残念美人は二人目の婚約者候補と話す
お待たせいたしました。リーディエの運命のカウントダウンが迫ってきておりますが、今だ招待状は届かず・・・。ですので、リーディエは好き勝手やっています・・・。王都に行かなくていいのでしょうか。
少々体の調子が思わしくなく、リアルの仕事を優先して、小説の方は細々と書いていました。1話分書けたので投稿します。次話以降は体と相談しながら書いていきます。お待ちになっておられる方、誠に申し訳ありません。今しばらくお待ちください。
皆様、ごきげんよう。
私、リーディエ・シュブルトヴァー男爵です。
突然の事でしばし思考が止まってしまいました。
お隣の男爵領の当主が婚約を申し込みに来たということは、このシュブルト男爵領を狙っているということでしょうか?いえ、狙っているのでしょう。
何度も言いますが我が男爵領は規模が大きく、本来ならば男爵と言う下位貴族が采配するような領地ではないのです。少なくとも伯爵と言う地位の貴族が采配をするにふさわしい領地です。大伯父様の嫡子である故ミロスラフ・シュブルトが受けようとした子爵と言う位は、はっきりと言えば少々馬鹿にされている爵位と言っても過言ではないと思います。はっきりとは大伯父様は言いませんでしたが、シュブルト家の現在の爵位についてはどうやら王家を支える家々との確執があるようなのです。前にベェハル国がどういう経緯を辿って成立したかをお話したことがあったかと思いますが、この国は諸侯の力が強いのです。もちろんベェハル国が成立したときに、シュブルト家もそれなりの家格を誇っていたはずですが、今のベェハル公ではない家をシュブルト家は推していたようで、そのことからシュブルト家はベェハル公を推していた諸侯の面々に遺恨を持たれて、このような爵位に就かざるを得なかったということです。ただ、シュブルト家はものすごく戦に強い家なので、ベェハル王自体は手放したくはない。何と言ってもシュブルト家は、クバーセク国の軍を単独で迎え撃ち、ことごとく敗走させてきた武の家なのです。そのため、味方ならば、これほど心強い家はないはずなのです。敵にしたなら、恐怖以外の何物でもないでしょう。
ちなみに敵対国だったころのクバーセク国は、侵略して敗戦して領土をシュブルト家に住民ごと割譲し、その領地を取り戻そうとしてまた侵攻し、敗戦し、領土をシュブルト家に住民ごと割譲しと何度でも繰り返し、その都度シュブルト家は勝利して、領地は相当大きくなりました。まあ、クバーセク国は平和条約締結時に、今までに割譲した領地を返還して欲しいと交渉をしてきたそうですが、当時の当主は代わりに損害賠償金を要求したそうです。私自身はお金の方がよかったなあと思っていますが、損害賠償金は何度も侵攻軍を相手に戦ってくれた皆への慰労金と命を落とされた方々の家々に支払う賠償金で、クバーセク国王家の予算の20年分を要求したそうです。相当吹っ掛けましたね。多分これは何度も侵攻された恨みもあったのだろうと思います。
結局平和条約の条項に、この地方では、我がシュブルト家に割譲した領土とボリス・ズーレク男爵領、それにシュブルト領の南東にあるルボミール・パヴルー伯爵家の割譲領土の返還要求請求権を永久に放棄すると盛り込まれ、我がシュブルト男爵家の領地は確定したのです。
どうですか?我がシュブルト家の力は。これから我がシュブルト家は、その領地の南側に当たる割譲されたまだ開発されていない地域を開拓する予定です。さらに裕福になるかもしれませんね。
あら、話しがずれてしまいましたが、このシュブルト男爵領は、確かに今は領都であるカイェターンに人口が集中しておりますが、先ほどのように割譲された地域の開拓を予定しております。戦の危険性が低下したことが認知されて、出生率も上がっております。人口も増して、長期で見れば領全体の発展は相当なものとなると思います。
ですので、南の男爵が我が領を狙いたいと言う気持ちになるのも分からない話ではありません。南の男爵が、欲深い貴族ならば、ですが。
「・・・ロマン、ちょっと聞いても良い?」
「・・・何なりと、御屋形様」
「ボリス・ズーレク男爵って、野望の高い人?」
「・・・いえ、私はそのような話を聞いたことがありません」
「でも、現に私に申し入れて来てるよね?」
「確かにそうですね」
「もともと欲の深い人で、それを隠していた、とか?」
「貴族など、欲はあるでしょう?多かれ少なかれ。御屋形様だって欲はあるじゃないですか」
ロマンの話にもっともだと私は頷きます。
「まあ、私はシュブルト領を発展させるのが夢だから、それを欲と言われれば肯定するほかないけどね」
