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【短編】100万回死んだ悪役令嬢。~ついにモブ令嬢に転生したので、お友達と一緒に平凡に暮らしたいと思います~

作者: あざね

とりあえず、出してみました。

_(:3 」∠)_


追記:やっぱ連載します。19時頃に、ちょちょいと小分けにして投げます。明日からは追加ストーリーにしますので、よろしくです。連載版投下後、この小説の下記にリンク貼ります。






「あぁ、アタシはまた死んだのね……」



 アタシは悪役令嬢として、何度も死んできた。

 その前世の記憶は魂に色濃く刻まれている。ある時は追放され、またある時は婚約破棄をされて。幾度となく、抗うことのできない運命に翻弄されてきた。

 そんなアタシはいつしか、夢見るようになる。



 次こそは、平凡な貴族に生まれて平凡に暮らしたい! ――と。



 また、暗闇の中に光が見えた。

 はてさて、次はどんな悪役令嬢に転生するのか。


 そう思いながら、アタシは新たな自分の中に飛び込んでいくのだった。







「あら、どうしたのかしら。ナタリーさん?」

「え? あ、はい? アタシのこと、ですか?」

「貴方に決まっているでしょう? 先日頼んだこと、まさかお忘れになっていたわけではありませんよね?」

「………………」



 アタシは転生直後の記憶の混濁から、必死に抜け出すべく考える。


 まず、こういう時は冷静になるんだ。

 アタシはどこの家の娘で、いま話している相手が誰なのか。



 ナタリー・シルビアナ――それが、いまのアタシの名前。

 シルビアナ伯爵家の令嬢として生まれ、現在十六歳の魔法学園一年生。この学園に通うことになるまで、日々をとにかく平凡無難に過ごしてきた。

 容姿にもこれといった特徴はない。

 だが一点を除いて、左右の瞳の色が違うのは目立っていた。



「ナタリーさん? なにを考え込んでいますの?」

「あー、待って。もうちょっとで出てきそうだから」

「出てきそう……?」



 それで、いまアタシと対話しているのがガレリア・アークライト公爵家令嬢。

 悪人面で唯我独尊。自分の気に入らないことには、とにかく文句を口にする。そしてイジメの常習犯で、アタシのことを小間使いにしている女性だった。

 顔立ちは整っているのに、性格が破綻しているために人気がない人物。

 金髪縦ロールに蒼の瞳。今日も豪華な衣装を身にまとって、ご満悦だった。



「ん、ちょっと待って?」



 そこまで考えて、アタシはふと思う。


 今世におけるアタシの生い立ち。

 家系と、周囲とのの人間関係。それらを複合的に考えた結果――。



「……やった!」



 一つの結論に辿り着く。

 そう。現在のアタシは悪役令嬢の取り巻きである以外は、平々凡々。

 つまるところ、今まで望んでも手に入らなかった環境を手に入れたのだった。これまでは、すでにイジメをしている人物に転生していたけれど、今回は違う。


 まだそういったイベントは発生していない。

 だとすれば――。



「ガレリア様、一つよろしいでしょうか」

「……なんですの? 手短に――」

「アタシ、貴方の取り巻きを辞めさせていただきます!」

「は……!?」

「それでは、ごきげんよう~っ!」

「ま、待ちなさい! ナタリー!!」



 ここはもう、逃げるが勝ち!!

 アタシはそそくさと、ガレリアを放置して駆け出すのだった。

 後方から怒り狂った彼女が叫ぶ声が聞こえたけれど、そんなこと知ったことではない。アタシはついに平凡なモブ令嬢に生まれたのだから!



