01 薔薇王女の生まれ変わり
非常に遅れて、申し訳ありませんでした。
実はPCの調子が悪く、インターネットにつなげられなくて、1ヶ月近く放置しておりました……!
すみません!
これからは大丈夫だと思いますので、どうぞ見捨てずにお付き合いよろしくお願いします><
たとえば突然目の前に、いかにもって感じな扉が現れて。
好奇心に背中を押され、それを開けてしまったなら自業自得。
たとえば突然目の前を、しゃべる白いうさぎが横切って。
またまた好奇心に追いかけて、穴に堕ちてしまったなら自業自得ね。
でもね。
前兆なしに、忠告なしに、異世界へと放り出されてしまったなら。勝手に存在を騙られてしまったなら。
怒って暴れて、全部壊してやるしかないじゃない?
だって、わたしは薔薇王女の生まれ変わりなんかじゃない。
◇
「だーかーらー! 何度も違うって言ってるでしょ、わたし薔薇王女なんて知らないの!」
響き渡るソプラノは、紛れもなくわたしの怒声。
でも、どんなに大きい声を出しても怯まない。周囲の人たちはみんな無表情。
「そう言われましても、その紅い瞳は薔薇王女のものに他なりません」
その中の一人が、淡々とした口調でそう告げる。
一体全体、ふざけてるわ。誰がそんなの信じるかしら。
そもそも、薔薇王女って何のこと? あの時出逢った『自称薔薇王女』の少女なら、とっくのとうに見失ってるわよ。
わたしは平和を愛するただの女子高生。そんなメルヘン関係ない。
ねえ、誰か教えてよ。
一体、こんなふざけた場所に連れてきたのは誰? わたしは、誰を責めればいいのよ?
―――事の起こりは、3日前だった。
一人のんびり下校中。いつもと同じ道を通り、いつもと同じ空を見上げ、いつもと同じ科白を口に。
なのに誰かさんの落とし物を拾った瞬間、世界が変わってしまったわ。
不思議な銀髪紅瞳の少女が現れて、わたしの平穏を奪っていって。
黒い翼を持った変な集団が現れて、わたしの世界を奪っていったの。
つまりわたしは、リアル三次元で見も知らぬ異世界に放り出されたってこと。
こんなふざけた物語を考えたのは誰?
薔薇王女の生まれ変わりなんて、ふざけたことを最初に言ったのは誰だったかしら。
突然変異だか何だかで、黒から紅へと退化してしまったわたしの瞳。
それを見た不思議な少女が。それを見た黒い翼の集団が、『薔薇王女の生まれ変わり』とわたしに変な称号を与えてくれたの。
何て皮肉なの。
これ以上ふざけた話はわたし、聞いたことがないわ。
「いい加減にしてよね!」
わたしは叫ぶ。
自身の平穏のために、わたしは薔薇王女なんて可愛らしいものじゃないと示すために。
けれど黒い翼を持った怪しい誘拐犯たちは、頑として譲らない。
「だから知らないんだってば! 瞳が紅い女子高生なんて、二次元探せば何処にでもいるわよ! ゲームやアニメでも見て、一人ひとりに『貴女は薔薇王女の生まれ変わりです』とでも言えばいいんじゃないの!?」
「怒りを鎮めて下さいませ、薔薇王女。混乱するのも分かりますが」
「うるっさいわね! わたしは薔薇王女なんかじゃないってば! 早く帰して、学校だってこれ以上休めないのよ!」
叩きつけるように言葉をぶつける。
哀しみと怒りが混ざったような、複雑な気持ちを全て吐き出すようにして。
でもやっぱり無表情の人々は、機械のように同じ言葉を繰り返すだけ。
「貴女は紛れもなく、薔薇王女です」
だからその理由を聞いているのに。
わたしは思わずため息を漏らす。
紅い目とか、そんなの理由じゃないじゃない。
ただのこじつけに過ぎないでしょう? はっきり言って、迷惑なの。
「――王女様。今はどうか、話を聞いて下さい。貴女が納得して下さるまで、私たちは、何度でも説明致します」
そう言ったのは何回目?
どうせ曖昧に濁して、教えてくれないのに。
わたしはぐっと下唇を噛み、俯いた。
何故か涙が零れそうになる。
「説明なんか、要らないわよ……」
自分で自分の声が震えてることに驚いた。
そんなつもりはなかったのに、ぎゅっと握った手も震える。
「帰してよ! あなたたちみたいな怪しい人の言葉なんか、聞きたくない!」
思わず叫んだ。
周囲の人たちが、一歩後ずさる。
さっきまで何を言っても無表情だった人たちが、恐怖に顔を歪めて、困惑の表情でわたしを見つめながら。
――傷付けたのかしら?
でも、そんなことを気にしている余裕は、今のわたしにはなかった。
「王女、様……」
「王女なんて呼ばないで! 人違いよ!」
縋るように差し出された手を、わたしはぱしんと跳ね除ける。
一層恐怖と哀しみに歪む、周囲に並んだ顔。
黒い翼の陰になっているからなのか、暗く沈む表情に映ったそれは、絶望とでも呼べばいいの?
「わたしは薔薇王女なんかじゃないわ! あなたたちなんて、知らない!」
止めを刺すかのように、わたしは叫ぶ。
きっぱりと断言すれば、黒い翼を持った誘拐犯たちは、うっと悲しそうに俯いた。
でも知らないわ。わたしの平穏を奪った人たちに、情けをかける必要なんかない。わたしはそう思った。
「でも、王女様……、貴女は……」
それでも彼らは、わたしに何かを伝えようとする。
それはそんなに、重要なことなの?
わたしは思わず尋ねそうになる。
――え、でも待ってよわたし。
それを聞いてしまえば、わたしは彼らを許したことになるのかしら?
そんなの無理。絶対に許せない。わたしは彼の言葉を遮るように、首を振った。
「聞けないわ、あなたたちの言葉なんて。――帰してくれないのなら」
半ば自分に言い聞かせるかのように、首を振る。
悲しそうに歪む彼らの顔は、見ないようにして。
「……分かり、ました……」
誘拐犯の集団の、一人がぽつりと呟く。
え、と思わず漏らして、わたしは顔を上げて彼を見た。
安堵と希望が、胸に広がる。
でも――見上げた彼の表情に、見えたものは。
「それならば、仕方ありません。力尽くでも、信じさせるしかありませんね」
――へ、今、何て……?
わたしは思わず、自分の耳を疑った。
力尽く、って言った?
確認するように瞬きすると、彼はその翼と同じくらい黒く笑った。
「私の使命は、貴女に自分の立場を自覚させ、王子と結婚させること。それ以上もそれ以下も、ありませんから」
彼はわたしの肩に手を置くと、ぞっとするほど低い声で、優しくそう言った。
――え、嘘。嘘でしょわたしの空耳でしょ?
そう信じたいけれど、彼が言ったことはきっと本当。
王子とか何とか、それはよく分かんなかったけれど。
あの目は、本気だった。
「え、ちょ、ちょっと―――」
わたしの言葉も聞かずに彼は、今日はこれで、とお辞儀をする。
そして扉の方へとすたすたと歩いていった。
でもわたしははいそうですかなんて聞いてられない。反論しなきゃ。帰してもらわなきゃ、無事でいられるうちにっ!
「帰してって、言ってるでしょーっ!」
そんな願いも虚しく。
分厚い扉の向こうには、わたしの叫びは届かなかった――。