三人の悪友たち~先輩に捧げる賛歌
間章第三話目です。実験的にほぼ会話での話を書いてみました。
シスコンの弟の悪友三人組です。書いていてふと思ったんですけど、この三人と弟はどうやって仲良くなったんでしょうかね。
体の不調とリアル仕事の忙しさで時間が取れずに、投稿が遅くなってしまいまして申し訳ありません。
三人は、王都の通りに面したカフェのテラスで、顔を突き合わせていた。
後ろ毛を襟足に被さる程度に伸ばした童顔の男が、最近流行り始めた黒くて苦いお茶に口をつけて飲んでいる。
同じテーブルに着いた残りの二人とも短髪だが、一人は側面と後頭部を地肌が見えるくらいに刈り上げ、頭頂部と前髪を長めにしている。もう一人は側頭部、後頭部は短く頭頂部が突き立つような長さにしている。二人ともやんちゃな印象だ。
飲み物に口をつけている童顔の男を見た二人が、露骨に顔を顰めた。
「ああ、お前、よくそんな苦いの飲めるな!俺は絶対無理だ!」
「・・・案外飲み慣れるといけるよ」
「俺も無理だ。うちの姉ちゃんはにこにこして、男爵に付き合ってたけどな、それ。珈琲とかいうんだろ?」
「・・・うん、そうだよ、珈琲って言うね」
童顔の男は背もそれほど高くないが、一番の喧嘩の達人で、他の二人から一目置かれている存在だ。
だが、この間先輩に告白して、保留とか言われてほぼ振られたのと同等の扱いを受けて、悔しくて眠れなかったという修羅場に遭遇したばかりだった。
その時に覚えたわけではないが、好きな人の前で自棄酒を飲めなかったので、自棄酒ならぬ自棄珈琲を飲みまくり、その苦みの虜になった。
まあ、吹っ切れたわけでもなく、格好をつけて苦いものも大丈夫だとアピールして振り向いてくれないかなと一縷の望みをかけて、苦いのを我慢していたのが正解だったのだが・・・。
そうはうまく行くわけはなく、もう振り向いてくれるとかの段階でもなく、さらには格好つけているところすら、見てももらえなかったのだった。視線が自分を素通りするところを見てがっくりしたのだが、それがわかっても見得が邪魔をして、もう止まらなかった。もう今では一日中胸焼けを感じて、格好つけている自分に相当後悔し始めているところだ。
「徹夜するときに、飲むと眠気が来なくてなかなかいいんだよ。だが、効果が切れやすくてさ、何杯もお替りするから、胃が痛くなったけどね・・・」
その言葉に、かわいそうだなとでも言いたそうな眼付きで、一人が半目で見つめてきた。
「なんだよ、その目」
「・・・いくら、男爵に気に入れられようとしたとしても、それのがぶ飲みはやめとけよ」
あと一人もため息とともに口を開く。
「特別監察官の俺の親父が、昔言ってたことがあるんだがな、カッコいいというアピールはな、真摯な姿勢とは相いれなくて、遊びだと誤解されることもあるそうだ。ちなみにだ、これは俺の意見だが、あの男爵のような妙に頭が回る人なんかには、絶対に自分は役に立つ人間だぞと見せ続けるほうが、将来近くにおいてくれるだろうと思う」
「・・・ああ、俺もそう思う。というか、カッコいいだろより、そばに居て、周りを守っていて、いざという時に備えてるよと見せていたほうが次第に絆されて、見てもらえたんじゃないか?」
「違うわ!僕が彼女に求婚したから、僕やピェクニー姉弟二人の価値を見出せたはずなんだ!」
ガチャンと珈琲を乱暴に置いて力説すると、残りの二人は顔を見合わせた。
「・・・んな、わけねえだろ・・・」
「・・・ああ、そうだな・・・」
「・・・くそ!」
建前ではなく、本心では二人の言う通りだと思っていたため、あっさり否定されても言い返しもできず、腹立ちまぎれに乱暴に置いたカップを持ち上げて、まだ残っていた中身を一気に飲み干す。
「苦っ!」
珈琲は思ったより苦かった。思わず声が出た。
あとの二人が苦笑しながら顔を見合わせる。
「・・・こいつ、どこの馬鹿だ?」
「・・・ああ、そうだな。こんなことしかしないからどう見ても求婚は保留になったんじゃないか」
「・・・」
「・・・迷惑だったから、保留にされたんだろ?」
「・・・ああ、そういえばさ、俺の姉ちゃんが男爵に聞いたんだよ。オトマルの求婚に絆されたかってさ。そしたらなんて答えたと思う?」
「・・・」
話題にされている本人は固まってしまっていて、何も言えない。ただ黙って二人を交互に見ているだけだった。
「・・・なんて答えたんだ?」
その質問に対してそれはそれは痛ましそうな視線が向けられる。
