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残念美人である貴族令嬢は婚姻を望んでいます  作者: 花朝 はた
第二章 残念美人の女男爵は婚姻を望んでいます
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残念美人は新たな特産品を開発する

リーディエの領地改革は、まず資金を得るところから始まりました。あと幾つか、リーディエは男爵領特産の品を作るつもりです。それで儲かれば、色々できるのですが・・・。

前回投稿のその5ですが、話が長くなり2つの話に途中で切って、その5とその6に分割しました。基本的には前のその5の内容ですが、読み直しをされる場合はその5からお読みください

 皆様、ごきげんよう。

 私、リーディエ・シュブルトヴァー男爵です。

 冬が本格的に来てしまいました。雪が空からどんどん落ちてきます。それでも私は精力的に動いて今は別の村に来ています。男爵領の北のはずれ、徒歩で一日歩けばストルナド侯爵家の領地という場所に在るコチー村に来ています。と言っても、今日でコチー村は離れますけれども・・・。本当にギリギリです。このままですと領都のカイェターンには雪でたどり着けなくなるかもしれません。そうなったら、屋敷ではなく途中の村で一冬過ごさなくてはならないかもしれないのです。それは領民にとって非常に困ったことになるでしょう。実のところ、村々には村人が一冬過ごせるしかない量の食料の備蓄があるだけなのです。そこに部外者が加わったら・・・。


 「さて、準備は終わりましたか?」

 ふわふわの雪が空から落ちてきています。降ってくる雪が地面を白く覆っていきます。

 「はい」

 護衛のガリナ・チェルヴェニャーコヴァーが、馬車の周囲をぐるりと見回ってから、服に積もりかけの雪を叩き落とすと馬車のドアを開けて乗り込みます。一瞬冷たい空気が馬車の中に吹き込み、私が震えます。するりと私の体をショールが覆いました。

 「御屋形様、温かくしてください。こんなところで風邪など召されましたら、長引きます」

 私の向かい側にはつい先日私の専属侍女となったダナ・ジェトコヴァーがブランケットを手に持って私の膝に掛けようとしています。

 ガリナはダナが私の膝にブランケットをかけるまで待って、馬車の前方の壁を叩きます。すぐに御者の応答があり、馬車が動き出します。ガラガラと揺れながら、馬車はまだ整備されていない道を進んでいきます。馬車の周りを4頭の馬が並んでいます。今回は御者も2名で、なるべく休憩なしで行けるところまで行こうと計画しています。様子を見て途中の村で泊まれれば泊まるつもりでいます。


 今回の旅は、もちろん村の備蓄に手を付けないように、馬車の屋根と、シートの下には食料を詰め込んで領都のカイェターンを出てきました。村では深刻そうな顔で宴会をしようかとかひそひそと話し合っていたのですが、私が無用と言うと、明らかにほっとした顔で残念ですと言っていました。

確かに領主ですから歓待したい気持ちはあるのでしょう。ですが、領の事情は分かっているつもりです。あ、今思ったんですけど、旅人など来たらどうするつもりなのでしょうか?少ない備蓄から食べ物を出すのでしょうか・・・。まさかと思うけど、その前に旅人は人知れず殺すかもしれないね・・・。食べ物、余裕無いよね・・・。一応遠回しに食料事情を聞いておこう・・・。怖いから・・・。いや、まさかね・・・。


 「ね、ねえ、村長さん?」

 「はい、何でしょう?」

 初老の村長が見返してきます。

 「食べ物の備蓄はどうなの?余裕はある?」

 私の質問に瞬きを繰り返した後、村長は笑顔で答えます。

 「ありがとうございます、お陰様で旅人が来ても二人程度なら一冬を養えるぐらいはあります。三人だと、人知れず埋めないといけないかもしれませんけどね、はっはっはっ・・・」

 はっはっはっじゃないでしょ!それは後々面倒を生むから、相談してよ!

 「そ、村長、それは・・・」

 「冗談です、冗談。旅人を埋めるなど出来ませんよ。即座に川を使ってお隣の領地に送ってあげて、食べ物を渡さないようにするとかですよ、出来るとしても」

 「わ、渡さないんだ・・・」

 「まあ、軽く食べる分ぐらいはあげるのもいいかとは思いますが」

 何か底光りする目を私に向けているけど。何か腹に持ってる?


