残念美人は夜会の会場にたどり着く
夜会当日です。リーディエとその一党は王城の夜会会場に乗り込みます。
一話書き上げるのに時間がかかり申し訳ありません。パーティ前とパーティ中の話を書いていたら、長くなりすぎまして途中で二つに分けました。楽しんでいただけたら嬉しいです。
あと、章立てしましたので、一話のタイトルに手を加えましたが、もう少し章の内容を記述した内容の方が良いのかもしれないと考えています。
皆様、ごきげんよう。
私、リーディエ・シュブルトヴァー男爵です。
先日私達は、慌ただしく王都に向かって出発しました。案の定、大伯父様と飲み比べをしたヴィーテクの悪友たちは二日酔いで、馬車に乗ってもヘロヘロのままで、何度も馬車を止めては、街道の脇の草むらのなかに伏せていました。そのような足手まといな行動はありましたが、なんとかベェハル国の王都ブラホスラフにある、シュブルト男爵のタウンハウスに夜会の2日前にたどり着くことができました。シュブルト領のアルノシュト城で、下の弟ヤロミールの世話を執事のロマンにお願いしましたので、一行の執事としてついてきてくれたのは執事代行のチェスラフ・ミハレツです。
シュブルト男爵家の馬車には大伯父様に乗っていただき、私は馬に乗って移動します。実のところ男爵家の馬車はもう一台あるのですが、熱で動けなくなった弟のヤロミールのために残しておきました。せっかく私に会いに来たのに、熱を出してしまって男爵家の屋敷で足止めなど可哀想なため、熱が下がったら体の具合を見て追いかけてくるように、ロマンに頼んであります。え?何ですか?弟に甘い?ふ、ふん、私は弟が可愛いのです。ヤロミールは今でもそうですが、ヴィーテクも幼いときはお姉ちゃんお姉ちゃんと、いつも歩く私の後ろにくっついてきたものです。ただヴィーテクは成長につれ、美貌がすごくなり過ぎましたから、ヴィーテクを甘やかせなくなりましたが、ヤロミールはまだ幼いので甘やかしてもよいのではないかと思っています。というか、まだ10歳の子ならまだ姉に甘えるものではないのですか!そして、甘やかしてもいいでしょう!なにか、私が大人げないとかいうつもりなのですね!ほっておいてもらえますでしょうか!
あ、えーっと・・・、取り乱しまして申し訳ありません。ですが、私は弟たちが可愛いので、出来るだけ弟たちの希望は叶えたい、普通の姉で居たいのです。弟たちの喜ぶ顔は私の癒しですから。
えーと、どこまでお話しましたか?ああ、夜会が開かれる王都に着いたところまででしたか。そうですね、ロマンは私のお願い通りに熱が下がったヤロミールを連れて来てくれたのですが、察しの良い皆様が見通されたように、ヤロミールはまた熱を出してしまいタウンハウスで熱が下がるまで養生致しました。そして夜会での出来事を知らないまま、馬車に揺られて隣国カシュパーレク伯爵領に帰り、そこでも熱を出して寝込んで一年をほぼ何もできないまま、過ごしました。今にして思えば、来なければよかったと言う話ですが、当時のヤロミールは私を慕っていましたので、私に会うことが他の何物にも代われない大義だったのでしょう。まあ、本人も会いに行ったことは決して間違っていなかったと、あの後成長してからは言っております。
あれから成長につれて熱は出さなくなっていき、寝込むことは目に見えて減りましたが、時折当時を思い出して、幼い頃は熱を出して寝込んでしまうのでつまらなかったと言っています。そう昔を思い出して言うヤロミールですが、私は可愛かったヤロミールが今や出席した夜会などで貴族のお嬢様方に熱い視線を投げかけられているのを見ると、なぜでしょうか、丈夫になったことをうれしく思うのですが、私の手が要らなくなったことがなぜか哀しくて、なんとも言えない気持ちになるのです・・・。
さて、王都に到着して一日だけの観光に出かけるヴィーテクとベネディクト・チャペック様、ザハリアーシュ・ピェクニー様、オトマル・テサーレク様、ドラフシェ・ピェクニー様の5名ですが、私は別行動です。護衛のガリナ・チェルヴェニャーコヴァーとヴラディミール・スコトニツァ、そして専属侍女のダナ・ジェトコヴァーを連れて王都の商人を回ります。
「ごきげんよう、私はシュブルト男爵領の当主リーディエ・シュブルトヴァー男爵です、以後お見知りおきを」