「・・・絆されたわけじゃないけど、真剣さがあまりに可哀そうだったから、面と向かって断れなかったってさ。でも、子供みたいに見えた相手なので共に暮らすのはないと断言してたってさ」
「・・・」
つつーっと涙が流れた。
涙を見た男二人は、痛ましげに顔を見合わせてため息をつく。あまりに可哀そうに思ったのか、とりなすように口を開く。
「・・・今の言葉は創作したんだよな?な?そう言ってやれよ、な?」
「・・・すまねえ、ありのままだ」
「・・・男爵のばか・・・」
ぐすんと鼻をすする音がする。テーブルに突っ伏して肩を震わせる。
「お前が言ったことに傷ついて泣いちまったぞ、謝れよ・・・。おまえ、友達だろ?」
「・・・おまえだって、友達じゃないか・・・」
「・・・俺が泣かせたんじゃないぞ・・・」
「・・・済まないとは思うけどな、この話は俺が言ったんじゃないぞ。姉ちゃんが面白がっていたのは確かだがな、申し訳なさそうな素振りもしてたし、嘘じゃなさそうだったぞ」
「・・・とにかくだ、男爵の言葉はお前の姉上が言った言葉なわけだ、それを本当に本人が言った言葉なのか、調べてだな、オトマルに報告してやれ」
「・・・本人が言ったと言われて、それをそのまま報告したら、もう立ち直れなくなるんじゃないのか?」
「・・・さあ、どうだろ。わかんねえな」
「・・・お前らを僕は友だとはもう金輪際呼ばないからな!」
「ああ、すねたぞ」
「・・・はあ、そうだな、すねたな・・・」
二人は項垂れてしまった一人にしきりに話しかけているが、もう応えようとはしないまま、時間は過ぎる。
しばらくして、陽が傾き始め、次第に夜の帳が下りようとしてきた。
三人はカフェから退散する。項垂れたままの悪友の肩を抱くようにして歩き出し、場末の酒場に連れ込む。場末とは言っても、身元のはっきりしない者は入れない。貴族の若者か、裕福な商人が社交以外で酒を飲みたいときに利用する店だ。
「・・・そう言えばだ、お前らはいつシュブルト領に発つんだ?」
「・・・俺は一月後だな、もううちの親父殿は男爵に感謝しきれないと言っててな、発つ日も今週中にしろとガナってた。そんなことができるかと、突っぱねてようやく一月後にしてもらったよ」
「そうか、もうあと1ケ月かあ、こうして飲み屋に行くこともなくなるな」
「・・・姉ちゃんはもっと早く行くとよ」
「・・・ドラフシュさんは未練ないのか・・・」
「・・・着の身着のままで行くとさ。自分の着るものとか、学院の時の資料なんかは後で送ってくれるようにと、親に頼んでたよ」
「馬車で行くのか?」
「男爵がよこしてくれたよ、馬車を。四頭立ての強固な造りの男爵専用馬車をさ。護衛として、騎士団の騎士が三人も来たよ。貴重な女騎士が三人も居たよ」
「御者もか?」
「いや、御者は男だったけど、ありゃ、どう見ても騎士団所属だな、わからないように御者台に長剣を置いてあったし、楯もあったぞ」
「・・・それだけ、大事に思ってるんじゃあないか?」
「・・・姉ちゃんには護衛は多くつけると言って、それを実行したよ。ただ、俺の時はどうだろう・・・。少なくなるかもなあ・・・」
「・・・お前は男だからなあ・・・。それに学院の時は、実技を履修してたじゃないか。それ、男爵のことだ、絶対知ってるぞ」
「・・・そうだなあ、そうだよなあ・・・」
童顔の男がむくりと体を起こした。それまでは肩を抱きかかえるようにして連れてきて、酒場のテーブルに着くと、うつむいたままにして、椅子に座らせていた。
「・・・呑む」
「・・・ああ」「・・・ん」
二人が答えると、一気に飲み干す。
「あんまり無理スンナよ」
「・・・」
通りがかったウェイターを捕まえ、二杯目を注文している。
「・・・なんだかんだ言って、相当堪えてるんだな・・・」
ウェイターが持ってくると、受け取った瞬間、すぐに飲み干し、三杯目を注文。呆れるようにウェイターが言う。
「・・・お客様、体によくありませんよ・・・」
それには答えない。
「・・・すぐに持ってきてくれないかな・・・」
「・・・はあ、かしこまりました・・・」
ウェイターが歩き去る。その後ろ姿を見て、ため息をつく二人。
「たぶん、持ってくるのは時間をわざとかけてくるだろうな」
「ああ、でもこいつ碌な呑み方しねえよな」
「・・・」
「・・・潰れたら、背負って帰れろうか」
「ああ。そうしてやろう。・・・だから、好きなだけ呑め」
「・・・」
「・・・そういえば、ちょっと気になってた事があるんだよ」
「なんだ?」
「お前は嫡男だから誘われなかったけどな、もし誘われたら、どうだ?誘いを受けたか?」
