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残念美人である貴族令嬢は婚姻を望んでいます  作者: 花朝 はた
第二章 残念美人の女男爵は婚姻を望んでいます
15/45

残念美人は領地に資産を増やす

春が来ました。ですがリーディエは憂鬱です。国王の夜会があるのです。まだ招待状は来ていません。よかったのでしょうか、よくなかったのでしょうか・・・。

憂鬱成りにリーディエは領内を富ませるために走り回ります。ですが、予想外の展開にさすがのリーディエも思考が停止してしまいました。

 皆様、ごきげんよう。

 私、リーディエ・シュブルトヴァー男爵です。


 ついに春が来てしまいました。どうしましょうか。夜会の開催時期にはまだ期間が開いていますが、私は全力で拒否したくなってきました。夜会の時にわざとカシュパーレク家に行くと言うのはどうでしょうか・・・。

 一度、大伯父様に相談の時にそう言ったら、白い目で見られました。その時の言葉も一語一句憶えています。


 『ベェハル国で男爵として暮らしたくないなら、それでも良いかもしれないな』

 もう一言、あります。

 『このまま、プシダル国で婚約破棄された伯爵令嬢として暮らしていくか?』

 これは大伯父様に呆れられましたかね・・・。


 でもシュテファン王は、私が夜会におばあ様化粧をして出る見返りにシュブルト男爵領の村々をつなぐ街道を整備して、すべて石で舗装をしてくださると言われました。なかなかいい見返りと思ったのですが、大伯父様はさらに私の上を行きました。

 『それを雪が解けたらまずカイェターンとブラホスラフをつなぐ街道を我が男爵領内のみ石畳にしてくださいますか』

 王は形の良い眉を顰めて考えておられましたが、やがて不承不承頷かれます。

 『よかろう』

 『・・・認めやがったよ、このガキ・・・、そんなにエヴェリーナに扮したラドミラが見たいのかよ・・・』

 お、大伯父様!き、聞こえますよ!いえ、絶対聞こえてますから!王の顔が引きつり笑いしてますから!死にたいの?どうしてそんなに死のうとするの?

 『・・・前男爵?何か不満そうだが・・・?』

 黒い笑顔で大伯父様を見つめるシュテファン王です。これ、大伯父様の言葉聞こえていますよね?怒らせちゃってるよ、大伯父様、国王怒らせちゃってる!これ、どうすればいいの?


 そして実際のところ、雪が解け始めてはいますが降り積もった雪が残っている状態なのにもかかわらず、街道の整備が始まったそうです。先ほど男爵家に報告が届きました。国王が約束は守るから、そちらも約束は守れよ、と言ってきていることがよくわかりました。面倒なことを言う人だ!


 私は生気を失くした表情で男爵領を駆け回っています。雪が完全に溶ければ、国王の開催する夜会への招待状が届くでしょう。そうなれば私は王都に向かわねばならなくなるはずです。それまでに領内の事をやっておこうと思っています。


 ちなみにこの冬中にカシュパーレク家からは母の侍女を務めていた侍女がうちに来てくれて、ダナをはじめとする男爵家の侍女たちに、私がおばあ様に化ける化粧法を伝授しました。そして雪が解けかけ、馬車が走れそうになってすぐカシュパーレク家の用意した馬車で、さらに嬉しそうな笑顔になって故郷までの道に旅立っていきました。故郷に着いたら、そのまま幼馴染の男性と所帯を持つとのことです。平民の方ではありますが、伯爵家の召使の中で女性使用人の上位に当たる母の専属侍女にまで上り詰めた人です。優秀な人なのです。幸せを祈ります。


 私はと言えば、まず自分の感傷的な感情は心の中に押し込めて、アブラナの種を男爵領南西の村スコカンに整備した農地に蒔きました。このスコカンの村は男爵領の領都であるカイェターンから、わずか半日のところにあります。実のところ、このスコカンの村はシュブルト男爵家の軍事基地に当たるところなのです、いえ、だったのです。

 隣国の内プシダル国の同盟はもう半世紀も続いています。この同盟はベェハル国から破られることはないと言われており、そしてプシダル国は隣接するカシュパーレク伯爵を辺境伯から普通の伯爵と呼び名を変えていて、カシュパーレク家にとっては実質の降格に当たるのですが、この爵位変更によりプシダル国側もベェハル国と戦わない意思表示をしているのです。

 ベェハル国には隣国がまだあります。その国の一つがクバーセク国です。この国は平和条約を5年前に結びました。今までは敵対国だったクバーセク国ですが、ベェハル国に侵攻しては、コテンパンに叩かれて、その都度逃げ帰っており、その損害賠償で国庫が半分以下にまで落ち込んだと噂されているのです。シュブルト男爵領も何度も戦場となり、その都度シュブルト男爵の勇名をとどろかせる引き立て役になりました。実のところシュブルト男爵領がその爵位の割に大きな領地を持っているのは、国境がクバーセク国の侵攻のたびにクバーセクが負けて、領土を割譲されたためそこを有するようになったからです。ですが、平和条約のおかげで、もう戦いはないはずです。そのために男爵領の騎士団は現在のところ規模を縮小させようとしているところなのです。


