残念美人は懲りない求婚をする国王に怒る
時間がかかってしまいましたが、一話書き上げました。申し訳ありませんでした。
この話で、二章が終了となります。お相手も何とか確保した残念美人ですが、周りは顔良し、頭良し、領地広し、歳若いリーディエをこのままほっておくような周囲ではないように思います・・・。
皆様、ごきげんよう。
私はリーディエです。
王は満面の笑みで私を見つめて、口を開きました・・・。
「リーディエ・シュブルトヴァー男爵、其方のベェハル国の西側の守りと産業の振興に対して報いることができないかと考えていたのだ。今までクバーセクの侵略に対して単独でよく抗し、ベェハル国を護ってくれた。礼を言う。そこでだ、其方の忠勤に対して褒美を取らせようと思う。何も言わず、受けてくれ」
私は、ラドヴァン・ベチュヴァーシュ様がタウンハウスを慌ただしく出て行った二日後、バラの花と一緒に届けられた国王からの呼び出しの所為で王城に来ています。
「・・・」
多分私の口は今現在への字に曲げられていることでしょう。そうです、私は相当ご機嫌斜めです。
私の目の前には国王が立ち、私の陞爵に関する書状を読み上げています。
「・・・と言うわけで、リーディエ・シュブルトヴァー男爵は、爵位が進み、来月からは伯爵位に上る。なおそれに伴い、現在王家にて管理されているバブカ地方の北側部分を併せて所領とする。快く受けよ」
「・・・」
私は黙ったまま、書状を裏向け、書面を私に見せる国王シュテファンを見つめます。
「・・・どうした?爵位が上がったのだ。ほれ、其方の従伯父に約束していた子爵より上の爵位を用意したのだぞ、喜べ」
私の表情が気に食わないのか、国王が幾分顔を顰めながら私を見返してきます。
「どうして子爵位ではなく伯爵位なのでしょうか?」
「気に食わんとでも言うのか?」
「・・・話を逸らそうとせずにお答えいただけますか?」
私の言葉に溜息をつき、国王がややうんざりした様子で答えます。
「前の子爵位をやることについては我が考えたものではなかったからだ。我は今までの事から今のシュブルト家の貢献に見合う爵位は子爵位どころでは足りないと考えた。そのため近年に前例のないことだったのだが、爵位を男爵位から伯爵位に上げることにしたのだ」
そう言った国王は、笑顔で私を見ています。
「近年の国王ではやれなかったことだ。名誉に思え。そなた、我が王でよかったな」
なぜか言葉が相当残念です。子供ですか、あなたは。そう思った私は思わず半目になります。
「・・・バカバカしい・・・」
小声で思わず罵ってしまいました。あら、少々貴族らしくない呟きでした。
そして国王に聞こえていたようです。ですが、聞こえていてももうどうでいいことです。
「・・・何か言ったか?」
国王が笑顔のまま尋ねてきます。ただ笑顔がむかっ腹を立てているように妙にぎこちなくなっています。
「・・・気のせいかと」
私は自分の言葉をなかったことにするつもりで答えます。どうせ国王に聞こえていても問題があることにはできないはずですし。
私の返答に、国王は口の端だけで笑っていますが、目だけ内心を表すイラついているような光で私を見ています。やがて口惜しそうに呟きました。
「・・・そうか、何も聞かなかったのだな、我は」
「・・・御随意に・・・」
私は軽く頭を下げました・・・。
もう終わりだろうと思いましたが、まだあるようです。
表情を改めた国王が、私を探るように見ながら口を開きました。
「さて、実はな、其方が倒れたと聞いて我も好機と思ってな」
その言葉に私の顔が引きつります。国王たるものが、倒れた貴族にここぞとばかりに口説きにかかるとはどうなのかしら?卑怯よね?王としても自覚あるのかな?
「・・・それでここぞとばかりにバラの花を贈った。話によると、花を意中の女性に送るのはバラが良いと聞いたのでな」
「・・・」
「どうだ?ほだされないか?我の妃にならんか?」
無駄にきらきらとした笑顔で私を見ていますが、私はにべもなく拒絶します。
「無理ですね」
「なぜだ?」
「この間、はっきりとお断りしたはずですが、聞いてはおられなかったのですか?もう耳が遠くなられたのですか?」
「・・・」
「そんな色ボケした耳の遠い国王の言うことなど、真面目に聞くことなど出来ません」
「・・・」
「それに私は先ほど国王ではない方から求婚されました。私はその求婚を受けますので、国王のたわ言は一切聞き入れる事すらありませんのであしからず」
「そんなに我の妃となるのが嫌か?」
国王が眉を寄せて聞いてきます。
「嫌ですね」
「・・・そうか」
間髪入れない私の答えに、国王は項垂れます。私はその姿を特別何の感慨もなく見つめます。気を引こうとしてるとしたら、それで釣られるのは誰も居ないよ。下手糞な演技しちゃって。
「・・・王命を」
言いかける国王の言葉を、わざと遮るようにかぶせます。王命とか言われたら、もう内戦するしかなくなります、それはそちらも望んでいないでしょう?
