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残念美人である貴族令嬢は婚姻を望んでいます  作者: 花朝 はた
間章 残念美人を巡る男たち
31/45

弟から見た姉~弟の婚約者目線~

間章です。

パラノイア入ってるかも弟君、と思いましたが、何とか持ち直したような気がします。

それに弟君の婚約者について言及してなかったので、ここで出してみました。姉に似た容姿をしていて、彼女以外に相手は考えられません弟君です。

弟君とは違い、普通の女の子です。あたかもという貴族っぽくしたくなかったので、冷徹な貴族思考はしていない一般人にしてしまいました。

前章までの誤字報告どうもありがとうございました。

11月1日、ヴィーテクの口調と可愛らしい婚約者に対する想いが判らないと思ったので、修正と加筆しました。

 彼女の名はラディスラヴァ・ボウチュコヴァー。プシダル国のボウチェク公爵家の長女である。


 いま彼女はぼんやりしながら、執事見習いのレネーが用意したお茶を口元に運んで、飲むともなしにカップに口だけをつけて離してを繰り返し、その度にため息をついていた。


 「お嬢様・・・、お飲みになりませんのですか?」


 見るに見かねたのか、執事見習いのレネーが遠慮がちにではあるが、声をかけた。

 その言葉にぎくりとしたのか、ボウチェク公爵家のラディスラヴァは体を一度震わせてから、カップをテーブルに戻し、もう一度ため息をついた。


 「淹れ直してくれるかしら・・・」


 レネーはカップを下げるようにと、傍らに控える侍女に合図をする。侍女のユーリアが別のカップにお茶を注ぎ淹れる。そのままラディスラヴァの前に音も立てることなく置く。


 「・・・」


 しかし、ラディスラヴァの視線は置かれたカップに視線を向けることなく、宙をさまよっている。


 「お嬢様?」


 ためらいがちな執事見習いの呼びかけに答えることもなく、ラディスラヴァは少し前の出来事をぼんやりと思い出していた。





 「私の姉はね、それはそれは可愛い人ですよ」


 のっけから語られる姉賛美に、ラディスラヴァは引きつりながら必死になって笑みを浮かべた。


 「そ、そうなんですか」


 返答がもはや公爵令嬢にもあるまじき言葉なのだが、ラディスラヴァは、本当にそのような言葉しか口に出せなかった。何を言っても公爵令嬢の使う言葉ではないような気がしていた。彼女は、目を輝かせた目の前の男に気後れをしていたのだった。


 目の前の男は辺境の伯爵家の跡取り息子だった。すさまじい美貌で、ラディスラヴァはいつもまともにこの男の顔は見れない。見ると目がちかちかして時には悪寒がするときもあるぐらいの美貌だ。とは言っても本当にそうなったことはないのだが、見ると気分が悪くなってくるのは本当だ。

 ラディスラヴァはその男とは数年前に貴族間の婚約をした。ラディスラヴァが十八になって成人すれば伯爵家に嫁ぐことになっている。


 婚約者とは二つ違いだ。ラディスラヴァは今年十五になって王立ハルディナ学院の新入生になった。そして婚約者のヴィーテク・カシュパーレクは今年が最終年。同じ王立ハルディナ学院で一緒に過ごすことができるのは、あと一年間しかない。


 だがラディスラヴァは不満だった。婚約者の話題は彼の姉の事ばかりだったからだ。


 姉は、とか、姉が、とかの話題を来る日も来る日もラディスラヴァにしてくるヴィーテクに対して、もうため息しか出ない。


 「・・・こんな話はつまらない?」


 ある時、婚約者に問われ、ラディスラヴァは慌てた。話題はどうあれ、婚約者ヴィーテクの見目は美しく、彼の婚約者であることに優越感があった。その婚約者の会話は、ほとんど姉の話題ばかりだが、その姉は王立ハルディナ学院を三年間ずっと主席の成績で過ごし、最後まで主席の座を明け渡すことなく卒業した俊英だから、弟の気合の入り方もわかるというものだ。噂だけだが、彼の姉はプシダル国に残ったとしたら、女の身で初めての宰相になれたのではないかといわれていた。