「・・・リーディエ・シュブルトヴァー男爵にか?誘われたら、か?」
「ああ、もしもだよ、もしも、だ」
「・・・わからん・・・。だが受けなかったかもしれんな」
「なんでだ?」
「うーん、俺は身内ではなく、外から見守っていて、いざという時に逃げ道を用意するのがいいと思ったからかな・・・」
「いざという時に?」
「・・・ああ、自分で進む道を作り出そうとしている人にそう思うのは違っているのかもしれないが」
「・・・いざという時なんか来ないと思わないのか?」
「・・・ああ、そういう考え方もできるか・・・」
「・・・俺は、俺がこの話を受けたのは、近くで彼女を見守りたかったからだ」
「・・・お前も俺も、オトマルも全員彼女に惚れたかもな・・・」
「・・・そうかもな、俺は近くで、お前は離れて、彼女を守ろうとしたということか・・・」
「・・・まだ持ってこないのか!早くしろよ!」
突然、割り込まれて一瞬お互いを見やってしまう。
「こいつ何考えてそばにいることを決めたんだろうな・・・」
「・・・近くに居れば見てもらえるとでも錯覚したんじゃないか?」
「・・・お前ら、僕のことを悪く言うな!僕はお前らより、度胸があるからこそ求婚したんだよ!」
「・・・度胸がなかったわけじゃねえぞ!彼女の負担を考えたら、求婚なんかできなかったっての!」
「ザハリアーシュの意見に俺は賛成だ。俺のような頭が固い奴じゃ、彼女の助けにならない。彼女の隣はもう少し頭が柔らかい謀略についても考えられる奴のほうが似合ってるさ」
「・・・特別監察官の家ってのはお堅い役目だが、固いおつむでは仕事にならないと聞いたことがある。だからベネディクトは十分頭が柔らかいのじゃないのか?」
「何言ってるんにゃ・・・。ベネデクトは頭、固いじょ」
「・・・なんだ、こいつ。もう酔ったんか?語尾が怪しくなった」
「・・・親父に言って、しょっ引かせるか?」
含み笑いをして、体がぐらぐらと動き始めている悪友を見る。
「・・・かのにょはなあ、可愛くて、笑うとはにゃがひりゃいたようにはにゃやひで、でもきらひにゃものにゃ、きっとしてゃめでにらみつげで・・・」
「・・・こいつもう駄目だ、相当酔ってる・・・。だが、なんて言ってたんだ、呂律廻ってないぞ」
「・・・彼女は可愛くて、笑うと花が開いたように華やいで、でも嫌いな者にはきっとした目でにらみつけて。そう言ったと思うが」
「・・・なんで真面目な口調になんだよ。お前も案外酔ってんのかよ」
「・・・酔ってないさ、俺は」
「・・・ザハリアーシュも怪しいな、もうまともなのは俺だけか・・・」
「・・・にゃにいってんにゃ!」
「・・・まったく酔っていないというのに、酔っているとかいうのはおかしな奴だな、ベネディクトは」
「・・・はあ、もういいよ、もういい。わかってたんだ、ラドミラじゃないリーディエのことを大事に思わない奴はここから叩き出してるしな・・・」
そういいながら、透明な液体をぐいっとあおる。脳裏に色々な表情のあの人を、思い出して・・・。
「俺は、彼女の容姿ではない、考えに惚れた。もちろんあの可愛くて美しい顔も好みだがな」
「・・・ぼくは、あの、かおが、このみにゃ・・・。あのかわいい、それで、いつもたにんを、こきつかうときにも、かおいろがかわらにゃい、おもてうらにゃいとこが、・・・いい・・・」
「・・・なんだよ、みんなあの顔がいいのかよ・・・。でも確かに可愛いけど、自分を持ってる表情は凛々しさがあってよいよなあ・・・。て、俺も酔ってるかな、彼女に」
「ああ、お前も酔っているな」
「・・・よってるにゃ・・・」
「・・・・・・黙って呑め」
こうして悪友たちがつるむ時間は少なくなっていく。
「・・・二人は向こうで会えるだろうが、俺は・・・?」
それでよかったのか・・・、そう言いかけた言葉は、口の端にのぼらないうちに消えていった・・・。
悪友というには品行公正な子息たちです。それぞれ、きりっとしたお顔ですので、令嬢たちの人気は高いです。ただ、自分たちは頭がよろしくないと思っているので、人気があることもあまり気づいていない三人なのでした。それに、ピェクニー家の姉ちゃんドラフシェ・ピェクニー嬢のリーディエに感化されたために凛々しくなったというお姿のほうが、世間の評価が高くて、三人はあまり自分たちに人気があると思ったことなどないのです。
三人の残念振りが気に入ったという方は、下の評価をよろしくお願いします。
次のお話は、留学生としてちらりと出てきた貴族ご子息様のお話です。