 「村には宿屋などないよね?」

 「ありませんね。でも、御屋形様が何かお考えになっておられるのなら、これから必要になるのではありませんか?ただ、ここはさびれた村ですから、ここに宿を作ってもお客で満杯になるとは限らないと思いますが」

 「必要になりますかねえ」

 私のやることが当たれば必要になるかもねえ。

 「必要になるといいですね」

 村長、無責任な発言してますね。

 「誰も住んでいない建物はある?」

 私がちらちらと周囲を見渡して尋ねると、村長は私に向けていた視線を外し、一つの建物に目を向けます。何だか寂れてる建物だけど・・・。

 「・・・身寄りのない年寄りが去年亡くなった家はあります。村の墓地に埋葬をしたのですが、最近誰も居ないはずの家なのに、影が映るとか・・・。霊として家に残ってるかもしれません」

 声を低めるな!怖くなるでしょう!

 「・・・」

 私が息を呑むと、突然後ろから黒い影が村長の頭を叩きました。

 「いてっ!」

 びくりとして、その影を見ます。すると柔和に微笑むご年配の夫人が立っていました。その方がずぃっと前に出て来て、丁重に私に頭を下げます。

 「・・・御屋形様、申し訳ありません。うちの人、まったく若い女性にはこうやってふざけるところがあるんですよ。あの家には霊は出ませんからご安心ください。そしてあまり正直に反応しないでください、このおバカが喜んでしまいます」

 そ、村長の奥さんでしたか。ある意味女傑だなあ・・・。

 「・・・ソ、ソウデシタカ・・・」


 ちなみに私がなぜ北の村に来たかと言うと、この北の村とすぐ南にある村の間には大き目の湿地帯があるのです。その湿地帯が良質の泥炭を出すのではないかと思い、確認をしに来たのです。春になってから来ても良かったのですが、今は時間が惜しく、採算が立てられるかどうか早く知りたくなった私が雪で身動きが取れなくなる前に出かけてきたのです。さすがに男爵である私が騎乗して雪の中を突っ切ることはと相当反対され、行くなら馬車で行くようにと、馬車でないのであれば絶対許さないと大伯父様が言い出して、結局私が折れて、馬車で行くことにしました。騎乗なら往復4日ですが、馬車だと往復7日かかるでしょう。時間が惜しいのに・・・。


 私が睨んだとおり、北の村の近くの湿地帯には良質の泥炭が相当量あり、燃料化もできそうなため、私は安心しております。泥炭を掘り出して乾燥させて流通させることができれば、領内に行き渡らせることはもちろん、領外にも売れるだろうと目算しているのです。今までは薪を燃やして冬の暖を取っていましたが、泥炭を使えば、薪よりも効率よく家を温めることができ、家の中でも凍死するような事態は減ることでしょう。燃えにくい薪より、泥炭の方が燃えやすいので、燃料としては瞬く間に薪から泥炭に移ることになると思うのです。


 「で、では村長、春になったらまた来ますからね。それまでに、宿屋を建てる算段をします。最初は泥炭を新規で扱う商人を何名か、連れてくる予定ですが、その方々が泊まる場所を確保したいので、去年亡くなった身寄りのないお年寄りの家を一時的に借り上げられないかと考えているのですが、どうでしょうか」

 私が村長とその奥様を見ると、二人は揃って頭を下げます。

 「はい、身寄りは居ない爺さんだったので文句を言うのは居ないとも思いますけど」

 「・・・この村には記録などはないということですか?」

 私はしばし、顎を手に当てて考え込みます。

 「人の生き死にの記録はありますが、子供がどこに行ったとか誰が住み着いたかの記録はないですねえ。ですから誰がいたかどこに行ったかがうやむやになっているんですよ」

 「・・・税の取り残しとかがあれば、勿体ないですね」

 私の呟きに村長が耳を寄せてくる。

 「・・・何か言われました?御屋形様?」

 「・・・いえ、何でもないわ・・・」

 村長とその奥さんは顔を見合わせています・・・。私は税のとりっぱぐれがあったかもしれないことに衝撃を受けて、よたよたしています。


 降りしきる雪の中、馬車は道を進んでいきます。馬車の中はまだ暖かいのですが、馬車の御者と騎乗の護衛達は寒い中吹きさらしで進んでいることに私は罪悪感があります。ですので、私は心持ち回数多く休みたいと口に出しています。すぐに道の脇の茂みもないところに馬車が引き入れられ、かまどが用意されて、盛大に薪が燃やされて焚火が作られます。いつの間にかお茶が用意されると、護衛達も体を温めることができて、私はほっとします。護衛達や御者が疲れ切らないように、行く先の村には、往きに通ったときに帰るときにも泊まることができるように交渉が済んでいるので、村にたどり着ければ休むことができるでしょう。


