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残念美人である貴族令嬢は婚姻を望んでいます  作者: 花朝 はた
第二章 残念美人の女男爵は婚姻を望んでいます
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残念美人は特産品開発に邁進する

ついにリーディエが領地の改革に着手しようとしています。さらには婿殿のお見合い相手も来て・・・。リーディエの周りは俄かに騒がしくなりそうです

 皆様、ごきげんよう。

 私、リーディエ・シュブルトヴァー男爵です。

 今私はシュブルト男爵領の一つの村に来ています。これからこの村テサシュは発展をし、シュブルト男爵領の手工業の中心地の一つになるはずなのです。


 雪がちらちら舞い始めましたが、それはさほど苦になりません。私は村の外れに立ち、一本の木を見ています。枝に直角に細長い葉を左右二列に張り、秋には赤い実を生らせる木。確かクネニとかオンコとか言われている木で、この木を木っ端にしてから煮出しをしてもらっています。

 「御屋形様?」

 村長がちらと私を見ています。

 「なにか?」

 私が返答すれば、口ごもった村長が、口を閉じ黙り込みます。

 私が見続けていると、やがて観念したのか、口を開きました。

 「本当にこの木が染色に使えると言うのですか?私どもは、秋に生った赤い実を食べることしかしてきませんでしたが」

 「使えます」

 王立ハルディナ学院で学んだことの一つですが、この木は煮て赤い色を出します。それに糸を漬け込んで赤い糸を作ろうと思っているのです。実のところ、今までは毒々しい赤色でしか染めることができませんでした。そして私はその赤色が好きではありませんでした。ですが、この赤い色は淡い発色をしてくれるため、私はこの赤を気に入り、いつか販売したいと思いました。プシダル国では毒々しい赤色の方が好まれたため、売れる商品にはならなかったそうですが、ベェハル国ではシュブルト男爵領特産と銘打って売り出せたらと思っているのです。

 「で、でも、これまでにそのような染色に使える木だなどと考えても居ませんでしたが」

 「別に、木っ端が染色に使おうとは普通は考えないことはわかるのだけれど・・・。それで、村長はどうお考え?私が提案した内容について。このまま染色を中心に考えてくれる?」


 「御屋形様、本当に2年間は税を安くして戴けるのですか?」

 「なに?疑っているのかしら?このテサシュ村は我が男爵領の東、山林に面していて、木材加工が中心と聞いています。希少価値の高い木を少量切り出して加工していると聞いたのだけれど、それではあまり儲けはないと思います。木を大量に切り倒して加工をすればと思ったのですけど、ええっと、ボックスウッドと言う木でしたか、それは一つの木から大量には取り出せないということなのですよね?そう言うこともあって、大々的に売り出したいけど、そうもできないということなのですよね?」

 私がそうメモを見ながら話すと、村長は話している間中青くなったり赤くなったりを繰り返しています。

 「・・・た、確かにお、おっしゃる通りでございます・・・」

 「それで、何を迷っていらっしゃるの?村を挙げて違う業種に挑戦できるように、敷居を低くする意図をもって税を2年間は今の半分にすると提案をしましたのですよ?」

 私はメモをしまい込みながら、努めてゆっくりと柔らかい口調を心がけて村長に話しかけています。

 「・・・」

 村長は晴れ晴れとした表情とはかけ離れた様子です。まだ迷っているようです。

 「村長?ひょっとして違う業種に転換するのが怖いのですか?」

 私の言葉にびくっとする村長さんです。やっぱりね、それは確かに思いきることができないでしょうね。領主の口添えがあったとしても、確実に染物が売れるとは限りませんからね。いいでしょう、私は譲歩します、することにします。


 「別に今ここで決断しろと言うつもりはありません。確かに業種を変えるのは厳しいと思っているのかもしれません。でもこの村は細々とですが木の加工品を作って、シュブルト男爵領に貢献してきていただいています。ですが、この村が他にも強みを持ってもっと暮らし向きが良くなるように私はしたいと思っています。こんなに染物に使える木が生えている森があるのですから、もっとこの森を利用しようではありませんか」

 「・・・」

 「・・・今日は染物ができるまでの工程を見てもらうだけでいいですから、じっくり考えてください。何度でも試したいと言うなら、試してもらって結論して下さればいいのですよ。

 でもそんなに長くは待てません。こちらではやれないと言うのなら、他にお話をしないといけませんから」

 「・・・」

 ですが、私は最後にちょっと対抗馬があることを匂わせます。候補はこの村だけではないのです。他にも東の山地に面した村があって、そこは大量の木を伐り出すことを計画している村なのです。村長が代替わりして、産業にも変革をと考えているのです。この村がやらないと言うのであれば、負担が増しますがその村にお願いをすることになるでしょう。私としては、この村もそうですが男爵領の村々には何か一つ儲かる仕組みを作りたいのです。そして男爵領の人口が増えて欲しいのです。


