残念美人は修羅場に遭遇する
リーディエは将来性豊かな実質侯爵家の実入りの領地を持つ男爵です。それで独り身でなおかつ可愛くて賢くてとなれば、一緒になればリーディエを領地に置いて金を稼がせて、時折領地で相手をしてやって、自分は王都で愛人とよろしくできるんじゃないかと侯爵家次男は妄想しています。バレなければね・・・。お隣の男爵の企みはもうしばらくお待ちください。
現実社会での仕事で執筆時間が短時間しか取れなくて、投稿が遅くなってしまいまして申し訳ありません。
皆様、ごきげんよう。
私はリーディエ・シュブルトヴァー男爵です。
大広間の真ん中で一人になった瞬間、周りを貴族の子弟たちに囲まれた私は、群がろうとする貴族子弟をかき分けてラドヴァン・ベチュヴァーシュ様が話題にしていたレオポルト・ストルナド様が皆様を押しのけるようにして顔を出すのをなぜかげんなりとした気持で迎えました。どうやらラドヴァン・ベチュヴァーシュ様に先を越されたとでも思っているように顔を顰めています。そんなに顔を顰めているといい男が台無しですね。どうやら私が侯爵次男を差し置いて、次期公爵家当主と踊ったのがお気に召さないようです。ですが、このレオポルト・ストルナド様は、私にとってはただの婚約者候補の一人、婚約者ではありません。
以前男爵領のお屋敷で大伯父様の引きでお見合いのようなものの後、ささやかな晩餐をしようとのお誘いを蹴って、王都ブラホスラフに来たのは、あのラドヴァン・ベチュヴァーシュ様の言葉を信じてなおかつ穿った見方をしたなら、この王都でお妾さんと会いたかったからということなのではないのでしょうか。おっと、お妾さんではなく愛人というべきでしょうか。恋人と言うののほうが正しい?・・・もういいです、私の婚約者になりたいと言っているのであれば、この王都で囲っている方はお妾さんと呼ぶことにします。
少々疑問に思っていたのですが、レオポルト・ストルナド様は実質侯爵家並の領地を持つ男爵家の女当主の入り婿の地位を本当に狙っているのでしょうか?私はそう自問しながら考えます。大伯父様とストルナド侯爵との間で交わされたもしそうならお妾さんとの関係をそのままにしてバレないと思っているようで、私を下に見ているのでしょう。この方を入り婿として迎えるにしても、一度どちらが上になるかを教えてあげてからということになりそうです。なんて腹黒いことを考えていますね。外見は表情を変えず、心の中ではにやりと笑います、私です。
「順番に申し込んでいるんだ!勝手に割り込むな!」
群がってきていた貴族子弟の一人の方が口走った言葉に少々怒りを覚えましたが、レオポルト・ストルナド様の牽制になるなら、まあ、それも良いのかなと考えました。
「黙れ!私はこのリーディエ・シュブルトヴァー男爵と婚約する!だから踊る権利がある!」
「・・・う、嘘だろ・・・」
周りの貴族子弟が騒めきます。息を呑む貴族子弟を尻目に、レオポルト・ストルナド様が私に向き直りました。
「リーディエ・シュブルトヴァー男爵、どうして私を一番先にしなかったのですか?」
レオポルト・ストルナド様が私を睨むようにしています。
「一番?」
いえ、本当はわかっていますよ、踊る相手を婚約者だと思っているレオポルト・ストルナド様、自分が一番最初に踊るべきで、数回踊って周りに見せつけることができたはずと思っている目の前のお方に、私はそんな事実はないとわかってもらえるように、そのお顔を見返しながら聞き返しました。
「踊る相手を間違えている!一番に踊るのは私のはずだ」
「いいえ、間違えていません」
「いいや、間違えている!あなたが希望する婚約者、それは私のはずだ!その私と最初に踊らなかったのはなぜだ!」
顔を顰めると私の手を取ろうとしてきます。私はすっと後ろに下がり、レオポルト・ストルナド様の手から離れます。
「違うと申し上げています。私はあなたと婚約すると言ったことも、婚約者として最初に踊ると言った覚えもありません。謂れもない私の婚約者と言う世迷言を押し付けて、私を辱めるおつもりですか?」