「・・・いえ、そちらの話ではありません」
ん?何か聞き捨てならないことを言ったような気が・・・。
「そちらの話ではない?じゃあ、どちらの話?」
「・・・御屋形様は冬になった時に申されていたではないですか?」
「・・・冬になった時?」
ロマンがじっと私を見てきます。私は首を傾げました。
「・・・お忘れになっておられますか?」
「わたし、何か言ったかしらね・・・?」
軽くため息をついたロマンが、やれやれと言いたげな表情になっています。
「早く婚約したいと」
「こんやく・・・?言ったかしら・・・?」
宙を睨み、私は考えます。が、結論はそんなこと言った覚えはない!でした。
「・・・もうようございます。とにかく欲は誰にでもあるということです」
強引ですね、ロマン。
「・・・うまくごまかしたような気がしないでもないけど、まあいいです、一応この手紙に書かれているように一度王都に行く際に足を延ばして会いに来ると言うのであれば、その時に人となりを見て返答をしましょう・・・、まああちらが私を気に入るとは思えないのですし」
私はにこりとします。
「・・・私もズーレク男爵を気に入るとは思えませんけど」
まあ、いいです。ロマンに大伯父様に婚約を申し込まれた旨を報告しておいてと伝えますと、もう報告済みだとのことです。報告時には、何やら難しい顔になってしまわれたらしいのです。大伯父様は賛成なのでしょうか?肩をすくめて、私は明日の用意を専属侍女のダナに頼みますが、私は今日は大伯父様に帰着の挨拶をしただけで終わらせました。大伯父様は申し込みについては何も言うことはありませんでしたが、終始難しい顔をしたままでした。
ロマンと会話した次の日に、私は予定通りテサシュ村に出かけて、村長に熱心な歓迎を受けます。ちょっと村長、あなた随分冬前とは違って熱心にアピールしてきますね?相当村人たちから突き上げを貰いましたか?
「御屋形様、実はこの村に時折買い付けに来る商人がいまして」
ん?これは、ひょっとして、危ないかも?話してるかな?
「その商人に確認して見たんです」
やっぱり!
「商人は買いたいと言ってきました!」
「村長さん、それはダメですよ」
私の表情に村長が固まりました。多分、私の目は座っており、相当怖い顔をしていたのだろうと思います。
「今はまだ商品として確認段階なのですよ。その商人に見せたら、その商人は自分が商品を取り扱いできると思うはずです。私が取り扱える商人を違う人に決めたらどうするのです?要らぬ対抗心を燃やされたら?違う領地で染物を行われたら?」
村長は私の静かに言う言葉に顔を青ざめさせています。
「・・・申し訳ありませんでした。顔見知りとなった商人でしたので、簡単に意見を聞いてしまいました。これからは気をつけます。今後尋ねてくると思いますが、その時は応対しないように致します」
「ん?また来ると言った?」
「御屋形様が取引に関しては全権をお持ちと言いました。私は、ただのこの村の村長だと。ですので、その内に御屋形様に連絡を入れてくると思われます」
案外知り合いだからと全部に気を許したわけじゃなさそうです。それならまだ救いはありそうです。
ですが、応対しないはダメです。反対に恨まれる可能性があります。
「村長、極端に走ってはダメ。一度話してしまっているのに、今度は排除なんてダメです」
「で、ではどうすれば、良いのでしょうか・・・?」
手を胸の前で組んで縋るような目つきで私を見てきます。
「そうですね、まず以前評価してもらったことは素直に喜んでください。そのあと、商人ですからいつ、どれだけ売ってくれるかを聞くでしょう。あと、いつまで売ってくれるかも聞いてくるでしょう。そうですね、もう一つぐらい聞いてくるとしたら、今日買ったら次はどれぐらい間を開ければ次の染物が用意できるかを聞くでしょうね」
「そ、そんなに具体的なことを聞くのですか?」
村長はオロオロしはじめています。
「こ、答えられません・・・」
「でしょうね」
勝手に話すからだとは思いましたが、この事業はシュブルト領の公共事業で行うとまだ伝えて居なかったのですから、ちょっとだけ責任を感じてしまいます。ええ、口留めもしていなかった私にも責任の一端はあるということです。なんですか?責任を認めているのですから、ちゃんと村長のために策は考えましたよ!言いっぱなしなんて、私が理想とする貴族の在り方じゃありませんから。
「村長、商人が来たら歓迎をして・・・、宴会をする必要はありませんからね」
村長、その仕草は酒を飲む恰好ですよね?誰も宴会をしろとは言ってませんよ。
「温かく迎えればよいのです」
「はい・・・」
肩を落とすな!そんなに飲みたいのですか!