 シュブルト男爵騎士団は騎士団と名付けられておりますが、実質は大多数が農民兵で、騎士は中隊長以上でなければ任命されておりません。小隊長以下は農民出身です。そのため、農地としてアブラナの種を蒔く前に、スコカンの騎士団の者に声をかけたところ、10分の一の農民出身者が名乗りを上げ、農地として荒れ地を開拓してくれていたのです。そしてその10分の一はスコカンの村か別の村の農民出身者なので、そのまま農地を耕すために、騎士団を辞めています。ですが、私はいつ何時隣国が攻めてくるか判りませんので、騎士団を辞めた後も、スコカンの村から離れることだけは許しませんでした。有事には動いてもらうつもりです。


 父であるカシュパーレク伯爵には頼んでいましたが、何も音沙汰がなく、ミツバチの分蜂ができるかどうかちょっと心配になってきました。ですが雪が解け始めた時期に、カシュパーレクの家から言われたと言う養蜂家が訪ねて来て、巣箱の分蜂をしてくれました。それに手数料を含めて、支払いを済ませてから、その養蜂家にミツバチの世話の方法を聞いてみます。

 「閣下、カシュパーレク伯爵様から言われております。世話はまず私がします。その間にこの男爵家での世話人を雇うなりしていただけませんでしょうか。その世話人を私が一年かけて教育いたします」

 「・・・なるほど、それは有難いお申し出です。・・・それでその教育はいかほどお支払いすればよいのです?」

 私は恐る恐る確認をします。

 私は養蜂には初期投資がかかると分かっております。ただ分蜂にかかったお金はやはり半端な金額ではありませんでした。ですから、金額がいくらかかるか、恐怖でしかありません。絶対に支払いはしなければならないと分かっていますが、安くなればそれに越したことはないと思っていました。大伯父様は蓄えがあるので、気にするなと言われております。私がやりたいことに大伯父様は一度も反対したことはありません。ただ何をするにも料金が発生するので、できれば金額を下げる努力はして欲しいとはいわれております。シュブルト男爵領はベェハル国の西の要なので、王家からの税額の軽減があります。本来は国の防衛に使うべきだとの税の軽減ですが、この軽減の解釈をちょっと捻じ曲げるように方向性を変えましょう。男爵領が発展すれば、税収が上がる、税収が上がれば、軍備に使用できる、軍備に使用すれば、万事丸く収まる・・・。ごまかせるでしょうか・・・。そもそも前提が違っているので、税の軽減もなくされてしまうとか・・・なりませんかね?なりませんよね?大丈夫ですよね?・・・、・・・誰も返事をしてくれませんね・・・、心配になってきました・・・。


 さて、色々領内を動き回ったのですが、雪が完全に溶けたのにもかかわらず、夜会の日程が王家から来ておりません。これ幸いと、私は泥炭の産地になる予定のコチー村に行きます。今回は私は騎乗です。自分の思う通りのスピードで走れて、4日のところですが3日でたどり着けましたが、村長の家に着いたときには陽が落ちていました。


 「ああ、御屋形様、突然なんでしょうか?」

 にこやかに村長がドアから現れますが、姿を現すまでがドアを細目に空けて外を窺った後、私の姿を認めてもしばらくドアを開けることすらせず、しきりとあたりを窺った後、ようやく姿を見せましたが、手には大きな棍棒を持ったままでいます。え、何、それ、怖い。

 私が棍棒を凝視すると、村長は照れた様に笑い、背中に隠します。

 「ははは・・・、いやーあ、最近物騒なものですから」

 「・・・何?私に化けた者が押しかけてでもしたの?」

 村長は笑いながら、私と女性護衛のガリナを通して、ベドジフともう一人の男性護衛である、ヴラディミール・スコトニツァが二人で4頭の馬を纏めて厩に連れて行くのをみて、一人の使用人を厩に行かせます。

 「騎士様、馬の世話のお手伝いをします」

 その使用人が声を掛けながら言ってしまうと、村長は黙ってドアを閉めました。

 「厄介事でもあるの?」

 私の問いに村長はため息をつきます。

 「・・・厄介事でしょうかね・・・、最近夜になると怪しくなるんですよ・・・」

 「・・・怪しく?」

 私が聞き返します。

 マントのピンを外して、マントを取ります。すっと、わたしの傍に村長の奥様が近づいてそのマントを受け取って、跳ねた泥を見ながら、落とすためでしょうか、奥に消えていきました。

