残念美人は花に埋もれる
リーディエは熱を出して寝込んでしまいました。ですが、それを聞いた国王から花攻撃が始まりました!リーディエは耐えきれるでしょうか!
申し訳ありません。婚約話を書くと言っておきながら、まだ書けませんでした。
皆様、ごきげんよう。
私はリーディエ・シュブルトヴァー男爵です。
私が熱を出したことが珍しかったらしく、タウンハウスに滞在している間にヴィーテクと三人の悪友は元より、私と同じように熱を出しているはずのヤロミールまでもが見舞いと称してやってきました。私は見世物じゃあ、ない!
ベッドに寝た私がちらりと上に目を動かすと、花が生けられた花瓶が目に入ります。ベッド横の側机にも花瓶。さらにベッド脇の側机だけではなく、お茶を飲むときに使用するテーブルにも花瓶。壁の箪笥の上にも花瓶。出窓にも花瓶・・・。つまり私は花に埋もれているのです。
割り当てられた部屋は当主用の私室と寝室さらに当主の奥方用の私室と寝室でした。私一人に部屋が四つです。私が熱を出して寝かせられているのは奥方の寝室で、一番奥まったところにあります。ちなみに当主の寝室から奥方の寝室に行くことはできる造りになっています。
「・・・おかしい・・・」
「いいことではありませんか、御屋形様。お花に埋もれるなんて、乙女の憧れですよ」
のんきなダナの言葉に、私はため息をつくのですが、ダナが抱えた最新の花瓶を見て、私はさらに目をむきます。
「・・・何、それ・・・?」
「何って、お花です」
いや、見れば私も花だってわかりますけどね。私が言いたいのは、また花が送られてきたのかってこと!ダレよ、もう!
「・・・ダナ、私も見ればそれが花だと分かります・・・。どう見たってお菓子には見えないから」
「そうですよね、御屋形様、お菓子だなんて。あ、もしかして、おなかが空いたのですか?何かお持ちしますか?」
違うから。お菓子食べたいけど、お菓子要らないから。何か食べたいわけではないのよ、たとえで言っただけなのよ・・・。
「・・・要らない」
私に送られてくる花の攻撃は主に国王からです。私が熱を出した日の午後、国王からのご機嫌伺いが来て、私を後日登城させてるようにと言ってきたのですが、私が熱を出してしまったのでと、大伯父様が飾ることなく伝えてしまい、それから国王の花攻撃が始まりました。
王城に来れないと聞いた、来てもらえない代わりに、具合が良くなるまで花を送らせてもらうとか言っていたようですが、そんなことに煩わされるぐらいなら、もっと違うことに神経遣ったらどうなのかな?仮にも国王なんだし。
そんなことを考え始めている事に気がつき、私はプシダル国の人間の考え方をしなくなったことに自嘲めいた笑いがこみあげてきました。
「・・・ふふ・・・」
私の笑いに気が付いたダナが、花瓶を抱えたまま血相を変えて近寄ってきます。
「御屋形様!っと、お笑いになられただけでしたか」
「・・・そうね」
「・・・何かございましたか?」
「・・・何でもないわよ・・・」
私の答えは小さすぎてダナには聞こえなかったようです。
「御屋形様?」
「・・・その花は隣の部屋に置いておいて・・・」
ごまかすわけではなかったのですが、そう言うと怪訝そうな顔をしながらも、花瓶を抱えてダナは隣の奥方の私室の方へと消えていきました。
「ベェハル国の流儀に染まりつつあるということよねえ・・・」
ベェハル国では貴族の力が強いので、王権には重きを置いていません。王は諸侯の間から多くの支持を受けたベェハルと言う血筋から選ばれます。当然支持しない王が出てくることもあります。なので、支持をしていない国王が行うことに対して、私もぶう垂れることもあるのです。そんな私に気が付いて、カシュパーレク家の長女としてプシダル国に居たときは、王権に敬意を払っていたのですが、ベェハル国に来て王権に敬意を払わなくなったと自嘲の笑いを漏らしてしまったのです。まあ、ベェハル国はそれでも王命として出されたことには、よほどのことがない限り従うことになっているので政治にさほどの滞りは起きないはずです。