 こうして私は陽が傾くまでテサシュ村で過ごし、染物がちゃんと発色したかを確認して、興味が湧いてきている村人の質問に答えたりしました。村長は村人の興味のある表情を黙って見つめていましたが、染め上がった糸を間近でじっくりと見て、やがて何度か頷いています。多分あの感じだと、このテサシュ村は私の言うことを聞いて、染物をしてくれるだろうと思います。そして、この村は赤だけではなく、他の色も染める染色の村として名を知られることになると私は思っています。


 私は馬にまたがり、護衛のベドジフ・バーチャとガリナ・チェルヴェニャーコヴァーと共に男爵家領都カイェターンを目指して戻ります。一応陽が暮れれば安全が保たれないため、夜が来る前に人家のあるところに居たいのです。今の陽の傾き具合では、ギリギリ陽が暮れきる前に屋敷に戻れるかどうかと言うところです。


 私はラドミラの時に騎乗の訓練をしました。どうしてかと言うと、私の育ったカシュパーレク家は四代前まで辺境伯を拝命しており、武の家でした。そのため、辺境伯ではなくなっても最低限のカシュパーレク家の者のたしなみとして騎乗の訓練をしたのです。またこれは男爵領の領民には伝えていませんが、辺境伯時代の名残で剣術も一通り学んでいますので、護衛が離れたとしても少しの間は身を護れるでしょう。ですが、慢心はしません。私の剣は、所詮付け焼刃です。短時間なら自分の身も護れるでしょうが、長時間や他人を護って戦うなどは到底無理です。すぐ討たれるでしょう。今武装はしていますが、陽が暮れると危険が増すので、騎乗は最低限の安全のために必要不可欠な事なのです。


 男爵なんだから馬車で行けばいいだろうと言われるのですか?あなた、よく物事を知りませんね?馬車の方が騎乗よりも遅いのですよ。騎乗なら一日で往復できるところも、馬車だと一日半かかるのですよ。下手をすると二日かかる場合もあるのです。少なくともこの世界ではそれだけかかります。ですから急ぐときは騎乗で行くのが、貴族の鉄則です。ああ、まあ、予定を立てて大人数で移動すれば馬車で行けないわけではありませんが、ちょっと予算の関係で・・・。まあ、シュブルト男爵家は裕福な領地を持っているので、かつかつの生活ではありませんが、無駄な予算は使いたくはありません。それもこれも、皆領内の村に投資をしようとしているからなのです。予算が潤沢なら投資をする規模を大きくできます。わかりましたか?私がどうして騎乗して速さを重視しているのか。


 そろそろお尻が痛くなるころ、私達はカイェターンに着きました。両側に店の並んだ通りを馬の速度を並足に落として走らせると、私の姿を見かけた領民たちが声をかけてきます。私はその都度笑顔で手を振り答えます。お尻が痛くても領民が挨拶してくれる以上、顔を顰めたりはできません。笑顔で答える!これが大事なのです。どこからか、私に気が付いた子供たちが後を追って走ってきます。

 「こら!危ないから走るのはダメよ!転んで怪我したらどうするの!」

 私がそう声をかけると、子供たちは笑顔で返事をして走るのはやめてくれました。

 「はーい!」

 振り返って子供たちに話します。

 「今度、町に行くからまたその時に遊びましょうね!」

 「はーい!」

 私は振り返って、手を振ります。それを見た子供たちが手を振り返してくれました。いつ見ても子供たちは可愛くていいものです。え?私ですか?私はもう19になりますから、大人ですよ。16の時にデビュタントで、あのぼんくらお坊ちゃんにエスコートされてパーティに出ましたし。デビュタントを終えた者は大人扱いされるのです。ちなみにその時にはあのぼんくら坊ちゃんは私をエスコートしたのです。私はその時初めて肩の出るドレスを着たのです。そして気が付かなかったのですが、二の腕のところがちょうど数日前にぼんくら坊ちゃんに殴られて痣になっていて、それが長いオペラ・グローブでも隠せていなかったようです。それを目に留めたペリーシェク公爵夫人がみるみる不機嫌になり、あれはたぶん家に帰ってから折檻されたのではないでしょうか、次の日、学院で見たぼんくら坊ちゃんの右の頬が手形で腫れていて・・・。その日以降、私はぼんくら坊ちゃんからの殴ったり蹴られたりと言う暴力は無くなりました。


 あの後、公爵夫人に呼び出された私は、懐柔されるかのように公爵邸でデビュタントのお祝いをしていなかったからと身体の寸法を測られ、ドレスを夫人から贈られました。その時に、公爵夫人は私に向けて、『あなたはノルベルト様の大事な血を受け継ぐ娘です。決してないがしろにしませんから安心して嫁いできて』と、そう言われました。もしあなたがそう言われたとしたら、どうしますか?


