残念美人は予想通りの展開に笑みを洩らす前編
領地で夜会を催してついでに婚約者を発表し、さらには過去の事件の関係者を暴こうと言うのですが、欲張りですね。
欲張りなので、長くなってしまいました。前編、後編となると思います。後編はもう少しお待ちください。
皆さま、ごきげんよう。
私はリーディエ・シュブルトヴァー伯爵です。
今日は私の夜会という名の婚約披露です。そして、婚約披露以外にもちょっとした趣向を盛り込みました。私は期待しておりますが、皆様はどうでしょうか。ふふっ、お楽しみください。
会場としたアルノシュト城の大広間には、音楽が演奏されています。音楽にもう少し造詣が深ければ、私も演奏などをしたいと申し出ていたかもしれません。
一応私もプシダル国でも貴族の令嬢でしたので、音楽は学んでおりました。案外音楽を私は好んでおりましたので、その所為あってか、音楽の練習は毎週欠かさず行い、学院の卒業するぐらいには演奏の腕も素人としては上手と言われるほどになりました。小規模の会で内々に演奏をお聴かせするのは良いと思われますが、もし万人の前でと所望されたとしたら、より一層の精進が必要でしょう。
私は大広間に即席で作られたひな壇の上に立ち、近隣から訪れたお客様を主催者として迎え入れています。もちろん、訪れた方々は今日の夜会がどういうものかわかってきているはずです。そして、このまま会が終われば、私の婚姻の相手が周知されるということになります。
この会で、私に求婚していた方々は私に選ばれなかったことに対して騒ぐと思っています。私としても、このようなところで騒ぐような方々と婚姻するなど、本心を言えばまっぴらごめんではありますが、選ばれなかった方々は自分なりの美点や利点があると自画自賛する方なのでしょうから、私がご自分を選ばなかったことを許せないと思うのではないでしょうか。
そのために、シュブルト領騎士団を再編したわけではないのですが、この夜会が新生シュブルト領騎士団の初仕事になります。騎士団団長は騎士爵持ちなのですから夜会に出る地位にいるのですが、今回に関しては夜会に出席することではなく、会場を警備することを選んでいます。
『騎士団団長ではなく、騎士爵持ちとして出てもらいたいのです』
『・・・お断りいたします。私は騎士爵を確かに持っておりますが、騎士爵では貴族といえない半端者です。当日は警備主任として会場にいることにします』
残念ながら断られてしまいました。私の騎士団再編に対して何か含むところがあるのでしょうか。軍人ではなく貴族として遇しようといた結果、従士を兵にして従士の衣食住の面倒をわがシュブルト家でみようとして騎士団再編をしたのですが、まさか従士を取られるのがそんなに嫌だったとは思いませんでした。
『・・・何かお考えが明後日の方に行っているように思います。私が言うのは、貴族としての教養がないので夜会などに出るのはお断りしますという意味で言っているのですが』
『・・・貴族としての教養ですか』
『はい。私は武辺ですので、優雅な振る舞いなどできませんし、何より腰に剣がないのは、落ち着きません』
強硬に主張されまして、今回の騎士団団長はじめ、師団長たちには夜会の警備か、会場の巡視をしたいと言われて結局のところ、近衛として騎士団から選抜をして目立たぬよう、会場に配置いたしました。夜会で踊るなど、騎士の方々には思いもよらないことなのでしょうか。
さて、夜会の開始時刻前のことですが、シュブルト領は広いので、日帰りができる招待客は存在せず、全員が領都カイェターンの宿に宿泊して居ります。それらの宿から招待客が大広間に集まり始めたころ、監視をしているチェスラフが報告を上げてきました。
『御屋形様、目標が会場に向うのでしょう、宿を出ました。ただ何度も使者を送っていましたが、返事はなく、不安なのでしょう、相当顔色が悪いです』
『・・・まあ、びくびくしているでしょうね。すぐお隣の夜会に招待されて行かないわけにはいかないところでしょうけど、慌てて使者を送るなんて、黒幕が誰かを周りが明白になるようなことをするとは。そこまで内心慄いていたなんて、思いもよりませんでしたね』
『・・・後ろにいる者も抹殺いたしますか?』
『・・・生かしておいてよいと思わない?』
『シュブルト家の恐ろしさを知らしめなくても良いのですか?カシュパーレク家の血が入ってはおりますが、御屋形様はれっきとしたシュブルトの主です。その御屋形様がヤワだと言われるのは、シュブルト家を支える者としては腹に据えかねることなのですが』
『・・・過激なのね、チェスラフ。私の婚姻後に動こうと思ってるので、今しばらくの辛抱ですね。・・・もう少し間を置けばシュブルトの力は、王家と並ぶことができるはず。そうなれば、ヤワとは言えないでしょう?
