7 変化
「先生おはようございます」
と一川が朝のホームルームの後に教卓まで来て言った。
昨日は浮気調査で一川の砂時計を探す時間がほとんどなかった。
「おはよう」と僕も返した。
「昨日は大事な調査なのに、ついていってしまってすいませんでした」
「いやいいんだよ。吉野が無理矢理連れてきたところもあるし」
「先生。今日は砂時計の調査はしますか」
「するつもりだよ。今日は協力者のところへ行こうと思ってる」
「協力者ですか。どんな方なんでしょう」
「鼻が効く、優秀な協力者だよ」
「鼻が効くって犬ですか」
「犬じゃないよ」
前よりも一川の笑顔を見れる回数が増えてきたような気がする。ニコッと笑うと可愛らしい。
「今日、私も調査について行ってもよろしいですか」
「一川も来るのか」
「行きたいです。先生にだけ探させるわけにもいきませんから」
「よし、わかった。学校終わったら教室で待ってて。一緒に協力者のところに行こう」
一川はコクンと頷き、席へ戻った。
2時間目に僕のクラスの数学があった。
1ヶ月くらい経つとどの生徒が数学が得意なのかわかってくる。
一川はとても得意な方だった。
数学だけでなく他の教科の先生からも、一川は勉強ができるという話を何度も聞いた。
そういうところもユウカに似ていた。
ユウカに将来何の仕事に就きたいか聞いたことがあった。
彼女は、学校の先生になりたいと言っていた。小学校か中学校の。
なぜか聞くと、寂しい思いをしている子に少しでも寄り添って、支えになりたいと言っていた。
高校生になると人は身体も性格も決まってくる。
だから、遅い。
小学生や中学生の間に救ってあげないと手遅れになってしまうと。
それを聞いた僕は、もうユウカを救うことができないと言われているように感じた。
しかし、僕は高校生でも大人でも変わることはできると思った。
ただ小学生や中学生と比べると変わるスピードが遅なるというだけだ。
ゆっくりでも変われるなら僕は諦めたくなかった。
ユウカのことも諦めなかったし、一川のことも諦めるつもりはない。
一川は必ず救う。
授業が終わり、教室を出ると廊下で棟方校長に声をかけられた。
「工藤くん。担任頑張ってるみたいだね」
「はい。校長。楽しくやらせていただいています」
「よろしい。悩みを抱えている生徒はいなそうかい」
相変わらず校長は笑顔だ。
「高校生ですので、悩みを抱えている生徒は沢山います。相談してくれる子もいれば、抱え込んでしまっている時もあると思います」
「そうだな。しかし、私は君の体が心配だよ。学校では生徒、帰ったら町の人たちのために探偵活動だろ。何かあったら私のことも頼ってくれていいからね」
「ありがとうございます」
「教員の相談を聞くのが校長の役割でもあるからな」
僕は「はい」と言って職員室に戻った。
校長は教員時代、とても良い先生だったに違いないと思った。