「いい加減に諦めたらどうなのです?私の父と同じ歳の年寄りに嫁ぐ気はありません。はっきり言っていい迷惑です。私はシュブルト家の当主。貴族の家の存続がかかっているのに、その女当主を妃にと考えて、その貴族の血統を絶えさせようとする国王など、国主としての立場を正しく理解できていないと思います。そしてこのベェハル国は諸侯連合です。あなたの嫌がる貴族に強要するその行為が他の貴族にも同じことをされるかもしれないと考えられれば、国王としての優位な立場などすぐに消し去られるものでしょう。それが分からないのですか?」
ここまで言うつもりはありませんでしたが、私も苛立っているのです、このバカ王が見苦しくて。
「わかった。だが、なぜそれほど我を嫌うのだ。国王の妃はそんなに魅力がないのか」
それはこちらのセリフです。なぜそんなに私に固執するのか、教えてほしいものです。
「・・・あなたが国王である以上、妃などになるつもりはありません。私は理解力がない者は好みませんので。プシダル国に居た時、丁度同じように私の言葉を正しく理解できない者がいまして、繰り返すことが多く、ウンザリしているのです。もう何度も同じことを言わせないでくださいませんか?」
私の歯に衣を着せない物言いにさすがに怒ったのか、顔が赤く染まりましたが、やがて体から力が抜けました。
「・・・そなたは本当に我が嫌いなのだな・・・。それほど嫌われているとは思わなかったわ」
肩を落としていますが、ここで絆されることはできません。
「お判りいただけましたか?それなら、バラには罪はないので活けてありますが、もう贈らないでいただけますか?もう花瓶がないので」
先ほどまでの会話が不本意な結果になったと思われますが、国王が話題を変えてきます。まだ話さなければならないのですかね?まったく面倒な方です。
「そう言えば先ほど、求婚をされたとか言ったな?その者と一緒になるのか?」
「そうです」
決まったわけではありませんが、そう答えておいた方が無難でしょう。
「・・・だから我の入るスキはないと言うわけか」
もともと入るスキはないのですけど。まだわかっていないようです。なぜわからないのでしょうかね。そう考えた私の言葉が素っ気なく響きます。
「スキなど最初からありませんでしたが、お判りになりませんでしたか?」
私の言葉に答えることもなく、国王は遠くを見ながら口を開きます。ん?回想入ってる?
「・・・我が王になった暁には、あの幼い時に見かけたエヴェリーナ嬢を助け出すつもりだった、いや、連れ去られたエヴェリーナをもう一度元の場所に戻すつもりだったのだ」
何でしょうかね、一方的な押しつけは。
「・・・バカな思い込みですね。私の祖母は祖父に請われて祖父の元に喜んで嫁いで行ったのに、連れ去られたなどと勝手に妄想していたのですか」
国王の視界に呆れた表情の私が入ってきたようです。ため息をついています。
「我はエヴェリーナがカシュパーレク伯爵に嫁ぎたくないと言っていると聞いた」
あ、確かにおばあ様はおじい様の求婚に爵位が釣り合わないと、本当は断りたくなかったけど、断らなければと断ったと言ってらしたわ。
嫁ぎたくないのではなくて、男爵の令嬢が隣国の辺境伯だった家に嫁げるわけないと思っておじい様を諦めて断ったのだと、でも本心はおじい様に惹かれていたから、許されるなら嫁ぎたいと思っていたとも言ってらしたはずでしたわ。
私が昔のことを思い出している間にも国王の述懐は続いていました。
「我はその時力を持っていなかった。だが、今なら助けられると王になった時にはエヴェリーナは亡くなっていた。我はそこであきらめたはずだったのだ。
だが、我は孫がシュブルト家の当主となると聞き、嫌な思いを感じなくても良くなるならと当主のまま王家の家族として保護できたらと考えたのだ」
自分勝手な話に私は相当怒りがわいてきます。思わず毒を吐いてしまいました。
「・・・有難迷惑な話です。私が保護をしてくれとあなたに頼みましたか?
