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残念美人である貴族令嬢は婚姻を望んでいます  作者: 花朝 はた
第二章 残念美人の女男爵は婚姻を望んでいます
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残念美人は国王に目通りする

残念美人のリーディエは国王に男爵として認められました。ですが最後に国王に仕掛けた罠に引っかかってしまい・・・。


 皆様、ごきげんよう。

 私、リーディエ・シュブルトヴァー男爵です。

 私は今、王城に居ます。ベェハル国の王城は小さいが高い石の壁に囲まれた強固な城です。堀が二重にも囲む造りで、強固をさらに増した城です。実際、この城は何度も敵に囲まれて、籠城して周辺貴族の義勇兵たちに救われてという歴史を刻んだ城なのです。


 この城で一番見るべきものは今でもうず高く積まれた食料品の貯蔵庫です。ネズミの被害が少ないという素晴らしい建物である貯蔵庫。どうやって害を減らしているのか興味があります!そう思って貯蔵庫に直行しようとした私を大伯父様がまた小脇に抱えて謁見の間へと引っ張って行きました。あの貯蔵庫の謎を調べさせて欲しい、それを男爵領で実践するんだ!と叫んでいたら、大伯父様に口をふさがれました。

 「いい加減にせんか!お前の仕事は国王に目通りをして、男爵領で治世を始めることを報告することだ!」

 「そんなの前に国王に目通りして、貴族年鑑にも載ったのだから、別にいいと思う!」

 私は反論します。

 「だめだ!あれは1年以上も前の話だ!お前がラドミラからリーディエになってから、国王に会いに来なかったと機嫌を損ねられれば、男爵への叙爵も取り消されるかもしれん!国王に会って、身分を保証されればいくらでも領地でのんびりしてもいいから、今だけ、今だけ我慢しろ!」

 そう大伯父様に言われた私は俄かに尻込みしてしまいます・・・。

 「・・・私は新参者ですから、確かに謁見をした方がいいのはいいのでしょうけど、ちょっと化粧をしていないので、いまいち調子が出ないというか・・・」

 「・・・何を言っとるんだ・・・」

 大伯父様が頭を抱えました。

 「・・・お前は男爵として国王に謁見するのではないのか?それとも隣国の元伯爵令嬢として謁見するつもりか?」

 「ラドミラとして謁見すれば、国王も喜ぶのではないかと思いますが・・・。シュテファン王も昔はおばあ様のファンだったんじゃないですか?それなら化粧したほうがアピールできるのではないですか?」

 私の言葉に大伯父様は怒ったように私を睨んできます。

 「・・・それについて、もう二度と言うな。いくらわしの妹孫でも庇いきれん」

 「・・・わかりました」

 怒っている大伯父様のお顔がとてつもなく怖かったので、私は口をつぐんで、大伯父様の隣でせっせと足を動かすことにしました。


 謁見の間には予想以上の貴族が居ました。冬が近いため、領地から動かないのではないかと思いましたが、王都近隣の貴族は移動がさほど厳しくないのか王都に居る者も多いようです。皆シュブルト男爵領を継ぐ者が誰なのかに関心があったのでしょうか。え?何、そんな重大な関心事なの?思わず私は謁見室に居並ぶ貴族たちにちらちらと落ち着かない視線を投げかけてしまいました。

 貴族たちは一様に無表情なようでいて、好奇心にあふれた目をしています。無関心だよ、国王が集まれと言ったから集まっただけなんだよ、別にシュブルト男爵領の後継者が誰かなんてどうでもいいんだよ・・・、まじまじ・・・。なんていう心の中の呟きが聞き取れそうな気がします。なんか変態さんたちが集まってる気がする・・・。期待だけが高まっていると言う異様な感じに大伯父様は何か落ち着かない様子です。

 私達が入ったドアの反対側の壁側に赤いクッションが背に縫い付けられた背の高い椅子が置いてあり、そこに一人の男性が座っています。背後のドアが私達が入った後閉められると、その椅子に座った男性が立ち上がります。

 それを合図のように私と大伯父様はその男性の方に進みます。って、誰かって?そんなもの決まっていますよ、あの方はベェハル国の国王様です、って、わかってましたか・・・。


 王の椅子、玉座は一段高くなっているところに造られていて、私達は高くなる段の手前で足を止めます。

 私は伯爵令嬢だったころに覚えた礼儀作法にのっとって、片手を胸に当てて頭を下げる見事な騎士礼を行います。目の前にはベェハル国のシュテファン王が立って居られます。ん?伯爵令嬢のころの礼儀作法なら、カーテシーじゃないかって?そんなものこれから男爵になる私がするわけはないでしょう?私はシュブルト男爵領の当主なのですよ。女性の礼儀であるカーテシーをしたら、ばかにされてしまいます。

 「・・・頭を上げよ、両人とも」

 頭を上げると、シュテファン王は私を見ながらなぜか笑みを浮かべています。ちなみにシュテファン王は若い王で、まだ30にもなっていないとのことです。今のように近くで見るとその通りとわかります。国王の視線は私にとどまっているのですが、私はちょっと微妙に視線を外して目を合わせないようにしています。正視しないようにしているのです。なぜかと言うと、王族に視線を合わせてはならないからです。視線なんか合わせたら不敬ですよ。