 「それはないよ。この国では女は政治に係れないんだよ。惜しいことだけど」


 婚約者が話題にする姉は、一年前婚約を結ぶ前に、学院を卒業した時に思い切りよく隣国に行き、その隣国の貴族の当主に収まり、領地の富を増やそうと駆け回っているらしい。


 「・・・姉は隣国に行ってよかったんだ。隣国なら女だからと差別されることもないから」


 そう婚約者に呟かれたラディスラヴァは引きつった笑いで、婚約者を見たのだった。

 本音と建て前、今のつぶやきはどちらなんだろうと、二人だけのお茶会を終えて婚約者のヴィーテクが優雅に辞去の礼をして去っていくのを見送りながら考える。ラディスラヴァは婚約者を見送った後、公爵家のサロンに残り、婚約者のつぶやきについて考えていた。


 「ヴィーテク様、あなた様は義姉さまがこの国に居てくれたほうが本心では嬉しいのでありませんか?」


 侍女が淹れたお茶のたてる湯気の向こうを透かし見ようとするように、公爵家の令嬢は、宙を見ながら呟いた。






 王立ハルディナ学院を卒業した婚約者ヴィーテクが、隣国の姉の元に出向くという。

 出向く前、公爵家に出向いてきた婚約者に、複雑な思いでラディスラヴァは会った。


 「明日、この王都を出て、隣国に向かいます。隣国の貴族になった姉が難儀をしていると連絡があったのです。私は姉を助けたい。姉の難儀が解決出来れば、まっすぐにあなたに会いに戻って来ますので、今しばらくのご辛抱を」


 改まった口調でヴィーテクが言う。


 「・・・義姉さまが難儀をしていらっしゃるのですか・・・」


 ラディスラヴァが視線を落とすと、ヴィーテクが固い表情で頷く。


 「ラディスラヴァ嬢、私の姉は望まれて隣国の男爵家の当主になったのだから。その理由は男爵家にはもう、親戚と呼べる家がわがカシュパーレク家しかなかったのが理由なんだよ。ご承知でしょう?私の祖母が男爵家の出だったことを」


 「はい、お伺いいたしております」


 その話は有名な話だ。今でもボウチェコ公爵家の当主である父スタニスラフは、昔を思い出しては伯爵家に嫁いできた隣国の男爵家の令嬢の容貌を語るほどだった。


 「・・・姉は一年前に今は取りつぶされて無くなったペリーシェク公爵家の次男とようやく婚約を破棄することができ、晴れて男爵家の養子となったのだけど、姉は隣国ベェハル国の国王シュテファンから夜会に出るようにと強要されることになってしまってね。国王は言動から察するに、姉に懸想しているのだろうと思うのだけれど。私は姉が望んでいない国王からの求婚を防ぐ意味で夜会に一緒に出て、姉を守るつもりなんだ」


 一気に話す婚約者の姿に、ラディスラヴァが目を見張っていると、ヴィーテクが手を取ってきた。


 「あなたのそばを離れるのは、気が重く行きたくないんだよ。しかし姉の存在は私の心の支えだから。隣国で暮らしている姉に、私は重荷を背負わせたくないと思っているんだ。姉はもう十分に元の婚約者であるペリーシェク公爵家のボンクラ次男のせいで苦しんだ。自分の幸福を掴んでもいいと思いませんか?」


 ボンクラと言ってしまいましたわね、姉の元婚約者を・・・。


 「・・・案外好き勝手していたのではなかったのですか・・・?ご自身からそう聞いたような気がしますけど・・・」


 ラディスラヴァがそう呟くが、ヴィーテクには聞こえなかったようだ。ヴィーテクが婚約したのは、丁度ラディスラヴァが王立ハルディナ学院に入学する直前だった。婚約をするときにラディスラヴァは伯爵家の面々と会って話している。その時には彼の姉であるラドミラ・カシュパーレクにも会って話していた。


 「・・・何か言った?」


 ラディスラヴァの呟きは幸いにもヴィーテクには聞こえなかったようだ。


 「・・・いいえ」


 ラディスラヴァは懸命にも何も言わなかったことにした。





  婚約者が帰ってきたのは、2か月後のことだった。国王の求婚は退けたというが、別なお邪魔虫が姉についたと機嫌を損ねていた。ただ仏頂面はしていたが、婚約者であるラディスラヴァには当たり散らすこともなく、土産物と言って赤い色の刺繍糸とハーブ茶を渡される。最後にエメラルドの石を中央に散りばめたブレスレットを渡された。


 「姉さんは公爵家の嫡男と婚約するつもりらしいよ。国王も、婚約者候補も文句のつけようがない男を見つけたようなんだ。貴族は子孫を残すことも大事だけど、私にも相談なしに決めるなんて。裏切られた感じがする」


