残念美人は婚約者の家族に会う
皆様、大変お待たせいたしました。残念美人の続きをようやく投稿できました。
一月ほど腰痛に悩まされて書けなくて時間がかかりました。申し訳ありません。
さて、残念美人より残念なお方が登場します。というより、ベェハル国の男たちはおばあ様の呪縛にでもかかっているのではないでしょうか・・・。
皆さま、ごきげんよう。
私はリーディエ・シュブルトヴァー男爵です。
私は今、ベチュヴァーシュ公爵家に来ております。
値踏みをするような視線で、当主であるフェルディナント・ベチュヴァーシュ公爵が私を見つめています。
ん?先ほどは値踏みをするような視線とお話ししましたが、何か違和感があります。値踏みをするのではなく、手に入れた後、こんなはずではなかったのにと後悔していますが、その後悔を隠そうとして隠しきれていない感じです。気落ちした感じが体から漏れ出しているように見えます。気のせいでしょうか?
ちらりとフェルディナント・ベチュヴァーシュ公爵の隣に立つ公爵夫人のガブリエラ様を見ますが、こめかみに青筋が立って居ます。実は今日の私の装いはいつものシュブルト家の当主としての装いであるフロックコートです。そして腰には剣帯を巻いています。ただ友好を示すつもりですので、剣は身から離してダナに持たせております。
このように私の姿は確かに淑女ではないのですが、夫人はそれが気に食わないというのでしょうか?
「あなたがラドヴァンが選んだというリーディエ・シュブルトヴァー男爵殿か?」
低く朗々と響くような男性の声で、ベチュヴァーシュ公爵が私を見つめながら尋ねます。
「はい、その通りです。私がシュブルト男爵、シュブルト家の当主です」
私の答えに長々と私を見つめた後、ぼそりと呟くように尋ねてきます。
「あー・・・、男爵殿の格好はいつもそうなのか?」
「・・・?そうですが、何か?」
「・・・当たり前ではないですか!」
私の答えを聞くとほぼ同時に、怒ったかのような口調で公爵夫人ガブリエラ様が公爵を見やりながら口を挟みました。
「・・・わ、わからないじゃないか・・・?ひょっとすると、今日だけは違ったかもしれない。私がそう考えたとしてもおかしくはないだろう?」
「はぁ・・・呆れて物も言えないわ・・・。男爵は爵位持ちの当主様なのですよ!貴族令嬢とは違います!貴族の当主様の格好をされているに決まっております!」
公爵の言葉に、夫人はさらに怒りの表情を見せて言い募ります。
「・・・だが、リーディエ・シュブルトヴァー男爵殿は美貌で名が売れている。そういう場合はもしかしてという可能性もあるのではないかな・・・?」
公爵の語尾が弱いです。ですが、なんだか公爵の言葉からすると、公爵は私に期待していたらしいのでしょうか?えっと・・・これは・・・どゆこと・・・?
「・・・?んんん・・・?何かありました・・・?」
「・・・ああ・・・っと・・・、うちの公爵、おやじは・・・エヴェリーナ様のファンでね・・・、シュブルトヴァー男爵がエヴェリーナ様の・・・そ、その・・・」
ラドヴァン様が目を泳がせてしどろもどろになりながら答えます。
「・・・はあ、・・・なるほど・・・、あの私の化粧でおばあ様そっくりに化けて欲しかったということでしたか・・・」
目を閉じ、俯き加減で、指をこめかみにあててため息をつきながら、私は疲れた声しか出ませんでした。まったく、何度もおばあ様は私に祟るのですね・・・。
「・・・すまない。・・・これから義父となるというのに、下らないことしか考えない父親ですまない」
ラドヴァン様の言葉を耳にした公爵様が、表情を変え、怒りに満ちた表情になりました。どうやら自分のことを言われたとはわからずに、おばあ様を批判したと感じられたようです。傍から見れば一途な思いを言ったのでしょうが、内容を考えれば残念な人なのではないでしょうか・・・。
「下らないとは何だ!ラドヴァン、エヴェリーナは下らなくはないぞ!むしろエヴェリーナこそ崇高なんだ!口の利き方をわきまえよ!」
このような言葉でしたが、公爵の怒り心頭な声が響いた後、甲高い張り手の音がします。ぱたりと床に座り込む音がします。
「・・・こら・・・いい加減にしなさいよ・・・」
音のした方に目を向けます。そこにはガブリエラ様に首根っこをつかまれている公爵の姿が見えました。うわあ・・・。
「リ−ディエ・シュブルトヴァー男爵、少々わたくしたち夫婦に行き違いがあったようです・・・。少しの間余人が交わらないところで話さないといけなくなりましたので、しばらく席を外させていただきますわ」
そう口を開く公爵夫人は、にこやかに微笑んではいますが、こめかみには青筋が立っています。
「・・・ラドヴァン、リーディエ様を、しっかり、おもてなし、なさいな、任せ、ました、よ」
