残念美人は義父に事後承諾を得る
体調不良で執筆が遅れました。
さらに前に張った伏線の中身を、解釈を変えて書くことにして方向性を修正するのに時間がかかりました。
それで、ようやく話を切りのいいところまで書きましたので投稿します。
皆様、ごきげんよう。
私はリーディエです。
私は将来の公爵夫人です。あまり嬉しくはないのですが、この身には過ぎた名誉とでも言うべきでしょうか。ですが、私の未来に最適の爵位なのです。この機会は逃がしてはならないと思っています。
と言っても、実際は候補ということなのですけど・・・。ついでに私の爵位も上がり、男爵ではなくなりそうです・・・。爵位が上がれば自力で何とかできそうな気がしないわけではないのですが、まあ、そうはうまくは運びませんでしょうね・・・。
私のお相手はラドヴァン・ベチュヴァーシュ様ですが、これからの事は口約束でしかありません。
ただ、ラドヴァン・ベチュヴァーシュ様は、現当主の父フェルディナント・ベチュヴァーシュ様を説得すると言って帰られました。
帰り際、私の手を取ってしばらく私の目を見つめた後、唐突に満面の笑みで手に取っていた私の手の甲に口づけし、様子を覗きに来た大伯父様とヴィーテクにそれを見られましたが。
その様子を見ていたヴィーテクは怒りの形相で部屋に飛び込んできて、ラドヴァン・ベチュヴァーシュ様の手を叩き落としていました。
そのあと、余裕の表情になったラドヴァン・ベチュヴァーシュ様が私と大伯父様に挨拶をし、帰って行かれましたが、その後ろ姿につばを吐こうとするヴィーテクに私は、頭に拳骨をお見舞いして止めさせます。
「やめなさい!あなたはカシュパーレクの次期当主ですよ。自分と家の品格を貶めるような真似をしてどうするの!」
「・・・ヴィーテク、みっともないぞ」
ヴィーテクは顔を怒りで赤くして喚きだしそうでしたが、大伯父様に止められてようやく落ち着きました。
「姉さんは、本当にあいつと結婚するのか?」
ヴィーテクはいつまでも拗ねて私の様子を窺うだけでした。
「・・・そうね、あの方なら王家と何とか渡り合えるのではないかしらね」
「・・・公爵家だからか?」
「・・・ええ、そうよ」
ヴィーテクはふくれっ面です。
「・・・あいつ、姉離れしないな・・・」
「・・・あれはもう病気だぞ・・・」
「・・・お前ら、僕も慰めろよ・・・。僕振られたんだぞ・・・」
若干一人が肩を落としていますが、ヴィーテクの三人の悪友は小声でヴィーテクを見ながら話し合っています。
「・・・オトマル、お前本気だったのか?」
「・・・本気だよ!本気で、夫になるつもりだったんだ!」
「・・・お前、度胸あるよな、ほんとに。俺は冗談言ってると思ってたから、この前の時は流してたんだが」
「・・・」
「冗談だったんだよな?」
二人の友人が真顔で見てくるのに、引き気味になり、やがて、ぽそりと答えます。
「・・・ほんとは半分冗談だったと思う・・・」
あ、なんかなかったことにされてる気がする。
「だよな」
「ああ、それでいい。そうしとけ」
「・・・」
あ、項垂れちゃった・・・。
ヴィーテクはともかく、さすがに大伯父様は私に質問してきて、私の考えを確認してきています。
「なぜ、公爵の長男の申し込みと言うか、思い付きと言うか、あまり本気ではないようなあのベチュヴァーシュ公爵家の長男の申し出を受けたのか聞いても良いか?」
項垂れて椅子に座り込んでいるヴィーテクを一目見て、軟弱ものかこやつ、と呟きながら眉をしかめた大伯父様でしたが、それ以上言葉をかけることなく、溜息を一つ漏らすと、私に視線を移し、尋ねてこられます。
「・・・大伯父様には、求婚が本気ではないと思われるのですね?」
「無論だ。どう考えても公爵の嫡男が男爵家の女当主に求婚するなど、本気だとは考えられん」
大伯父様が頷きます。
ヴィーテクがピクリと動きました。
「本気じゃないのに姉さんに求婚したのか!」
私が再度ヴィーテクの頭に拳を落とします。
「黙っていなさい、ヴィーテク」
「痛っ!姉さん、次期伯爵家の当主の頭に二度も拳なんて!」
涙目のヴィーテクに私は感情のこもらない目で見据えます。
「・・・私は現男爵家の当主ですし、あなたはまだ伯爵ではありません、ただの私の弟です。黙っていられないなら、このまま馬車に押し込んで、カシュパーレク家に送り返しますよ」
ヴィーテクが黙ったところで、私は大伯父様に向き直りました。
「大伯父様、私は本気とか本気じゃないとかはどうでも良いのです。私も本気ではありませんので」