私に群がっていた貴族子弟の方々が遠巻きにされています。私の顔を穴のあくほど見つめてレオポルト・ストルナド様が私の言う言葉を理解したのか、怒りで顔を赤くしながら再度私の手を取ろうとされたところで、私の前に立つ影がありました。
「あまり感心しませんよ、レオポルト・ストルナド殿。リーディエ・シュブルトヴァー男爵が迷惑がっておられます」
そう言いながら、私の前に立って、自分の肩越しにちらとこちらを見た横顔は、ボリス・ズーレク男爵でした。なぜか私に対して頷いていますので、これは私によいところを見せようとしているのでしょう。生き生きとしているボリス・ズーレク男爵が、レオポルト・ストルナド様に嬉しそうで楽しそうな表情を向けている姿に、私はなんだか身体がだるくなったような気がして軽くため息をつきます。恋敵とでもいうつもりでしょうか。私はこの得意そうなボリス・ズーレク男爵の表情に疲れを感じていました。
「迷惑?迷惑ではないでしょう?リーディエ・シュブルトヴァー男爵」
レオポルト・ストルナド様が私をボリス・ズーレク男爵越しに焦るかのように見てきます。
「・・・私はレオポルト・ストルナド様の妄言が迷惑と思っています。私はあなたと引き合わされた後、何の連絡もなかったことであなたとの縁は切れたと思っておりましたので」
「な、なんだと!」
顔を赤くして近寄ろうとして、レオポルト・ストルナド様がボリス・ズーレク男爵に阻まれていら立ちの余り、掴みかからんばかりにボリス・ズーレク男爵に詰め寄りました。
「騒がしいな」
「だ、だれだ!」
人垣が割れて、大伯父様がずいっとお顔を出されます。
「・・・誰だとは御挨拶だな、レオポルト・ストルナド殿。このような我が義娘である男爵のお披露目として国王が用意して下さった夜会で、まだ誰とも婚約もしておらん我が義娘に詰め寄ろうとするなど、貴族としての心得違いな男だな」
お伯父様、こんな時にお嫌いなはずの国王の事を持ちあげるような言い方をされて、、、。節操がないですね。国王を支持する方々を刺激しなければよいのですが。
「・・・お義父様、お言葉が悪いです」
「いえ、これくらいで悪いとは言いませんよ、リーディエ・シュブルトヴァー男爵。・・・レオポルト・ストルナド殿、あなたは自ら婚約する道を閉ざしたようなものだ。・・・それをあなたの王都に居るご友人にお伝えしたらどうか?さぞ安心されるだろう」
割り込んで発言されたボリス・ズーレク男爵の言葉に、レオポルト・ストルナド様が顔色を変えて黙り込まれます。・・・レオポルト・ストルナド様のお妾さんの事は王都では周知の事なのでしょうか。
「・・・私を貶める発言をきっと後悔させるぞ、ボリス・ズーレク男爵。・・・それとクリシュトフ・シュブルト殿、今回の事は父に報告させていただく」
「・・・致し方なかろう」
大伯父様がレオポルト・ストルナド様のお顔をまともに見据えて答えますと、レオポルト・ストルナド様はくるりと踵を返してまっすぐに扉へ向かって行かれました。
「・・・失礼します」
その後ろ姿を見送る私の手をそっと取る方がいます。ちらりと私の手を取る方の顔を見ようとすると、目を見開くボリス・ズーレク男爵がいます。おや?ボリス・ズーレク男爵は私の前に居るけど、私の手を取っている方の体は私の右側に立っているようですね・・・。
「な!・・・次は私の番のはずだ!誰だ、こんなことを・・・」
「はいはい、男爵、リーディエ様を護ってくれてありがとう。リーディエ様一人でも対応できたけど、点数稼ごうとして出て来てくれて、見事退散させたのは、シュブルト男爵の評価も上昇しただろうけど、でもね、もう役済だよ。これからは僕たち、王立ハルディナ学院の面々に警護を任せてね」
この声は、オトマル・テサーレク様でしたか・・・。片目を瞑って、オトマル・テサーレク様が前に出てきました。あっという間にベネディクト・チャペック様、ザハリアーシュ・ピェクニー様も私を囲むように立っています。気が付くとオトマル・テサーレク様がいつの間にか始まった音楽にステップを踏み始めています。
「さあ、あなたのための夜会なんだから、主役は踊っていないといけないんじゃないかな?」
「・・・そんなことはないはず」
私は慌ててオトマル・テサーレク様の動きに合わせてステップを踏み始めます。
