残念美人は婚約者を連れて行く
予告したのですが、その通りには行きませんでした。婚約者候補がまだ来ておりません。
国王が案外存在感を出してくれまして、想定よりも絡むことなくさらっと終わるつもりでしたが、絡みたがってしまって・・・。
今回は体調が好転しましたが、無理ができるわけではなく、長い間座ることなく、時間を区切って書いていました。
皆さま、ごきげんよう。
私はリーディエ・シュブルトヴァー男爵です・・・、あ、いえ、リーディエ・シュブルトヴァー伯爵になりました・・・、自分から動いたわけではありませんが、国王に目を付けられるなど、少々目立ち過ぎなのでしょうか・・・。
えーとですね・・・、私は先日ラドヴァン様と婚約することにしたのです。
・・・。なんでしょうか、皆様のそのジトリとした目つきは。
・・・。地位だけを見たわけではありませんよ!失礼な。
利用価値とおつむの状態を計って決めたのです。私のこれからの計画にも、資金面、そして人材面で助けてくれそうなのです。いい買い物をしたと思います。
そこでラドヴァン様のお屋敷に、親である公爵ご夫妻へご挨拶に伺ったのですが、公爵の暴走と、それに対して怒りに震えた少々勝気というべきなのでしょうか・・・、悋気の強い公爵夫人のせいか、公爵ご夫妻は、あれよあれよと私のご挨拶もほぼできないままにご退場されました。そんなお二人に呆気にとられていた私は、ご両親の動きにも戸惑った様子もないラドヴァン様に勧められ、戸惑いながら椅子に腰かけます。
「・・・お二人はよろしいのです・・・か?」
なぜかあの光景に対して話すのは憚られる気がしてしまう私ですが、少々心配になってしまいます。
「大丈夫です、たぶん。いつもああなので」
ラドヴァン様、いつもああでは駄目じゃないですか?仮にも公爵家の当主様とその御夫人です。
「・・・それはそれで・・・。何と言えば良いのか・・・」
言葉を失う私です・・・。学院で主席だったことなど、このようなときになにがしらの役にもたたないのですね。
「ああ、気にされているのですか。大丈夫ですよ、父はいつもあのように暴走して、それを母があのようにして止めるのです。私にとっては、いつもの光景なのです」
キラキラした笑顔を私に向けながらラドヴァン様は言われます。私はベェハル国の男が全般的に大丈夫なのかと問いたくなります。ただ部屋の中の侍女の方々も顔色を変えることなく壁際に控えたままなので、あの光景はいつものことなのかもしれません。
婚約者のご両親のことを話題にするわけにはいかないので、話題をどうしようかと困る私を気遣ってか、ラドヴァン様が楽し気に私の出身であるカシュパーレクの領地のことや王立ハルディナ学院内のこと、プシダル国の王城のことなどの話題を振ってきます。その結果案外早く時間が過ぎたように思います。
ラドヴァン様に問われるままに答えておりましたが、よくよく気が付けば、ラドヴァン様、あなたはシュブルト領の特産について何をこれ以上知ろうというのですか。他の特産とするつもりのものを聞き出そうとでもしているのでしょうか。油断も隙もありませんね。ですがラドヴァン様が探りを入れてきても私が黙っておれば知られることもないはずです。
お茶が入れ替えられ、そろそろ話題が付きかけてきている私が長く時間が経ったと思い始めたときに、ご夫妻はお戻りになりました。
なぜでしょう、再度自己紹介をしたのちは、お決まりのお茶を飲むことになりました。そのご夫婦とのお茶の席で、ある事実が判明しました。
それは、お二人の様子から垣間見た夫婦の立場についてです。実のところ、義母に当たる方が家付きのご令嬢だと思ったのですが、公爵が明確な跡取りだったことに衝撃を受けてしまいました。
あのご婦人の強さからてっきり公爵は婿様だと思ったのでしたが、義母様が義父である公爵に嫁入りしたと聞き、予想と違っていたところに少々驚いてしまいました私です。
ラドヴァン様は目を見張った私を横目で見ながら、さすがに貴族の中でも一番上に当たる公爵家の者として声を出すことなく、肩を震わせて居ます。笑っていますね、声は出ておりませんが、爆笑していますね、笑うんじゃない!あなたの親ですよ!