 今度こそ、平凡な暮らしをしてみせる。

 そう、アタシは心に誓うのだった。



 





 はてさて、ガレリアを撒いて教室までやってきた。

 足を踏み入れるとすぐに気づいたのは、周囲からの視線がどこかおかしいこと。とりわけ女子たちはみんな怯えているようだった。

 その理由は明白。

 アタシは先ほどまでガレリアの取り巻きだったのだ。



「みんな、アタシを通してガレリアを見ているのね」



 アタシの目の前で彼女の悪口を言えば、完全に筒抜け。

 だから、緊張しているんだ。



「うーん、どうするかな。少し窮屈」



 そう悩むが、アタシはすぐに気持ちを切り替える。

 せっかく平凡なモブ令嬢に転生したのだから、頑張って普通の生活を送ってやろう、と。そう考えているうちに授業の時間になった。


 席は自由なので、とりあえず他の人に迷惑をかけない位置に腰掛ける。

 というか、どこに座ってもみんなアタシを避けるだろうと思った。


 そして、座ったタイミングで先生が入ってきてこう告げる。



「それでは、授業を始める。だが、今日はその前に――」



 初老の男性教員は、出入り口の方を見てこう言った。



「急遽、入学となった生徒を紹介する。入ってきなさい」――と。



 何事かと周囲は色めき立つ。

 アタシも首を傾げつつ、入ってきた女の子を見た。

 そして、こう思う。



「すごく、可愛い……」



 思わず口に出た。

 だって、それほどまでに可憐だったのだから。

 栗色の髪を肩ほどまでで揃えており、金色の円らな瞳をしていた。顔立ちは綺麗系というよりも、可愛い系。愛らしい容姿をした彼女は、少し緊張した面持ちで頭を下げた。そして、鈴の音のような声でこう言うのだ。



「あ、あの! ミリア・フレイアです! よろしくお願いします!!」



 少女――ミリアがそう名乗ると、先生がこう引き継ぐ。



「彼女は突然変異的に魔力に目覚めてな。特例での入学が認められた。まだまだ分からないことも多いだろうから、みんな仲良くしてやってほしい」



 そして、どこか空いている席に座るよう促した。

 一連の流れを見ていて、アタシは思う。


 あの子、どこか特別な運命を秘めているように感じる、と。


 アタシはこれまで何度も悪役令嬢に転生してきたのだが、その際には決まって、物語の主人公と思えるような特別な存在が対極にいた。転生したころにはすでに、アタシはそういった存在に喧嘩を吹っ掛けていて、後戻りできない状況。



「でも、今回は違うのよね……」



 少なくとも、アタシはそういったことに加担していない。

 なので、ここから上手く運べば――。



「あの、すみません。お隣いいですか?」

「え……?」



 そう考え込んでいると、すぐ隣にミリアがいた。

 彼女は困ったように首を傾げている。



「ア、アタシの隣……?」

「はい。どうも、他の席は埋まっているようなので……」

「あ、あー……」



 そりゃそうだ。

 みんな、アタシのことを避けているのだから。



「よろしいですか?」

「あ、うん。……ぜひ!」



 アタシが首を縦に振ると、ミリアはにっこり会釈して席に腰掛けた。

 そして、続けてこうお願いしてくる。



「教科書見せてもらってもいいですか?」

「あぁ、そうね。入学したばかりだから、持ってないんだ。良いわよ」

「ありがとうございますっ!」



 というわけで、アタシたちは肩をくっつけて勉強することになった。

 時々に言葉の意味を教えてあげたり、この学園についての質問に答えたり。そうやって授業が終わる頃には、アタシたちはすっかり打ち解けていた。



「ありがとうございました、ナタリーさんっ!」

「いいのよ、ミリア。また困ったことがあったら、アタシに聞いて?」

「はいっ!」



 にっこりと笑う彼女に、こちらも笑顔で応える。

 その時になると、アタシはこう考えるようになっていた。



 ミリアと、もっと仲良くなりたい……!



 今まで手に入れられなかった、平凡な日常。

 その中には決して欠けてはいけない、一つのピースがある。



 それは――お友達!



