残念美人は国王からの求婚の顛末を報告する
リーディエは無事(?)夜会から戻ってきました。ですが、友人たちに国王の求婚の顛末を尋ねられてしまいました。そしてその顛末の報告会が開かれます。というか、友人たち、あんたら夜会に出席してたんじゃないのかい!どこにいたんだ!
皆様、ごきげんよう。
私はリーディエ・シュブルトヴァー男爵です。
夜会がはねて、私達は侍従に案内されて馬車溜まりのシュブルト男爵家の馬車と、プシダル国の友人たちの馬車へ導かれて馬車に乗り込み、王都のシュブルト男爵家のタウンハウスに戻ります。
私の専属侍女のダナが、疲れた私の湯あみの手伝いをしてくれて、着替えて踊ってばかりだった体を休めるために部屋の中でだらけた格好のまま椅子に座っていると、ドアをノックされます。
ダナがドアを開けて確認をします。大伯父様とヴィーテク、それにベネディクト・チャペック様、ドラフシェ・ピェクニー様、ザハリアーシュ・ピェクニー様、オトマル・テサーレク様のプシダル国の友人たちが顔を覗かせていました。
「ちょっといいか?」
「・・・お休みしたいところですが、すぐに話さないといけないことでもありましたか?」
私の答えにぞろぞろと部屋に入ってくる六人でしたが、生憎と部屋には椅子はそれほど置いてありませんでした。大伯父様に椅子を勧めたあと、短いやり取りの間に今のような会話が私には聞こえませんでしたがあったらしく、ヴィーテクが椅子を手にして、最後の一つをドラフシェ・ピェクニー様が座りました。
「多分、あのシュテファンの野郎が、お前を娶りたいとか言ったんだろう?」
大伯父様が周りを一度見まわしてから、私に視線を戻して、聞いてきました。
私はため息をついて、頷きます。
「奴はそういう奴だ。王城を攻めて、首でも挙げてやろうか」
「・・・」
周りが目を丸くして大伯父様を見ています。
「・・・本気?」
ドラフシェ・ピェクニー様が呟きました。
「半分ほど本気だと思う」
私がそう答えると、大伯父様とヴィーテク以外は全員上を仰ぎ見ます。
「・・・大伯父様、カシュパーレク領の住民のうちの予備役を招集すれば、我が伯爵家は三千ほど動員できます。大伯父様の方はどうです?」
「・・・そうだな、この男爵領の騎士団は護衛も入れると総勢一千人だな。軍務予備役は二千人ほどだが、招集すれば三千は行くと思う。それに騎士団を入れて四千だ」
「会わせて七千ですか・・・」
ヴィーテクと大伯父様は顔を見合わせてもっと集める算段に入ったようですね。というか、どうして城を攻める計画を立てる方向にすっと入って行くのでしょうね?
「カシュパーレクの二人の男爵は戦力は持っていないのか?」
「叔父さん二人ですか・・・。そうだな・・・、二人の集められる兵は限度いっぱいで、合わせていいところ二千ではないでしょうか」
ヴィーテクがうわの空で暗算しはじめました。
「・・・多くはないな・・・」
「いざとなれば、そうですね、母方のバルトゥシェク侯爵家の力も借りましょうか」
「そうか、ラドミラの危機と言えば力を貸してくれるかもな」
「何と言っても普段は一歩引いていますが、何と言っても現当主の父母である先代侯爵ですから、祖父母は可愛がってくれましたし、伯父である現侯爵も年の離れた妹だった母を溺愛していましたから、その娘である姉さんを救うためなら、兵を出しそうな気がします」
なぜか二人が色々と物騒なことを話始め、戦を始めようとしてる気がします。なにか、やはり両家とも国境地域の紛争を潜り抜けてきた家です、即臨戦態勢に移れるという自慢のようにも聞こえます。ちょ、ちょっと、そんなことをしたらベェハル国全体を敵に回す恐れがあるから!
「・・・」
「・・・攻めるつもりかな、これ・・・」
ザハリアーシュ・ピェクニー様が目を丸くしたまま、呟いています。
「・・・攻め落としそうな感じがするのは、両家とも辺境伯とシュブルト男爵家の末裔だからかな・・・、不遜なんだけど、やってくれそうな期待感があるな・・・」
ベネディクト・チャペック様がヴィーテクと大伯父様を交互に見ながら目を輝かせています。元不良と言う血が騒ぐのでしょうか。こら、期待して見るんじゃない!