自己満足なだけの話です。欲望のまま自己に陶酔し、相手の事を考えることなく勝手な思い込みで嫌がる相手を強引に妻にしようとし、自己満足で相手の望みを絶つのですか?」
私の言葉に国王は私を目をむいて見つめます。私は睨み返しました。
やがて国王は視線を私から外して呟きました。
「・・・随分辛らつだな」
「いいえ、そんなことはありません。一応敬意を払ってお話しておりますよ」
私の言葉に憮然とした表情になった国王でしたが、私の立場も考えることなく求婚して妃と言う愛人にしようとしたことに対しては謝罪されました。少しはまともな考えを取り戻したということでしょうか。ですが、男爵位から一足飛びに伯爵にすると言うお達しは、撤回はしませんでした。さらにはシュブルト家の格式を考えれば伯爵でも足りないとか言って、更に高い爵位を用意するつもりのようです。私を取り込もうとしていて大盤振る舞いをして伯爵位を要したのに、私が靡かなかったために引っ込みができなくなったのでしょうか。
私は王城からシュブルト家のタウンハウスに戻り、今日の謁見の内容を報告しています。不敬だと咎められることもなく、何事もなく国王の前から下がることができましたが、後から何か無理難題を言ってきそうな感じがあります。まあ、その時はその時ですね。
「・・・シュテファン王がこのまま引き下がってくれればよいのですけど」
私の話を全部聞き終わってから、ドラフシェ・ピェクニー様が呟きます。
「どうでしょうねえ。案外しつこいかもしれません」
私がそうドラフシェ・ピェクニー様に向けて話します。
「ん?なに?なに?」
その姿を見たドラフシェ・ピェクニー様の弟であるザハリアーシュ・ピェクニー様が眉を寄せます。
「・・・あなた、邪魔よ。ヴィーテク・カシュパーレク様とベネディクト・チャペック様はお帰りになる準備をしておられるのに、なぜあなたは帰らないの?」
ヴィーテクとベネディクト・チャペック様は嫡男ですので、長らく領地を離れて遊んでいるわけにはいきません。私の懸案事項だった夜会のガードも終わり、任務終了とばかりにプシダル国に帰る準備をし始めて、ここにはいません。ようやく熱が下がったヤロミールもヴィーテクと一緒に帰ることになっていますので、同じくここにはいません。それ以外のピェクニーのご姉弟とオトマル・テサーレク様はのんびりされているのです。
「ええー、姉さま、つれないことを言わないでよ。ひょっとしてリーディエ様に何かあるかもしれないだろ?あの侯爵家の次男とか、お隣の領地の男爵とかさ。そのために残っているんじゃないか」
姉弟で何か言いあっていますが、いい機会なので私は熱を出して寝込んだ時に考えていたことを残っている三人に話そうと思います。三人がどう思うかはわかりませんが、案外良い返事をくれるかもしれないとひそかに思っているのです。
「・・・ちょっと良いでしょうか?」
私の言葉に三人が振り向きました。
「・・・なにか?」
ドラフシュ・ピェクニー様が恐る恐る口を開きます。
「今ここにいる方にお願いがあるのですが」
探るような目つきになったオトマル・テサーレク様が用心深く周囲を見回しはじめました。
「・・・まさか、見張られてるとか?国王が?」
その言葉に緊張し始めるあとの二人です。
「いえ?違いますよ?」
どうしてそんな考えになるのでしょう?
「・・・じゃあなに?」
「・・・私の領地でお仕事をしてくれないかなと思いまして、お誘いです」
「今、シュブルト家の領地は広大となっています。広くて私一人では到底把握できていないのです。そこで、私は領内を三分割することにしました。そのうちの二つに代官を置いて政務を行ってもらいたいと思っています。今までは決裁などを私の義父であるクリシュトフ・シュブルトが行っていましたが、御屋形様といわれるシュブルト家当主に決裁が集約している関係上、緊急事案に決定が遅れることがあるのではないかと危惧しているのです」
「その代官をしてくれないかというわけ?」
オトマル・テサーレク様が私をじっと見つめました。
「・・・最初は決裁の事案も少なくせざるを得ませんが、問題がなければ徐々に決裁事案も多くなるでしょう」
「・・・」
ピェクニー姉弟は黙ったまま、お互いに顔を見合わせています。
「すぐに決めてほしいわけではありませんが、今の季節が晩春ですから晩秋には配置を決めたいので、それまでにご返事をいただきたいのです」
私の言葉に、おずおずといった感じでドラフシュ・ピェクニー様が質問してきました。
「・・・非常にありがたいお申し出なのですが、私達でよいのでしょうか?私は王立ハルディナ学院の成績では、元カシュパーレク伯爵令嬢のラドミラ様の足元にも及ばない成績でした。そのような者が到底務まるとも思えませんが」
あとの二人も頷いています。
「いえ、成績などはどうでもよいのです。申し訳ありませんが、行政の執行ができればよいのですよ、私の想定している代官は。それに担当した地域の治安維持を担ってくれればと考えています。やる気のあるものをその地域から選抜して警邏隊を作ろうかと考えていまして、その長をしてもらいたいのです。ああ、もちろん犯罪者と戦えというのではありませんよ。それは私が派遣する騎士団の仕事です」
