表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残念美人である貴族令嬢は婚姻を望んでいます  作者: 花朝 はた
第二章 残念美人の女男爵は婚姻を望んでいます
7/45

残念美人は男爵領にたどり着く

女男爵となったリーディエですが、領内と言う足元を固める暇もなく、王都に男爵家の養子となった旨を報告しに、国王に謁見を賜るため、王都に出発します。ですが、領地の事はいそいそと行動しますが、それ以外はやる意味を見出せないリーディエです。嫌々王都に向かうことになりました。

残念美人のリーディエですが、容姿は整っていますので、容姿だけを見れば残念ではないのですが・・・。言動がちょっと・・・。

 皆様、ごきげんよう。

 憶えておられますか?私はリーディエ・シュブルトヴァー男爵です。本当に覚えておられませんか?元の名をカシュパーレク伯爵の長女で、ラドミラです。王立ハルディナ学院の卒業行事のパーティで、公爵家の次男というぼんくら坊ちゃんに婚約破棄をされた、残念美人です。ふぅ・・・。

 あ、自分で残念美人と言ってしまって、ちょっとだけ悲しくなってしまいました。ちょっと前には一人二役をやっていました。片や好きでもなくむしろ嫌いなぼんくら坊ちゃんに好かれないといけなくて、もう片方では変装して嫌われなければならなくて、相反することをしなければならなかったため、精神的に疲れてしまいました。そのため迎えた冬はいつも以上に暗く過ごしましたが、もうあのぼんくら坊ちゃんと会わなくてもよくなって、冬が過ぎ春が来て、沈んだ気持ちも少し持ち直した私です。


 私はプシダル国から離れてベェハル国のシュブルト男爵領に居ます。去年の初夏にあった学院の卒業式は問題はありません。私は卒業式の後、教員に王城官吏登用試験を受けるために必要な推薦状を貰いに行きました。ただこの推薦状はキープしておきました。そしてその後本命の目標である婚約破棄をしてもらうつもりのパーティに出ました。もしこのパーティで婚約破棄がされないときは、熱心に誘ってもらった大伯父様にも申し訳ないのですが、目標とした男爵には成れないでしょう。パーティに出るまでは少々弱気になっていて、そのまま推薦状を使って試験を受けて官吏になるしかないかなと思っていたのです。しかしパーティに出て、そして思惑通りに婚約破棄を勝ち取ることもできて、本当に安心しました。

 私は今ではこのシュブルト男爵領で先々代の当主だった大伯父様に領主の仕事を教えてもらいながら暮らしています。


 結局あのパーティでの婚約破棄の後、私は卒業パーティを途中で抜け出すことになりました。本当はお開きになる前に、既成事実としたかったイグナーツ・ペリーシェク様が焦って婚約破棄を慌てて言いだすのだろうと考えていたのですが、案外冷静にイグナーツ・ペリーシェク様が破棄を言い出すとは思っても居ませんでした。私を支えてくれた弟ヴィーテクとそのヴィーテク言うところの親友達、私に言わせれば不良の悪友が、イグナーツ・ペリーシェク様が私を責めようとしていた時に姿を現してくれた時に、どれだけ心強かったか。ですから、私は安心して破棄を聞くことができたのだろうと思います。


 パーティを途中退席した私は、当初の予定通りカシュパーレク伯爵タウンハウスに立ち寄り、パーティドレスを脱いで、締め付けない外出着に着替えます。そのあとエントランスに出ると、そこには母が居て、手荷物だけを持って出立しようとする娘の私を見て涙を流していました。

 「今生のお別れというわけではないのですが、もう好きな時に会うことができなくなってしまいました。育ててもらった恩を忘れたことはありませんが、子供はいつかはこうしてお別れしなくてはなりませんから。今までありがとうございました。そして、またお会いしましょう、母様。お元気で」

 優雅に見えるようにスカートを、片手でのみ摘まんでちょこっとだけ持ち上げて頭を下げました。近寄った母が有無を言わさずぎゅうぎゅう抱きしめてきます。イタイイタイ・・・。

 「あなたも元気でね・・・。あちらの男爵家の血を絶やさないようになさい」

 そ、それは今すぐは難しいと思いますよ、相手が必要ですし・・・。でも、案外母は力が強いのですね。さっきから抱きしめる力が半端なく強くて、ものすごく痛くなってきましたよ・・・。痣になるかも・・・、イタイ・・・。

 「奥様、そろそろやめて差し上げてください、お嬢様が苦しがっています」

 執事のフィリプが母に声をかけています。

 「・・・あらま・・・」

 ようやく解放されました・・・。これは絶対痣になったな・・・。痛かった・・・。


 大伯父様が用意して下さった馬車がひっそりと玄関に横づけにされています。紋章はありませんが、がっちりとした造りの馬車です。なぜか、4頭引きで、何に備えているというのでしょうか。御者が交替するためか二人、護衛が3人という陣容です。何から逃げるのでしょう?昼夜問わず走るつもりなのでしょうか。馬車は御者台の左右も覆っているもので、何か襲撃を想定しているかのようです。