「それでは。私は一度、教員室に行ってきますね?」

「えぇ、行ってらっしゃい」



 何度もこちらを振り返って手を振るミリアを見送って。

 アタシは、蕩けるような笑みをこぼすのだった。



 楽しい学園生活には友達必須。

 そんなわけで、アタシは一つのミッションを立ち上げた。



「ミリアと一緒に、お昼ご飯を食べる……!」



 まずは、基本的なところから。

 アタシは静かに拳を握りしめて、燃え上がるのだった。


 







「ミリア、お昼ご一緒してもいいかしら?」

「ナタリーさん! ぜひ!」



 さて、午前の授業が終了して。

 アタシはそそくさと、ミリアのもとへ移動して声をかけた。すると彼女は、その愛らしい顔に花のような笑みを浮かべる。

 そして二つ返事で了承してくれた。


 第一関門、クリア!


 アタシは心のうちで、大きくガッツポーズ。

 天使のような笑顔を浮かべる彼女にほっこりしながら、とりあえず食堂へと向かうことになった。この学園には学生用の食堂があり、一流のシェフが料理を振舞ってくれる。

 貴族の令嬢、嫡男も多く通うこの学園ならでは、といった感じだ。



「えっと、それじゃ――」



 到着して、アタシはメニュー表とにらめっこ。

 そして今日の昼食を選ぼうとした。その時だった。



「あ、あの。ナタリーさん……」

「どうしたのかしら、ミリア?」



 ミリアの声に振り返ると、そこには申し訳なさそうな彼女の顔がある。

 首を傾げているとミリアはこう言った。



「私、やっぱり遠慮します……」

「え、えぇ!? どうしたの!?」



 その言葉に驚く。

 突然どうしたというのだろう。

 もしかして、アタシに向けられている視線に気づいた!?



「えっと、その――」



 そう考えていると、ミリアは小さくこう口にした。




「お、お金がなくて……」――と。







「あ、ミリアって平民出身だったの?」

「あはは、そうなんです。すみません、黙ってて」



 テーブルについて、アタシとミリアは食事を摂る。

 その時になって知ったのだが、どうやらミリアは貴族ではないらしい。平民の生まれで、偶然にも魔力に目覚めたとか。そういえば、教員も特例って言ってたっけ。

 お金がないというのは、つまりそういうこと。


 彼女にとって、貴族が利用する食堂のランチは破格なのだ。



「でも、良いんですか? こんな美味しい料理をごちそうになって……」

「良いの良いの、気にしないで。アタシたち、友達でしょ?」

「ナタリーさん……!」



 料理を目の前にした今でもなお、遠慮しようとするミリア。

 そんな彼女に、アタシはあっけらかんとした風にそう伝えるのだった。するとミリアは感動したように、晴れやかな表情を浮かべる。

 そして、深々と頭を下げた後に手を合わせてこう言った。



「いただきます……!」



 少し緊張した様子で、一口。

 その直後、彼女は目を見開き――。



「ほわぁ……!」



 蕩けたような表情になった。

 どうやら、お口に合ったらしい。



「美味しいでしょ?」

「はいぃ……!」

「どんどん食べてね?」

「あ、ありがとうございます!!」



 その反応が嬉しくて、アタシまで笑顔になった。

 本当にミリアは可愛らしい。この子と友達になれて、本当に良かった。



 ……いや、まぁ。

 まだ周囲からの視線は、ちょっと厳しいけれど。



「まぁ、そのうち平気になるわよね」

「なにか言いました?」

「なんでもないわ、気にしないで」

「…………?」



 アタシの独り言が聞こえたらしい。

 ミリアは小首を傾げるが、アタシはそれを流した。



 アタシはもう悪役令嬢でも、その取り巻きの一人でもない。

 この人生をもって、その呪縛から逃れてみせる!




「頑張ろう、本当に……!」







 一方その頃、ガレリア。

 彼女は食堂の物陰からナタリーを観察していた。

 そして、その向かいに座るミリアを見て、こう口にする。




「泥棒猫……!」――と。




 悔し気にハンカチを噛みながら。


 公爵家令嬢――ガレリア。

 彼女の怒りの感情は、燃え盛る炎となっていた。



 

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[良い点] ん?百合?百合の気配がしますがまさか? [気になる点] これは…期待していいのでしょうか、キマシタワア展開を…! [一言] 頑張ってください!
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