わかったのなら、監視に戻りなさい。今は仇を取る事だけ考えて相手を見張ってほしい』
『・・・かしこまりました』
頃合いを見て、私が上座から、声を張り上げ、夜会の開会を宣言します。まだ到着していない方もいるのですが、広間は随分談笑する人で埋まり始めていましたので、良い時刻でしょう。
「皆様!我がシュブルト家の集まりにご参席いただきましてありがとうございます!今宵は我がシュブルト家に祝い事があり、その祝いをご参席いただきました皆様と分け合いたく思います!ささやかではございますが、皆様が楽しめるように山海の味を揃えました!わがシュブルト家へのご厚情をこれからも賜りますよう、よろしくお願いいたします!」
私は口上を終え、一礼します。一拍おいて、割れるような拍手と歓声が響きます。見渡すと出席者以外にも我がシュブルト騎士団の者が歓声を上げているようです。あらあら、羽目を外しちゃダメだと言いましたのに・・・。ちらりと目立たないように広間の奥まった場所に立っていた騎士団団長に視線を飛ばしておきます。私の視線を受け、団長がぴしりと一礼してから、騎士団の者に怒気を込めた視線を浴びせていきます。
幾分音量の下がった歓声でしたが、私が再度声を上げますとだんだんと下火になります。
「・・・では、皆様、会は始まったばかりです!ご歓談くださいませ!」
こうして会は始まったのですが、私が傍らのラドヴァン様とこの後の動きについて小声で話していると、仏頂面の面々が現れます。
例の婚約者候補だった面々は、怒りで顔を赤くしているお隣侯爵家の次男様とお隣男爵家の独身当主様です。
「・・・ラドヴァン・ベチュヴァーシュ、あなたが選んだ婚約者とは彼のことですか・・・」
ボリス・ズーレク男爵が顔を歪めて私を見て低い声で呟くように言われます。
「・・・そうです。私には勿体無いくらいに位の高いお方です。一応我がシュブルト家に婿入りの予定ですが、ベチュヴァーシュ公爵との間柄は保たれるでしょうから、公爵家と我がシュブルト家の間も強固になりますね。現王家にとっても王家に忠誠を誓う公爵家の一派にこのシュブルト家が入ることになるので、利点が多い婚姻でしょう」
「・・・くっ、やられたわ。だが、我がズーレク男爵家の山からは鉱物が採れる事を知らないのですか?最近石炭を領境で見つけたということですが、ズーレク領でも同じように採れると考えなかったのですか?」
ボリス・ズーレク男爵が言い募っている間、レオポルト・ストルナド様はただただ体を震わせているだけです。
「・・・採れるかもしれません。ですがそれは些細な事、私は別の鉱石も掘り出すつもりなのです。それに、男爵、あなたがよりどころにしている本家のズーレク伯爵は、現ご当主様の容体も持ち直したようですよ。我がシュブルト領の財を土産物に本家に返り咲く思惑が外れてしまい、残念なことですね」
「・・・確かに残念なことですがね、あなたが今後いなくなったら、シュブルト家は今後どうなるか、行く先は見通せなくなりませんかね?」
ボリス・ズーレク男爵がちらりと視線を脇に向けます。
丁度その時、レオポルト・ストルナド様が叫びだしました。その叫び声のために、私は男爵がどこに視線を向けたのか、その時に確認することができませんでした。
「ふっ、ふざけるな!」
わなわなと体を震わせながら、レオポルト・ストルナド様が歯ぎしりするような耳障りな音を漏らしながら怒鳴りました。
「なぜ、あなたはこの男を選んだんだ!そんなに公爵家とのつながりが欲しいのか!」
おやおや、レオポルト・ストルナド様、よほどご自分の地位に自信がおありのようです。
「・・・これはまた、レオポルト・ストルナド様、ご機嫌いかがでしょうか?・・・公爵家とのつながり?おや、ストルナド侯爵家は、ベチュヴァーシュ公爵とのつながりは要らないということでしょうか?経営に失敗して今にも領の財が消えそうなストルナド領は、私では立て直すことなどできませんし、我がシュブルト領の財は我が領内で使うべきものです。領地経営を成功なされている公爵とつながることが悪いと言われるのですか?