お茶を飲むのにも苦労してしまわれているぷっくりな頬の義父様に配慮して、私は早々に二人の前から辞去させていただきましたが、私を見る義父様の目には残念という色が消えずにありました。そんなにエヴェリーナという私のおば様のことを好き好きでたまらないと言うのでしょうか。
私の祖母なのでもちろん家族としていつも接していたのですが、私が物心ついた頃にはおばあ様はもうお年を召してらしたのです。
確かに家にあった肖像画の面影は残っておりまして、お年を召していてもおばあ様は美しいことは美しかったのですが、でもそれは年齢相応の美しさでした。
そういうわけでそのおばあ様に今でも幻想を抱いているかのようなベェハル国の貴族男性の執着心というものは、私では計り知れないものです。
今私が思うことは、私におばあ様のように振舞えというベェハル国貴族どもは、なぜおばあ様が嫁入りをするときに身をもってなぜ止めなかったのでしょうか。そして私に代わりを勤めろと言う者は、相当身勝手なものではないかと思います。
ああ、そうでした。
私が辞去する前には、ラドヴァン様は婚約の書類を用意して、私に渡しました。
その書類にはもう義父と義母様がサインを入れておられます。ラドヴァン様も私の前でサインします。
「クリシュトフ様にもサインをいただいてくれませんか?」
ラドヴァン様が私に書類を示しておられます。
「わかりました」
「サインをいただけたなら、そのまま王城に提出します。そうすれば、リーディエ・シュブルトヴァー男爵は私の婚約者となります」
「わかりました」
私が常にわかりましたと答えていると、なぜだか言われるがままとなっているかのような気がします。
「書類を提出すれば、国王もしゃしゃり出なくなるでしょうか」
「・・・そう願いますね」
そのラドヴァン様の願いは容易にはかないませんでした。
「・・・このようなものは受け取れんな」
おや、この国の頂点に立つ者の言葉とは思えませんね。
冷ややかな視線でラドヴァン様とその隣に立つ私を睨んだまま、シュテファン王は不機嫌極まりない表情で手にした書類を机に投げ出します。
「別に国王に受け取ってもらわなくても良いのですが。貴族の申し立てを受ける部署が受け取って書類の受け取りを出していますし」
そう答えるラドヴァン様の目には何も映っていないようです。ただ、言葉だけ丁重に国王と応対をしているように見受けられます。
突然、国王が私に体ごと向き直ります。怒りのその表情は、不満で赤く膨れているように見えました。
「なぜだ!何故私の求婚は受け入れず、このラドヴァン・ベチュヴァーシュの求婚は受け入れるのだ!私の何がこの男に劣るというのだ!私はこの国の国王だぞ!私の元に来るのが一番だと、なぜわからぬのだ!」
喚き散らす国王に冷めた視線を投げます。
「そういうところですね」
「うっ」
私が冷静に答えると、目を見張って口をつぐむ国王です。
「自分が国王だから一番というのでしょう?それがどうしたというのですか?
私はこのラドヴァン様に条件を出しました。私のシュブルト領を一番と考えてくれるかどうか、ということでした」
何を言っているという表情で私を見返すシュテファン王です。
「・・・陛下。私はシュブルト領を一番と考えました。この美貌は確かに魅力ですが、それ以上の魅力は、彼女が自領を富ませるために持っている能力を使うという姿勢です。
領地に住む領民があってこその貴族です。私はシュブルト領が富み、そしてわがベチュヴァーシュ家も富ませてくれるのではと考えたのです。
そもそも、この国の貴族どもはリーディエをエヴェリーナとして見ている!そんなおつむの緩い貴族などにはリーディエの良さなどわからないでしょう。彼女の良さは顔だけではないのです。それをわからない陛下、あなたにはリーディエはもったいないのですよ」
あらまあ、なぜか情熱的なラドヴァン様ですね。ちょっとうれしくなる私です。
結局、受け取らないと駄々をこねた国王は侍従に促されて届けを受け取ることになりました。
さらにはついでというわけではないと思うのですが、国王は子供のような拗ねた表情をしながら、私を伯爵位につける王命の書かれた書状を侍従にまた促されて読み、私に手渡しました。
「・・・伯爵、これからもベェハル国のために貢献してほしい・・・」
目を逸らせながら言われるのであれば、思わず考えてしまいました。
そのような顔で言うのなら、この国のための貢献などしたくないですけど・・・。
そのように考えた私ですが、男爵位よりも独自の命令を出すことのできる伯爵位は、これからのシュブルト領をさらに富ませるはずです。さらには伯爵位を賜ることができ、領地の各地方を代官に任せることができるようになり、私は気になる分野に力を入れることができるようになりました。男爵位では領地が広くないため、私が色々と全体的に面倒を見なければならなかったのです。
因みに領地を縦断するのに約5日もかかる領地を、今までは男爵が統治していたなど、私の生まれたプシダル国では考えられません。
「・・・これでようやく・・・」
呟く私です。
「やっと、着いた」