ちらりと横目で見ますと、ボリス・ズーレク男爵が憮然とした表情で離れていくのが見えました。
身体を動かしてオトマル・テサーレク様に会わせ始めると、私は何とか頭をはっきりさせることができるようになり、ようやくなぜかにこにこと笑顔のオトマル・テサーレク様の顔に焦点を合わせます。あら、よく見るとオトマル・テサーレク様は案外凛々しいお顔をされています。ぱっと見、可愛いという印象ですが、本来は違うようです。そう言えば学院でも登校遠慮を受けたお方ですので、どちらかと言うと武闘派でしたね・・・。可愛いという印象の下には、とんでもないやんちゃな力を持っているようです。
「・・・いやあ、学院でも憧れだったラドミラ・カシュパーレク嬢と踊れるなんてよかったよ」
「あら、憧れでしたの?」
「うん、一年下の僕らにはラドミラ・カシュパーレク嬢は美しい、賢い、そして優しい人だったし」
「・・・でも、私の成績の事、最初は知らなかったはずではありませんか?」
「うん、そうだねえ、そうそう、あの聴講生を演じていた時の提出レポート、読んだよ」
「・・・そうですか?あれは、要点だけをさっと羅列してあるだけであまり、読んで面白いものではなかったでしょう?」
「・・・これだ・・・、あのレポートの完成度は誰でも認めると思うけどな。読んで面白いとか思ったことはないけど、何と言うか・・・」
眉を寄せてしばらく考えてから、ぱっと顔を輝かせます。
「そう!読むと腑に落ちるんだ!」
「・・・まあ、確かに誰でもわかるように深くは掘り下げるような書き方はしなかったですけど・・・」
「あれで、掘り下げなかったのか・・・」
なぜか、悔しそうな顔になっています。
「・・・もっと考えなければならないということか・・・」
「考えることはしなくてもいいかと思います。あれらのレポートの元になった事案には複雑な背景がありますから、それらを理解することが必要になります。背景を理解すれば、深く掘り下げができるようになると思います」
「・・・もう少し調べてみようかな」
「なんだか、オトマル・テサーレク様は武闘派かと思っていましたが、違うようですね。思索にふけることが案外お好きなようです」
「武闘派かあ。確かに登校遠慮なんて、喧嘩をした身にとっては勲章になるものかもしれないけど、絡んできたバカを殴り倒しただけで、僕自身は自分に飛んできた火の粉を払ったようなものだったんで、武闘派と言われるのは心外なんだよなあ」
「・・・学院側が必要以上に騒ぎ立てて迷惑したということでしょうか?」
「そういうこと!まあ、力が入りすぎて全治3週間かかったから、登校遠慮も分からないわけではないけどね」
そのあとはステップに専念しながら踊りますが、ふとした拍子にオトマル・テサーレク様を見た瞬間、一瞬勘が働きました。あ、これは何か言うつもりだ、それも嫌な感じの・・・。
「ラドミラ、じゃなくてリーディエ・シュブルトヴァー男爵にお願いがあります!」
「な、なんでしょう」
思わず貴族らしからぬ動揺からぞんざいな答えをしてしまいました。ああ、嫌な予感は続いています・・・。
顔が赤くなっているオトマル・テサーレク様をまじまじと見返すと、茹蛸の様になっています。
「ぼ、僕ではだめでしょうか?」
・・・なんだか言ってることが分かったような気がする・・・。この方・・・、本当は真面目な方なのね・・・。でも敢えてとぼけておいた方がよさそう・・・、ヴィーテクが絶対不穏なことを言い出す流れよね・・・。
「・・・私に弟は二人で充分ですけど・・・」
「婚約者にしてください!」
「・・・」
言われてしまいました・・・。何か、琴線に触れるようなことをしたかしらねえ、ワタシ・・・。
これで当初考えていた婚約者候補が全員出揃いました。まあ、本命はあの人で、穴馬はあの方で・・・。実は穴馬を婚約者にしようと思って書いていたのですが、話の規模が大きくなってしまうと思いまして書き直すことにしたせいで、時間が足りなくなっています。
まあ、今後のリーディエの選択はもうお判りになっていると思いますけど、一応ききますね、リーディエのお相手は誰になるでしょうか?お隣の領地のどちらかでしょうか?修羅場を演じた人たちですものね。




