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残念美人である貴族令嬢は婚姻を望んでいます  作者: 花朝 はた
第二章 残念美人の女男爵は婚姻を望んでいます
19/45

残念美人は婚約者候補に恵まれる

婚約者の一番候補が出てきます。最初は怪しい人ですが。

婚約者と言えば、書き手の中では国王も婚約者の候補なのですが、リーディエには王妃になると言う未来が描けないので、断るでしょうね。と言うか、リーディエにとって20も離れた男性は夫ではなく父や叔父と言うような存在ですから・・・。

 皆様、ごきげんよう。

 私、リーディエ・シュブルトヴァー男爵です。


 今回のお披露目になる夜会の会場になったのは王城の大広間です。近年、クバーセク国と和平がなったので、軍事費に多額の予算を割かなくても良くなったため、ベェハル国の国庫には余裕ができたようです。着飾った貴族たちがグラスを片手に談笑中です。諸侯連合と呼ばれるベェハル国ではありますが、やはり諸侯に敬われるべき国王が居るのです。華麗な衣装を着込んだ貴族の面々は、名乗りを受けると会場内に入って行き、国王に挨拶してから、顔つなぎのためにあちこちに散らばって行きます。話によると、国内の貴族の半数以上が集まってきていたとのことです。


 馬車に乗り、タウンハウスから王城に全員で乗り付けます。私はヴィーテクたってのお願いで、恍惚とした表情で手を取られて、馬車から降ります。そのまま私の手はヴィーテクから大伯父様に渡されて、待っていた王の侍従の一人に説明を受けながら、大広間へと進みます。説明によると、大伯父様にエスコートされて私は最後に入ることになっていました。同時に到着したのは私達以外に、一群の煌びやかな貴族たちが十人ほどです。大広間の扉の前にまだ少なからずな貴族の方々が順番を待っておられます。私がお待ちの方々が名乗りをあげられて中に入って行くときに、明けられる扉の隙間から大広間の中を見ますと、予想よりも多い人々が居ました。

 「・・・案外盛況です・・・」


 一群の煌びやかな貴族の方々は爵位からすると、私よりも遥かに上でしょう。その方々も扉の前に陣取る侍従に名乗りをあげられて、一瞬私達に視線を向けてから入って行かれました。

 私達の周りにはもう誰も居ません。

 ベネディクト・チャペック様、ザハリアーシュ・ピェクニー様、オトマル・テサーレク様がプシダル国の貴族と言う名で名乗りを侍従にあげられ、一様に照れ臭そうにしながら入って行かれます。

 「プシダル国カシュパーレク次期伯爵、ヴィーテク・カシュパーレク様並びに、プシダル国ピェクニー男爵家令嬢、ドラフシェ・ピェクニー様!」

 扉が開けられ、ヴィーテクが堂々とドラフシェ・ピェクニー様をエスコートして入って行きました。ひときわざわめきが大きくなります。多分ヴィーテクの出自とその美貌に老若男女がどよめいたのでしょう。この国はおばあ様の出身国ですから、おばあ様の血筋と言うだけで国内が湧くということらしいです。


 隙間から大広間を見ていた私は大伯父様に手招きされ、慌てて扉の前に大伯父様と並んで立ちます。扉の前に居た召使の男性が声を張り上げました。大きく扉が開けられます。

 「ラドミラ・カシュパーレク伯爵令嬢こと、リーディエ・シュブルトヴァー男爵閣下、並びに前シュブルト男爵、クリシュトフ・シュブルト様!」

 私達が中に進んだところで、足を止めて優雅に見えるように、スカートの裾を少し持ち上げて頭を下げます。隣では、大伯父様が騎士礼を施しています。ざわめきが大きくなりました。

 私達は頭を上げてから玉座に進みました。

 玉座の近くで足を止め、広間に入った時と同じように足を止め、国王に対しての礼をします。礼を終えて顔を上げると、視界にニタニタした国王の笑顔が入りました。見ていてあまり気持ちの良いものではありません。あの笑い方はあまり良いものではありませんね、はっきり言って色男台無しです!