私が抱きしめられた痛みからよろよろと玄関から出てくると、護衛の方が一人さッと駆け寄って支えてくれました。甘い香りがします。ん?あれ、この方女性だ。

 「男爵大丈夫ですか?なぜかよろよろされていますが」

 「ああ、ちょっとバカ力で抱きしめら」

 「ラドミラ!たわごと言ってないでさっさとお乗りなさい!」

 母です。自分の失敗を隠そうとしていますね、これは。逆らわず私はそのまま支えられながら馬車に乗りました。女性の護衛の方が我が母に一礼して一緒に乗り込みました。護衛の残りの二人は騎乗しています。

 御者が鞭を振るって、鋭い音を出しました。馬が弾かれた様に走り出します。馬車の窓から私は頭を外に出して、母とそして長く暮らしたタウンハウスを見つめます。馬車が伯爵のタウンハウスの敷地から出て道を進んで行きます。小さくなる母の姿が豆粒のようになってから姿が見えなくなった時、私の目は、泣くまいと決めたはずの私の意思を裏切って涙を流しました・・・。


 馬車は国境への道をごとごと進んでいきます。国境は一本の川です。その川にかかった石橋を馬車と騎乗した護衛が通り、そして馬車がシュブルト男爵領に入ったことを示す標識を見た私は、思わずつぶやきます。

 「・・・これで、私もベェハル国の人間です」

 その声が聞こえたのか、同乗する護衛の女性ガリナが無言のまま、軽く頭を下げました。

 「次期御屋形様、歓迎いたします」

 「次期御屋形様?」

 私が護衛のガリナに尋ねます。

 「シュブルト男爵領では、当主を御屋形様と呼びます。その御屋形様になられるので、次期御屋形様と」

 ガリナが光り輝くような笑顔で説明しています。ですが、私はその呼び名がちょっと気に入りませんでした。

 「私は男爵様と呼ばれたいなあ。女男爵。いい響きじゃない?」

 私が目にハートマークを浮かべてそう言うと、笑顔を引っ込めて真顔になったガリナが再度繰り返します。どうやら、何言ってんだ、こいつと思われたようです。ちょっと自己主張が強すぎましたかね?いじめられたりするのでしょうか?

 「御屋形様、領内に入ったといえど、さほど安全ではありませんので気を抜かないでください。女男爵が襲撃されて命を落としたなど目も当てられませんと思いませんか」

 脅しですか?脅しですね?私が意に沿わないことを言ったからって、脅すなんて大人げないですよ。全く。でも確かに油断は禁物です。ここは御屋形様として重々しく頷いておきましょう。と、今は可愛い顔のリーディエでした。ガリナが目をむいてむせています。どうやら相当似合わないことこの上ないようです。笑いをこらえるためでしょうか。むせかえって、苦しそうです。ふん、人を笑うからそういう目に遭うのですよ。


 「御屋形様は、どうして伯爵令嬢から男爵をお継ぎになろうと思われたのですか?」

 休憩のために比較的大きめの村の宿屋の食堂兼談話室で、椅子に座ると、傍に立つガリナが話題を振ってきました。先ほどのことがあったので、私のご機嫌を取ろうとでも言うのでしょうか?でも私は寛大な男爵なのです。あんなことで怒ったりはしません。しばし考えて真面目に答えてあげます。

 「・・・機会があったからかな。生まれたときから決められていた婚約者がどうしようもなく嫌いだったから、一緒に暮らすことを容認できなかったし、婚姻しなくても良い道をいつも探していたのよ。学院では王城の官吏になれる推薦状を成績優秀者に出すと言われていたから、それを貰えるようにいつも優秀だと認識されるように努力していた。そんな時に大伯父様に男爵になってくれと言われて、あのぼんくら坊ちゃんと一緒にならなくてもいい道が他にもあったんだって分かって。まあ、正直当主として領地経営できたらいいなとは思ったし、領地をもっと盛り上げられたらとも思った。領地に住む人がもっと余裕をもって生きられるのならいいなと思ったから、この機会に継がせてもらおうと思ったのよね。どこまでできるか試してみたかった、それがこのお話を受けた理由よ」

 私は座ったまま、ガリナを見上げながら答えたのですが、ガリナの表情があまり変わらなくて私の言葉が正直なところガリナの心に届いているのかよくわかりません。ですが、この機会に日々思っていることを届かないなら届かなくてもいいので、伝えてしまいましょう。言葉に出すとそれだけでもうなかったことに出来ないと言うか、私の中では自分の心から伝えた言葉と言うものは、相手に届いていなくても一定の拘束力を持つと思っているのです。

 「男爵という地位には正直魅力を感じてるけど、地位に固執してるわけじゃないの。ただ自分勝手な理由なのだけど、男爵位を継ぐと決めたあとから、学院でせっかく学んだことが無駄になるような気がし始めて、領が豊かになれるのなら学んだことを利用したくなったのよ。だからみんなも私の領地経営の手助けをしてほしい」