 「なんだか変な歩く音がするんです。いや、歩く音じゃないか、何か引きずるような音です」

 「・・・」

 「・・・」

 私とガリナが顔を見合わせました・・・。


 翌朝、村長は上機嫌で私に朝の挨拶をしていました。

 「いやー、流石は御屋形様です!泥炭泥棒が出ていたなんて!捕まえられなかったのは残念です!でも流石です!」

 そうです。村長の言う通りです。何かを引きずる音なんて滅多にしません。そんな音がするとしたら犯罪でしょう。村長の奥様も笑顔で私達用の朝食を食堂に座った私、ガリナ、ベドジフ、そしてヴラディミールに給仕してくれています。


 私は話しを聞いた後、外に出て見回りに行こうとしていた矢先に村の外の湿地につながる道を何かを引きずっている男に出くわしました。

 『何をしている!』

 ヴラディミールが駆けだすのを見て、私が大きな声を出しました。

 『わわ!』

 なんだか情けない声を出して男は紐を放り出し、そのまま湿地帯の方に消えていきました。なんて命知らずな。沈んだら、浮かび上がれないかもよ・・・。

 『ああ、しまった・・・。道の方に逃げると思ったんだけど・・・』

 追いかけようとしたヴラディミールを制して、私は放り出していったものを見ます。それは乾燥して堅くなった泥炭を平に剥ぎ取り、20枚ほど重ねたものです。紐で縛ってばらけないようにして引きずって目的地まで運ぶつもりだったのでしょう。


 私は奥様の作ってくれた朝食の、カリカリのベーコンと炒り卵とベリーを煮詰めて作ったと言うジャムを塗ったライ麦パンを交互に口に入れています。

 「御屋形様、僭越ながらお伺いしても良いでしょうか?」

 村長が真顔で尋ねてきました。

 「・・・なにか?」

 「今回のように泥炭が使えると分かったことで、見向きもされなかった泥炭が穫れるこの湿地帯が男爵領にとっては宝になるわけですよね」

 「まあ、そうですね」

 「管理も男爵家がすることになりますよね?」

 「ええ、そうです」

 「騎士団が駐留するようになりますか?」

 「なるでしょうね」

 「そうなると・・・村の食糧事情が・・・」

 「一応は騎士団は常駐しますが、南側にはまだ耕作していない土地があるので、そこに新規の農地を作ってくれる開拓民をそこに入ってもらいます。村全体の食料供給を上げてから、泥炭を大々的に男爵の事業として販売するつもりです。そうすれば村の人口も増え、泥炭の増産にも手を付けられるでしょう」


 荷馬車を手配して泥炭を積み込み、領都にある男爵家の敷地内に造った泥炭の集積場に積み込む最中に、執事のロマンが浮かぬ顔で近寄ってきます。

 「御屋形様・・・」

 「ロマン、何?浮かない顔をして」

 「それが・・・」

 「なに?夜会の招待状がもう来たの?予想より早いけど」

 「我が男爵領の西南西に、男爵家があるのです・・・」

 私はロマンの歯切れの悪さに、何が言いたいのかよくわからなくなっていました。

 「うん、確かボリス・ズーレク男爵だったわよね?」

 「はい、そのズーレク男爵から書簡が参りまして・・・」

 相当言い難そうにしています。

 「なに?さっきから歯切れが悪いわね!どうしたっていうの?」

 「・・・信じられない事なのですが・・・」

 「早く話してくれる?明日は染色のテサシュ村に行きたいのよ。泥炭のコチーほどじゃないと思うけど、買い付けに来る商人の商談できる建物をどうするかを考えたいから、もう一度現地を色々見てみようと思うの。テサシュに商談の建物を確保できなければ、高くつくけどカイェターンに運んでそこで売るかしようと思うのね。だからその見極めをしに明日早くにテサシュに向かいたいの」

 私は苛々してつい、ロマンに捲し立ててしまいました。

 「はい、それは承知いたしました。明日は早くに出かけるということですね」

 「そうよ。だから早く要件を言って」

 「・・・わたしも半信半疑なのですが、ボリス・ズーレク男爵が婚約を申し入れてきたのです・・・」

 「・・・誰に?」

 私の動きが止まります。

 「・・・御屋形様にです・・・」

 ロマンが頷きながら、私を見返しました。

 「私に?」

 思わず、私は自分で自分を指さしていました。

 「はい」

 困惑したままの表情で、ロマンがもう一度頷きました。


リーディエへの婚約申し込みがこれから増えてきます。将来性が高い領地に、美人で知恵の回る女男爵の評価は男爵領周りでは高くなっています。ただ、中央は少々お頭の弱い老害の貴族たちがリーディエを囲い込みたい王の意向に逆らって、夜会の開催を遅らせています。リーディエにとっては中央の貴族は老害ではなく、好々爺と言うべき存在でしょうが、いかんせんリーディエとは方向性が違うのです・・・。

申し訳ありませんが、この話でストックが切れました。自転車操業になります。

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