「全部、シュブルト男爵が取り仕切るので、値段とか期間とかはわからないと言ってください。領都のカイェターンでシュブルト男爵と話し合ってくれと言えばいいのです。いいですか、あとそう言ったら、商人が何を言っても、売ってはいけませんからね。見本を渡すぐらいはいいですが」
「・・・」
「まあ、その商人が来たら、私に会いに行けと紹介状を書いて渡して貰えますか?」
私は不安げな村長にそう言い置いて、テサシュ村を後にします。
村を出た私と私を護る護衛の一行は、そのままカイェターンの男爵の家に戻りましたが、またまた馬車が私の家の玄関に止まっているのを目撃しました。
また前に見た光景だなあと、デジャヴに浸っていますと、玄関が開いて人が数名出てきます。ん?大伯父様と執事のロマン、そして武装した護衛らしき人とちょっとだけなよっとした貴族っぽい男性がいますね。その中のロマンと武装した護衛がほぼ同時に私に気が付いたようです。護衛らしき人は私に対して身構えましたが、ロマンは当たり前ですが、臆することなく近づいてきます、相変わらずの無表情で。
「御屋形様、おかえりなさいませ」
「ただいま。誰が来たの?」
私の馬の轡を取ったロマンが、私が降りるのに手を貸します。
「・・・ボリス・ズーレク男爵様です」
小声でそう答えます。
「・・・そう」
はっきり言って、こんなに早く来るとは思ってなかった!
私が近寄ってきた馬丁に手綱を渡すと、ロマンが私の前に立ち、馬車の脇で大人しく待っている貴族っぽい男性の元に導きます。ちらりと大伯父様を見ると、少々苦虫をかんだように顔を顰めています。ははあ、お伯父様はこの話はあまり乗り気じゃないってことね。
「大伯父様、ただ今戻りました」
私はまず大伯父様に声を掛けます。
「お帰り、リ、リーディエ」
どうしても私の名を呼ぶときに引きつりますねえ、大伯父様。ちらと、傍らに立つなよ貴族と護衛に目を向けます。
「どちら様でしょう?」
「ああ、こちらは」と、大伯父様はなよ貴族を省みて「ボリス・ズーレク男爵だよ。シュブルト男爵にご挨拶をと王都に行かれる途中にわざわざ寄っていただいたのだ」
そして、身体ごとボリス・ズーレク男爵に向き直り、私を紹介しました。
「ボリス・ズーレク男爵、これが私の義娘、リ、リーディエ・シュブルトヴァー男爵だ」
紹介されたボリス・ズーレク男爵は一歩前に出ると、私に対して胸に右手を当てて、頭を下げました。
「ボリス・ズーレクと申します。お隣の領地の采配を致しております者です。以後お見知りおきを」
私も、それに対して片手を胸に当てて、頭を下げます。
「ご親切にどうもありがとうございます。私は、リーディエ・シュブルトヴァー、このシュブルト男爵領の采配をしております。義父から領を受け継いだばかりの新参ですが、ご指導をよろしくお願い致します」
頭を上げると、値踏みするかのような表情をして私を見ていましたが、にやりと、あくまで私の主観ですが、にやりと笑いました。
「この男爵領にあるまじき広さの領地を采配されている男爵に、非常に興味がありました。そのため、私が何か力になれるところがあればと思い、書簡をしたためました次第です」
「ほほぅ。力になれればですか。その割には何か私の家に入りたいと言うような言葉が書き連ねてあったように思いますが」
私がにこやかに笑いかければ、ボリス・ズーレク男爵がもう一度あくまで主観ですが、にやりと笑いました。
「そうですね、私とて貴族の端くれです、このシュブルト男爵領のような広大な地を采配できるならしてみたい。入り婿に成れればそれを叶えることができるのではないでしょうか」
「入り婿に成ったからと言っても、領地の采配ができるとは限りませんよ?」
私が満面の笑みでそう言うと、一瞬だけ真顔に戻ったボリス・ズーレク男爵が、またにやりと笑います。
「子供を産むときには、采配はできないのではありませんか?子育て中には采配されますか?お任せ下されば、煩わしいことを考えなくても良いとは思えませんか?」