 そのようにして私は途中で休憩を入れながら、馬車で走り続けて国境を越えて丸一日かかってシュブルト男爵領の当主館に到着したのでした。

 「ラドミラ!」

 私がガリナに手を借りて馬車から降りていると、もう相当のお年を召したはずの大伯父様が近寄ってきました。

 「ラドミラではありません、私はもうリーディエです」

 大伯父様は私が幼子の時からずっとラドミラ呼びしてきていますので、簡単に私をリーディエと呼ぶことができない様子です。私が大伯父様をジト目で見ます。

 「お、おおっと、す、すまないな、ラドミラ・・・、じゃない、リ、リーディエ」

 私はため息をつきますが、今日だけは怒ることなく大伯父様と接しようと思って大伯父様に笑いかけます。

 「・・・でも、お出迎えありがとうございます。ようやくシュブルト男爵領の屋敷にたどり着きました」

 私はそこまで言って、意識を改めます。表情も真面目にしました。

 「クリシュトフ・シュブルト大伯父様、リーディエ・シュブルトヴァーとして今ようやく参りました。遅くなりましたこと、お詫び致します。今後、ご指導のほどをよろしくお願いいたします」

 私が軽く淑女の礼をすれば、大伯父様がピシッと姿勢を正し、胸に手を当てて一礼をされました。

 「リーディエ・シュブルトヴァー様、歓迎致します。今日これから、ここがあなたの暮らす家だ。存分に力を発揮して、この領を盛り上げてくれ。頼むぞ」


 そのあと、私は荷をほどく暇もないくらいに大伯父様にせかされて、最初の仕事をしました。最初の仕事は大伯父様と一緒に雪の降る前に男爵領の集落を回って、冬に向けた備蓄が十分かなど凍てつく長い冬を乗り切ることができるかを調べることと、私、リーディエ・シュブルトヴァーが男爵家の当主となることを報告するということでした。領地の村々に顔出しをして、村々に備蓄が十分にあると確認して、村の社交場ともいえる水くみ場に村の皆さんに集まってもらって、大伯父様が私を新たに領主となることを報告、歓迎されてささやかな宴会が開かれて、領地の領民に顔を知ってもらう。それを毎日繰り返して領地をくまなく回り、領民たちと仲良くなれたのではないかと思い、私は満足しましたが、その後が大変になりました。

 領内の集落を全部回り終えた頃には約一月経って居り、領民との顔見せが終わったと思った私がのんびりできると考えたのですが、突然大伯父様は雪が降る前にと、私を急きたてて、王都に行って王にご機嫌伺いに行けと何度も言います。

 「私が行っても意味がないと思いますけど」

 私が口を尖らせると、大伯父様は呆れたように私をまじまじと見て、言いました。

 「何を言っているんだ。お前はシュブルト男爵領の領主となる。王に謁見をして、王を蔑ろにはしないと意思を示して、それで王に男爵位を認めてもらわなければならない。1年前に王に会ったのは王にわしの後継者がラドミラですという顔見せだ。わしがこの1年の間に王にラドミラ、お前がこの地に来て養子縁組をするからと連絡をしておいた。その通りに養子にした旨を王に奏上して、王が認めればラドミラ、お前は晴れて男爵となる。お前の養子容認の後、続けてわしの引退もするからな」

 私は毎回のように言っている言葉で、大伯父様を注意します。

 「大伯父様、私はもうラドミラではありません。まったく何度言っても覚えないんだから」

 「お、おお、これはすまなかった。リーディエだったか、今の名は」

 「そうですよ。これからラドミラと呼んだ時には無視しますからね、無視」

 「ああ、わかったわかった。それで王都までこれから行くことになるがよいかな?」

 「・・・これからですか?」

 私は周りを見渡します。木々の葉が色づき、赤や黄色が深く感じられます。冬が近づいています。じきに雪が降り始めるでしょう。そんなときに王都に行くなど、帰れなくなったらどうするの?ですが、私の周りを見回して雪が降ったら帰れなくなるアピールは空振りに終わりました。大伯父様はこともなげに言い放ったのです。

 「そうだ、本格的な冬になる前に戻ってこれるように今すぐ立たなければならない」

 

 結局、私の抗議もむなしく、最後には行きたがらない私を小脇に抱えるような感じで、大伯父様が私と一緒に馬車に乗り込みました。馬車の中で怖気ずく私を、大伯父様は監視しながら王都へと向かいます、というよりは拉致されたのと同じでしょうか。相当嫌がった私に気分を害されたのでしょう、私を睨みつけている大伯父様の老年になっても美男なお顔がものすごい形相になっているのを見たくなくて、大伯父様を真正面に見ないようにと、私はなるべく目をそらしていました。内心大伯父様の言う通りに、もう諦めて王都に行く事にしたのに、そんなに睨まなくてもいいのに、とグチグチ言いながらも私は大人しく馬車に乗っています。





第二章の始まりです。リーディエは女男爵として領地を発展させることに傾注しています。なので、それ以外の事は、案外どうでもいいと思っています・・・。いいのでしょうか、それで。

次回の話以降、リーディエの婿取り話があちこちから出てきますが、リーディエは果たして恋愛をして婿殿を迎い入れることができるのでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