でも、言うだけなら良しとしましょう。本気でも行動に移さなければそれでいいのです。
「・・・、大伯父様、ヴィーテク、夢は寝てから見ていただけますか?」
あ、ちょっと声を低めにし過ぎましたかね。二人を見やる目が怖いものになって行く自覚があります。案の定、二人が口をつぐみます。
「うっ・・・」
「・・・」
「戦などを興して一族郎党を死に絶えさせるおつもりですか?それにシュブルト男爵はこの私ですよ、そんなことを許すわけはないじゃないですか」
ヴィーテクがすがるような視線で見てきます。
「姉さんが、あの色ボケ中年のおっさん国王の妃になるかもしれないと言うのに、黙って見ていろとでも言うのか!黙っていられるわけないだろ!」
この弟はなぜこんなに姉に固執するのでしょうか。私の事なので、よくわからないのですが、そんなに姉はいいものなのでしょうか。姉として慕ってくれるという嬉しさもありますが、こんなに姉べったりでいいのでしょうか。ひょっとして好きな人ができたら少しは変わるでしょうか・・・。
ああ、そういえば、ヴィーテクにも何年か前に婚約者ができたのです。婚約者に伝えると言えば、少しは私から離れてくれるかもしれません・・・。
「ヴィーテク、私の事はもういいから。自分の事は自分で決められます。それにシュテファン王には妃になるつもりはないと、その場で断りましたし」
「し、しかし」
「ヴィーテク、それ以上とやかく言うと、ラディスラヴァ・ボウチュコヴァー嬢にヴィーテクは聞き分けがないと伝えますよ」
「うっ・・・」
ヴィーテクが目に見えてうろたえました。
「あ、ヴィーテクの婚約者だ、公爵家の可愛い令嬢、ちょっとリーディエ様に似てるという・・・」
オトマル・テサーレク様が解説します。
「か、解説するな!」
「私、接点があまりなかったから、それほど会ってはいなかったけど、あちらはヴィーテクを好ましく思ってくれてるはずよね?」
「・・・うん」
完全に勢いがなくなりました。ヴィーテクは婚約者に弱いみたいね。
「私の様に虐げられていなければいいけどね」
うつむいてしまっていたヴィーテクでしたが、さっと顔を振り上げ、ものすごい形相で、私を睨見つけました。
「・・・ねえさん、言っていいことと悪いことがあるよ・・・」
おや、これはお怒りですね。邪悪な魔王が居るとしたら、こんな感じでしょうか・・・。
「ヴィーテクがそういうことをするとは思えないけど、人は何かの具合で間違えたりするから。万が一そう言うことにならないように、ヴィーテク、あなたは ラディスラヴァ嬢を何物にも代えがたいと思って大切に接するのが正しいと思うし、そしてそれが私の願いでもあります」
「・・・わかってるよ・・・」
私の婚約者とのことを知っているため、ヴィーテクのやり取りを聞いた周りが黙ってしまう中、ふと、大伯父様が顔を挙げました。
「ちょっと待て、ヴィーテクと婚約者の事は現状の脅威ではない!今問題とすべきは、あの色ボケ中年の、求婚だ!」
あら、そうでしたわね・・・。
「・・・お前はあのクソガキの妃になるつもりはないということで間違いないか?」
大伯父様、本当に直情的ですね。どうして現王シュテファン・ベェハルをそんなに嫌うのでしょうか・・・。
「まさか。大伯父様、見くびらないで下さい。
大伯父様、私はシュブルト男爵領に来た時に、領内を巡って民と話して、あの人達を見捨てることはしないと思いました。そして、その思いはいつまでも同じです。
私が次の領主と大伯父様に紹介されたときの領民の嬉しそうな顔を、私は忘れてはいないのです。いえ、忘れられないでいるのです。この領地に住む民は、大伯父様の嫡子である、私の従伯父ミロスラフ・シュブルト様がなくなったときに跡を継ぐ者が居なくなったと理解したと思います。この地の民は治めていた領主を慕っていたと思っています。私を慕ってくれとは言いませんが、私が領主となったことを少なくとも喜んでくれたことは芝居ではないと思います。
ですが私が国王の申し出を受け、妃となれば、領地に主がいなくなってしまいます。領民を第一に考えられる領主がいなくなることを領民が受け入れると思いますか?私でしたら受け入れられないでしょう。私は、私を領主として受け入れてくれた領民のために男爵領を発展させて、領民をもっと豊かにします。私の望みは男爵領の民をベェハル国一の豊かな民にすることなのです。ですから、妃になると言う選択はあり得ません」
そう言ってから私は頭を掻きました。
「ただ、王命になるかもしれないんですよねえ、王命で私を妃にって言い出すと厄介ですよねえ」
「・・・確かに王命になってしまうと、ベェハル国の貴族としては断れなくなってしまいますわね」
考え考え、ドラフシェ・ピェクニー様が言っています。
夜会の時には国王はあっさりと引き下がりましたが、たぶんあれは周りにシュブルト男爵を嫌う勢力がいるからでしょう。嫌う勢力から見れば、私は妃にはふさわしくないわけですから。
「ただ国王が思い切って王命としてリーディエ様を妃とすると言い出すと、追い詰められたシュブルト男爵反対派はリーディエ様の命を狙うかもしれませんね」
「そう言うことがあるから、わしはリ、−ディエを婚約させたかったのだ。あのクソガキが狙っていると思ったからだったんだが」
はい、なんとなく感づいていました。ですから、不躾だったレオポルト・ストルナド様の訪問も不快でしたが我慢して、その場で断ることもしませんでしたし、ボリス・ズーレク男爵の婚約申し入れも態度を保留してきましたしね。
「一応あのクソガキが狙ってるんじゃないかと思ってな、婚約者をわしが一人用意したんだが、リ、−ディエはあまり好みじゃなかったようだ。あと、隣の男爵が突然婚約を打診してきたのも気に食わない様子だったしな」
「・・・あのレオポルト・ストルナド様は我が男爵家にとって災いになるかもしれません」
私の言葉に、この場に居る皆が呆然とした表情になりました。
こうして国王の求婚の顛末は友人たちに知れました。ですが、同時に夜会で発覚した婚約者候補たちが案外ポンコツで、反対にリーディエは対応に困りそうな気がしてきました。
3日続けての投稿予定ですが、3話目がまだ書き終わっていません・・・。書き上げられるのかな・・・。仕事で遅くなることも多いし・・・。なんとか頑張りますが、書けなかったら申し訳ないです。