 仏頂面のせいで、言葉が少々砕けすぎているが、まあ事情が事情のために我を忘れているのだろう。どうやら婚約すること自体が気に食わない様子だった。


 義姉様に恋でもしてるようではない?ラディスラヴァはふとそう思った。


 ラディスラヴァは最近読んだ巷で流行りの恋愛小説を読んでいた。その恋愛小説の中に姉弟が恋に落ちる話があった。その小説の中の姉弟は結局は血のつながりはなく、一緒になるのに問題はなかったのだが。

 そういう恋愛小説のおかげで、ラディスラヴァは恋にあこがれた。この美貌の婚約者と恋ができたらなあと小説を読んで考えたこともある。


 「婚約が決まったのですか?」


 「帰るときには、決まりかけていたんだ。だが決まったとは言ってなかった」


 「決まったのなら良いことではないのですか?」


 ヴィーテクは関心が薄い自分の婚約者に顔を顰めた。もっと関心を持ってほしいとでもいうつもりなのだろうか。


 「・・・そうなのかな?・・・だけど最初に会った侯爵家の次男は領地しか見ていなくて嫌だと。二番目の候補には命を狙われるかもしれないと言ってたし。まあ、三人目はあのオトマルだったから、姉さんが本気になるはずはないと思ったけど」


 婚約者の言葉に、ラディスラヴァは驚愕して目を見開いていた。


 「・・・」


 「・・・?どうしたんだい?」


 ラディスラヴァの様子に、ヴィーテクはお茶を飲もうとしていた手を止める。


 「・・・義姉様が命を狙われているというのに、どうしてそんなに落ち着いていられるのですか!すぐに護衛で周りを固めなければいけないのではありませんか!」


 ラディスラヴァはヴィーテクの言葉に不穏なものを感じ取っていたのだが、当のラドミラにとっては杞憂らしかった。ヴィーテクは決して盲信しているわけではなかったのだが、ラドミラは命を狙われても切り抜けられると考えているらしい。姉への絶対な信頼があるのだろう。

 しかしながら、ラディスラヴァにはそこまでの信頼はない。そのため、つい未来の姉に対して心配をするとともに、能天気な本人に対しても、そして目の前の婚約者に対しても危険を軽視すぎると怒りが湧いてきていた。


 「・・・ヴィーテク様、良いですか?幾つかご質問させていただきます」


 改まった様子でヴィーテクを見据えて質問するラディスラヴァを見返すヴィーテクはなぜ、彼女が怒りの表情をしているのかわからなかった。


 「・・・なぜ怒ってる?」


 「ラドミラ義姉様は万全な体制で守られておりますか?」


 「ああ、護衛は常に一緒に行動してるね。執事代理もいつもそばにいるし、専属侍女もそばについてるよ。姉さん自身もいつも武器を身に着けてるけど?」


 「二番目の候補が命を狙っているのなら、なぜ告発しませんの?」


 「・・・領地に、今は平民になったイグナーツ・ペリーシェクが潜んでいるらしくてね。どうしてプシダル国から国境を越えてベェハル国へと入れたのかわかっていないけど」


 「・・・」


 「イグナーツなんて、姉さんへの復讐ぐらいしか考えつかないだろうと思う。復讐と考えたら、闇夜に紛れて館に襲撃するなんてこと、平民になったイグナーツにできるとは思えないし、そのための金もないだろうし。ただね、そのイグナーツが隣の貴族と手を組んだのなら、襲撃はあるかもしれない。そう考えたら隣の貴族が襲うにしても今婚姻もしないで襲ったら、領地が手に入らない可能性が高い。そんな公算が高いのに命を奪うようなことはしないだろうと考えたんだよ、姉さんが」


 「・・・はっ?義姉様がそう仰ったの?」


 「ああ、そうだよ。私もそう考えたし、姉さんもそう考えたのならもう取るべき道は決まってるだろうしね」


 「・・・道って、どういう道なの?どうするつもりなのか、教えてもらいましたの?」


 「いや、教えてはもらえなかったけどね、でも考えそうなことはわかってる。何もしない、姉さんならこう考えると思うよ」


 「・・・」


 「要はさ、姉さんは利点と欠点を考えて、まず婚約だけじゃシュブルト領を手に入れることはできないと考えたと思う。婚姻してからなら権利の主張ができるけど、ただ婚約しているだけじゃそれが自分の領地だとは主張できない。だから行動を起こすのは婚姻後だ。婚姻さえしなければ領地を狙って命を取ることもできない。なら、ほっておいて利害が伴わない貴族が求婚してくれたら、そのまま婚姻して領地経営をすればよいと考えたのだろうと思うんだ」