私が熱で起き上がれなくなってから、4日目です。
ノックの音の後に、ダナが顔を出しました。今度は少し毛色の違う花を持っています。
「・・・珍しい花ね・・・」
私の言葉にダナが一瞬困ったような顔になってから、慌ててそれを打ち消すような表情を作って笑顔で答えます。
「・・・はい、今日はブーゲンビリアです」
「・・・いつもはバラなのに、今日だけブーゲンビリア?」
私の探るような言葉に、ダナが視線を逸らせながら花を飾った花瓶をそっと私に差し出してきます。
「・・・はい、ブーゲンビリアです・・・」
私は体を起こして花瓶を受け取ります。上半身だけ起こしている私の背中に器用にダナがクッションを2.3個あてがいます。
「・・・確かブーゲンビリアの花言葉は『あなたしか見えない』だったわね・・・」
ダナが私の呟きを聞いた後、エプロンからカードを取り出して、私に手渡してきました。
「御屋形様に、 ラドヴァン・ベチュヴァーシュ様よりの贈り物です。同時にカードの伝言付きです」
私は手渡されたカードを片手に受け取ります。花瓶はダナが私の手から取り上げるようにして、ベッド脇の側机のバラの花瓶と入れ替えるように置き、バラの花瓶をもって部屋の外に下がって行きました。
私はカードを広げて見ます。
『倒れられたとお伺い致しました。すぐにでもお会いしたかったのですが、ご迷惑にならないようにと自重いたしました。数日過ぎまして、少しだけ具合も良くなられたとお伺いいたしましたので、この花をお送りいたします。気に入って下さると良いのですが。それではおめもじできる日を楽しみに。 ラドヴァン・ベチュヴァーシュ』
きざな言葉は書かれていませんね。誠実さが見えますが、花言葉の意味はねえ、危ない内容ですね。でも国王のバラ一辺倒よりは私の心を捕らえました。元よりバラはさほど好きな花ではないので、ブーゲンビリアの方が点数が高いのは、私には当たり前なのですがね。国王は損しましたね、ふふっ。
私が熱も下がり、立ち上がってもふらつかなくなり、自由に歩けるようになったのは、実に五日も過ぎた頃でした。相変わらず国王からのバラは届けられており、バラをそこかしこで見るようになった大伯父様は、いつも不機嫌で私の部屋の周りには近寄らなくなっていました。
「大伯父様?バラの花がお嫌いなの?」
私が尋ねますと、大伯父様は不機嫌そうな低い声で答えます。
「昔はどうでもいい花だったが、今は嫌いになったな」
「・・・今は嫌い?なぜですか?」
良くなったとはいえ、大事を取ってもう一日の休みを取った私がベッドに上半身だけ起こして、ダナにお茶のカップを渡してもらって少しづつ飲んでいるときに、私の具合を見に来た大伯父様は部屋を埋め尽くさんばかりのバラの花を見て顔を盛大に顰めています。
「あのシュテファンのクソガキの贈り物だろう。わしはあのクソガキが嫌いだから、花が送られてこなくなるまで、この一帯には近寄らないようにする」
大伯父様、バラに罪はありませんよ・・・。それに嫌いな国王からの贈り物のバラを嫌いだなんて、大伯父様は幼稚ですね。ああ、そう言えば、お年を召すと、子供になるとか聞きましたし、大伯父様は立派にお年を召されたから、子供になって行ったのですね。
「・・・わしは子供になど、なっておらんわ」
あら、また大伯父様に心を読まれましたか。
「・・・大伯父様、違ったお花を送ってくださった方もいますよ」
「 ラドヴァン・ベチュヴァーシュのことか?」
「はい」
私は側机のブーゲンビリアを示しました。
「実のところ、もうバラはこんなに来る日も来る日も送られると見飽きてしまいますので、違う花、ブーゲンビリアも良く思えますね」
探るような目で大伯父様が私を見ます。
「・・・この花を気に入っとるのか?」
「・・・昨日届いた花だそうですよ」
私は大伯父様の言葉に応えずにいます。