そう言うあいさつで始まる飛び込みの訪問を早朝から何度続けたでしょう。私が商人に売り込みたい商品は、シュブルト男爵領の独占販売品である男爵印の泥炭とアブラナの花の蜂蜜と、菜種油、油を搾った後の油かすで作る肥料、そして染物です。なかなか難しい売り込みですが、2、3の商人が興味を示しました。少量のサンプルを欲しいと言うところに渡します。品質については我がシュブルト男爵が保証する旨を話して、品質についての確認をしてもらい、検討してくれるように依頼をします。その場で契約を迫らなかったのは、別の商人のところでも検討してくれるように依頼をしていることを伝えるためです。案の定商人たちは別の商人と話をしていることを知りますと、早急に検討をしますと言います。私はこちらに都合の良い条件を出してくれる商人と契約を締結するつもりでいます。それを王都に居る間に行うつもりで居ました。そう大伯父様にお話しておりましたが、大伯父様の答えははかばかしくありません。伯父様は王都についた日にタウンハウスから外出して夜遅く戻ってきてからは、心ここにあらずのようです。次の日の夜会の時間までタウンハウスの自室に籠ってしまい珍しくぼんやりとされていました。私の商人との契約締結についての動きも報告をしたのですが、当主はもう私だと、口を挟むつもりはないそうです。ただ何があったのか知りたかったのですが、大伯父様は何も言うことはなくだんまりのままでした。
そしてついに夜会の日に突入です。
私は朝から、ダナに顔をいじられてげんなりしています。
「もう、この顔は嫌なのよ・・・」
ぶつぶつこぼすと、ダナが目を見張っています。
「どうして、御屋形様はこの化粧をされるとシュブルト男爵領にその人ありともてはやされたエヴェリーナ様そっくりになれると言うのに、嫌がられるのですか?」
「どうしてって、これは私じゃないからよ・・・。この顔はおばあ様の顔であって、私リーディエの顔じゃないわ・・・」
「・・・よくわかりません、こんなにお美しいのに、どうしていやがられるのです?」
もうため息しか出ません。これは立場が違う人に、どれだけ自分の価値を説明しても理解されない無力感が漂います。私は本当にただただため息をつくしかできませんでした。
「・・・」
不機嫌そうな私の表情を見て、ダナは口をつぐみました。機嫌を損ねないように、黙って手を動かします。
黒髪の鬘を被せられて、変装は終了です。
わらわらと他の侍女達が入ってきて、私のドレスを着せにかかりました。領主としての仕事中はほぼドレスなど着ませんので、コルセットなどはつけませんが、今回は必要だそうです。
「・・・ぐぇっ」
締め付けられて思わず貴族らしからぬ声が・・・。
今日の着る光沢のある青紫色のドレスのスカート部分には贈り物にされると幸福になれると言い伝えられている花の意匠の刺繍が大小と大きさを変えながら裾まで覆っています。それに胸元は大きく切り込みが入っていますが、ラッフルを入れてあまり胸元を強調し過ぎないようにしてあります。オフショルダーで肩が出ているので、上腕半ばまでのオペラグローブをつけるようになっています。グローブはドレスの裾と同じ意匠の刺繍が施されているものです。
ちなみにドレスについては、本当はテサシュ村の染物を使って作りたかったのですが、染める繊維として使うつもりだった絹糸が高価でドレス一着分の糸を用意できなくて、諦めました。良い宣伝になりそうだったのに出来なくて残念です。
ドレスアップした後、私は大伯父様にエスコートされ、馬車に乗り込みます。同じ馬車にヴィーテクも乗り込みます。後の面々は別々の馬車に搭乗して、王宮を目指します。
夜会用に着飾った大伯父様は、やはり昔取った杵柄で美貌のおじいちゃまで、思わず見とれました。大伯父様に求婚するご年配の方などが出そうです。それはそれで心配になる私です。ですが大伯父様が望むなら・・・、うーん、どうしましょうか・・・。大伯父様を見て考え込む私を見て、同系統な美貌のヴィーテクが大伯父様と顔を見合わせています。
「・・・なあ、ヴィーテク・・・」
「・・・なんでしょう?」
「・・・わしには、ら、リーディエが何を考えとるかわかるような気がするのだ・・・」
「・・・奇遇ですね、大伯父様。私もです」
はっ、二人とも私の考えを読むと言うのですか!驚きです!