 私が屋敷の門から中に入ると、見慣れない馬車が止まっていることに気が付きました。

 「・・・誰のかしらね?」

 私はそのまま、厩にまで乗ったまま移動し、馬から降りました。駆け寄ってきた馬丁に手綱を渡し、馬の世話をお願いして、屋敷にと向かいます。同じように護衛のベドジフ・バーチャとガリナ・チェルヴェニャーコヴァーも手綱を馬丁に渡して、私の後ろに付き従います。不安な気分に私は思わず腰の剣に手をやって鞘を握りしめます。この剣は、細身の女性用の特注の剣で、私が学院に入学したときに伯父二人が連名で作って送ってきたものです。名工が作ったものらしく、バランスが良く扱いやすいのですが、決してお飾りのものではなく実戦でも使える剣です。

 玄関を開ける前に執事のロマンがドアのところに立っていることに気が付きます。

 「・・・おかえりなさいませ、御屋形様」

 近づくとロマンが一礼をしました。

 「・・・ただいま」

 私が足を止めて答えると、ロマンがちらりと私の手の位置を見ました。

 「実は、前御屋形様をご訪問された方がいまして、その方が御屋形様にも会いたいと仰られています。お会いくださいますか?」

 ロマンは私が警戒していることに気が付きながらも、それについて何も言うことはなく、相変わらず淡々と話しています。名前を言わなかったけど、大伯父様が紹介するつもりの方なのかもね、婿取りの方。

 「・・・会いたいと言われているのね?」

 ロマンが頷きます。

 「はい」

 「会いましょう。このままでよいよね?」

 ロマンは私の言葉に一瞬批判めいた表情を見せましたが、それを消し、頷きました。

 「・・・よろしいかと存じます」

 ロマンが玄関のドアを開け、私は中に入ります。

 そのまま先に立ってホールを通り抜け、応接室へと私を案内しました。


 応接室には、大伯父様が黙って椅子に座り、お茶を飲んでいます。その大伯父様の向かい側に一人の男性が座っており、ドアを開けて入ってきた私にちらりと目を向けました。ですがすぐに目をそらし、また手に持ったお茶に目を落としました。

 「ラ、い、いや、リーディエ、戻ったか」

 椅子から立ち上がるときに私の名を間違えそうになった大伯父様にジト目で対抗しながら、大伯父様の後ろへと進み、斜め後ろに立ちます。

 「はい、今戻りました」

 大伯父様が視線を男性に向けました。ぎこちなく口を開きます。

 「・・・ちょうどいい、こちらを紹介しようか。・・・こちらはわしの知人のストルナド侯爵家のご子息でな、レオポルト殿だ。レオポルト殿、こちらがわしの娘で、男爵であるリーディエだ」

 ちょうど立ち上がった男性に胸に手を当て、私が一礼します。ドレス姿ではないので、スカートの裾を持ち上げる挨拶はしません。

 顔を上げると同時に私の耳に低い心地良く響く声がします。

 「ああ、あなたがあのリーディエ・シュブルトヴァー男爵でしたか。私は、この男爵領の北にあるストルナド侯爵家次男、レオポルト・ストルナドと申します。男爵家のご領地について色々お教えくださいますか。ご教授いただけるなら有難いと思っております」

 私は顔を上げた目の前の方をじっくりと観察します。髪の色はちょっとくすんだ感じの金色で、縮れた感じに額に垂れています。碧の瞳が柔和な感じで少しだけ垂れています。鼻梁は高く、私と同じぐらいの白い肌をしておられます。背は私の頭を優に超えて見上げると首が痛くなりそうです。

 案外全体的に整った容姿ですが、ちょっと言うに事欠いて、はなから領地の事を教えろとは私に対して挑戦的すぎませんかねえ。私がこの方を伴侶として選ぶとは限らないのに、もう婿気取りなのでしょうか・・・。

 




リーディエのお見合い相手の最初の一人です。最初の言動がちょっと間違った婿候補です。ですが、リーディエは我慢してしばらくお付き合いをするつもりです。大伯父様には恩義を感じていますから。リーディエは真面目なのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短篇も面白かったけど長編は話が膨らんでいてなお良い [一言] 合わない相手に我慢するとボンクラ坊っちゃんみたいに蛇蝎の如く嫌うんじゃ? まあ初手を誤っただけの人かもしれないけど
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