 義姉様の考えを話すときのヴィーテクは全くの平常通りで、当たり前のことを言っているという姿勢だった。そんな婚約者の様子に、ラディスラヴァは戸惑っていた。すべての牌は義姉様が持っているので、安心して見ていられるとでも言うのだろうか。私にはそう割り切れないのですけれども。


 「・・・」


 「それで、姉さんに非常に都合の良い求婚者が表れたってわけ。姉さんはそれで考えて考えて久しぶりに熱を出して倒れたけど、療養している間に考えをまとめて、求婚を受け入れ、婚約することにしたらしい。そうすることで、別の求婚した貴族たちは姉さんとシュブルト領を手に入れることすらなくなったってことになる。

 私がちょっと納得できていないのは、これを姉さんは一人で考えたってこと。相談して欲しかった。まあ、私の我が儘なんだけどね、本音は相談がなかったことがちょっと引っかかってる」


 「・・・合理的な義姉様なのですね・・・」


 ラディスラヴァは引きつり笑いでヴィーテクを見る。


 「・・・どうなのかなあ。自己評価は低いよ。王立ハルディナ学院で三年間主席だったくせにね。それにラディスラヴァ嬢、あなたは姉さんと会ったことあったよね?あの姉さんを見てどう思った?」


 「・・・どうって、化粧した姿はものすごく美しくて、化粧を落とすと別の美しさと可愛らしさが増して・・・。容姿と頭脳の基礎がものすごく優秀な人なんだと感心しました」


 ラディスラヴァの言葉に、ヴィーテクはふっと顔をほころばせる。


 「ありがとう、姉さんを正しく見てくれて。感謝するよ。

 でもね、姉さんは容姿がおばあ様に及ばないことがコンプレックスだったんだよね。姉さんは美人で可愛いけど、美しいというのはおばあ様のことだとかたくなに信じていてね、そういう考えだから容姿に自信がないせいで、外見をほめても信じなくてね。それでいつの間にか家族が呼び始めたのが、残念美人だったんだ。自分の良さをわかろうとしないから、残念美人。今でも容姿が美しいと言われるとムスッとしているよ、貴族だから怒ることはめったにないけど」


 「・・・そうでしたか。完璧だと思ったのですけど、義姉様にも思いもしないことがあるのですね」


 神妙な表情にラディスラヴァが成ると、ヴィーテクは楽しそうに笑った。


 「・・・姉さんの良さをわかるのは、我がカシュパーレク家の者とコンラート・ペリーシェク男爵、そして、ラディスラヴァ・ボウチュコヴァー嬢、あなたぐらいかな」


 そう、ラディスラヴァに話した後、ヴィーテクは昔を思い出すかのように宙を見て、微笑む。


 「姉さんは、私が羨ましいといったんだよ。祖母に似ている私が美しくて、愛おしいと。いつまでも私の弟でいてほしいと、いったんだ。私はそれから姉さんが第一になった、家族の中で」


 ラディスラヴァは複雑な表情になる。それに気が付いたのかつかないのか、ヴィーテクは呟くように付け足す。だが、それははっきりとはラディスラヴァには聞こえなかった。


 「・・・でも、今は姉さんと同じくらいに大事な人もできたんだけどね・・・」








残念美人の弟が残念美男であったという話にするつもりでしたが、婚約者の前ではまともに動けるのでしょうか、案外まともでした。

ちなみに最後の会話の後に、弟君は婚約者の令嬢の執事見習いの落とした爆弾に、返答に困るのです。直接関係ないことでしたので、今回は書きませんでしたが。

ちなみに内容はこんな感じです。


「そういえば、私もラドミラ・カシュパーレク様の化粧をしていないお姿を拝見致しましたが、なんだかラディスラヴァお嬢様に似てらっしゃると思いました」

「えっ?そう?そう思う?」

「はい。・・・ひょっとして、ラドミラ様に似ているということでわがお嬢様に婚約を申し込まれたのではありませんか?」

「うっ」

「図星でしたか」

「・・・そういうことでしたの・・・。ヴィーテク様は筋金入りのシスコンでしたのね!」


シスコンという言葉を使いたくなかったこともあり、このくだりはカットしました。

あと、意図的に会話を際立たせるために、会話部分を強調するように書いております。読み難いでしょうか?ご意見があればお送りください。

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