「・・・まるで化かし合いだな」
呆れたように、一瞬だけ黙り込んで、大伯父様が呟きました。
「そうですね。しかしいいではありませんか、少なくともあのラドヴァン・ベチュヴァーシュ様は私を正妻にすると誓ってくれましたし、それに冬の間だけ一緒に過ごす事にも戸惑いながらですが、受け入れてくれましたし」
私はこの上なく極上な笑顔で答えると、大伯父様は再度溜息をつきます。
「・・・わしには理解できないが、そんなことを言ったのか」
「ええ」
「・・・それはもう、何と言うか、もう知らん、勝手にすればよかろう」
「ありがとうございます。あのベチュヴァーシュ公爵家なら、今の王家も手が出しにくいでしょう。私が現王派に取り込まれることは無くなりました」
「・・・ん?」
「ちょっと待て、あの王の求婚はシュブルト家の取り込みか?」
「・・・そうなのか?」
「僕はそうは思えなかったんだけど、男爵はそう考えたのかもね・・・」
「いえ、リーディエ様が考えたことが当ってると思うわ・・・。だってシュブルト家は今でも北の大公家を強力に押している家でしょう?現王家にとっては目障りで仕方ない家だ。しかし今までの当主は武力では相当の力を持っていたけど、今度の当主は若輩で女性だし、当主を継いだばかりで家を掌握し切れていないはずだ。だから婚姻できればシュブルト家を王家の味方に出来る。爵位は低くても王国屈指の武家のシュブルト家の名は伊達ではないでしょう?王国の西の要の家で、隣の国の伯爵家のご令嬢だった方で、隣の国にも一定の影響力がある。それに美人だし、頭もいい。味方にして損はない。リーディエ様はそれだけの魅力があるのですから」
何か外野がうるさいですね。ドラフシェ・ピェクニー様、興奮して話してるけど、分析に皆があっけに取られていますよ・・・。けど、なぜみんなこの部屋に揃ってるかな?私、入室を許可した覚えはないのだけれど・・・。
大伯父様が、戸惑ったようにドラフシェ・ピェクニー様を見ていますが、やがて視線を私に戻して目で問いかけてきます。大伯父様、言葉で言ってもらえませんか?まったく。
「・・・まあ、そう言うことです。私はドラフシェ・ピェクニー様の言われたとおりに考えました。なので、あのシュテファン王が求婚してきた理由は、このシュブルト家を取り込もうとしての事だと思います。まあ、最後の美人とかはどうでも良いことですが」
実はさらに考えたことがあったのですが、それはさすがにこのシュブルト家の関係者だけにしか言えないでしょう。それを話すと、さすがの私も大伯父様の怒りに触れるのではないかと思います。私の従伯父の死も、ですけれど・・・。
「・・・姉さん、一つだけいい?」
なぜか、ヴィーテクが怒ったように立ち上がっています。
「なに?」
「姉さんの美しく可愛い容姿が一番大事なんだよ!」
「・・・」
そこ!そこですか!
「・・・もう黙ってろよ、この糞バカ。姉さん好き好き残念伯爵子息め・・・」
悪友のベネディクト・チャペック様の意見に激しく同意する、わたしです。
さすがに弟の馬鹿さ加減に、私は弟にあと二発拳をお見舞いしておいて、部屋から追い出し、ドアの前に護衛のヴラディミール・スコトニツァを張り付けて、ヴィーテクを入れなくします。
ただ、実のところ大伯父様に尋ねたいことはあったのですが、今はまだ時期ではなさそうです。
そう思いながら、さらにヴィーテクの悪友達を追い出して、三人でお茶をすることにしました。私の思考に追い付けない方達は、この際は必要ありません。
さて、問題は国王への返答です。下手なことはできません。
「まったく、ろくなことせんな、あのクソガキは」
大伯父様は、怒ってはいますが、私が国王以外の相手を決めたからか、せいせいした表情でいます。あれ?案外満足してるみたい?そんなに優良物件?あの公爵家の嫡男って?おかしい、大伯父様の推している北の大公家に対しての影響はなくなってしまうと思うのだけれど・・・。いいのでしょうか?考えている私を置いて、ドラフシェ・ピェクニー様は一人で盛り上がっています。
「でも、バラですよ。毎日バラを送ってくるなんて、シュテファン王もなかなか頑張ったと思いません?」
ドラフシェ・ピェクニー様は満面の笑みです。
「でも私は王妃になるつもりはないと何度も断ったんだけど?私はシュブルト男爵で領地の経営があると、領地経営の傍ら王妃などはできないと」
私はダナが淹れ替えてくれたお茶を揺らしながら飲みます。