 そう思っていると、突然王が玉座から降りて来て、私の前に立ちます。

 「今日こそは、私と踊ってくれるであろうな?」

 表情も変えずに小声で言われます。

 「・・・先代男爵であるクリシュトフ・シュブルトと次期カシュパーレク伯爵ヴィーテク・カシュパーレクと続けて踊った後でなら、一回だけ踊ってもよろしいかと、思っております。ですが、今すぐ踊ろうと誘われたとしてもお断りいたします」

 私も小声で答えます。表情は変わらなかった、はずです。ちらりと、国王の向こう側を見ます。仏頂面の大伯父様が、いい答えだとでもいう様に微かに頷かれました。

 「国王の命だと言ったらどうする?」

 ・・・なるほど。大伯父様が言っていたことが信憑性を増したように思えました。私と言うか、シュブルト男爵家を取り込むために動いてきたように思います。ですが、今のこの手はあまり良い手だとは思えません。国王には良い参謀が居ないのでしょうか。

 「・・・我が家は、就任時からシュテファン王を支持しておらず、下位貴族のままですから役不足だと言えば、さすがの王も私とすぐには踊れませんでしょう?」

 私の答えを笑顔で聞く国王ですが、声には苦みが混じっているようです。

 「・・・嫌味だな」

 「お互い様ではありませんか?ベェハル国王シュテファン様」

 私はワザと様付けして、国王の名を言います。こういう時は陛下と敬称で呼ぶのが正しいのでしょう。ですが、ワザと言わないことで、側妃にしてしまおうという考えなら、断るよという意思表示をしたつもりです。それでも私を王室にと言うなら、どうしましょうか。プシダル国に男爵領ごと帰属しましょうか。


 シュテファン王が無表情のまま見つめてくるのに対し、私は背が私より高い王を見上げるように、口元だけ笑って見せながら、視線を合わせます。決して目だけは笑っていないと確信して。

 「それぐらいでよろしいかな?じゃれ合っていては、会の趣旨から大きく離れてしまうのではありませんか?」

 隣から大伯父様が冷静に声を上げてくれます。ちらりと国王の視線が大伯父様に移りました。

 「・・・国王、我が義娘である新しい男爵をベェハル国の社交界に紹介してくれるつもりで、この夜会を開こうとしたのではなかったのか?早く紹介をしなければ、とは思わないのかね?周りの貴族たちが今か今かと期待して待っているぞ」

 国王の視線が私に向いてから、大伯父様に戻されます。

 「・・・良かろう・・・」

 その声とともに私の手を取り、居並ぶ貴族たちに向け宣言をします。

 「皆の者!」

 国王の声に貴族たちが顔を上げます。

 「今宵、ここに夜会の花と言われる貴族の一人が誕生した!皆も知るシュブルト男爵領の跡取り娘となった、リーディエ・シュブルトヴァー男爵だ!さあ、この新しくシュブルト男爵領を領することになった男爵と大いに歓談し、そして踊り明かそうではないか!」


 宣言通り、私はまず大伯父様と踊ります。随分なお年のはずですが、大伯父様はピンッと張った背中が美しく、そして年齢が良い方向に作用してすさまじい美貌です。私はこんなにいいお顔のままお年を召された大伯父様を誇りに思います。これは、大伯父様のパートナーを務めたいご婦人とかが群れ成すでしょうね・・・。

 次はヴィーテクです。ヴィーテクはこれから男らしくなっていくのでしょう。ですが今はまだ男性と美少年が同居して、少しだけ美貌が妖しくなったような気がします。姉と言うひいき目ですが、ヴィーテクは単純に美しい父と違い、妖しい美しさを持って成長したように思います。確かに美しいという形容が正しく思えます。これはこれで、ヴィーテク目指してご令嬢が殺到しそうな気がします・・・。

 何でしょう。我が家の男性は揃いも揃って反則級な美貌です。これは人気が出るわけですね。特にヴィーテクは次期伯爵様ですからね、悪い令嬢にころりと騙されないと良いのですが・・・。

