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生きたくない彼女の未来を、憎む私は望まない  作者: 菜央実


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第四十四話 願いの向こうにあるもの (1)

昨日は慌ただしくてすいません。


本日もブックマーク頂きました。ありがとうございます!

そして、感想頂きました。ありがとうございます!

更に、ポイント評価も頂きました。ありがとうございます!


連載開始時には、正直、これほど読んでもらえると思わなかったので本当にありがたいです。

物語はいよいよクライマックスとなっていきますが、お付き合いの程宜しくお願いします。

と、いうことで二話更新です。

 日が沈み辺りが宵闇に包まれる頃、足を向けたのはこの街にある神社だった。街の規模に似つかわしくない大きな神社は何か謂れがあるらしく、この一帯では有名な場所で、毎年行われる納涼花火大会は回を重ねる毎に大規模になっている。花火までまだ時間はあるものの、祭りは既に佳境に差し掛かっていて、神社までの道路は歩行者天国となっており、歩くのもままならないほどの人混みに溢れ返っていた。


『神社の本殿前が待ち合わせね』


 そう告げられただけで、具体的な時間は知らされていない。麗の都合もあるだろうし、私が知ってしまったなら、反射的に身構えてしまうと分かっているからだろう。折角祭りに来たのだからと、道路の両脇に並んでいる屋台を冷やかしつつ、のんびりと歩き進める。人混みは苦手だったが、花火を見るのは昔から好きだった私の嗜好を知っている麗らしい配慮にくすりと笑った。


 少し先に神社が見えてきて、身体を僅かに緊張が走る。立ち止まった私をどこかで麗が見ているはずだ。このまま先に進むのか、引き返すのか、そう決断を委ねられている気がした。

ふと、真横にある屋台がりんご飴を売っているのを見て、甘い物が好きな夕貴を思い出した。会えないままの彼女の代わりに、私の傍にいてほしくて屋台に近づくと、緑色の飴を買った。一口齧って甘い飴と酸味の強い林檎を味わう。故郷なんてないのに懐かしさを感じてしまうのは何故だろう。


 鳥居まであと数メートルとなったとき、急に辺りが暗くなり、吊るされた灯籠の赤い僅かな灯りだけが残る。それを合図に、私の背後で大きな音と一瞬の光が空に彩られた。どうやら花火が始まったらしい。立ち止まった足を動かして、再び神社に向かう。大部分の人が花火をより良い場所で見ようと、神社から道路に向かって歩いているため、奥に進む私にはますます動き難くなっていた。道行く人にぶつからないように、手に持った飴を落とさないように、気をつけながら神社を目指す。


「セイ」


「!」


 ざわめく人混みと打ち上げられる花火の音に混じって、私を呼ぶ声が小さく聞こえた様に思えて立ち止まった。


「セイ!」


「……夕貴?」


 幻聴ではなく、ずっと会いたかった彼女の声に思わず振り向くも、人が多過ぎてどこにいるのか分からない。夕貴も私を探しているのか呼ぶ声は不安が混じっていた。



夕貴に会いたい…………!!


ただ純粋にそう思った。


「夕貴!」


 見えない彼女に向かって声を上げるが、暗い人混みの中に夕貴は見つからない。何度も振り返り夕貴を呼ぶ私に、流れる人波が何度もぶつかり、その度に謝罪や舌打ちが聞こえてくる。仕方なく通行の邪魔にならないように鳥居の脇に移動すると、花火の明かりを頼りに夕貴を探す。


「夕貴!」


今さら彼女に会ってどうするのだろう。


「夕貴!」


考えなんてまとまらない。それでも……


「セイ!」


「夕貴! どこ?」


夕貴の名前を呼ぶ度に、彼女を求めている自分がいて──



ドォン!!



一際大きな爆音と、光が鳴り響く。辺りが赤や青で照らされたその一瞬……


「夕、貴………!?」


 人混みの先に目をこらしていた私に誰かが正面からぶつかった。その途端、今まで経験したことのない激しい痛みが襲う。


「………………………………………………あ」


 のろのろと視線を下げた目の前には、帽子を深く被った麗の顔があって、少しだけ身体を離すその先には……


「契約は完了よ、セイ」


ナイフと思われる茶色い柄が、私の下腹部に残されていた。


少々お待ち下さい。

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