まさか、共倒れするかもしれない貴族と結ばれるべきだと、ただお隣だからという理由でおっしゃるのですか?」
私がにこりと笑みを浮かべながらそう長々と述べると、レオポルト・ストルナド様がさらに怒りで顔を朱に染めます。
「な、なんだと!お前は侯爵家を侮辱するのか!今にも財が消えそうだと?お前の物言いは、クリシュトフ・シュブルト殿にお伝えするからな!クリシュトフ殿も、シュブルトの当主としてお前がふさわしくないとご納得されるだろうよ!」
あらまあ、我が大伯父様はもう引退して領地経営にも軍備にも外交にも顔を見せていないことを知らないのでしょうか・・・。ベェハル国にも私に当主をまかせて引退したと申告しています。クリシュトフ大伯父様は、この夜会にも出てきておりません。表には出ないとの意思表示なのですが、お分かりになりませんか?
「・・・我が養父であるクリシュトフは、もう表に出ることはありません。名実ともにシュブルトの当主は私、リーディエです。シュブルト家当主であるこの私に対するレオポルト・ストルナド様の暴言、この会場に居られるご招待させていただいたお客様が聞いておられました。
ちなみに私はあなたは婚約者候補だとお話していたではありませんか。それに数えきれないほどお会いして会話させていただいたわけではないのに、どうして婚約者はあなただと選ぶと思っておられたのです?それにストルナド侯爵とベチュヴァーシュ公爵では、家格が比べ物にならないと思いませんか?それでも侯爵家が選ばれると思っておられるのなら、相当ご自分に自信がおありなのですね!」
「・・・そんなに貴族の位にご執心だとは知らなかったよ!侯爵よりも公爵ってわけか!」
「・・・私を貶めようとしても無駄です、当たり前でしょう?侯爵より侯爵の位の方が上ですから。それともレオポルド・ストルナド様は公爵の位に魅力を感じないと言われるのですか?」
そういいながら、私は微かに手を動かします。
無関係な出席者の方々は、私達の話に呆気にとられた表情をされています。その間を縫うようにロマンが私の騎士を連れてある人物に近づいています。
「・・・この女め!黙って聞いてりゃいい気になりやがって!おまえ、先代のようにいい加減ストルナド家を下に見るのはやめろ!今に泣きを見るぞ!」
「・・・どういう意味でしょう?先代のように・・・とは?」
「はっ!お前の先代のミロスラフ・シュブルトはな、俺たちストルナドの持ち掛けた提携話を蹴りやがった!さっきのお前が言うようなストルナドの財政についてひとしきりご高説ぶってな!ストルナド領など助けるのに値しない放漫経営に出す金などないとか言ってな!あんなに威勢の良かったあいつがお前らが所属していた北の大公を支持する仲間の一人オツトルチル領から戻るところで事故で死んだのは当然の報いだろうぜ!」
ふふふっ。
「・・・」
私は可笑しくなってしまい、つい笑みを漏らしてしまいます。
「・・・ふふっ」
「な?何だってんだ・・・」
「ふふふっ・・・、ようやく語ってくれましたね。少なくとも我がシュブルトの先代当主ミロスラフが死ぬ前にオツトチル男爵家に行っていたことを、今の今まで誰も知らなかったのですよ。ミロスラフは秘密主義で、よく秘密裏に色々なところに言っていたようですから、行く先などわからないことが多くて」