 二人と踊っているときに、貴族ご婦人と貴族令嬢からの黄色い声がうるさいほどでした。


 満面の笑みのヴィーテクと踊り終わってから、貴族のご子息たちが近づこうとしてきますが、突然一つの影が私の手を取りました。

 「・・・二人と踊ってからなら良いのであろう?」

 「シュテファン王・・・」

 私の手を傍らから攫うようにとったのは、国王でした。ちょっと、そんなに私とそんなに踊りたいの?執着がすごい・・・。


 「・・・そなたは、私の記憶の中にあるエヴェリーナに似て美しいな」

 踊りながら、シュテファン王が言ってきます。

 「・・・おばあ様、エヴェリーナ・カシュパーレクの孫ですからね、似ている所もあろうかと思います・・・」

 私は当たり障りのない、いや、それは無理なので、露骨に嫌がっている様で答えます。

 「・・・雰囲気は違うようだな・・・」

 「・・・御戯れはおやめください」

 「・・・戯れてはおらぬ」

 「・・・何度も申し上げますが、我が家、シュブルト家はあなた様、シュテファン王を支持しておりません」

 「・・・王に忠誠を果たしておらぬわけではなさそうだが?」

 「・・・お間違えにならないでくださいますか、我が領は国に対して忠誠は果たしておりますはずです」

 「・・・つまり、王には忠誠を果たしておらんと言うわけか」

 「・・・我が領の者は国に忠誠をつくします」

 王の手から離れて、私はくるりとターンをします。差し伸べた手を王は受け取って強めに握ってきます。そのまま差し上げられた手に従い、私はその場でもう一度逆向きのターンをしました。王の手が私の腰を支えてくれていますが、私はその手がなぜか緊張しているように感じます。

 「・・・王にも忠誠を果たして欲しいと言うのは、どうだ?」

 「・・・国に忠誠を尽くしているのです。王に忠誠を尽くすとなると、それは重荷となります」

 「・・・」

 私の明確な言葉に王は黙り込みました。私達は黙ったまま、踊ります。

 しばらくして曲が終わりました。私は王に向かい合わせて、礼をします。顔を上げたとき、王が素早く近づき、そして言いました。

 「そなたをようやく・・・。必ず・・・」

 ですが、私はその言葉を最後まで聞くことができませんでした。問い返す前に、王は大広間の中央ダンスをしている場所から離れて玉座に戻って行ってしまいました。

 ヴィーテクが視線で殺せるならとでも言いそうな目つきで国王の背中を睨みつけています。


 離れていく王の姿を目で追っていると、スイっと影が立ちます。その影が私に声を掛けました。

 「・・・次は私と踊っていただけませんか?シュブルト男爵?」

 見ると、亜麻色の髪をした青い瞳の男性が私の前に立っています。鼻筋の通った美丈夫です。夜会服を着こなして、私に向かって微笑んでいます。

 「・・・喜んで」

 当たり障りのない答えをして私が手を差し出すと、相手はその手を取り、素早く口付けてきました。

 「!」

 そのまま一瞬怯む私に、その男性は片目だけ瞑り、取った手を引くと、もう片方の手を腰に回してきました。曲が始まると、周りの貴族子息たちが群がろうとしていたのでしょうか、慌てた様に離れて行きます。会場の中央に素早く出た私達は、踊り始めます。ちらりと視線を走らせると、ヴィーテクがドラフシェ・ピェクニー様の手を取って踊り始めるところが見えました。ただなぜか、二人は私達が踊る近くで踊っており、すれ違いざま、私の相手をする男性に猜疑心に満ちた視線を二人して送っていました。


 殊の外上手に踊る姿を見て、私はこのお顔の方は誰だったかを、記憶から引き出そうとします。

 「・・・ベチュヴァーシュ公爵家の者ですよ、私は」

 私の表情が記憶を探るかのようなものだったらしく、男性が苦笑しながら耳元でささやきます。

 「・・・お目にかかるのは初めてですが、なかなか手厳しい方のようですね、あなたは」

 「・・・手厳しいとは?」

 毅然としなければなりませんね!はじめてお目にかかると言うのに、手厳しいと言うこの男性の言葉の根拠はいったい何でしょう!