 私はダナが差し掛けてくれている傘の下でお茶を飲みながら、泥炭を売るときの経費について考えています。雪は相変わらずふわふわと空から落ちてきています。

 まず、商人が来た時に泊まる宿が必要です。そして商人が交渉する場所。それに付随して食事ができる場所。酒場などがあるとよいかもしれません。

 最後にこれが一番重要です。この取引には税を掛けます。どうしてかというと、この泥炭事業は男爵家の専売事業として行いたいからです。シュブルト男爵印の泥炭。粗悪品のない品質。どうですか?買いたくなるでしょう?つまりこの泥炭事業はシュブルト男爵家の名を上げることにも使いたいのです。領内に湿地帯を持つ貴族が他にも行うかもしれませんが、様様な者が手掛けないようにして不当に泥炭の値段を吊り上げようとする者が出ないようにしたいのです。


 「・・・そのためには、村と湿地帯を護る護衛が必要なのよね・・・。男爵家で守備隊を作ろうか・・・。いえ、待って・・・。父様に片棒を担がせて守備隊を編成してもらうと言う手もありよね・・・」

 私がぶつぶつ言っていると、遠慮がちにガリナが声をかけてきました。

 「・・・御屋形様?そろそろ出発いたしませんと、日暮れまでにマーハの村に着けませんが・・・」

 「あ、そうね、行きましょう、片付けてもらえる?」

 思考を中断されて、私が立ち上がります。そのまま馬車へと歩く間もダナは私に傘をさしかけています。茶器はいつの間にか仕舞われていて、かまどの薪もほぼ燃えさし程度が残っているだけでした。

お付きの者の手際の良さに、妙に感心する私です。


 こうして吹雪いてきて、前が良く見えないままでカイェターンに戻ってきた私でしたが、天候が荒れだすのが、あと少しで領都に着くと言う到着1日前からだったのが運が良いことです。

 強い風が吹き出し、黒く低い雲が垂れこめだすと、御者が俄かに馬車を急がせ始めました。崩れ出す中を4頭立ての馬車は道に積もった雪をかき分けるように走り、前が見えなくなる直前に屋敷に着くことができました。


 私は馬車から降りると、辛抱強く玄関前で待っていた執事のロマンへと近づきます。私のすぐ後に馬車から降りたダナと、私のために先に馬車から降りて、手を差し出してくれたガリナを連れています。

 「ロマン、今戻ったわ」

 「御屋形様、おかえりなさいませ」

 「留守中何かあった?」

 「・・・御屋形様のご実家から、侍女が一人やってきました」

 「あら、そう・・・」

 「ですが、その者ですが、化粧法を我が男爵家の然るべき者に教えた後、春はプシダル国の実家に、侍女を辞めて戻ることになっているということです」

 「長くやってくれないということですか」

 「はい」

 「・・・誰かに技を教えてもらって、春になったら実家に向かってもらうことにしましょう」

 「・・・かしこまりました」


 私は玄関のドアを開けてくれたロマンに声を掛けながら、ドアを抜けます。

 丁度、ホールに出てきた影があります。

 「リ、リーディエ、今戻ったか!」

 「はい、大伯父様」

 年をとっても美しいお顔の大伯父様です。

 「・・・どうだった?泥炭は売り物になりそうか?」

 「はい、あれならシュブルト男爵領の泥炭として売り出しても問題はないと思います」

 「男爵家のお墨付きをつけるということか?」

 「はい、値崩れを起こさないようにしたのです。そのために男爵家の紋章をつけるつもりです」

 私はそう話してから、ロマンに向けて指示します。

 「泥炭に男爵家の紋章をつけて専売品として販売します。男爵家の紋章を紙に付け、一つの品に必ず品質保証の紙をつけて販売します。この泥炭はシュブルト男爵家が責任をもって検査をしていると謳うのよ。だからシュブルト男爵家の紋章が付いた品質保証の紙がない文句は認めないつもりだから」



あと1回領地でのお見合いをするリーディエを書きます。そのあと、春が来て複雑な気持ちで夜会に出席することになります。

前回投稿のその5ですが、話が長くなり2つの話に途中で切って、その5とその6に分割しました。基本的には前のその5の内容ですが、世見直しをされる場合はその5からお読みください

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