「・・・ははっ。母上、しかと」
頭を下げるラドヴァン様を尻目に、絶妙なタイミングで使用人が開けた扉の向こうに、ガブリエラ公爵夫人は恐怖で固まる公爵の首根っこを掴むとそのまま引きずりながら消えていきました・・・。怖いです・・・。
「・・・普段はまともでも、エヴェリーナ様に関したことになると途端に、この国の男は目の色が変わるのが難点だな・・・。なぜあんなことになるのか、まったくわからないな・・・」
ため息交じりにこぼされるラドヴァン様のつぶやきに私は首を傾げました。
「ラドヴァン様、どうして私の祖母はこのベェハル国では神聖視されているのですか?」
私達はテーブルにつき、お茶を向かい合わせて飲んでいます。ラドヴァン様のつぶやきに、私はラドヴァン様に尋ねます。
「ああ、それはですね・・・」
言いかけてラドヴァン様は一瞬だけ逡巡しますが、意を決したように続けます。
「・・・実のところ、エヴェリーナ様は成人したのち、暫くは人気はなかったらしいと聞いています。ほぼ夜会には出てこないし、出てきたしても部屋の隅に引っ込んでいたということです。
ですが、ある日突然夜会に積極的に出るようになりました。元々美しい容姿をしているエヴェリーナ様でしたが、さらに人目を惹く衣装や髪型をするようになったのです。
その当時のエヴェリーナ様はそれはもう恋焦がれる比類なき美女だったそうですよ。その容姿は本当に既婚未婚を問わず、男なら誰もが手に入れたいと願うようなもので、求婚をするために、わざわざカイェターンを訪れる貴族男性は引きも切らなかったとのことです。
それで、ある時についに恋焦がれた人マトウシュ・カシュパーレク様に会った。その生涯の伴侶を見出したそのあと、また夜会には出なくなったのですが、その美貌は当時の男性の話題となったようで、今でも語り継がれているほどです。
ですから、ベェハル国の男どもは、今でもエヴェリーナ様に似ているというだけで婚儀が整ったりするぐらい一目でも見たいと熱望しているのです」
長い語りです。ひょっとしてラドヴァン様もおばあ様のファンでしょうか?熱が入っておりませんか?
私はまじまじとラドヴァン様を見つめます。
「・・・何か?」
「・・・ラドヴァン様もおばあ様に会いたいと熱望しているのですか?」
「・・・」
「・・・」
私たちは言葉を発することなく、しばしお互いを見やっています。
「違います。私はもう居ない人を偲んでどうする、そういう考えです。確かに一度見てみたいと思っていたことは確かですが、この間、陛下主催の夜会で拝見することができましたし、先ほども言いましたようにあの方はもう居ない人です、今更と思っているのです」
「ふう・・・わかりました。そういうことにしておきましょう」
ため息とともに吐き出した私の言葉を聞いて、一瞬だけ、形の良い眉をしかめましたが、すぐに肩をすくめ開きかけた口を閉じるラドヴァン様です。
ノックの音がして、ラドヴァン様が扉を見やります。
「何か?」
「・・・母です。入ってもよろしくて?」
ちらりと、ラドヴァン様が私を横目で見ます。
私がうなずきます。
「・・・どうぞ」
「・・・ありがとう」
扉が開けられ、公爵夫人が公爵を従えるように入ってきます。立場が逆転していますね・・・。
「・・・さあ、あなた。シュブルトヴァー男爵に謝罪するのです。申し訳なかったです、と」
二人を見比べていた私ですが、そのような私を見てか、ガブリエル様が傍らのベチュヴァーシュ公爵を顧みて謝罪を促されています。すっかり打ちひしがれて憔悴して肩を落とした公爵は私に謝罪されました。
「リーディエ・シュブルトヴァー男爵殿、先ほどは失礼を致しました。あなたがシュブルト家を継いだことを聞いてからというもの、会いたいと思っておりました。私は一度だけあなたの祖母エヴェリーナ様にお会いしたことがあり、あの方がとても魅力的であったため、あなたのお気持ちを推し量ることもせず、私個人の気持ちを押し付けてしまいました。あなたの、シュブルト男爵としての尊厳を踏みにじるような真似をしてしまい、いかように詫びても許されないだろうことをしてしまいました。申し訳ないと思います」
その謝罪をされるベチュヴァーシュ公爵の両頬は、赤くじんじんと相当腫れて膨らんで見えます。話される声もくぐもって聞き取りにくくなっています。あれは、少なくとも三回はビンタを張られないとあれほどに腫れないのではないでしょうか・・・。公爵夫人は気が強い方なのですね・・・。あまり逆らわないようにした方がよさそうです・・・。
「・・・公爵も祖母エヴェリーナの魅力の虜となられていたのですね。ですから、その孫である私に面影を探しておられるのでしょう。