 「・・・国王陛下を認めていないと言われていますね」

 「・・・」

 「確かに、国王陛下と一度も呼ばなかった」

 「・・・我が家は現王を支持しておりませんので」

 「・・・なるほど。だから男爵家にあるまじき領地を持ちながら、爵位は下級貴族と同じなのですね」

 「・・・嫌味な人ですね、ベチュヴァーシュ公爵家の方は」

 「ラドヴァン」

 「はい?」

 「ラドヴァンとお呼びください、私の事を」

 私はラドヴァンと名乗った男性を睨みます。

 「親しくないのに、名前などでお呼びするなど出来ませんが?」

 「いつかは呼んでいただけることでしょう」

 満面の笑みで男性は私の抗議も聞こうともしません。失礼な人です。

 「・・・二つほど忠告をしましょうか」

 気になることを言いますね。踊りながらなので、思わず反応してしまいました。

 「忠告?二つですか?」

 「・・・ええ、そうですよ。聞く気はありますか」

 ちょっとだけ躊躇します。聞いてしまったら、何か見返りを要求されたりして・・・。

 「面白い方だな、あなたは」

 表情をうまく読み取られたようです。上手く取り繕えるでしょうか・・・。

 「・・・私が知っていることなら、もう二度と会わないとお約束を」

 含み笑いをしながら、彼が踊りの最中にもかかわらず、突然私の手を持ち上げて甲に口づけをします。

 「・・・そんなことにはなりません」

 「・・・自信家なのですね・・・」

 「・・・あなたに婚約を申し込んでいる家が今日までに二つあったと思いますが、」

 突如として真面目な表情で話し始めました。

 「そのうちの一つストルナド侯爵家についてですが、次男のレオポルトはこの王都ブラホスラフに囲っている女性が居ます」

 「・・・」

 「あなたが愛妾を許せるかどうかで存在は気にならなくなると思いますが・・・」

 「・・・」

 「普通は気になるでしょうね、特に今回のように婿取りをするとなれば」

 「・・・そう言うことなら我が家の名が目当てで、私は蔑ろにされるだろうと言いたいのですか?」

 ようやく私が返すと、にこりと笑います。

 「最悪の場合は、男爵のお命も狙うでしょう。男爵家の乗っ取りをするつもりかもしれません」

 「・・・」

 「このレオポルトと言う男は、たぶん男爵家の領地についていろいろと教えろとか言ったのではありませんか?」

 見てきたような言葉に、私はラドヴァン・ベチュヴァーシュ様を警戒したほうがよいのでは思いました。ですが敢えて平静な言葉で返します。

 「入り婿に成るつもりなら、相手の領地について聞くのが早いでしょう?自分の用意した資料と照らし合わせるためにも」

 ラドヴァン・ベチュヴァーシュ様がにこやかに頷きました。

 「・・・さすがにレオポルト・ストルナドの悪口には乗りませんか。賢明ですね」

 私は無表情で居られましたでしょうか?少々疑問です。


 「・・・もう一つは?もうすぐ曲が終わります」

 曲が終わりに差し掛かっていて、私はもう一つの忠告とやらを早く言うように急かします。

 「もう一つの婚約申し込みについてですが、裏で糸を引く者がいますよ」

 「・・・誰かは教えていただけます?」

 「イグナーツ・ペリーシェクの事はご存知ですか?」

 「もちろん」

 「あの男爵の地に滞在中ということです」

 レオポルト・ストルナド様の事よりもあのぼんくら坊ちゃんの事の方が衝撃的でした。多分私の顔からはごっそりと表情が抜け落ちていたことでしょう。それだけ衝撃的な話でした。

 私達は曲の終わりになり向かい合い、お互いに礼をしましたが、私は放心して機械的になっていたのではないかと思います。

 「・・・あなたとまた話すことはできますか?」

 私がしばし考えながら口を開くと、なぜか嬉しそうな表情になりました。

 「私の方からご連絡をします。男爵はまだ王都に滞在されますか?」

 「・・・滞在はしますが、期間までは・・・わかりません」

 「・・・わかりました、出来るだけ早くにご連絡させていただきます」

 「・・・ご連絡、お待ちしています・・・」

 私に向け、一礼すると、周りから貴族の子弟が押し寄せて来て、その騒ぎに合わせるように、ラドヴァン・ベチュヴァーシュ様はいつの間にか消えていました。

 私はお相手をして欲しいと申し込んでくる貴族の子弟たちをあしらいながら、ラドヴァン・ベチュヴァーシュ様の言ったことを確認しようと決心していました。そしてこの方がどういう人なのかも。


この話が長くなりすぎて、二つに切ったのですが、本当はつなげたままの方が、状況がわかると思ったのですが・・・。

最右翼の婚約者候補の登場でした。この婚約者候補がある提案をして、リーディエはそれに乗ることになりますが、その話については今しばらくお待ちください。

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