツポーズ。
天使のような笑顔を浮かべる彼女にほっこりしながら、とりあえず食堂へと向かうことになった。この学園には学生用の食堂があり、一流のシェフが料理を振舞ってくれる。
貴族の令嬢、嫡男も多く通うこの学園ならでは、といった感じだ。
「えっと、それじゃ――」
到着して、アタシはメニュー表とにらめっこ。
そして今日の昼食を選ぼうとした。その時だった。
「あ、あの。ナタリーさん……」
「どうしたのかしら、ミリア?」
ミリアの声に振り返ると、そこには申し訳なさそうな彼女の顔がある。
首を傾げているとミリアはこう言った。
「私、やっぱり遠慮します……」
「え、えぇ!? どうしたの!?」
その言葉に驚く。
突然どうしたというのだろう。
もしかして、アタシに向けられている視線に気づいた!?
「えっと、その――」
そう考えていると、ミリアは小さくこう口にした。
「お、お金がなくて……」――と。
◆
「あ、ミリアって平民出身だったの?」
「あはは、そうなんです。すみません、黙ってて」
テーブルについて、アタシとミリアは食事を摂る。
その時になって知ったのだが、どうやらミリアは貴族ではないらしい。平民の生まれで、偶然にも魔力に目覚めたとか。そういえば、教員も特例って言ってたっけ。
お金がないというのは、つまりそういうこと。
彼女にとって、貴族が利用する食堂のランチは破格なのだ。
「でも、良いんですか? こんな美味しい料理をごちそうになって……」
「良いの良いの、気にしないで。アタシたち、友達でしょ?」
「ナタリーさん……!」
料理を目の前にした今でもなお、遠慮しようとするミリア。
そんな彼女に、アタシはあっけらかんとした風にそう伝えるのだった。するとミリアは感動したように、晴れやかな表情を浮かべる。
そして、深々と頭を下げた後に手を合わせてこう言った。
「いただきます……!」
少し緊張した様子で、一口。
その直後、彼女は目を見開き――。
「ほわぁ……!」
蕩けたような表情になった。
どうやら、お口に合ったらしい。
「美味しいでしょ?」
「はいぃ……!」
「どんどん食べてね?」
「あ、ありがとうございます!!」
その反応が嬉しくて、アタシまで笑顔になった。
本当にミリアは可愛らしい。この子と友達になれて、本当に良かった。
……いや、まぁ。
まだ周囲からの視線は、ちょっと厳しいけれど。
「まぁ、そのうち平気になるわよね」
「なにか言いました?」
「なんでもないわ、気にしないで」
「…………?」
アタシの独り言が聞こえたらしい。
ミリアは小首を傾げるが、アタシはそれを流した。
アタシはもう悪役令嬢でも、その取り巻きの一人でもない。
この人生をもって、その呪縛から逃れてみせる!
「頑張ろう、本当に……!」
◆
一方その頃、ガレリア。
彼女は食堂の物陰からナタリーを観察していた。
そして、その向かいに座るミリアを見て、こう口にする。
「泥棒猫……!」――と。
悔し気にハンカチを噛みながら。
公爵家令嬢――ガレリア。
彼女の怒りの感情は、燃え盛る炎となっていた。
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