「・・・」
「・・・」
じっと大伯父様は私を見ていますが、敢えて私は手の中のお茶を少しづつ揺らしながら表面の揺らぎを見ています。
「・・・わかった。なあ、リーディエ」
大伯父様がつかえずに私の名を呼んだことに一瞬だけ、私はくすりと笑いました。
「・・・何でしょう?」
そう答えると、大伯父様は一度軽くため息をついてから口を開きました。
「・・・わしはお前が義娘となってから考えて居ったが、お前がこの家を継いでくれてよかったと思っとる。領内の特産物を発掘し、目に見える成果を上げつつある。領民も頼りにしとる」
「・・・はい」
「・・・だがな、わしはお前の生きる道を閉ざしてしまったのじゃないかと、この頃心配になっとるんだ」
「・・・」
大伯父様の言葉に私は顔を上げました。
「お前は若い女性だ。それも賢く美しい。そんなお前の生きる道が、こんな自分の思い通りにならない道をこれから歩いて行かなければならないと仕向けてしまったのは、間違っているんじゃないかと思っとるんだ。お前の進む道は、本当はもっと違うお前の良さを引き出す物じゃないといけないのじゃないかと思っとるんだ」
「・・・大伯父様、ありがとうございます。私の事をいつも考えていてくれて感謝します。ですが、大伯父様の心配は私には当てはまらないものです。私の事を美しいと言っていただきましたが、領主としての私にはその美しさは必要ないものです。
領主として領民のために生きると決めたときに、私の生きる道はもう定まったのです。それをいまさら変えようなんて私は思っても居ませんし、大伯父様も私に違う道を生きろというような惑わせるようなことは言わないでいただけますか」
「・・・だが、お前は本当に美しいのだぞ。その器量があればベェハル王妃にもなれるのだ」
そう言った大伯父様の表情は、いつもの国王の事を罵る時のような表情ではなくなっています。身内の良さを認められて喜ぶ人のそれと同じものと自分に対しての怒り、そして嫌だと思いながら素直に喜んでしまった嫌悪感が入り混じったものです。
「・・・あのエヴェリーナおばあ様の様な化粧をしてですか?あの顔のような自分ではない繕った私で生きろと言われるのですか?私はリーディエであって、エヴェリーナではありません」
私はもう隠すこともせず、自分の思いを口にします。
「・・・」
「ベェハル王の思い出のために、私はあの化粧をして夜会に出ましたが、私はもうあの化粧をして出たいとは思っていないのです」
私は静かに宣言をしました。
静寂を破るようにノックの音がします。
「・・・なに?」
壁に立ち、一切の気配を消していたダナがドアを開けると、ロマンが入ってきます。一礼して口を開きました。
「御屋形様にお客様です」
「・・・誰?」
「ラドヴァン・ベチュヴァーシュ様です。ただいま先ぶれが参りまして、具合がよろしい様なら今からお会いしたいとのことです」
私は手に持ったお茶を見ながらしばらく考えます。
「・・・先ぶれの方にお伝えください。お会いすると」
「かしこまりました」
ロマンが一礼して去ると、ダナにカップを渡して私はベッドから出ます。
大伯父様が大丈夫かと目で問うてきます。
「・・・どうせですから、私の普段の姿を見てもらいましょう。あのブーゲンビリアの花言葉は『あなたしか見えない』ですが、私の普段を見てもそう言えますでしょうかね」
少し前に1.2回で婚約者を出すとか言っていましたが、申し訳ありません、次話にようやく婚約者決まります。と言っても二択、いえもう一択ですね。ちなみにどこぞの国王は振られますよ。最初の予定ではリーディエは王妃になる予定だったのです。王妃としての話を書いてしまっていたのですが、王妃では、領地の経営ができなくなるとリーディエが敬遠したようです。本心はリーディエはエヴェリーナではないから、無理、ですよねえ。公爵家嫡男は普段のおばあ様化粧をしないリーディエを見てどう反応するのでしょうか・・・。