「・・・わしが求婚されたらどうしようか、とか考えとるような気がするのだ」
「・・・本当に奇遇です、大伯父様、私もそう思っています」
「・・・まったく、ポンコツよな・・・」
「・・・本当にそうですね・・・、男爵領の官吏に指示を飛ばす時と全く違っていますね・・・、残念・・・美人・・・」
何かひどいことを言われているのはよくわかります。ですが、心配なので一応話してみます。
「でもですね、大伯父様!大伯父様のそのお年を召されても変わらぬ美貌にやられてしまうご婦人はいるでしょう?そして求婚などされたらどうするのですか!」
「・・・断るから関係ない」
そ、そうですか・・・。ちょっと安心。男爵位に返り咲く大伯父様の姿を想像した私です。私は男爵位をあきらめなければならないかと思いました・・・。
今回招待状が送られてきたのは本当にギリギリでした。貰って次の日には出立しないと間に合わないくらいでした。国王が出席の担保として始めてくれていた街道の整備がなければ、一日王都につくのが遅れたかもしれないくらいだったのです。どうやら私を宮廷に入れたくない輩が居るということなのでしょう。
現在のシュテファン王は独り身です。以前はリリアナ王妃が正妃で、そのリリアナ王妃の間にラデク王子が一人生まれています。ですが、リリアナ王妃は身体が弱い方で、病に倒れ、帰らぬ方となりました。
王は正妃は一人で十分と言っていて、これはもう王妃は要らないと言っていることになるのですが、廷臣が王子が一人だけではいざと言う時に不安と言っていますので、王は彼らの言うことを聞いて側妃を迎え入れるつもりのようです。何と言ってもまだ若いですし、確かに王子が一人ではいざと言う時に心配ということなのでしょう。
私が言う話は理解できましたね?ですが、ここに貴族個人の思惑が関わってきます。側妃に自分の息のかかった者を送りこめれれば、王に自分の意見を側妃を通して通すことが可能と考える貴族がいるのです。
今回の夜会の意向は確かに国内有数の領地を持つシュブルト男爵への私の叙爵を国内に宣伝し、お披露目をするというものです。なぜか今まで側妃を持たなかった国王が叙爵パーティで新たに側妃の指名をするのではないかと廷臣が噂をバラまいているらしいのです。そして、その廷臣の話を王は否定しないというおまけがついていて、それがさらに私の叙爵の夜会で発表をするのは、私を側妃にしようと国王が画策しているからだとか。いえいえ、私はそのようなこと国王から一切聞いておりません。既成事実化するつもりなのかもしれませんが、いくら当事者に確認をすることもなく、勝手に側妃に指名して、王命ということで無理やりそれを通すつもりならですね、私はベェハル国を見限ることになるでしょう。
ちょっと話の方向がずれてしまいましたが、言いたいのはですね、私がその側妃候補と思っている貴族が王城に居て、その者は私には好意を持っていない、ということです。実のところ、我がシュブルト家は現王の家を支持していないために、ベェハル国有数の領地の広い国なのですが今でも男爵位なのは、現王の先祖の擁立に建国当時から異を唱え続けている家だからと言われています。この国の北の地に、北の大公と言われるダンヘル公爵家があり、我がシュブルト家はいつもその家を推してきていたそうです。そう言う経緯から、シュブルト家は現王家に退けられ今回のような嫌がらせに会うのでしょう。私は招待状の送付を遅らせてギリギリになって王都に来させて遅れたところで我が家を笑いものにしようと言うやり方はまったく姑息で馬鹿な者の行為だと思っていますが、そもそも私をお披露目する夜会で主賓を遅らせて国王の威信を下げて何が廷臣でしょうか。快く思っていないぞとわからせるのが目的なのでしょうが、私は国王に媚を売るために夜会に出るわけではないということです。私は国王のたっての願いを叶えるために、会に出るのです。それ以外に何も理由はないですから、姑息な招待状の送付を遅らせて招待をした現王の顔に泥を塗ったとしたら、処分が待っていると思うのですが、今の王城の廷臣は質が悪いのか、そんなことも分からないようです。
え?王に側妃として万が一もし指名されたらって言われるのですか?それはもう絶対無理ですね。私の領地をほったらかしにして、側妃にとか、考えたこともありませんよ。私はシュブルト男爵領の繁栄を目指しているのです。指名されても断りますよ・・・。
パーティで、最重要なキャラを出したかったので、一話を書いていましたが、登場シーンに行くまでに国王の思惑などを書き込んだら長くなってしまい、削れなかったために、そのまま2つに分けることにしました。ですから最重要キャラの登場は次話になります。話は書いてありますので、見直しをしたら投稿しますので、今しばらくお待ちください。