それは時と場合、そして人物によるのではありませんかねえ・・・。そう思いましたが、何もそれについては言わず、当たり障りのないことを言っておきます。
「・・・そういう考え方もありますね」
私がそう答えたところで、大伯父様が会話を遮ります。
「そのような話は、玄関先で話すようなことではなかろう。応接室から出てきたばかりだが、再度戻っていただいて、そこでゆっくりと話してはどうだろうか」
「・・・わかりました。義父の言う通りです。応接室でお話致しましょう」
私が大伯父様に賛同すると、ボリス・ズーレク男爵もその言葉に賛成されました。
「そうですね、それでは再度お屋敷の応接室でお話させていただけたらと思います」
ようやく、玄関のドアを持ったまま待機していたロマンがドアを開けることができ、そのまま大伯父様を先頭に、ボリス・ズーレク男爵とその護衛、そして私と私の護衛ヴラディミール・スコトニツァと中のホールに入ります。ホールには我が男爵家の侍女頭のボフミラ・ハロウブカが待機しており、私達が応接室に入るまで、ずっと頭を下げ続けています。
「・・・私のお茶は少しぬるめのものを用意してくれる?」
私は歩き速度をゆっくりにしてボフミラに頼みます。
「・・・かしこまりました」
深く頭を下げると、侍女頭はホールから出て行きました。
結論から言うと、ボリス・ズーレク男爵の申し込みは保留となりました。
私はこの申し込みに何か裏があると思っていましたので断ろうと思っていたのですが、大伯父様が私の会話途中に目くばせをそれと分からないようにしてきました。
ん?珍しい。いつもは直接私の意見など気にすることなく、勝手に決めるのに。ただ、断ろうとする私の遠回しの言い方にどうやら反対しているようです。
ただボリス・ズーレク男爵が随分私に対して売り込みを激しくしていて、一緒になれば今のボリス・ズーレク男爵領もシュブルト家のものにしても良いと言い出します。それを聞いて、大伯父様の欲が炸裂したのかなと思い、仕方なしにしばらく考えてみるとお茶を濁して、お帰り戴くことにしました。
玄関へ出てボリス・ズーレク男爵の馬車が走り去るのを見送り、ホールに戻ると、大伯父様が私に対して謝ってきました。あら、大伯父様が謝ってくるなんて、何かありますね。
「リ、リーディエ、すまない・・・。断りたかったのだろうが、少し待ってくれ。あのボリス・ズーレク男爵があそこまでこのシュブルトに婿として入りたいのには訳があるのだろうと思う。この地方の安定を考えて、すぐに断るよりは、もう少し泳がせて、理由を掴みたい。あ奴の領地になど興味はないが、シュブルト家にとって有利になることなら、私はそれを足掛かりにして、得体のしれないボリス・ズーレク男爵ではない、違う人物を領主としたいと思っている」
ははあ、大伯父様は何か掴んでいるということなのですね。ですが、確証がないので私には話せないと、そういうところなのでしょうか。しかし、断る前提の保留をお願いされるなんて、ボリス・ズーレク男爵は何をしようとしてるのでしょうか・・・。
ちなみに侍女頭のボフミラの淹れてくれたお茶は非常にいい塩梅で、乾いた喉に染みわたって行きました。おいしかった・・・、満足。
お隣の男爵は最近領地を継いだばかりです。ただ、貴族ですので、それなりに遊んではいます。今だ正妻はいません。この男爵はちょっとした事案が持ち上がっていまして、シュブルト男爵領の後押しがあれば、有利に持って行けると考えています。打算的な婚約申し込みですね。そしてあわよくば、シュブルト男爵領も我が手に。くふふふ・・・と言う感じですが、そううまく行くでしょうか。
次回はいよいよ招待状が届きます。それにつられたわけじゃないですが、隣国から応援も来ます。
応援の人には嫡子以外も居ますので、その人たちの一部はこれからも出演する予定です。