差し出された手をどうしようかと一瞬考えましたが、仕方なしにその手をとり、馬車から降ります。楽しそうなラドヴァン様の様子に、目だけで睨んでおきながら、一足先にカイェターンの屋敷に戻っていた執事見習いのイルジーを連れて迎えに出てきた大伯父様に笑って見せます。
大伯父様は、私の隣に立つラドヴァン様を見て一瞬しかめ面をしながらため息をつきましたが、すぐに表情を消して、ラドヴァン様に挨拶をされています。
大伯父様の表情はもはや人生に達観したような老成した趣きを持っており、なにがしかの覚悟を持っているようです。まあ、お年ですので病気で寝込むことがないとも言い切れません。そういうことに覚悟しているという感じでしょうか。
私はふと、先日大伯父様が私の陞爵のお披露目会に出た後、その次の日にシュブルト領に向かった後に現れたラドヴァン様の様子を思い出しました・・・。
『・・・つまり?』
陞爵の内外への報告を兼ねた夜会に出て、誼を通じたいと入れ代わり立ち代わり押しかけてくる貴族を何んとか捌き、疲労困憊してタウンハウスに戻ると、翌日ラドヴァン様が現れました。
『・・・ええっとですね、私との婚約を内外に知らしめようと思いましてね』
私がラドヴァン様を睨むように見ると、ラドヴァン様は軽く笑って私の手を取ると手袋の上から手の甲に口づけます。
『政略的には一番の銘柄ですしね、公爵家は』
『そうですね、公爵家の跡取りですしね、私は。婚約を夜会で内外に知らしめなければならないのですよ』
『婚約の報告などしなくても私は一切構わないのですが?本当にそれは利益になるというのですか?』
私が眉を寄せると、ラドヴァン様はにこりと微笑まれました。
『ええ、それはもう。・・・ただ、私ではなく、あなたにとってですが』
『・・・私にとってですか。・・・何を企んでいますか?』
『人聞きの悪いことを言われますね、婚約者殿は』
『・・・つまりは、婚約を知らしめると困る者が居るということでしょうか?』
『話が早いですね。婚約を迫っていた者があと二人いましたでしょう?』
『・・・』
確かにあと二人いましたね。しかし私が領地に帰ってから知らしめれば良いのではありませんか?
『この間少々調べましてね。その結果、お隣の侯爵家が、先代の男爵に係わりがあるようでして』
『・・・』
『婚約を知らしめれば、慌ててやってくると思うのですが、その時についでに先代の死について関係者を集めておいて断罪したらどうかと思うのですが』
『・・・』
私が答えないでいると、ラドヴァン様はさらに笑みを深めます。
『・・・気が進まないようでしたら、止めましょう。お一人は年齢のこともありますし』
このお方はどこまで調べたのでしょう。私が頭の中で考えたことの事実について調べ上げていたということでしょうか。相当優秀な手の者を持っている用です。
『・・・さすがは、というところでしょうか・・・』
私の呟きを聞いたと思いましたが、ラドヴァン様はそれについては何も話しませんでした。
『・・・シュブルト家のタウンハウスはあまり広くないので、夜会は私の公爵家で行おうと思います。色々な者を集めて・・・』
『いえ、やるならまずはシュブルト領のアルノシュト城でしょう。先にシュブルト領の民に知らせたいと思います』
私はラドヴァン様の言葉を途中で遮りながら、ラドヴァン様を見上げます。
『・・・』
『駄目でしょうか?』
『・・・私の手の者も移動させておきましょうか。何が起こるかわかりませんから』
『近隣の領地持ちも呼びましょう。もちろん私に求婚していたお二人にも一応は招待をしましょう。来るかどうかはわかりませんが』
『・・・いや、来させますよ。この私、ラドヴァン・ベチュヴァーシュ公爵嫡子との連名での招待です。来ないはずはありません』
大伯父様と笑顔で話しているラドヴァン様を見ながら、私はほんの数十日前の、陞爵報告会の夜会の後の疲れ切った私もラドヴァン様が何を考えているのか、予想がついてしまいました。それがさらに疲れを溜めたように思えて、長々としたため息をついてしまったのを、私は思い出していました。
大伯父様、申し訳ないけど、シュブルト家がこれからどう立ち回るかの大事なことです。許さないと言われないとは思いますが、口を出さないでもらえると有難いです。
冬が近づいてきたカイェターンの空が曇りがちで、それが私達にも気の重さを感じさせるように思えて、私はまた深いため息をこぼしたのです。
今回はリーディエが餌を撒くつもりで面白そうだと新米婚約者殿が前に出てきました。
リーディエは推理で真相にたどり着きますが、婚約者は子飼いの手の者に調べさせて答えを導き出すつもりです。
まあ、実行犯は出てきていない人なんですけど、首謀者は・・・。
首謀者は何のために、というところでしょうか。
体調が悪くならないように書いています。このお話もあと少し。
残念美人の謂れは自分は自分と思いきれなかったところからきているのですが、果たしてそれを克服できるでしょうか。いえ、克服できるように書いているのでしたね。失礼しました。
あと少しの話の続きをもっと読みたいと思われるのでしたら、評価をよろしくお願い致します。