「ああ、あ奴は脳みそが足りんのだ。だから人様の事情など考えん。自分さえよければ、人様の都合は二の次だ。あんなのが国王だと思うとこの国の将来がどうなるか、考えたくなくなるわ」
「・・・」
私が黙ると、大伯父様が突然、お茶の席の私達、リーディエとドラフシェ・ピェクニー様に真顔で聞いてきました。
「・・・ところで、聞いても良いか?」
「?」
「・・・バラを送るとは何か意味でもあるのか?」
私達二人は、はあと、溜息をつきました。
よくわかっていない大伯父様はもうほっておいて、私は国王への対応を考えます。
「やっぱり、国王には正直に話して、婚約することになりましたと、終わらせればよいのじゃない?」
私がお茶を飲みながら話すと、ドラフシェ・ピェクニー様がしばらく考えるような表情のまま小首を傾げてから、やおら口を開きます。考えながら話しているため、ゆっくり言葉を口にしています。
「私はベェハル王に会ったことがないので、良く為人が分からないのですが、婚約しましたでリーディエ様を諦めるような方ですか?」
その言葉に私はしばし考えます。
「・・・私もベェハル王と話した回数は多くありませんので、理解しているわけではありませんが、たぶん婚約しましたで諦めるような人ではないような気がしますね。それにシュブルト家を取り込んで、北の大公家のダンヘル公爵家への忠誠心を持つ家を減らしたいと考えているなら、ベチュヴァーシュ公爵家は現在の王家と敵対はしていないはずですけど、私に固執しているなら諦めない粘着質な感じがしますね。。。」
・・・うん、たぶんこの認識で間違いはないはずです。そう考えていると、大伯父様が口を挟みました。おおっと、大伯父様まだここに居たのですか!若い女性の傍だと相好を崩しまくってますね!微笑ましいと言う表情で、ドラフシェ・ピェクニー様を見やっています。
「いや、シュテファンは諦めるだろう。いくら脳足りんでもリーディエと婚約したのがベチュヴァーシュ公爵家の嫡男なら、リーディエを妃とすると王命を出すこともできない。同調する諸侯はいない。まあ、あのバカさ加減から結婚してもちょっとうっとおしく妃になれと言い続けるだろうがな」
え?なにそれ!よそ様の妻を口説くってこと?・・・なんだか腹が立ちますね。
「満更・・・・・・でもなさそうですね、リーディエ様・・・」
ドラフシェ・ピェクニー様が笑顔で口を開きかけて、私の視線を受けて真顔になってすっと視線を外します。私は国王には興味がないので、からかいの種になるのが嫌なのですよ。たぶん、今の私の顔は怖いの一言ではないでしょうか、ドラフシェ・ピェクニー様がこちらを見ないようにするぐらい。
「もう、国王に黙って領地に帰りましょうか。あとで詫び状でも送ればいいのじゃないでしょうか」
「・・・それはちょっとダメなのではありませんか?」
私の呟きにドラフシェ・ピェクニー様が真顔で答えます。
「仮にも国王です。リーディエ様をあきらめるつもりなど毛頭なさそうですし、ここ毎日バラを送ってくるのですよね?」
答える私の顔が顰められているとは思いたくないのですが、私はあの国王に興味などはないので本当に迷惑でしかないのです。化粧した顔が昔好きだった人に似てるからなどで、その化粧を強制するような国王になど媚を売りたくないのです。え?嬉々として化粧したのだろう?国王に気に入れられようと考えたのだろう・・・。だ、だれですか!そういうことを言う人は!私の化粧は強制されて仕方なくしたものですよ。いや、本心ではよろこんでいたんだろう・・・?・・・・・・・・・・・・。いい度胸ですね・・・。私にそういうことを言うとは。
「バラの花は好きな花でしたが、国王のお陰でバラを見たくもなくなってきました」
「バラは嫌いではないのですか?」
「・・・むしろ好きな方でした。でももう今は見たくもないですね」
まったくどこのどいつだ。バラでも送っておけば女はなびくと勘違いをするやからは!
国王への対応は、結局私が実際に婚約をするまでは言質を与えないようにして、躱すことにします。
そう考えていた私ですが、国王は突然私に呼び出しをかけてきたのです・・・。
次回で第二章を終わりにします。間章を挿んで第三章で結ばれるところまで書きたいと思います。
間章は残念美人の周りにいる男たちの視点で、残念美人を書く予定です。予定しているのは、弟、下の弟、父、元婚約者、そして元婚約者の兄です。他にはいなかったですよね?