私が説明すると、三人がお互いを見やっています。
「・・・そういう論理なら、別に私達でなくてよいと思いませんか?領地にも優秀な人はいませんか?」
「うん、ドラフシュ嬢の言うとおり、優秀な人はいるよね?下手すれば僕よりできる人はいるかもしれないし」
オトマル・テサーレク様がうなずきながら言葉を、ドラフシュ・ピェクニー様の後に続けてきました。
「いるかもしれませんね。ですが、シュブルト領には貴族出身の方は今はいないのですよ。貴族の考え方ができる方はいないのです。領民のことを考えて、領民を守るために仕事ができる方は私の知る限り貴族の方しかいないのです。そして、嫡男以外の貴族の方がここにいる。ですから、お誘いしたのです」
しばらく誰も口を開く様子はありませんでした。私も何も言わず、三人を見ているだけで黙ったまま待っています。結論を出すのは後日でいいことを、再度伝えようかと思っていたところ、ドラフシュ・ピェクニー様が背筋を伸ばしてから、口を開きました。
「リーディエ・シュブルトヴァー様、私は先ほどのお誘いをお受けしたいと思います。私は経営に携わりたいと思っていました。あなたからのお誘いは私の望みを叶えられるまたとない機会です。私からお願いします。あなたと共にシュブルト領を発展させるお手伝いをさせていただきたいと思います」
そんな姉の姿を見たのか、ザハリアーシュ・ピェクニー様も姿勢を正してぴしりとした格好になります。
「俺をそんなに買ってくれるなら、俺もそれに応えたいと思います。どうか、姉ともどもあなたのもとで働きたい。よろしくお願いします」
そんなお二人の姿を見てから、私は顔をほころばせました。
「ありがとうございます。私と義父しか、貴族はいませんでしたので、貴族の心得をもって領民に接してくれる人を探さなけれなばならないと思っていたのです。それが悩みの種で、しばらく私が広い領地を巡らなければならないと覚悟していましたから、人材を確保できたのはありがたいことです。それにハルディナ学院を卒業した方なら、私のやろうとしていることも長々説明しなくてもお判りいただけるでしょうし。非常にいい人材を得ることができて、私は嬉しいです」
そして私が最後残った三人目に目を向けると、複雑な表情のオトマル・テサーレク様が私を見返してきます。
「・・・僕はあなたに振られたんだけど・・・」
私は苦笑します。
「まあ、そうですね。オトマル・テサーレク様はお誘いしないほうが良いですね」
私がそう答えると、突然慌てたように焦り始めます。
「い、いや、そうじゃなくて、あ、そうなんだけど、」
「何言ってんだよ!」
ザハリアーシュ・ピェクニー様に背中を叩かれて、前のめりになったオトマル・テサーレク様がすぐに顔を真剣な表情にして質問をしてきました。
「一つ聞かせてほしいんだけど」
「何でしょうか?」
「もしあなたの下で働くとして、どこに配属されるのかな?」
「地域ということでしょうか?」
「そうだね」
「希望があるということでしょうか?」
「・・・いや、シュブルト領がどういう場所で構成されているのかわからないから、今のところ希望はないんだけど、もし希望したらそれが通るのか、知りたい」
「・・・私に希望は出していただいても、答えられないこともあるかと思います」
「・・・そうか・・・」
考え込むような感じになったオトマル・テサーレク様ですが、隣のザハリアーシュ・ピェクニー様がまた背中を叩きます。
「お前、何言ってんだよ!さっきの希望の話聞いてると、男爵のもとで働く前提で希望が通るのかって聞いてるじゃないか!カッコつけてる所じゃないだろうが!」
「うぐっ!」
「・・・ふふっ。そういうことであれば、皆さんは全員私の申し出を受けてくださるということですね。ありがとうございます」
「そういうことになりますね」
ドラフシュ・ピェクニー様が笑って答えてくれます。
そういうわけで、私は私がシュブルト領を離れても、領地を見てくれる方を手にして、公爵家の方と一緒になる手はずを整えることができました。
ですが、お隣の侯爵の次男の方や元婚約者がいるという男爵などの出方がよくわかりません。早く婚約をしてしまいたいところです・・・。
次の章は、陰謀を巡らせる周囲に対抗するリーディエとその仲間たちがさらに領地を広げて国内でも間を上げていく話にしようと思っています。今までに張った伏線も回収するつもりです。
三章を書く前に間章を数話挟む予定です。残念美人を囲む男たちの本音はどうなのでしょうか。書いている者も期待しています。
ですが、この国王も残念ですよねえ。書いていて往生際が悪すぎて、リーディエが過剰反応して毒舌全開になってしまいまして、書き直しをしなければならないことになりました。あれだと不敬罪で死罪になるかもしれませんでした・・・。
書き直しと体調不良と、仕事の影響で遅くなりました。お詫び申し上げます。




