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わたるせけんはおにばかり



夏。


ジリジリと照りつける太陽。

日はまだまだ落ちる気配がなく、セミはやかましく騒いでいる。

なにもしなくても吹き出る汗が、俺の渇きを加速させ、学生の財布のなけなしの小銭を減らさせる。


「…………あぁぁちぃぃぃぃ……」


とろけるような声を出しながら自動販売機のボタンをおす。

夏はひどい。俺に優しくない。早く秋になれ。……いやむしろ秋が来い。


帰宅部の俺は、この灼熱地獄をふらふら歩く。向かう先はいつもの公園。その、ベンチ。唯一の木陰。

「…っつぁぁー…!」

どっかりとベンチに座る。木陰最高。まじオアシス。このサンクチュアリは誰にも譲らねえ。

「………ッぷはぁぁあ……!!」

買ったコーラを喉に流し込む。全身が震える。やっぱコーラ最高。考えた人本当天才。いつになったら蛇口捻ればコーラがでるようになるんだ?

 

 


公園では子供が元気に遊んでいた。そして俺はそれをベンチから尊敬の眼差しでみていた。

「はぁ…すごいなー子供は、無邪気で、全力で。……暑くないのかな……。」


涼しい風が俺の全身を通りすぎる。気持ちいい。

心地よいそよ風に、俺が眠りに落ちるまで時間はかからなかった。



 それは夢だとわかっていた。


横から吹く強い風に流される水滴が、冷たい空気と共に俺のからだにぶち当たる。嵐。視界が悪い。空は雷雲がひしめき、至るところで雷が落ちる。俺は崖の上にいる。眼下に広がるのは海。波はひどく荒れ、崖に打ち付ける。

……そして俺は見ている。

遠く、遠く水平線近くにいるその大きな何かを。

遠くにいるのに俺はそれを見上げている。

どこまでもどこまでも高くあるそのてっぺんは確認できない。

人なのか物なのか、漠然とそれをみている。


『         』


次第に俺の鼓動は早くなり息が切れる。

胸が苦しくなり脂汗が滲む。


 そして意識は遠くなり、目を覚ました。



「……っあぁ!、…はぁ、はぁ、またこの夢か…」


全身から汗が流れ、ベタベタだ。猫を埋めた時から見るようになったこの夢、もう何度目だ?一回病院いこっかな。精神科かな。やだな。


「…はぁ、なんか疲れたな」


買ったコーラの汗は渇き、木陰はベンチを守るのを止め、その影は長く長く伸びている。やっと日は落ち始め、辺りに優しい空気をふりまく。

……それでもあついけど。

公園で遊んでいた子供はもういない、そんな時間。



「そろそろ帰るか…」


 立ち上がると目の前に鳥居があった。


「………。」


………え?………


…………公園………。


………………ほぇ?


気の抜けた声がでた。いや、出てない。どっちでもいい。



急に辺りは暗くなり、月明かりがまわりを照らす。さっきまで騒がしかったセミの音がピタリと止み、静寂が包む。


「…ふぅ、まあ、落ち着け…落ち着け…俺は公園にいて、ベンチで寝てて、帰ろうとしたら、ここにいると…………ほぇ?」


気の抜けた声がでた。今度は出た。間違いなく。


異様な現象に俺は全身からまた嫌な汗がにじむのを感じた。


かなり大きい鳥居だ。両脇に灯籠が並び、長い階段がある。上は高くてどうなっているかわからない。

 後ろを振り返る。闇だ。なにも見えない。進むと飲み込まれるような嫌な胸騒ぎがする。


「え……なんなんだよこれ…。」


一旦俺は階段を登ることにした。それは不思議と、なにかに導かれるようだった。


「…………ほぇー…」


階段を上ると神社があり、思わず感嘆の息がもれる。なかなかに赴きを感じる。いや、そもそもこの異様な現象に赴きもくそもないけど。

拝殿までの距離はあり、その途中に人がいる。箒を使い、地面を掃いている。

「……子供?」

金髪で背丈は低い。巫女の服を着ているがこちらに背を向けておりよくわからない。

風はないはずなのに、なんだか寒気がする。


子供がこちらをみた。

「あ…。」

 俺が声をかけようとした瞬間、


ッドォォォォォン


「うわっ?!」

うしろになにかが落ちてきた。

……足?

おそるおそる視線を上にたどらせる。

真っ赤な足…大きな体…角…………鬼?!?!?

二階建ての家くらいの大きさはあるぞ!?かなりでかい金棒をもってるし!まさに鬼に金棒じゃん…いやいやいやいや!?


鬼は容赦なく金棒を振り上げた。


「おいおいおいおい!?」


まてまてまてまて!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!


とっさにうずくまって目をつぶった。


「…」


死んだ?


いや。生きてる。




生きてる?



おそるおそる目を開ける。



「へぇ~珍しい、鬼だわ、鬼笑」


……なんか受け止めてる。

あのでかい金棒を。

遠くで箒持ってたあの子が。

箒で。

………箒で?



「まあ、敵じゃないけど笑」


まばたきしたら鬼の首が飛んでた。血渋きが俺にかかる。なにがなんだかわからない。でも、気づいたら鬼の首が飛んでた。………なんだこれ。


「あんた人間ね、変な感じするけどまあいいわ。私といっしょに、きてもらうわ!」

「…え?」

そう言うと、金髪ロリ幼女がいきなり腕をつかんだ。

………可愛い。近くで見るとすげぇかわいいんすけど…あれ、俺ロリコンじゃないはずなんだけdッ

ブオン

「ぇええええええええ?!」

景色がぐらりとまわり、投げられたことに気付く。きれいな背負い投げをくらった俺は横に真っ直ぐ、拝殿に飛んでいく。浮遊感がやばい!ぶつかる!ぶつかる!!!!


シャーッ


 開くのかよッ!!


そして吸い込まれた。


「さてと、今回はうまく行くといいけど!」


遠くでなにかしゃべってるロリ幼女はどこか嬉々としてなかにはいっていった。




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