「・・・」
私がさっと手を上げると、二人の騎士が、出席者の中に居た一人の男性の両腕を左右からがっしりと掴みます。
「なっ、なんだ?何が起こってる?」
レオポルト・ストルナド様が私が向けている視線をたどるように振り向き、身をもがいている男性を見て呆気に取られています。
「連れて来てもらえるかしらね?」
私の言葉に私のほうに向きなおったレオポルト・ストルナド様でしたが、私の周りに一人の男性が加わっているのを見て、目を見開いています。
私の左隣には新しい人物が加わっています。私の右隣にはラドヴァン様がずっと立っておられましたが、左にも爵位の高い人物が近付いてこられて、立たれたのです。
「うっ、なっ」
引きずられるように連れて来られた男性は、私の隣の方を見て口を開いては閉じるということを繰り返し、私の面前まで来てしまいました。
「ま、まさか、エヴシェン・ダンヘル様・・・」
「き、北の大公・・・」
ペトル・オツトルチル男爵が喘ぐように漏らし、それを聞いたレオポルト・ストルナド様が呆然とした表情で呟きます。
「いかにも、私はエヴシェン・ダンヘルだ」
「な、なぜここに・・・」
「・・・なぜ?なぜと問うか?・・・まあ、そうだ、招待されたからだが、新たに伯爵位を賜った家の祝い事に喜びを感じて来たのだが。・・・来てはならないとでもいうつもりかな?男爵?」
にこりと笑うと、ペトル・オツトルチル男爵から視線を外すことなく、口を開きます。笑みを浮かべてはいますが、その瞳は決して笑ってはおりません。
「満更知らない仲でもないミロスラフ・シュブルトが、命を落としたわけを教えてもらえると言うのだから、招待を受けて悪いと言うことはあるまいに」
ちらりとレオポルト・ストルナド様にも視線を映してからさらに続けます。
「確かにミロスラフ・シュブルト男爵が事故で谷に転落したと聞いた時には、霧が深く道もわかりづらくなっていたと聞いている。当時は霧で良く見えない中、馬車を走らせていて谷に転落したと聞いて、それを疑いもしなかった。だが、ようやくわかったことだが、真相はそれ以外にもあったようだな」
ペトル・オツトルチル男爵は体が震え始めて、左右を掴まれているために崩れ落ちることができなくなっているだけで、もし、支えがなければそのまま倒れ込みたかったのではないでしょうか。レオポルト・ストルナド様は体をがくがくさせて、エヴシェン・ダンヘル様を見ています。
申し訳ありませんでした。
本来は犯人を唐突に出すつもりはなくて、順番通り紹介されて話してから、怪しいと問い詰めていって、白状してとするつもりでしたが、長くなりそうで、そこで先代の死と元婚約者、そして二人の婚約者候補をお仕置きしてざまあにすることでおしまいにしようと思いました。実は黒幕がいるのですが、たぶん予想されている通りなのですが、証拠がなくて断罪できません。ただそこまで書こうとするとジャンル変更したほうが良いと思いましたので、黒幕に関しては、終章で匂わせる程度にしておこうかと思います。そのために公爵家の嫡子と結婚したのですから。
次回でたぶん本編終わりになると思います。終章を書いてあと2話ぐらいでしょうか。最後が長くなってしまって申し訳ありません。長くなってしまい分けたので、少々唐突の感があるかもしれません。