 「一別以来だな、リーディエ・シュブルトヴァー殿。無事にプシダル国の王立ハルディナ学院を優秀な成績で卒業されたとか。目出たいことであるな」

 「・・・ありがとうございます」

 私が頭を下げます。

 「・・・もうシュブルト男爵家に養子に入ったとか聞いたが、真か?」

 「はい、左様でございます、陛下」

 大伯父様が王の視線が私に向いているのをいいことにまっすぐに王を見て答えました。

 「それで、私、クリシュトフ・シュブルトは引退し、ラ、ではなくてリーディエに爵位を譲りたく思います。陛下、お許しを戴けませんでしょうか」

 「・・・相分かった。クリシュトフ・シュブルト男爵の要望を聞き入れ、ここにシュブルト男爵位はクリシュトフ・シュブルトが養子、リーディエ・シュブルトヴァーに引き渡したことを、我、ベェハル国国王シュテファン・ベェハルが承認する。何人もリーディエ・シュブルトヴァーの男爵位継承を疑うことなかれ」


 そういう国王の宣下の後、私達はひそひそ話を始めています。ひそひそ話が聞こえるのでしょうか、周りの貴族の面々は眉をしかめている方もいますね・・・。ですが、私は不安で一杯なのです。

 『大伯父様、これでもう私は男爵になったということですね?』

 大伯父様は仏頂面で答えられます。

 『・・・そうなるな』

 『もう男爵になったのなら、ここに来なくてもよくなりますよね?』

 『・・・そういうわけにもいかんだろう、呼び出されれば答えないわけにはいかん』

 私に答える大伯父様の言葉がなぜか気弱なものになっています。珍しく国王という権威には弱いということなのでしょうか。

 『・・・違うからな』

 大伯父様がポツリと言われました。

 『・・・違う?』

 『・・・わしは権威に弱いわけではないと言っとるのだ』

 私の考えを読むとは大伯父様、案外やりますね。

 まだこそこそと内緒話をする私たちの様子をシュテファン王はくつくつ笑いながら見ています。

 「そなたら、このベェハル国の王の前でこそこそと会話などするな、全部聞こえているぞ」

 「・・・申し訳ございません・・・」

 私と大伯父様が丁重に頭を下げます。


 「シュブルトヴァー男爵はもう王都には来る気はないのか?」

 「・・・御座いません・・・」

 「そんなに王都が嫌だと?」

 「・・・領地の方に注力したいと思っております・・・」

 「では聞くが、国王である私が来いと命を下したらどうするのだ?」

 「・・・出来得る限り拝謁させていただきます・・・」

 「男爵、出来得る限りとはどういうことだ?」

 「・・・私は男爵として王に仕える身となりました・・・。・・・その王の命に応えることに致してはおりますが、不可抗力な時もあるかと・・・」

 ワザとの不可抗力もありますよ。うふふふ・・・。

 「だから男爵は時折命に背く場合もあると言うのか?」

 「・・・その通りです・・・」

 「なんだか、語尾が宙に消えて行くな」

 「・・・気のせいでは・・・?」

 言葉がフェードイン、フェードアウトするのは国王、あなたのうそくさい笑顔の所為ですよ、と、そう言えたらどんなに楽だろう。

 「・・・これ、リーディエ、国王に対してうそくさい笑顔などと言ってはいかん」

 「・・・何も言っておりませんが?」

 「そう思っておっただろう?」

 「思っただけです、口に出しては居りません」

 「言ったら不敬になるぞ」

 「口に出してないと言っています。私は思っただけですよ。先に口に出したのは大伯父様、あなたです」

 あ、口に出してしまいました。やり取りが聞こえたらしい周りがざわざわし始めます。

 「・・・そなたら、勝手なことを本人の前でよくも言ってくれたな・・・」

 そういう国王の顔は相当の笑顔でした。笑顔が怖いと感じたのは久しぶりです。

 「そなたらの言いたい放題に我慢がならなくなった私は、先般リーディエ・シュブルトヴァー男爵の先代のミロスラフ・シュブルトに送る予定だった子爵の爵位をしばし凍結することにしようと思う、男爵、並びに前男爵、恨むなよ」

 「・・・」

 「・・・」

 私と大伯父様は無言になりました。やっぱり来るんじゃなかった。


 「つまりはだな、」

 シュテファン王の謁見の間に隣接した執務室に、私と大伯父様は招かれていました。他には秘書官と近衛騎士しか居ません。

 「国内の他の貴族から異論が出ましたか?ラ、ではなく、リーディエは元他国の貴族令嬢だと」

 大伯父様が国王の言葉を遮るように言われました。大伯父様、王族の言葉を遮るなんて、私でもやらないことを平気で。命いらないのかな?もう死にたいの?