ですが、私は祖母とは違います。私は今はもうシュブルト家の当主です。私はエヴェリーナではありません。もう祖母の真似は、シュブルト家の当主にふさわしくないと思っております。ですので、これからは私がエヴェリーナの真似をするときは来ません。それはご承知おきください」
私の言葉に、うなずくガブリエラ様です。
「そうですよ、あなた!リーディエ・シュブルトヴァー様はシュブルト家の当主、そしてわがベチュヴァーシュ家のラドヴァンの婚約者となっていただく方なのです!あのような言い草、軽蔑されて当たり前です!」
「あ、いえ、公爵夫人、未来の義父であるベチュヴァーシュ公爵を軽蔑など致しません。もう公爵を悪し様に言わないでいただけませんか?私は公爵の謝罪を受け入れますから」
少しばかり慌てて公爵を擁護するように伝えますと、そんなにすぐ許してしまっていいのですかとでも言うかのようなため息をつかれるガブリエラ様ですが、すぐに気を取り直して私を見られました。
「お許しいただきましてありがとうございます、シュブルトヴァー様。お腹立ちが収まらないのであればと思っておりましたが、収まっておられるなら、この件についてこちらから蒸し返すことはやめに致します」
「そうしていただけますか」
「・・・ありがとうございます」
いつの間にか私の隣に席を移動しているラドヴァン様をちらりと見たガブリエラ様は一度肩をすくめてから、私の向かい側に座られた。肩を落としたベチュヴァーシュ公爵がガブリエラ様のお隣に腰を下ろされる。
それを見たラドヴァン様が話し始めたので、私はラドヴァン様の方に視線を向けます。
「・・・シュブルトヴァー男爵、のっけから、わが公爵家の良くないところをご覧いただいたわけなのですが、こんな父でもエヴェリーナ様のことが係らなければ取り乱すこともないのです」
「そうなのですか?」
私の疑わしそうな表情を楽しそうに見やりながらラドヴァン様が一瞬だけ視線を公爵に向けました。
「・・・いえ、違いましたね。普段は公爵として、領地のことを第一に考える当主です。徐々に私に権限を委譲してきてはおりますが、当主としては存外できる方です。一部暴走することはありますが、まあ、問題を起こしたことはない。
そんな父は、シュブルトヴァー男爵と婚約すると私が伝えると、それはもう喜んでくれました。もちろん母もです」
「・・・私が見た目は、美しいと言われていたからですか?」
びくりと公爵夫妻が体を震わせます。慌てて口を開こうとする二人を制するかのように、ラドヴァン様がにこやかに片手をあげます。
「確かにそれに類することを言ったかもしれません。ですが、少しだけ違います。あの負けなしのシュブルト家の血を引いているということと、プシダル国の王立ハルディナ学院で、三年間主席を守り通した頭脳を持つ方だという事実を知ったからです。華があるので、確かに見た目が美しいに越したことはありませんが、国境を挟んではおりますが、お隣の貴族であるあのラドミラ・カシュパーレク伯爵令嬢だからこそ、父と母は喜んでくれましたと思っています」
「・・・わかりました。存外な良い評価です。ありがとうございます」
私が椅子から立ち上がり、一礼するとようやく緊張から解放されたのでしょうか、公爵夫人が顔を綻ばせました。それを見たラドヴァン様が安堵のため息を漏らされました。
まあ、これから家族となる予定の方達です。あまり遺恨が残るような態度は未来の義理の両親に必要以上の距離を取らせてしまうでしょう。そうなるといざというときに味方になってもらえないかもしれません。私はシュブルト家の当主となってさほど長い時間が経ったわけではありません。ですから味方も少ないはず。好き好んで義父母を敵にすることはできませんからね。
私は夫婦そろって安堵のため息をつく義父母を見ながら、そう考えていました。
この後、私はラドヴァン様から装飾品の贈り物を受け、曜日を決めて国に婚約の届けをすることになりました。
こうして名実ともに、私はベチュヴァーシュ公爵家の婚約者となったのです。
ということで、残念な義父予定の公爵が登場しました。
因みに公爵は先代公爵の子で間違いありませんが、公爵夫人は政略で嫁いでこられたお方です。
愛はエヴェリーナにあると公爵は考えていたのではないでしょうか。
エヴェリーナは魔性の女ではないはずですが、ベェハル国に暮らす貴族には災難となるのですね。
次回は婚約の届けでのあの国最高位の方とのひと悶着と、領地に戻ってからの婚約者候補の来襲、そして前当主の死についてのお話です。
体の調子が良くなくて、それに座り仕事が長くできないので時間がかかってしまうと思いますが、物語は終末に向け進んでいます。リーディエの幸せになる瞬間を今しばらくお待ちください。
次の話が気になりますなら、皆様、評価をよろしくお願いいたします。