 「・・・まあそんなところだ。本当は私自身はシュブルト領は子爵領で良いと思ったのだが、お隣の国のラドミラ・カシュパーレク伯爵令嬢が男爵の中身ということでな、急に異論が出てきてしまった。無条件で爵位は与えられんと、爺共に言われれば、仕方がない。ここで私がごり押ししたら、反対に男爵が色眼鏡で見られてしまうのではないかと思ってな。そのため決定事項だったのだが、シュブルト男爵がシュブルト子爵になるのは当分お預けだ」

 私はちょっと不満顔で声を開きました。

 「・・・契約不履行なのではありませんか?」

 国王陛下は苦笑しました。おや、案外素直でしたね。素直に認めたことで、私の国王評が上がります。

 「そうかもしれんな。だがあ奴らの言うことも一理ある。いくら私が男爵の継承を認めたからとは言っても、ベェハル国の隣国から来た令嬢に肩入れするなと言いたいのだろうな。領地経営に失敗して、隣国に帰ったりしたら優秀な男爵領が荒れてしまう。それなら爵位を上げることなく領地経営をやらせて見極めがつく様にしてから叙爵という流れにした方がいいのではないかとな、つまりは未知数なシュブルトヴァー男爵の手腕がどれだけのものなのか測ってからでも遅くはないと、そう言っている爺共が多く居るのだ」

 「・・・優秀な男爵領?」

 私は言葉の一つが引っかかりました。眉を寄せて思わずつぶやきました。

 「・・・異論がありそうだな、リーディエ・シュブルトヴァー男爵?」

 国王陛下は面白そうな表情になって私を見てきました。よくよく見ると、国王陛下はなかなか男前ですね。でも大伯父様のお顔の方がすごく美しいから、私が陛下にときめくことはないでしょう。

 「・・・昔の話だが、我がシュブルト男爵は戦で頭角を現した家だ。最初は今の領地の三分の一の広さしか領していなかった。シュブルト男爵家は隣のクバーセク国との戦で、幾たびも戦功を現して加増を受け、今の領地を授かった家だ。王はそのことを指して優秀と言っているのだ」

 私の心の中を今回は正しく読めなかったのか、大伯父様は真面目に解説をしてくださいました。

 「・・・そうでしたか。美貌だけが取り柄の家かと思っておりましたが、戦に強い家なのですね」

 私の言葉に、国王陛下が吹き出しました。

 「美貌だけとは、ぶふっ、なかなか言う」

 大伯父様が国王陛下を横目で見ながら、苦虫をかんだようなお顔になって解説をしてくださいました。ただ何かそのお顔に黒いものが垣間見える気がするのですが、見間違いでしょうか・・・。

 「・・・ラ、ではなくリーディエ、わが男爵家はそういう意味で良くも悪くも注目された家なのだ。だが、お前が家督を継ぐと言ってくれたからよかったが、誰も家督を継ぐと言わなければ、どこの馬の骨かわからん奴が領地を有して好き勝手やったかもしれん。わしがミロスラフの葬儀の後、即お前を養子として入れたのは男爵家を護ろうとしたからだ。わが男爵家に自分の意に沿う間抜けを入れそこなったおえら方の嫌がらせで、お前の叙爵がなくなったというわけだ。表向きは経験不足という理由でな。それに同調したのが、ここにいる国王陛下ということだ。国王陛下も自分の意に沿う間抜けを家に入れ損なってさぞかし悔しかったんだろうよ、だから叙爵却下に反対しなかったということだろう。そうですよね、陛下?」

 大伯父様?!それは禁句なのでは!

 「・・・概ね合ってはいるが、違うところもあるぞ。私は男爵家にごり押しをしようと思ったことはない。だから私は一切養子についての意向は出してはいない。シュブルト元男爵クリシュトフ、私はシュブルト男爵家がなくなるのが嫌だっただけだ。だから養子の件についても成り行きを注視した。

まあ、プシダル国のラドミラ・カシュパーレク伯爵令嬢をリーディエ・シュブルトヴァー男爵とすると言ってきたときには、全くの予測できなかったがな。だが、それは概ね面白い策と思えたので、即許可を出した。爺共がとやかく言う前にな」


 こうして私達は国王陛下への謁見と、そのあとの私的会見を終えたのですが、私は有意義とは言い難い時間を過ごしました。何だか、眉間の皺が取れない感じがします。反対にシュテファン王は終始満面の笑みでしたが、別れ際に真剣な表情で私に話しかけてきました。

 「シュブルトヴァー男爵、一つ頼みがあるのだが」

 「・・・頼みですか?」

 私は言いながら身構えます。

 「・・・その、何だ・・・」

 相当言いにくそうです。もじもじするなと言いたい。はっ?まさか!私を囲うつもりでは!

 「・・・今度化粧して、エヴェリーナ・シュブルトヴァーみたいになって夜会に出てくれないか?」

 クラりとする私です。やっぱりこの人、おばあ様のファンなんだ・・・。


リーディエは男爵となったのですが、夜会参加を余儀なくされてしまいました。

次回は伯爵家と協議して、対応を決めます。そのあと、冬が来ますので、かねてより考えていた領の特産物を試作しようと思いますが、そんな折、屋敷に昔馴染みが訪ねて来て・・・。

リーディエの婿探しも同時に始まります。

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